第三三話「楽観的に……成れるかぁぁぁぁっ!」
ドワーフの工房へと転移した一行
だが、ガンダルフは主人公の顔を見るなり
「ん? どうした主人公……顔色が悪いぞ? 」
「“見えてる貧乏生活”って怖くない? 」
「質問に答えておらん上に良く判らんが……
……おぉ、マリア殿! 完成したぞぃ!
質が良い材料のお陰で思ったより早く完成じゃ!
これが“完全体装備”の為の“兜”じゃぞ!!! 」
直後
ガンダルフが自信満々に掲げた兜は
何処ぞの“世紀末覇者”が被っていそうな
異様な形状をして居た。
……絶句する一行、それを勘違いしたガンダルフは
とても上機嫌に成り
「ガハハハ! 感動して声も出ぬか!
よし! ……気分が良いから特別価格じゃ!
主人公よ! ……この兜、一〇〇万金貨で構わんぞ! 」
「えッ? ……値引きしてその値段なの? 」
「ん? ……何を言う
本来ならこれだけわしが掛り切りで作った装備じゃぞ?
一〇〇〇万金貨でも安い程の一品に仕上がっておるわぃ! 」
「そ……そうだよね~!
インベントリ! ……はい一〇〇万金貨。
はぁ~ッ、痛いなぁッ……」
「うむ、確かに受け取ったぞぃ! ……って
何をしておる? マリア殿……早う被ってみんか! 」
「え、ええ……こんな感じですけど……どう……でしょうか? 」
この瞬間
明らかに不満げな様子でそう訊ねたマリア
そんな彼女に対し
「うん……すっごい強そう」
と、主人公。
「そ、そのっ……誰も勝てないと思いますっ! 」
と、メル。
「そ、そうね……あっ!
“鬼神の如し”って奴ね、お母さん! 」
「え……ええっ!
魔王ですら全速力で逃げていきそうな見た目ですわね! 」
マリーンとマリーナまでもが
そう“形容した”事が原因か
それとも“始めから”であったのか……何れにせよ。
直後
「……ヤダヤダ嫌だぁぁぁっ!!
こんな厳つい兜嫌だぁぁぁっ!
こんなの、女子力が“マイナス一億”とかに成っちゃう
呪いの兜じゃないですかぁぁぁっ!!! 」
そう“駄々っ子化”してしまったマリア
当然と言うべきか、直後そんな彼女の発言に
気を悪くしたガンダルフは
「なッ!? ……御主達が“完全体にする”と言うから
バーバリアン様のイメージ通りに仕上げたと言うに! 」
「むぅ~……それにしたってですよ!!
盾とか凄い“女性的”なデザインで
私の事を考えてカスタムしてくれてると思ってたのに!! 」
「ムッ?! ……何を言うか!
盾は強靭且つ靭やかで
女性的でなければ邪魔でしか無いわい!
兜は敵への威圧も含め
その形になって居るのじゃ!……失礼なっ! 」
「失礼とかそんな問題じゃなくてこれは女としての! ……」
「……だぁぁぁもうこの話終わりッ!
そんな事よりもっと重要な話があるんですよ! 」
この瞬間半ば強引に口論へと割って入った主人公に対し
「ムッ?! ……わしが丹精込めた兜を
“そんな事”扱いとは! ……まぁ良いわぃ。
……して重要な話とはなんじゃ? 」
「いえその……黄金が取れる場所って知ってます? 」
「何? ……黄金の採掘場所は各ドワーフ族の秘伝じゃ
如何に主人公といえど……おいそれと教える訳にはいかん」
「ですよね……でしたら、分けて頂けませんかね?
勿論代金はお支払いしますので」
「それならば構わんが……何に使うんじゃね? 」
「トライスター用の装備ですけど、俺のじゃなくて……
……その、マリーン用に」
「何っ?! ……トライスターじゃと?! 」
「い、いや……あくまでトライスター用と言うだけで
その……色々とややこしいんですよ」
「ん? ……その手袋はまさか
マリーン殿、御主もしや……魔族の血が? 」
「ええ……そうよ」
「成程、そう言う事じゃったか……ならば黄金は渡そう
代金は“他言無用”……これでどうじゃ? 」
「ええ、勿論です」
「ならば……これだけ有れば足りるじゃろう。
少し多めに入れておいた……それと
約束の“指輪”じゃが、これはサービスしておこう。
しかし……主人公が妙に落ち込んでおる理由が分かったわい
差し詰め……“財布が辛い”んじゃろう? 」
「その通りです……って指輪完成したんですね、有難うございます! 」
と、精一杯落ち込んだテンションを
無理にあげようとして居た俺、だったのだが
「え? 良く見たらメルちゃんも……
……今、ガンダルフさんから受け取った奴も。
ちょっと?! 何で二人共、主人公とお揃いの指輪してるのよ?!
そう言うの私も欲しいんだけど!? 」
この瞬間
“お揃い”に気付いたマリーンはそう言って俺に詰め寄った。
だが
「あの、お揃いの“トライスター装備”で勘弁してくれませんか
“御代官様”……」
「う゛ッ……金額が金額過ぎて文句言える感じがしないわね
じ、じゃあ……私が何処かで買うから、指輪は付けてよね! 」
「ああ……って、いやダメだ
それだとマリーンだけ不公平過ぎるよ。
……ちょっと遅くなるかもしれないけど
必ず俺が買うから……少し待っててくれないか? 」
「分かった、待ってる……我儘言ってごめんなさい」
「いや、寧ろごめんな……兎に角、今は
マリーンの装備を作りに行くのが先決だ。
っと……それではガンダルフさん、また今度! 」
「うむ! 気をつけてのぉ! 」
「はい! ……皆掴まって。
転移の魔導、ラウドさん馴染みの店へ! ――」
◆◆◆
「ん? ……おお、お久し振りですな主人公さん
装備の調子は良い様だ、と……風の噂に聞いておりますよ? 」
直後、俺が冷静さを失って居る時の“転移あるある”か
“店前”では無く“店内”へと転移してしまった事に驚きもせず
至って冷静に応対した店主さん、だが……嗚呼
これから金額の話をしようと言う時に
最悪の登場と成ってしまった。
「え、ええ……とても良い装備です
店主さんの腕が超一流なのだと思っています」
「お褒めに預かり光栄です……が。
わざわざ大人数でお越しに成った理由は
“世辞を言う為”では無い筈……
……何と無く察しはついておりますが
本日はどの様なご用件で? 」
「え、ええ……まずはこの魔導道具の修理と
マリーンにトライスター用装備をお願いしたいと思ってまして」
「ほう……やはり“魔族の血”が流れて居ると言う事ですな? 」
「なッ?! ……か、隠せませんか? 」
「ええ……“手袋”が見えておりますからね。
しかし、そうなりますと……流石にこの前の様な
“大幅なお値引き”は出来かねますが宜しいか? 」
「その……お手柔らかな価格でお願いできればと……」
「ご希望に添える様努力は致しますが……兎も角
材料と、修理する魔導道具を此方へ……ん?
これはクレイン様の……そして此方の麻袋は
ふむ……これは、ガンダルフ様の所の金ですな?
それにしても少々多い様ですが……成程。
さて……では、マリーン様こちらに」
俺から魔導道具と黄金の入った麻袋を受け取ると
何れの持ち主をも言い当てた店主さん。
彼は……修理予定の魔導道具を謎の液体に浸け置いた直後
そう言ってマリーンを鍋の近くへと案内し
俺の装備を制作した時と同じ説明を始めた
「……それで私は何をすれば良いの? 」
「この鍋に直感を信じ、必要と思う量の黄金を入れて下さい」
「こう言う事……かしら? 」
「ええ……では次に
黄金を溶かしている間は目を瞑り……」
この後、俺と同じ工程の説明を受け
いよいよ鍋に念を飛ばし始めたマリーン……だが。
彼女の飛ばした念は少し“禍禍しい”色をして居て
「……良いと言うまでは目を開けないで下さい
ほう、面白い色ですな? ……後少し。
……はい、目を開けて下さい」
暫くの後、そっと目を開けたマリーン
一方、鍋の中に溶けて居たその色は
「水色に新緑色、最後が黒色とは……面白い組み合わせですな? 」
「その……故郷をイメージした後
大切な人の事を考えてしまったのだけれど……
……不味かったかしら? 」
「いいえ、何も問題はありませんよ? ……さて。
では次に鍋の上に手をかざし
“我に合う 形と成りて 我の為と成れ”
……そう唱えて下さい」
直後
店主さんの指示通り呪文を唱えたマリーン
だが、俺の時とは違い、装備の材料はマリーンに絡みついた後
身体へと吸い込まれる事は無く
僅かに“暴れる様な”動きを見せ
「ふむ……少し辛いかもしれませんが
この調子ならば直ぐに完成するでしょう……少々
痛みと熱さを感じるでしょうが……我慢を」
「本当……ね……痛いし……熱い……
主人公もこんなの……我慢したのね……ぐっ!! ……」
「ええ、もう少しで完成します……さてそろそろ……」
溶けた材料はマリーンに纏わり付き
それぞれが装備の形を形成し始めて居た。
……材料が這った場所が僅かに赤くなって居る
“終わったら直ぐに治癒魔導を掛けよう”
そんな事を考えて居ると……俺の時とは違い
マリーンの装備は続々と
彼女の身体へと装着され始め
「こ……これが私の装備なの? 」
「ええ、今回も完璧に出来上がった様です」
「凄い綺麗……新緑色の髪飾りに水色のネックレス
黒色の……ってあれ? ……ねぇ
黒色だけ無いんだけど、何処に有るのかしら? 」
「おかしいですな……どれか一つだけが
“内蔵型”と言う事は無い筈ですが……」
彼女が言う様に
何処を探しても黒い装備だけが見当たらなかった。
だが、この直後
「でも、何か違和感が……って。
……あ、あの……店主さん?
そ、装備の形に“制限”って……ある……のかしら? 」
「いえ、特に制限は御座いませんので
大抵どの様な形にでもなりますよ? 」
「な、なら……全部揃ってるからこれで良いわッ! 」
そう言うと
何故か頬を赤らめ
黒い装備を探すのを止めたマリーン。
だが、そんなマリーンに違和感を感じ
「は? ……気になるって! 黒色は何処に行ったんだ? 」
と、至極真っ当な質問をした
だが……そんな俺に対し
マリーンは更に頬を赤らめつつ
「み……見せるのは嫌っ!
どうしても見たいって言うなら……結婚してからにしてっ! 」
耳まで赤く染めそう言った
だが、余計に意味が分からない。
「けけけ結婚ッ?! いや、何で装備を見せる位で! ……」
「もう!! ……あるって言ってるんだから良いでしょ?!
デ、デリカシー無いわよ主人公っ!! 」
そう言うと
少し怒った様にスカートを強く抑えたマリーン
そしてこの直後……マリアとメルだけが
装備の種類を理解した様に
「あ~……私、分かっちゃいました」
「わ、私も分かっちゃいましたっ!
た、確かに……見せるのは恥ずかしいかもですっ……」
「え? 二人共分かったの!?
ちょっと?! 分かって無いの俺だけとかずるいぞ!? 」
この後も更にしつこく訊ねた俺
だが、マリーンからの“キツいビンタが飛んで来た”以外
俺に得られた情報は無かった
◆◆◆
彼が知る事の出来なかった最後の“部位”
それは“下着”であった。
「さて、お代のお話ですが……」
「は、はい……お幾らでしょうか? 」
「そうですな……装備の修理代金はサービスさせて頂くとして
かなり余ってしまった黄金をお譲り頂く計算でも
……ざっと二五〇〇万金貨って所ですかな? 」
「に……二五〇〇万金貨ぁッ?!
さ、流石にそれ以上の値引きとかは……」
「……申し訳ありませんが
私も足元を見て居る訳では無いのです。
……本来ならば前回同様
八〇〇万金貨でお引き受けしたかったのですが
万が一にもマリーンさんの“情報”が漏れた場合
直ぐに対応する為の諸経費を考えれば
最低、この程度は必要かと……」
「そんな事まで……店主さん、何から何までご迷惑をお掛けします。
有難う御座います……では、インベントリ!
あッ……ヤバい足りないッ?! 」
「おや……如何程足りませんかな? 」
「それが、約一〇〇〇万金貨程……ですが
一旦ラウドさんにお借りして
店主さんには先に全額お支払いしておきますので……」
「此方はどの様にして頂いても構いませんが……
……主人公様、少なくとも
一〇〇万金貨程はお持ちに成って居て下さい。
この国を救った貴方に貧乏生活を強いるなど……私も
その様な寝覚めの悪い事をしたい訳では有りませんので」
「感謝します……では少々お待ちを。
魔導通信、ラウドさん……お金貸して下さい
持ち合わせでは全く足りないんです。
その……結構大きい金額ですけど」
◆◆◆
「何じゃね? 藪から棒に……金など
ゲームやら和装の発案料で山の様に持って居るじゃろう? 」
「……ラウドさんの“馴染みの店”
マリーンの装備が“トライスター用”と言えば分かって頂けますか? 」
「何ぃ?! トライスターじゃと?!
この国史上三人目と言う事かね?! 」
「いえ……大きな声では言えない理由のせいです」
「何? まさか……分かった、幾ら必要じゃ? 」
「約一〇〇〇万金貨程……」
「ふむ……主人公殿
その程度ならば国で持つ……それが事実ならば
大統領城でも“最重要機密扱い”にせねばならんからのぅ。
と、その前に一つ質問じゃ……まさかとは思うが
“手袋”が見えて居るままでは無かろうな? 」
「見えてますよ? ……ってかこの状態が普通なのでは? 」
「何ぃ?! ……主人公殿! 急ぎマリーン殿に
“隠れよ、抗魔の姿”……そう唱える様に伝えて貰いたい! 」
直後、マリーンがそう唱えると
手袋は俺達の視界から完全に消えた。
そして
「もし、再び現す時は――
“いでよ、魔族の力”
――と唱えれば見える様には成るが
その必要は恐らく無いじゃろう
出来るだけ隠しておく事じゃぞい? 」
「ええ……その、ラウドさん
この御礼はまた何れさせて頂きます」
「……いやいや、気に病まずとも良い
わしは主人公殿を信じて居るからのぅ! 」
「ラウドさん……本当に何時もありがとうございます……」
この直後
しんみりとした俺の空気を悟ってか、ラウドさんは
「何、わしの財布では無いから大丈夫じゃよ! ……ほっほっほ! 」
と明るく振る舞ってくれた。
……正直、心の底から有り難かった。
マリーンの件を詳しく聞かれなかった事も
“俺の事を信じて居る”と言ってくれた事も――
◆◆◆
「……そう言う事ですので
残りのお金は国からと言う事で……その
色々と御迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした。
店主さん……何時も面倒事を持ち込む俺ですが
俺、何時か必ず大きなお礼が出来る様に成ります
それまでどうか、今後とも宜しくお願いします」
「いえいえ、此方こそご贔屓にどうも……
……さて、クレイン様の装備は
修理が終わり次第、私の方で御本人にお返ししておきます。
それと……今回の事は内密にさせて頂きますが
主人公様も他言無用で宜しくお願いします。
最後に……主人公様の仰られる“御礼”についてですが
この国を良くする事でお返し頂ければ
私はそれ以上を求めません……期待しております」
「はい……必ずッ!
転移の魔導、ヴェルツへ! ――」
この瞬間
“嬉し泣き”とは言え、泣き顔を見せてしまいそうに成った俺は
少し急いで転移を発動させた……そして。
ヴェルツ帰還後、妙なテンションで
全てを誤魔化そうとして居た
◆◆◆
「……し、しかし財布が軽くなったな~ッ!
って、まぁ元々イベントリには“重量感”無いんだけどね~!
……アッハッハ! 」
「主人公……私のせいでごめんなさい
私も、少しずつ協力するから……」
「ほうほう? ……グヘヘ!
それなら体で払ってもらおうかぁ~マリーン嬢ちゃんッ!!
……な~んてね!気にしないで良いよマリーン
俺がそうしたいからそうしただけだ。
マリーンが気に病む事じゃ無い、寧ろ
一年も待たせてごめ……って……マ、マリーン? 」
直後、何故かみるみる内に顔を真赤にして
深く俯いたマリーンは、意を決した様に
「ほ、本当にッ! ……か、体で払っても良いのよ? 」
「い゛ぃッ?! ……じ、冗談だからッ!!
て言うか、そんな風に自分を安売りしちゃダメだッ!! 」
「安売りって言うけど……値引きして貰ったとは言え
結局、合計二四〇〇万金貨よ?
満更“安売り”でも無いと思うんだけど……」
「それは確かに……って、そう言う意味じゃなくてだな! 」
「ふふっ♪ ……ありがと
主人公のそう言う紳士な所、大好きよ? 」
そう言って微笑んでくれたマリーン
良かった……財布が空に成った甲斐はあった。
そんな事を考えて居ると
「所で私の兜なんですけど
何やかんやで意外と気に入っちゃいました!
……着け心地も良いですし
私の事を考えて作って下さったんだな~って感じの作りです!
なので……後でちゃんと
ガンダルフさんに御礼を言い直しておきます。
それと……主人公さん
改めて、プレゼント有難う御座いました! 」
と、兜を被ったままそう言って笑顔を見せたマリア
此方も……“プレゼント”した甲斐があった様だ。
が、その反面
「……マリアの身を護る為の装備だし
良い物が手に入って良かったと俺も思ってる。
唯……“常に付けてる”のはどうかと思うぞ?
店内では、脱ごうな? 」
「あ、つけ心地が良過ぎてつい……
……って、そんな事は置いといて!
金欠なのはショックかも知れませんけど
大臣の給料も定期的に出ますし、今回の装備で
ギルドのお仕事も受け易く成ると思いますし
また、地道に頑張ってお金貯めましょ? 」
「そうだな……まぁ一〇〇万金貨も有れば
生活に困る事はまず無いだろうし……」
などと話して居たら
ミリアさんが寄って来て
「何だい? 主人公ちゃん達……いきなり貧乏生活なのかい? 」
「ええ……でもまだ一〇〇万金貨程ありますから大丈夫です! 」
「なっ?! ……別に貧乏生活じゃ無いじゃないかい!
金銭感覚どうなってるんだい全く!
でも……安心しなよ?
たとえ主人公ちゃん達が一文無しに成っても
あたしは追い出したりしないし、食事だって出すからね! 」
「ミリアさん……本当に何時も有難う御座います……」
「良いんだよ、あたしがそうしたいだけなのさ!
って……そう言えばもう夜も遅いじゃないかい。
まだご飯食べてないんだろう?
今持って来てあげるから、た~んと食べなよっ! 」
「助かります、実は腹ペコで……」
◆◆◆
こうして
一日にして約半年分の稼ぎをほぼ全て“失い”
仲間からの絶大な信頼を“得た”主人公。
しかし、ひょんな事から余裕の為と
店主の気遣いで持たされて居た一〇〇万金貨も
そう、長くは持たず……
◆◆◆
翌日
大統領執務室では、マリーナ・マリーン両名について
会議が執り行われて居た
「さて……マリーナ殿は純粋な魔族
マリーン殿は“半魔族”と言う事じゃが……
……もしこの事実が国民に漏れてしまえば
“前国王の件”もある故、多かれ少なかれ
混乱を引き起こしてしまうじゃろう。
そこで……この件は“最重要機密扱い”とする。
此処に居る者の他には
一部の者しか知らぬ情報と成っておる故
くれぐれも表に出さぬ様、お願いしたい所じゃ。
とは言え、マリーン殿の装備は
詳しい者が見れば“トライスター用”とひと目で分かる。
……故にマリーン殿の事は
“我が国史上三人目のトライスターである”
そう発表する事とするので……皆、口裏は合わせて貰いたい」
ラウドさんの命令に
各種族の長達は皆、多かれ少なかれ動揺して居る様子だった。
だが
「うむ……吾輩は構わぬ
友の信ずる者為れば……吾輩も信じよう」
「有難う、助かるよガルド……」
とガルドを呼び捨てにしたこの瞬間
長達は、何かを思い出した様にざわつき始め
直後自らも“そう”して欲しいと希望し始め
「わしも呼び捨てで構わんぞ? いや
寧ろそうして欲しいのじゃが……」
と、ガンダルフが口火を切った瞬間
同席している各種族の長達は皆、興奮気味に
今後お互いに呼び捨ててはどうかと議論を白熱させ始めた。
だが……何だろう?
この、凄まじく平和な“議題”は。
「……ならこの際ですし、全員親しみを込めて
呼び捨てにしちゃうのも良いかも知れませんね」
気が抜ける様な議題の中、そう発案した俺
だが、ラウドさんは
「わしは流石に……なんてのぅ? 冗談じゃよ!
“呼び捨て”……良いかもしれんのぅ! 」
と、おどけたつもりだったのだろうが
直後、マリアは
「いや~……流石にラウドさんを呼び捨てには出来ないです
だって、年齢的にも……」
「何でじゃ!? 年齢の話をするのなら
わしよりもエルフ族のほうが遥かに年上じゃぞ?! 」
「いえ、見た目の問題が……」
「誰が死にぞこないじゃね?! 誰が! 」
「いや、言ってません言ってません」
ともあれ。
結局“国の長である”と言う事を鑑みた結果
ラウドさんの事は引き続き“大統領”呼びか
若しくは“さん付け”で呼ぶ事を話し合いの末に決定した。
……それと、俺の異性に対する“免疫のなさ”から
ラウドさん以外にも呼び捨てに関する“例外”は幾つか有ったのだが
それでも、若干残念そうにして居たラウドさんが
ちょっとだけ可愛く見えたのは、本人には内緒だ。
「……わ、わしだけ仲間外れみたいで嫌じゃぁぁぁっ!!
と、喚いても仕方無い……次の議題に移るぞぃ?
さて……少し前から考えておったのじゃが
ゲーム大会を国主催で開こうかと……」
本心にしか見えない“喚き”の後
急激に我に返ったラウドさんは
国家主導でのゲーム大会開催を議題に挙げた。
参加に必要な資格は“政令国家に属する者”と言う事のみで
参加人数にも特に制限を設けないとの事だった。
……当然、反対者は出ず
満場一致での開催決定と成ったこの直後
ラウドさんは“魔導拡声”を用いて
政令国家全土に向け――
「国民の皆よ! ……五日後に国家主催
第一回オセロ&バックギャモン大会を執り行う事が決定した!
……本戦前には予選大会を各地区毎で開き
上位者の者を各地区代表選手として
城内に招き決勝大会を行う
各ゲームの上位入賞者には優勝杯が送られるぞい!
……参加希望者はこの後
各地区に設置される参加申請所で申請を行う様に! 」
――と、大会の概要を伝えたのだった。
ともあれ……暫くの後、会議は終了し
俺達はヴェルツへと帰還した
◆◆◆
「それにしても……国家主催のゲーム大会とか
まさか此処まで流行るとは思わなかったなぁ……
……びっくりだよ」
と、感慨に耽りつつそう言った俺に対し
マリーンとメルは
「私もオセロは大好きよ! ……でも
バックギャモンも捨てがたいのよね……」
「わ、私も両方好きですっ! 」
そう言った、直後
「ありがとう、二人が楽しんでくれてるだけでも嬉しいよ」
などと返事をして居ると
「……ゲームの話か? 」
そう、突如として声を掛けて来た男
それは“ディーン”だった
「おぉ! ……食事かい? 」
「いや、先程の“伝達”を聞き申請所を探して居たのだ。
……私もバックギャモンは得意でな
参加したいのだが構わないかな? 」
「ああ勿論だよ! ……楽しんでくれ! 」
「それは良かった……因みに
ギュンターはオセロで参加したいらしい」
「勿論全員参加出来るよ!
ギュンターさんも楽しんで下さいね! 」
などと話して居たら
今度はリオスも寄って来て
「ねぇねぇ主人公! それなら僕も参加したいんだけど!
僕、一応大臣だし……ダメかな? 」
「いや“この国に属してる”って条件だし……良いんじゃない? 」
「やったぁ! ……僕
“バックギャモン”で出ようかなって思ってるの!
って、そう言えば“風の噂”に聞いたんだけど……
……“魔族”の間でも流行ってるらしいよ? ゲーム」
「マジか……それが本当だったらそれはそれで恐ろしいけど
もし可能なら、この大会に参加して貰いたくもあるね」
「うひゃ~っ……中々に怖い事言うね? 主人公」
「いや……“魔族は敵”
俺もそう思ってるし、ミネルバさんの一件を考えると
俺自身も魔族達を無条件で認めるのは正直難しい。
だけど、もしも分かり合える道があるのなら
どうにかして味方に成れないのかな? とも思うんだ。
……無論、こんなのは俺のエゴだって分かってる
けど“魔族だから必ず倒します”って言うのも
それはそれでエゴじゃないのかと思うんだ。
正直、たかがゲームや和装で
俺の人生が決まる位には人が動いたんだし
魔族だって“たかがゲーム”で仲間に成る事が有っても
良いんじゃないかって思ってるんだ……まぁ
こんなのはあくまで“与太話”だし
そんなに真剣には受け取らないで欲しいんだけどさッ! 」
この瞬間、そう自らの思いを説明した俺に対し
ディーンは僅かに訝しむ様な表情を浮かべつつ
「しかし……奴らは人を喰らう
趣味では無く、それは奴らの生きる糧だ。
……“分かり合える”云々と言う次元では無い様に思うのだが」
「それについて……詳しい話は
此処で出来る事じゃ無いから省くが……つい最近
とある“魔族”が、人間や各種族に危害を加えず生きて居る。
そう聞いたんだ……だからきっと、何か方法はあるんだと思う。
殺し合わずに済む、共存共栄の出来る“何か”が……」
「し、しかしだな! ……いや、済まない
主人公は私を友と認めてくれた男だ、その考えを否定しては
私は恩を仇で返す恩知らずに成ってしまう。
……確かに、主人公が言う様な世界に成れば
皆は幸せに暮らせるだろう……熱くなってすまなかった」
「いや、俺の方こそ……気を遣わせてすまなかったなディーン」
俺とディーン
似ても似つかない二人の生きた人生は
俺達に別の価値観を獲得させて居る。
……互いに争う事無く、友で居ると決めた以上
相手の価値観を否定するのは
彼の言う通り“恩知らず”がやる事だ。
だが、この直後……互いに謝って居た俺達を不憫に思ったのか
メルは思い切った様に
「あ、あのっ! ……
……私だって元は“嫌われる対象”でした。
でも……主人公さんの “エゴ”のお陰で
今、こうして笑って暮らせているんですっ!
だからっ! 私も主人公さんの考え方……良いと思いますっ! 」
そう言って俺を応援してくれた
そして直後、マリーンまでもが
「先に言われちゃって悔しいけど
私もメルちゃんに同意よ……私やお母さんだって
主人公に救われた身だもの……貴方のエゴは
口だけじゃ終わらない……ちゃんと叶えられる素敵な物よ? 」
「二人共……って、何だか暗い話にしちゃってごめんッ!
とッ、取り敢えず……この話は終わりって事でッ!!
そ、それで! ……ゲーム大会まではあと五日もあるし
マリーンの装備もマリアの装備も
一度試してみたいってのもあるし……その
久し振りにギルドの依頼でも受けてみようと思うんだけど……
……どうかな? 」
僅かに落ち込み掛けた雰囲気を払拭しようと
そう提案した俺……すると
ディーンは
「ならば私達も同行したいのだが……邪魔になるだろうか? 」
「えッ? ……いや、寧ろ大歓迎だよ!
多いと楽しいし、安全だし! ……」
そんなこんなで暫くの後
ディーン隊一行と共にウキウキ気分でギルドへと向かった俺達。
だが、俺は……ギルドの依頼掲示板前で頭を抱えて居た
◆◆◆
「う~ん……此方の方でも行けるんじゃ……いや
危ない気もするな……う~ん……」
皆の実力を考えれば
“S級よりも更に上を目指せるのでは”……そう考えて居た。
だが、等級を上げればそれだけ危険は増加する
どうすれば良いのか判断をつけかねて居ると
ディーンはそんな俺に気付いた様にこれを肯定
それに続く様にマリアもメルも了承した。
だが、そんな中
マリーンには別の問題があった様で
「ちょ……ちょっと待ってよ!
そもそも私はどうするべきなの?
“魔導書”とか一切貰って無いんだけど……」
「あッ、そう言えば! ……ちょっと待っててくれ!
今エリシアさんに聞いてくるからッ! 」
直後
エリシアさんの所へと走った俺は
“手袋が見えたままだった件”と“魔導書を渡すのを忘れて居た件”を
これでもかと言う程深刻に謝られ、恐縮する事と成った。
ともあれ
「おまたせ! ……はいマリーン、これが君のだ」
直後
そう言ってマリーンへと手渡した“魔導書”
……確かに、エリシアさんが前に言った通り
この魔導書は少し異質な見た目をして居る。
その異質さに気付く“者”が出る程度には
「……余り良くない見た目をして居るが、どう言う事だ? 」
「すまないが、これは国家機密でね……
……ここでは話せないけど、後で必ず説明するし
大臣でもある俺が“問題無い”と保証する。
だから……気にしないでくれると助かる」
「ああ、君がそう言うなら信じよう」
どうにか穏便に事が進み
安堵して居た一方……手渡された“魔導書”に
目を通して居たマリーンは
「それにしても、この魔導書分厚いわね……ふむふむ。
えっ?! ……ちょっと主人公! この書凄いわよ!?
この魔導書に手を当て“知識を授けよ”と唱えると
書に記されし技の全てを習得出来る。
……って書いてあるのよ!
ほら、此処! 」
「え~……ズルい」
俺自身
まだ魔導書全体の一割未満しか習得出来て居ない
それも、隙間時間に必死に覚えた上でだ。
……正直、マリーンが死ぬ程羨ましかった。
だが、そんな俺に対しマリーンは
「……ねぇ、私の装備って
曲がりなりにも“トライスター用”じゃない?
だったら主人公の魔導書も同じなんじゃない?
よく見てみたら“同じ様な説明”が書いてあったり……」
「そ、そんなバカな……えっと
回復術師の技一覧でしょ~?
攻撃術師の技一覧でしょ~?
防衛術師の一覧でしょ~?
トライスター専用技の一覧でしょ~? ……って?!
トッ……“トライスター専用技ッ?! ”
……そんなの有ったのか?! 」
「ねぇ主人公……そう言うのって普通、最初に確認しない? 」
「い、いや……ラウドさんが職業の説明してくれた時
“三職全部使える職業”としか言わなかったから……」
「……そう言う天然な所嫌いじゃないけど
書類ってちゃんと確認しないと、色々と痛い目に合うわよ?
……元水の都の王女である私が言うんだから
“間違いない”のは分かるでしょ? 」
「う゛ッ……はい、反省します。
と、取り敢えず少し読み込んでみるよ……え~何々?
ふむふむ……えッ?!
嘘……だろ?
あったんだけど……“全部覚える系”の項目」
「でしょ? だと思ったのよね~……早速使ってみたら? 」
「それもそうだね……ってかこれ凄いぞ?
“トライスター専用技”が結構なチートだわ
技に依ってはデメリットもデカイみたいだけど……唯。
“この頁の技だけは”どれも使いたく無いな……」
直後
そう言った俺に近付き魔導書を覗き見たメルは
「主人公さん、この欄の技は絶対に使わないでくださいね? 」
そう何時にも無く真剣な面持ちで
俺に釘を刺したのだった
「ああ、流石に俺もこの国の“初代トライスター”みたいに
歴史の本には載りたくは無いし
そもそも絶対に使わないから安心してくれ……っと
先ずはマリーン……技、覚えてみたらどうだ? 」
「そうね! ……っと、手を翳しながら
“知識を授けよ! ”――」
瞬間
強く発光した魔導書……その光は
マリーンの掌へと集まり始め
「凄く変な気分ね……ってきゃあッ?! 」
光は急激に彼女の掌に流れ込み
その光が完全に吸い込まれた瞬間……
……魔導書に記載されて居たのだろう技の全てが
彼女の記憶へと刻み込まれた様で
「す、凄い……何だか凄く不思議だけど
まるで、長い時間を掛けて学んだ様な気分よ。
……ねぇ! 主人公も早くやってみてよ! 」
「あ、ああ……ちょっと怖いけどやってみるか。
先ずは……“回復術師の知識を授けよ”――」
そう唱えた瞬間
光り輝いた俺の魔導書……彼女の物と同じく
その光は掌から俺の身体を伝い
俺の脳にその全てを刻み込んだ
「――成程。
治す技にもこんなに種類があるのか……あと
マリーンが言ってる意味が分かったよ。
数年……いや、数十年掛けて学んだ様な感覚だ」
と、喜んで居た俺の横には
些か不満げなメルが居た
「むぅっ……私の存在意義がなくなった気がしますっ! 」
「え? ……いや、そんな事は絶対に無い
メルの治癒魔導はメルの優しさを感じられるから大好きなんだ。
そんな理由だけじゃ……駄目かな? 」
「へっ?! ……い、いえっ!
こっ、これからも宜しくお願いしますっ!! 」
メルは顔を真っ赤にしながらそう言った。
……そんなメルに“萌えつつ”も、引き続き
他の二職分も習得しようと考えた俺は
「……さてと。
“攻撃術師の知識を授けよ”
“防衛術師の知識を授けよ”――」
そう唱えた
瞬間……先程よりも激しく光り輝いた魔導書
暫くの後……俺は、三職全ての技を
完全に習得した
「……何だか五〇年位経った気分に成る
まるで……仙人にでも成ったみたいだ」
そう表現した俺に対し
少しばかり心配そうな表情を浮かべて居たメルは
直後
「だっ……大丈夫ですかっ?? 」
と訊ねた
とは言え、正直疲労感は一切無いし
何だったら幸福感すらあるこの状況が故に……直後
俺は、少しだけメルに対し“意地悪な冗談”を仕掛けた
「なぁに、大丈夫じゃよメル殿……ふぉっふぉっふぉっ! 」
「へっ!? 主人公さんっ?! ……た、大変ですっ!
主人公さんがおじいちゃんみたいにっ!! 」
「……ハハハッ! 冗談冗談ッ!
仙人っぽく喋ってみただけだから! 」
「もぉ~っ!! びっくりさせないでくださいよっ! 」
と、俺の仕掛けた悪戯に怒るメルだったが
一方のマリアは
「いや、喋り方殆ど“ラウドさん”でしたけどね」
と、冷静に指摘をしたのだった。
ともあれ……この直後
改めて依頼を受けようとして居た俺達は
「た、確かに……ごめんごめん!
さてと、皆お待たせ! 早速依頼を……って。
な、何だ? ……後ろが“凄い事”に成ってるんだけどぉッ!? 」
何時の間にか
俺達の背後に押し寄せて居た者達……それは
この日ギルドに居た者達“全員”だった
「え……えっと……あの、皆様?
俺達は別に“怪しい者”じゃ無いんですが……」
余りの状況に狼狽えつつも
そう言って様子を窺った俺。
“まさか……マリーンの魔導書が放つ
異質な見た目と雰囲気に警戒されたのか? ”
……そんな最悪の想定さえし始めて居た、この直後
「……すげぇなあんた!
いや~珍しい物を見れたぜ!
ってかあんた“トライスター大臣”だろ?
依頼受けに来て、戦い方をマスターするなんざ
面白い事をするなぁ! ……流石はトライスター様だぜ! 」
「へッ? ……い、いえ! お目汚し失礼しましたッ!
っと……皆、依頼を探……」
目立って居たのは “俺”だった。
直後、安堵した一方で
尚も収まらない背後の状況に
無理やり話を変えようとして居た俺。
だが
「そうだ……主人公さんと言えば
前にラウド大統領が、主人公さん達の事を
“公認ハンター”とか言ってたけど
本当に依頼受けてるんだな……凄いや! 」
「い、いえ……皆さんの方が……」
“新人”と思しきハンターから
そう“憧れの眼差し”めいた物を向けられ
謙遜した俺だったが……その存在の物珍しさに
ハンター達はこの後も続々と集まってしまって
「あ、あの……皆さん? い、依頼をですね? ……あのッ! 」
この後
ギルドに居たハンター達に取り囲まれ
質問攻めに遭い続ける事と成った俺。
当然、依頼を受けるどころでは無くなってしまった俺達は
逃げる様にギルドを去る事に成ってしまったのであった。
===第三三話・終===




