第三二話「モテ男は(金銭的に)楽じゃないッ! 」
ヴェルツでの“女の戦い”から数日後
朝食中の主人公は……“ある意味”とても苦労して居た。
「あ、あの~……お二人共?
その……も、もう少しだけ
“離れて貰えると”助かるんですが……」
恐る恐るそう発した主人公
そんな彼の左右には、メルとマリーンが
何れも“超至近距離”で座って居て……
「えっ? わ、私は別に近づいてませんよっ?
し、主人公さんったら私の事……す、好きなんですねっ! 」
彼の腕を引き寄せ顔を真っ赤にしながらそう言ったメル
「い゛ぃッ?! いや、そのッ……あのッ……」
言葉に成らない程に狼狽える彼に対し
直後、マリーンも負けじと“対抗”し
「ちょっと~……こっち向いてよ主人公♪
ほら、早く口開けて? ……はい、あ~んっ♪
……どう? 美味しい? 」
そう言って主人公の口へと果物を放り込むと
これまた“超至近距離”で彼に微笑み掛けたのだった
「お、美味しい……です」(いや、緊張し過ぎて味が解らん)
「うふふっ♪ ……良かった♪
ねぇ、今日は私の装備を選びに行きましょう♪ 」
「へ? ……あ、はいッ!!
それは確かに約束してましたし……」
(マリーンさん、何時もと様子が……“違い過ぎる”
可愛いが、対処に困る……)
「じ、じゃあ私も一緒に行きますねっ♪ ……一人だと寂しいですっ! 」
言うや否や主人公の腕に抱きついたメル
「はひぇッ?! ……メ、メルちゃん?!
だ、ダメだよ! む、胸が当たって……」
「へっ?! だっ……大丈夫ですっ!
主人公さんに喜んで頂けるなら……わ、私っ!
頑張っちゃいますっ……えいっ! 」
直後更に強く主人公の腕へと抱きついたメル
「ぬわぁッ?! ……ちょッ!? メルちゃん本当に……やめ……」
「メルちゃん……良いわ? 私だって負けないんだからッ! えいッ!! ……」
直後“負けじと”主人公の腕に“押し当てた”
マリーンの暴挙とも言える行動に
「はひぃッ?! ……や、やめ……て……」
(こ、こんなの……幸せを通り越して、最早地獄だ)
憔悴しきった様な声でそう言った主人公。
一方、三人の様子をニヤニヤとしながら
見つめて居た“マリア”は
「いや~それにしても“凄い状況”ですねぇ?
傍から見たら“悪代官”以外の何物でも無いですよ? 」
「マリア、冗談は良いから助けて……」
「え~っ? 面白いからもうちょっと見てたいんですけど? 」
「いや……マ・ジ・で!!
本ッッッッッ当に! ……“色々”ギリギリだからっ!! 」
「は~い……って事ですので、お二人共一回離れてくださ~い」
「い、嫌ですっ! マリーンさんが離れて下さいっ! 」
「嫌よ! メルちゃんが離れなさいよ! 」
「成程~……だ、そうですけど? 」
「“だ、そうですけど? ”……じゃなぁぁぁぁぁいッ!!
ってかお願いだから二人共、マジで
もうちょっとだけでも離れて貰えませんかね……」
この瞬間最早“懇願”とでも言うべき様子で
そう頼み込んだ主人公の背中に感じられた“金属の感触”
「な、何だッ!? ……って、マリア……お前、何してるんだ? 」
「え? 何か面白いので私も“当てて”みました!
“防具越し”ですけど……興奮しました? 」
「あ゛ーもうッ!!! 」
この日、天国と地獄を同時に体感して居た主人公
だが、そんな中、彼の元へとグランガルドが現れ
「なっ……朝からお盛んだな主人公。
無論、御主の様な英雄為れば
妻は“複数居て然るべき”だが
人目の多い場所では……その、流石に
“控えた”方が良いと思うのだが……」
「な゛ッ!? ……グ、グランガルドさん?!
い、いやこれは違ッ……ってか本気で頼む、二人共離れてくれ。
このままだと、釈放されて日も浅いのに
早速世間から“悪代官”呼ばわりされると思うんで。
マ・ジ・で! ……頼むから」
「……仕方無いわね。
じゃあ、ちょっとだけ離れてあげるわ?
でも、その代わりそろそろ私の事も
“呼び捨て”にしてくれないかしら? 」
「え? マリーンさんがそれで良いなら……あッ!
マリーンがそれで……」
「……其処は言い直さなくても良いから!
兎に角……今からは呼び捨てね? 」
「あ、あぁ……分かったよ、マリーン」
「あっ、ずるいですっ!
私も呼び捨てにしてくれないと……離れませんからっ! 」
そう言うと更に“抱きついた”メル
「ひゃぇいッ?! ……分かった!!
分かったから腕にしがみつくの止めようか?!
お願いだから! メルちゃん! ……じゃなかったッ!
そ、その……メルッ!! 」
直後、呼び捨てを希望して置きながら
何れも耳まで真っ赤に成って居た二人。
一方、オーク族族長グランガルドは
この話の流れに興味を示し
「ふむ……所で主人公よ、それならば
吾輩も“呼び捨て”にして貰いたいのだが……」
「え゛ッ?! ……そッ、それは一体どう言った理由で御座候?! 」
この瞬間、その要望を“深読み”した主人公は
意味不明な言葉遣いのままに慌ててそう問うた。
だが……当然と言うべきかグランガルドの要求は
主人公の想像する様な“意味”では無かった様で
「……何か誤解して居る様に見えるが
我が種族で名を呼び捨てる事は
即ち“生涯の友”として認める行為でな……」
「し、生涯の友? ……親友みたいな物でしょうか? 」
「うむ……それが一番近いだろう。
何れにせよ……吾輩は御主を
生涯の友に相応しい男だと考えて居るが……御主はどうだ? 」
「えッ?! ……よ、宜しいのですか? 」
「うむ……御主を見込んでの事だ、嫌か? 」
「いえ、寧ろ光栄ですッ!
でしたら! ……グ、グランガルドっ! 」
「……そう緊張しなくとも良い。
それと既に友と認めた間柄だ
“敬称”は不要……“ガルド”で構わん。
無論、敬語も不要だ。
主人公よ……改めて、これからも宜しく頼む」
「はい! ガルドさん……って間違えたので言い直します!
ああガルド! ……此方こそ宜しく頼むよ! 」
「ふっ……ああ、宜しく頼む」
「そろそろ俺達は行くよ……また後でな! ガルド! 」
「ああ……では吾輩は朝食を摂るとしよう」
「ああ、のんびりしててくれ! ……んじゃ行こうか!
っと……装備はどの店で買うべきなんだろう?
そう言えば、マリーンってもう職業は決まってるの? 」
「それが……私、まだ魔導適性測って無くて……」
「そうなの? ……んじゃ、先ずはギルドに行かなきゃだな! 」
「え、ええ……」
この瞬間マリーンは妙に緊張した様子だった。
直後、俺はギルドでその理由を知る事となる――
◆◆◆
「さ、さてと……まずは受付ね……」
「マリーン……大丈夫か? 何だか俺まで緊張するよ」
「な、何でよ? ……ってまぁ貴方が
私の心配をしてくれるのは嬉しいんだけれど……」
などと話しながら魔導適正検査の申し込みをする為
受付へ向かった俺達。すると受付嬢のセリーヌさんは
マリーンに対しとても親しげに話し始め
「あっ! マリーンさん! ……まさか、ついに魔導適性を? 」
「え、ええ……良い結果が出ると良いんだけど……」
「大丈夫! きっと良い結果が出ますよ!
では、あちらの石版へどうぞ! ……頑張ってくださいね! 」
「ええ……頑張るわねッ! 」
「あれ? マリーン……受付嬢さんと仲良いんだね」
「へっ? そ、それはその……貴方が幽閉されてた間
測ろうかどうしようかってずーっと悩んでウロウロしてたら
顔なじみになっちゃったのよね……って。
……恥ずかしいんだから言わせないでよね?! 」
「そ、そうだったのか……待たせてごめんな」
「良いのよ、気にしないで? ……っと、お願いします」
直後、検定官に申込用紙を手渡したマリーン
彼女は例に依って検定官の指示通り
石版に手を当てながら癒やし・攻撃・守り……と
三秒置きに唱えた。だが
「い、癒やし……」
これに石版は反応しなかった。
だが、何かにヒビが入った様な音が聞こえ
「こッ……攻撃……」
同じく石板は反応しなかった
だが今度は先程よりも大きな音が響き
「守り……」
マリーンがそう唱えた瞬間
石版は真っ二つに割れてしまって……
「な……何だ? 一体どう言う事だ? ……」
「あ、あの……私、適性はあるのかしら? 」
「いえ、分かりません……暫くお待ちを」
マリーンにそう伝えると慌てて二階へと階段を駆け上がって行った検定官
「どうしたんだろう? ……石版の調子がおかしかったのかな? 」
「何か怖いわ主人公……私、何か変な事しちゃったんじゃ……」
「いや……マリーンは指示通りやってたよ。
きっと石版が壊れてたんだよ……」
などと話して居た俺達は
直後エリシアさんに呼び出され
「お~いっ! 四人ともぉ~っ! ……上においで~っ! 」
「ん? ……はい! 今行きますッ! 」
俺達はエリシアさんの待つ“ギルド長室”へと向かう事と成った。
だが
◆◆◆
「さぁ~てとっ! ……“検定官”君、少し外してくれるかなぁ~っ? 」
「ハッ! ……失礼致します」
俺達の到着早々“人払い”をしたエリシアさん。
直後“検定官”が立ち去ったのを確認すると彼女は静かに
「さてと~……呼び出された“理由” 分かるかな? 」
「ま、まさか“石版の弁償しろ”……とかですか? 」
「そんな訳無いじゃ~ん主人公っち!
因みに……マリーンちゃんはどう思う~? 」
「わ、分からないわ……でも、壊しちゃってごめんなさい」
緊張しつつそう答えたマリーン
直後……そんな彼女を暫く見つめた後
エリシアさんは“石版が壊れた理由”を話してくれた。
「えっとねぇ~……石版が壊れた理由を
端的に説明すると、マリーンちゃんには多分
“魔族の血”が流れてるっぽいんだよねぇ~っ。
因みにだけど……お父さんかお母さん
若しくは、その両方が魔族とかだったりする? 」
「……そ、そんな筈無いわ?!
私のお父さんとお母さんは二人とも
水の都の王と女王だったのよ?! 」
「え~っと……責めたり貶したりしてる訳じゃ無いから
そんなに興奮しないでくれると嬉しいかな~っ?
……でも、分からないのは怖いじゃん?
だから一度、この件については
お母さんに聞いてみるのが一番かも? 」
「て、適性があるかどうかは……分からないの? 」
「えっと……一応、調べる事は出来るよ~?
唯、ね……主人公っちが“あの時”暴走したのも多分
マリーンちゃんから貰った魔導力に
原因があったのかも知れないんだよね……と言うか。
“それ”中々に危険な力なんだよ~っ?
ま、適正を測りに来た所を見れば
“ハンター”として依頼受けるつもりなんだろうけど
その力を安全に扱うのって、私は結構難しいと思うな~っ……」
「そ、そんな……」
此処まで黙って聞いて居て気付いた事がある。
それは、普段よりもエリシアさんの話し方に
明らかな“険がある”って事だ。
「う~ん……あまり聞きたくない話だったかもだけど
人間と魔族は魔導の仕組みが根本的に違うから……ざ~んねん」
やっぱりだ。今日のエリシアさんは、何かが可怪しい
「……エリシアさん。
仮に仰られる通りだったとしても
マリーン達から魔導力を分けて貰えなかったら
俺は間違い無く死んで居た筈です。
……結果論とか確率論なんて無視して下さい。
そもそも、マリーンは何も悪くありません
責められる謂れなんて尚無い筈です」
マリーンの悲しみを感じたこの瞬間
俺は、強い怒りを抑えられず
エリシアさんを責める様にそう言った
「そ……そんな怒らないでよ主人公っち。
ごめん、言い方が悪かったのは謝るからさ……
……その、傷つけたかった訳じゃ無くて
でもその……あぁもうッ!!
……マリーンちゃん、本当にごめんっ!
お詫びって言ったら変だけど
魔族系の職業も無い訳じゃ無いし
望みが叶えられるように手伝うからさ……何れにしても
一度お母さんに聞いて見てくれないかな?
それで結果が出たら、もう一度来て欲しいんだけど……ダメかな? 」
「え、ええ……一度お母さんに聞いてみる。
迷惑掛けてごめんなさい、石板も……」
今直ぐに消え去ってしまいそうな程
彼女は弱って居た……嗚呼。
誰でも無い……俺が彼女を護らなければ。
「……なぁ、マリーン。
お前が完全な魔族だったとしても
俺は絶対に見捨てたりしない。
お、お前は既に俺のパーティメンバーだからッ!
だッ、だから……一人で悩むな。
頼りないかも知れないけど……俺を、頼ってくれ」
「主人公……」
反面、今にも倒れそうな彼女を
抱き締められる程の強さは俺には無くて
「とッ……兎に角ッ!
一旦戻るか! で、ではエリシアさん……失礼します」
「あ~ぃ! またねぇ~ぃ! 」
直後エリシアさんに別れを告げ、俺達は部屋を後にした
◆◆◆
一方………“ギルド長室”に一人残されたエリシアは
窓の外を見つめながら短く溜息を吐き――
「師匠、ヴィオレッタ……会いたいよ……」
涙で歪む窓の外を見つめながら静かにそう呟いた。
◆◆◆
暫くの後、皆を連れヴェルツへと帰還した俺は
落ち込むマリーンを励ます為
場の空気を盛り上げようと奮闘して居た。
「まぁ、エリシアさんも“専門職がある”って言ってた位だし
もし装備が高級品だったとしても
俺はちゃんとプレゼントするから……支払いは任せろーッ!! 」
「……本当にありがとう主人公。
でも、私のせい苦労かけちゃってごめんなさい……」
「いや~ッ! マリーンみたいな美人に苦労掛けられるとか
俺も中々“モテ男”って感じだな!
って、ちょっとチャラ過ぎるか! ……アッハッハッ! 」
「主人公の馬鹿
本当にチャラ過ぎよ……でも、ありがとう」
“気が滅入る瞬間”と言うのは
人生に於いて誰にでも訪れる……だが
もしその時間を少しでも短く出来るのなら
俺はどんな“チャラ男”にでも成ってやる。
「わ……私も協力しますっ!
“勝負”は正々堂々と……負けませんからっ! 」
直後、メルもそう言ってマリーンを励ました。
彼女の発言の後、マリーンは少し元気を取り戻し
「ええ……私だって負けないわ! 」
そう言って俺の腕を引き寄せた。
だが……嗚呼彼女は未だ少し震えて居る
「えっと……もし、物理職を選ぶ事になったら
完全に私が“先輩”なのでビシバシ教育しますね~!
と言うか、今から“師匠”って呼んでも良いですよ? 」
この瞬間、そう“独特なスタイル”で彼女を慰めたマリア。
直後、そんなマリアに対し微笑むと
僅かに安心した様にマリーンは涙を流し
「それも良いかも知れないわね……でも
“斧”以外だったら私の方が得意だと思うわよ?
だって……これでも一応、王女だったんだから! 」
そう言って涙を拭った直後
ほんの少し、彼女の震えは収まった……嗚呼、良かった。
「ねぇ、皆……笑わないで聞いて欲しいんだけれど
一人で聞きに行くのは……やっぱり少し怖いの。だから……」
直後、勇気を振り絞った様にそう言い掛けたマリーンに対し
全てを語らせぬ為、マリーナさんへと魔導通信を繋いだ俺は
“マリーンの今後を決める重要な話がある”事を説明し
話し合いの為、大統領城内の一室を押さえた。
全ては、万が一にも外に話が漏れない為
何よりも、マリーンが傷付く事が無い様に
◆◆◆
「――ええ、では一時間後に。
って事だから……マリーン
俺達はずっと傍に居るし
一緒に笑って一緒に泣くのが仲間だから、安心してくれ。
……きっと、良い結果が待ってる」
この発言に確証なんて無い。
それでも俺は、この発言を必ず現実にすると心に決めたのだ――
◆◆◆
「それで……どうなの? お母さん」
約束の時間、大統領城内の会議室にて
付き添いの俺達を背に
マリーンは緊張の面持ちでそう問うた。
直後……この場に流れた長い静寂
彼女の母、マリーナさんは暫くの間
無言で娘を見つめた。
そして――
「……何時かは話さなければ、そう思って居ました。
マリーン……貴女は確かに“魔族の血”を引いています。
……“私の”血を」
「なッ!? ……どう言う事?! 説明してよ!! 」
「ごめんなさいマリーン……私は、あの日
人間を……あの人を愛してしまったのです。
黙って居て、本当にごめんなさい……」
「で、でも……お母さんは魔族らしい見た目は勿論
禍禍しさだって何も無いじゃない!
それに……魔族は“人間を食べちゃう”んでしょ?
お母さんはそんな事してないじゃないッ! してない……わよね? 」
直後、急激に不安を感じた様にそう訊ねたマリーン、だが
「いいえ……見た目が普通なのは、私が人型と言うだけ。
どう見えていようとも、私は魔族なのです。
聞きたくは無いでしょうが……昔は
貴女が言う様に私も人間を……ですが
あの人と暮らす事を決めてからは
“他の供給方法”を取って居るのです」
「ほ、他の供給方法って何よ……」
「ええ……“決して美しくは無い方法”とだけ。
出来れば、説明は控えたい程に……ですが
人間や各種族の方々を傷つける様な方法で無い事は
あの人への愛に誓って本当です……どうか信じて、マリーン」
そう言って、真っ直ぐに
娘の目を見つめたマリーナさん。
直後、俺は
「申し訳ありませんが、口を挟みます。
マリーナさんが“魔族”だと言う件
俺は責めるつもりも問題視するつもりも有りません。
そんな理由でお呼びした訳では無いんです。
俺が話し合う時間を作って頂いた理由は
マリーンの“魔導師に成る”と言う夢の為です。
失礼な物言いには成りますが
マリーナさんがどんな種族かなんてどうでも良い。
俺にはそっちの方が遥かに重要なんです」
「主人公さん……貴方には感謝してもし切れませんね。
分かっています……娘の夢を叶える方法も」
「なッ?! ……どうすれば良いんですか?
どんな形であれ、俺は絶対にマリーンを拒絶しません。
だから、その方法を教えてください……お願いしますッ! 」
「……娘の事は主人公さんにお任せ致します。
ですが……エリシアさんがお話に成られたと言う
“内容”を聞く限り、恐らく詳しい方法は
彼女もご存知のようですし
ダークエルフ族に伝わる呪具を使用すれば
マリーンも通常の装備を使用出来る筈です」
「それは……普通の魔導師としてですか?
それとも魔族系の特殊な魔導職があるとか?
俺は全く気にしませんが、仮にそうだとした場合
一般的に“悪目立ち”する様な
技を使う事に成るのでしょうか? 」
「……後者ですわね。
“悪目立ち”は……どうでしょう。
半魔族の技の見た目には“個人差”があるのです。
私ですら、娘の使用する技には想像がつきません……」
「では、もう一つだけ……技を使う事で
マリーンの体や精神に変化があるだとか
後々、マリーンが苦しむ原因に成る様な害はありませんか? 」
「ええ、それは大丈夫な筈です」
「なら……全ての責任は俺が持ちます」
“マリーンが苦しまずに済むのならそれがどんな方法でも構わない”
……この直後、断言を切った俺に対し
マリーンは少し不安げに
「主人公……本当に良いの? 」
そう問うた。だが、そんなのは“愚問”だ
「ああ……マリーンは俺の仲間じゃ嫌かい? 」
「いいえ、貴方の傍に居たい……居ても良いの? 」
「勿論……光栄だよ」
「主人公……大好きよ」
この瞬間、俺はマリーンから強い信頼と愛
そして、迷いが消えた事を感じた。
……良し。善は急げだ!
「……そんなに真っ直ぐ言われると、流石に照れるよ。
兎に角……少し待っててくれ。魔導通信――」
直後、エリシアさんとクレインさんに対し連絡を取った俺は
二人に、マリーンの置かれた状況を全て説明した。
……その上で、二人に対し
“半魔族用装備”の制作協力を願い出た。
◆◆◆
「――お二人共この通りです……どうか、お願いします……」
“通信越しに頭を下げた”所で二人には見えていない。
“この通り”と言われてもその意味は伝わらないだろう
だが、この直後、エリシアさんは
「……そんな悲しい声で頼まないでも
絶対に断ったりはしないから……さっきはごめん。
私はダークエルフの村に飛んでおくから
皆も早めに飛んでおいで~っ! 」
そう言って協力を受け入れてくれた。
そして……この直後クレインさんも
「主人公君……君には恩が多い。
そんな君が大切にして居る仲間の危機ならば
何としても協力をすべきだろう……待って居るよ」
「有難うございます……でも、恩なんてお互い様です。
その……“今回の協力で今までの恩は全てチャラだ”
とでも思って頂けたら、俺も少し気が楽になります」
「ふむ……では、これからは対等に話そう。
今後、私の事は呼び捨てで構わない。
……“グランガルド”から聞いたよ」
「なッ?! ……有難うございます!
では、直ぐにそちらに向かいます! ……通信終了!
と、言う事らしい。マリーン……心の準備は良いかい? 」
「ええ……貴方と一緒なら何も怖くないわ」
「……良し! じゃあ、行くぞ――」
直後、転移の為俺の手をギュッと握ったマリーン。
その手からは、一切の迷いが感じられなかった――
◆◆◆
直後ダークエルフ村へと到着した俺達。
既にエリシアさんとクレインさんは
“儀式”の用意を進めて居た。
「来たか……では、マリーン君其処に座ってくれ……」
クレインさんの指示に従い、緊張の面持ちで
二つある“魔導陣”の内の一方へと座ったマリーン。
……直後、その様子を確認すると
今度はマリーナさんをもう一方の魔導陣へと座らせた。
「そ、その……何か手伝える事はあるだろうか?
クレインさん……あ、いや……クレイン」
「“呼び捨てに慣れぬ姿”……か。
確かに、グランガルドの言う通り面白いな。
……っと、失礼した。
手伝いは必要無い……唯
此処で見た事を“他言無用”として貰うだけで充分だ」
「ああ、分かった……約束するよ」
俺がそう約束をした直後、エリシアさんは
マリーンに対し“強く”ある約束をさせた。
「マリーナさんはもうちょっと右かな?
っと……おっけぇい!
さてと……マリーンちゃん、一つ約束ね?
何があっても絶対に“魔導陣から出ない事”」
「え、ええ……分かったわ」
「……本当にダメだからね?
“何が起きても”……だよ? 絶対だからね?
因みに……“マリーナさんも”だからね?
さてと……んじゃ~クレイン“例の奴”お願いっ! 」
この瞬間、些か過剰な程の警告をしたエリシアさん。
直後……理由を問う暇も無く
クレインが力強く“呪具”を一振りした瞬間
二つの魔導陣は“繋がり”――
「よし……んじゃ、今度は私の番だね~ぃ! 」
――そう、明るく言った言葉とは裏腹に
エリシアさんの目は殺気すら感じられる程に鋭くて。
直後、マリーナさんに向け謎の言語で
呪文を唱え始めた彼女、だがその瞬間
マリーナさんは酷く苦しみ始め――
「お、お母さんっ?! ……ちょっと! 何が起きてるの!? 」
「動くなマリーンッ!! 」
瞬間狼狽えるマリーンを
怒声とも言うべき声で制止したクレイン。
直後……マリーンは唇を噛み締めながら必死に耐え続けた。
……尚も続く儀式と
エリシアさんの唱える呪文。
直後、クレインが振るい続けた呪具は
マリーナさんから魔導力を吸い上げ始め
更に彼女を強く苦しめた……だが。
“母は強し”……この瞬間、俺は
その言葉が持つ真の意味を目の当たりにした。
「娘の……夢の……為っ……ですわッ!!
ぐぅッ!!! ……」
「お母さんッ!! ……ねぇ!
お母さんは大丈夫なのッ?!
お母さんが犠牲になるのなんていやッ!! ……」
「動くなッ!!! ……もしこれに失敗すれば
君の母は本当に死ぬ事になる。
……気持ちは理解するが
母が大切だと思うのなら絶対に“魔導陣”を動くなッ!!! 」
再び声を張り上げたクレイン。
そんな中、マリーナさんは
「貴女の為なら……大丈夫よっ!!!
くッ! もうそろそろ……よ……マリーン
貴女にも痛みが襲い掛かるわ……だけれど
貴女なら……きっと耐えられる。
貴女は……私とあの人の……娘なのですから……」
荒い呼吸の中、そう力強く言い切った。
直後、再び呪具を振るったクレイン……瞬間
マリーンからも魔導力を吸い上げた始めた呪具は
二人の魔導力を混ぜる様に動き始め
「嘘……でしょッ?! こんな痛みを……
お母さんッ……私の為に……」
「耐えられるわ、マリーン……共に……
貴女の夢の為に……」
この瞬間、マリーンをも襲った地獄の苦しみ。
尚も必死に耐え続けて居た二人を前に
呪文の詠唱を終えたエリシアさんは
“最後の手順”について話し始めた。
「……よぉし! 此処までは順調。
後は道具を形作る為の
“生贄”が必要かな~っ?
それこそ、出来るだけ魔導力の強い……あ~っ。
“主人公っち”しか居ないね~っ! ……って事で!
ちょ~っと、ごめんね? ――」
「なッ?! ――」
言うや否や懐から“針”を取り出し
そのまま、一挙動で俺の指を刺し
その血液を布へと吸い込ませたエリシアさん。
「――痛ッ!? って……何するんですか!? 」
「何するも何も……“血液”が生贄の代わりだよ?
主人公っちの魔導力を考えれば
これでも充分足りる筈なのだよ! ……っと。
それじゃ行くよっ! ――」
言うや否やクレインの振るう呪具に向け
血の付いた布を投げたエリシアさん。そして
「呪具よ――
――“浄魔装備”を齎し給えッッ!」
瞬間、そう唱えたクレインの声に応える様に
呪具の中で混ぜられた魔導力は急激に布へと吸い込まれ始めた。
そして……直後
布は黒く禍禍しく形と色を変化させ
「よし、順調……後少しで出来るよ! 合図したら
マリーンちゃんは利き手を高く掲げて! 」
「ええ……いつでも良いわ!! 」
「まだだよ……まだ……まだだよ~っ……今ッ! 」
エリシアさんの合図。
天高く掲げられたマリーンの右腕……瞬間
禍禍しく蠢く黒い布は
彼女の右手に纏わりつき……そして
“それ”は黒い手袋の様な形状へと変化した。
「ねぇ……これで完成なの? 」
「うん、完成……それで普通の魔導道具を装備出来る筈」
そう応えたエリシアさん。
見なくても分かる……彼女は
何時もの様に明るく振る舞う余裕さえ失う程
酷く疲れ切って居る
「エリシアさん……有難う御座いました」
そう感謝を伝えた俺に対し短く
「あ~い、どもども~っ」
そう応えたエリシアさん。そんな中
「お母さんっ! 主人公っ! ……二人共無事なのッ!? 」
「ああ、俺は何とも無いよ……唯
何と言うか指先が少し“針で刺した様に”痛いだけ。
って“冗談”は兎も角として、マリーンこそ大丈夫か? 」
「ええ、私はもう平気よ……お母さんはどう? 」
「“産みの苦しみ”を二度経験した気分ですわ……
……でも貴女の為なら大丈夫よマリーン」
そう言って微笑んだマリーナさん。
だが、そんな彼女に対しエリシアさんは
「ま……念の為
数日は公務に出ない方が良いけどね。
少なくとも二、三日は休養に充てた方が良いと思うよ?
さてと……疲れたし、私は帰るね。
転移の魔導:自室へ――」
極度の疲れからか
少し肩を落として居たエリシアさんは
マリーナさんからの返事も聞かず
そう言って足早に帰還した。
一方、そんなエリシアさんの様子を見て居たクレインは
「しかし……あのエリシアが協力するとは。
あの“過去”を考えれば……
……皆、今日の彼女は少しばかり冷たく思えただろう。
だが……感謝した方が良い」
そう意味深に語った
「……エリシアさんには勿論
クレインさんにも感謝して居ます。
それはそうと、何か事情があるんで……ッ。
って……ごめん、また敬語に成ってた。
言い直すよ……何か事情があるのか? 」
「ふっ……気にするな、私は主人公を信じただけだ。
しかし……君は敬語が癖なんだな?
タメ口と敬語を“行き来する様”が
やはり見て居てとても……面白い」
「お、面白いってそんな……」
無事解決した安心感からか
俺達はそんな無駄話とも言える様な会話を続けて居た。
だが、その一方でマリーンは
「って言うか、この“手袋”のお代ってどう言う扱いになるのかしら? 」
そう疑問を口にした直後
「ん? 別にいらな……いや、貰おうか」
「えッ? クレイン今要らないって言い掛けた様な……」
「何を言う? ……それは空耳だ、主人公。
……丁度、魔導道具を修理に出そうと思って居たのだが
その修理費を“肩代わり”してくれると助かる。
それを今回の“お代”としておこう」
「空耳って……それは構わないけど
まさか“恐ろしい金額”なんじゃ無いだろうな? 」
「いや、大した金額では無い筈だ。
それに“ゲーム”や“和装”で懐は温まって居るだろう? 」
「其処を引き合いに出されると
なんだか余計に恐ろしいんだが……でも、分かった。
お代はそれで良いんだな? 」
「ああ、それと……諄い様だが
この件はくれぐれも他言無用で頼む。
我々は要らぬ詮索を受けたく無いんだ」
「ああ、分かってる。
……マリーンの装備を買いに行くついでに
これの修理も依頼して置くから安心してくれ」
この瞬間そう話す俺達の間に割って入る様に
マリアは大量の疑問を投げ掛けた
「あれ? ……そう言えば装備自体は
その“手袋”で付けられる様に成ったとして
肝心の職業自体はどう言う扱いになるんですか?
……恐らくですけどギルドでは魔導適性って
測れないんですよね? と言うかそもそも
職業に依って装備って微妙に違いますよね?
……もし“魔族系の技がある”んだったら
魔導書ってどう言う扱いに成るんですかね? 」
直後、この大量の質問の全てに答えたのはクレインだった。
「それなら簡単な事だ……装備はトライスター用。
専用の魔導書ならば、恐らくエリシアが……」
と言い掛けた。だが
この瞬間……俺は自分の耳を疑った。
そして思わず
「えっと……は? 」
そう聞き返してしまった俺に対しクレインは
「だから、トライスター用を……」
「な、なぁ……待ってくれ。
トライスター用って俺の奴でもかなり値引きして貰って
それでも八〇〇万金貨だったんだぞ?
同じ金額で作って貰えたとして八〇〇万。
もし全く値引き無しなら
確か五〇〇〇万金貨程掛かるって言ってた筈だぞ?
もしそれが事実なら、俺達はまた貧乏生活に逆戻りって事か?
……って、よく考えたら
マリアの兜の代金も払わなきゃいけないの忘れてた。
……うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!
貧乏生活に逆戻りとか嫌だぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!! 」
俺の“インベントリ”には今、一体幾らあるのか
マリーンの装備は一体幾らするのか。
……この瞬間、襲い来る不安が故に
恥を感じる暇さえも無く駄々をこね始めて居た俺に対し
マリーンは
「……ちょっと落ち着いてよ主人公ッ!
もう、私の装備は良いから! 自分で買うから! 」
そう言った。だが
「いや、そう言う訳には行かない……俺は約束したんだ。
“マリーンを護る”……って。
“責任は全て俺が持つ”……って。
皆に約束した……だから。
分かった、トライスター用だな?
……ラウドさんに材料貰いたいけど
流石に無理かも知れないな。
ねぇクレイン……黄金って何処で取れるの? 」
後で思い出してもこの時の記憶は少し曖昧だ。
その理由は恐らく“甘える子犬の様な目つきで”
クレインにそう質問をした事を
忘れたかったからなのかも知れない。
「なっ!? ……急にキャラが変に成っているぞ? 主人公。
とにかく“黄金”ならばドワーフ族に聞くのが一番だろう。
……彼らは黄金に詳しいからな」
「分かったありがと……地道に頑張るよ。
またねクレイン……んじゃ皆掴まってくれ。
転移の魔導……はぁ~ッ。ドワーフの工房へ!
……はぁ~ッ――」
◆◆◆
この瞬間主人公は大きく肩を落とし
幾度と無く溜息を吐きながら転移した。
そして
「主人公……君は苦労人だな……」
彼らの去った方向を見つめながら
クレインは静かにそう言ったのだった。
===第三二話・終===




