第三十二話「モテ期は(金銭的に)楽じゃないッ! 」
《――ヴェルツでの“女の戦い”から数日後。
朝食中の主人公は“ある意味で”とても苦労して居た――》
………
……
…
「……あ、あの……お二人共……
もう少しだけ……その
“離れて貰えると”助かるんですが……」
《――恐る恐るそう発した主人公。
彼の左右にはメルとマリーンが“超近距離”で座って居た――》
「えっ? ……わ、私は別に近づいていませんよっ?
主人公さんったら私の事……す、好きなんですねっ……! 」
《――メルは顔を真っ赤にしながらも主人公にそう言った。
彼により一層近づきながら――》
「へっ?! ……い、いや、す……好きだけど……その……」
「ちょっとねぇねぇ~……こっち向いてよ主人公♪
あーんして? ……これ食べて?
……どう? 美味しい? 」
《――そんなメルに対抗するかの様に
マリーンは主人公の口元に果物を運んだ。
“超至近距離”で――》
「お、美味しい……です……」(緊張し過ぎて味が消えた……)
「……良かった~っ♪
ねぇねぇ~今日は私の装備を選びに行きましょうよ♪ 」
「は……はいっ!! そ、それは確かに約束してましたし……」
(はぁ~っ、明らかに何時もと違うマリーンさんの対処に困る。
まぁ、凄く可愛いのは確かだけど……)
「……じ、じゃあ私も一緒に行きますねっ♪
一人だと寂しいですからっ! 」
《――そう言うや否や
主人公の腕に抱きついたメル――》
「はへっ?! ……メ、メルちゃん、胸が当たって……」
「しゅ……主人公さんに喜んで頂けるなら
そ、その……頑張っちゃいますっ……えいっ……っ! 」
《――直後
先程よりも更に強く主人公の腕に抱きついたメル――》
「ひゃぅぅ?! ……ちょっ!? メルちゃん本当に……やめ……」
「なっ!? わ、私だって負けないわよ?!
えいっ!! ……」
《――直後
負けじと主人公の腕に“押し当て”たマリーン――》
「……はひいぇぇっ?!
お、お願いしますから二人共やめてくださいよぉ?! 」
《――主人公は憔悴しきった様な声でそう言った。
だが、そんな姿をニヤニヤしながら見つめていたマリアは――》
「……それにしても“凄い状況”ですねぇ~?
傍から見たら悪代官以外の何物でもないですよ? 」
「マリア、冗談は良いから助けて……」
「え~っ? ……面白いからもうちょっと見てたいんですけど? 」
「マ・ジ・で!! ……本当に“色々”ギリギリだからっ!! 」
「分かりましたよ~……お二人共、一回離れてくださ~い」
「い、嫌ですっ! 」
「じゃあ私だって嫌よ! 」
「……だ、そうですけど? 」
「だからぁぁっ!!
お願いなので二人共、マジでもうちょっと離れて貰えませんかね……」
《――と、頼み込む主人公の背中に
突如として金属の当たる感触が走った――》
「な、何だっ!?? ……」
「何か面白いので私も当ててみました! ……防具越しですけど! 」
「あ゛ーもうっ!! マリアまでっ!! ……」
《――ある意味で天国と地獄を同時に体感して居た主人公。
だがそんな中、彼の元へグランガルドが現れ――》
………
……
…
「なっ?! ……あ、朝からお盛んだな主人公。
御主の様な英雄ならば当然、妻は複数居て然るべきだが
人目の多い場所では……その
流石に“控えた方が”良いと思うのだが……」
「……なっ!? グランガルドさん?!
い、いやこれは違っ!
……本気でお願いします、二人共離れて下さい。
このままだと、釈放されて日も浅いのに早速世間から
“悪代官”呼ばわりされるんで……本当にお願いします」
「そうね……仕方無いからちょっとだけ離れてあげるわ?
でもその代わり、そろそろ私の事も“呼び捨て”にしてよ? 」
「えっ!? マリーンさんがそれでいいなら……あっ。
マリーンがそれで……」
「其処は言い直さなくてもいいから!
兎に角……今からは呼び捨てね? 」
「あ、あぁ……分かったよ、マリーン」
「……あっ、ずるいですっ!
私も呼び捨てにしてくれないと離れませんからっっ!! 」
《――そう言うと
更に“押し当てた”メル――》
「ひゃぇいっ?! ……分かった!!
分かったから押し当てないでメルちゃん!
いっ、いや……メルッ!! 」
《――と、彼に対し呼び捨てを頼んだのは二人なのだが
いざそう呼ばれると、耳まで真っ赤に成る程に照れてしまったのだった。
一方、グランガルドはこの話の流れに
また“違う意味”で興味を示し――》
………
……
…
「……所で主人公よ。
それならば、吾輩も呼び捨てにして欲しいのだが……」
「え゛っ?! ……そっ、それは一体
どう言った理由で御座候?! 」
<――驚き過ぎて意味不明な言葉遣いになってしまった俺。
だが“変な意味”では無かった様で――>
「ん? ……何か誤解している様に見えるが
わが種族で名を呼び捨てるのは“生涯の友”として認める行為なのだ。
吾輩は主人公を生涯の友に相応しい男だと考えているが……
……主人公はどうだ? 」
「えっ?! 本当に俺が生涯の友とか……宜しいのですか? 」
「うむ……御主を見込んでの事だ、嫌か? 」
「いえ、寧ろ光栄ですッ!
でしたら! ……グ、グランガルドっ! 」
「そう緊張しなくとも良い、それと……友と認めた間柄だ
“ガルド”で構わん……敬語も必要無い。
主人公……これからも宜しく頼む」
「はい! ガルドさん……って間違えたので言い直します!
ああガルド! ……此方こそ宜しく頼むよ! 」
「ふっ……ああ、宜しく頼む」
「……って、マリーンの装備を買いに行かないと!
そ、そう言う事だから! ……また後でな! ガルド! 」
「ああ……では吾輩は朝食を摂るとしよう」
「ああ、のんびりしててくれ! ……んじゃ行こうか! 」
《――突如として縮まった皆との距離感に
些かあたふたとして居た主人公……だがそんな中
彼を引き止めたマリーンは――
“私まだ魔導適性測って無いから先にギルドに行きましょ? ”
――と言った。
直後、彼女の適正を測る為ギルドへと向かった一行は――》
………
……
…
「さてと……まずは受付ね! 」
「マリーンは元気良いな……何だか俺の方が緊張して来たよ」
「何でよ? まぁ私の心配をしての事なら嬉しいけど……」
<――などと話しながら
魔導適正検査の申し込みをする為、受付へ向かった俺達。
すると、受付嬢さんはマリーンに対しとても親しげに話し始め――>
「マリーンさん! ……ついに魔導適性を? 」
「ええ、良い結果が出ると良いんだけどね……」
「……きっと良い結果が出ますよ!
ではあちらの石版へどうぞ! ……頑張ってくださいね! 」
「ええ、頑張るわね! 」
「あれ? ……受付嬢さんと仲いいんだね」
「えっ? まぁその……主人公が幽閉されてた間に
測ろうかどうしようかずーっと悩んでウロウロしてたら
顔なじみになっちゃったのよ……恥ずかしいから言わせないでよね! 」
「そうだったのか……待たせてごめん」
「良いの、気にしないで……っと、お願いします」
<――直後、検定官さんに申込用紙を渡したマリーン。
例に依って、石版に手を当てながら
癒やし、攻撃、守り、と三秒置きに彼女が唱えた
瞬間――>
………
……
…
「癒やし……」
<――石版は反応しなかった。
だが、何かにヒビが入った様な音が聞こえ――>
「攻撃……」
<――同じく反応無しだった。
だが今度は先程よりも大きな音が響き――>
「守り……」
<――マリーンがそう唱えた瞬間
石版は真っ二つに割れ――>
「……何だ?
一体、どう言う事だ……」
「あ、あの……私、適性はあるのかしら? 」
「いえ、分かりません……暫くお待ちを」
<――マリーンにそう伝えると
慌てて二階への階段を駆け上がって行った検定官さん――>
………
……
…
「……どうしたんだろう、石版の調子がおかしかったのかな? 」
「何か怖いわ主人公……私、何か変な事しちゃったんじゃ……」
「いや……マリーンは指示通りやってた。
きっと石版が変だったんだよ……」
<――などと話していると
俺達はエリシアさんに呼び出され――>
「お~いっ! 四人ともぉ~っ! ……上においで~っ! 」
「はい! 今行きますッ!
……行こうか」
「え、ええ……」
………
……
…
「さ~てと! ……検定官くん? 少し外してくれるかなぁ~? 」
「ハッ! ……失礼致します」
<――と、検定官さんが立ち去ったのを確認すると
エリシアさんは静かに――>
「で……呼び出された理由分かるかな~? 」
「まさか“石版の弁償しろ”とかですか? 」
「そんな訳無いじゃ~ん! ……マリーンちゃんはどう思う~? 」
「わ、分からないわ……」
<――緊張しつつそう答えたマリーン。
直後……彼女を暫く見つめた後
エリシアさんは石版が壊れた理由を話してくれた――>
………
……
…
「……えっとねぇ~
石版が壊れた理由を端的に説明するとぉ~……
……マリーンちゃんには多分“魔族の血”が流れているんだよね。
お父さんかお母さん……若しくは、その両方が魔族とかなの? 」
「……そ、そんな筈無いわよ!
お父さんとお母さんは水の都の王と女王だったのよ?! 」
「え~っと……責めたり貶したりしてる訳じゃ無いから
そんなに興奮しないで……でも、分からないのも怖いでしょ?
だから、一度お母さんに聞いてみるのが一番かもしれないかな~って。
……大丈夫かな? 」
「て、適性があるかどうかは……分からないの? 」
「……一応、調べる事は出来るよ~?
ただ、主人公っちがあの“時”暴走したのも多分
マリーンちゃんから貰った魔導力に原因有りかな~って思ったり。
それ、中々危険な力なんだよ~?
適正を測りに来た所を見れば“ハンター”として依頼受けたりしたい
って言うのだけは何と無く分かるけど、この力を安全に扱うのって
私は結構難しいと思うな~っ……うん」
「そ、そんな……」
<――黙って聞いていて気づいた事が有る。
それは……普段より明らかに
エリシアさんの話し方に“険がある”って事だ――>
「……あまり聞きたくない話だっただろうけど~
人間と魔族は魔導の仕組みが根本的に違うからね~……ざ~んねん」
<――やっぱりだ
今日のエリシアさんは何かがおかしい――>
「エリシアさん……仮にそうだとしても
マリーン達から魔導力を分けて貰って居なかったら俺は死んで居た筈。
結果論とか確率論なんてこの際無視して下さい
マリーンは何も悪く無い筈です」
<――マリーンの悲しむ姿を見た俺は、思わず
エリシアさんに対し語気強くそう言ってしまった――>
「そ……そんな怒らないでよ主人公っち。
ごめん、言い方が悪かった……傷つけたかった訳じゃ無くてさ
でもその……マリーンちゃんごめんっ!
お詫びって言ったら変だけど、魔族系の職業が無い訳じゃ無いし
何れにしても一度お母さんに聞いて見て?
それで結果が出たらもう一度来て欲しいんだけど……
……それでも良いかな? 」
「え、ええ……一度お母さんに聞いてみる……」
「……なぁマリーン。
仮にお前が完全な魔族だったとしても、俺は絶対に見捨てない。
だから……一人で悩むな
頼りないかも知れないけど……俺を頼ってくれ」
「主人公……大好きよ」
「おっ……仲いいねぇ~お二人さ~ん?
取り敢えず……話は以上だからね~っ! 」
「ハッ……し、失礼しましたっ!
では……一度その件も含め、纏まり次第また来ます」
「うん、分かった~っ!
じゃあね~ぃ! ……」
《――直後
部屋を後にした一行を確りと確認したエリシアは――》
………
……
…
「……魔族の血か。
師匠……ヴィオレッタ……寂しいな……」
《――涙で歪む窓の外を見つめながら
静かにそう呟いた――》
………
……
…
《――その一方、一度ヴェルツへと帰って居た一行
そして、落ち込むマリーンを励ます為か
主人公は妙なテンションで場の空気を盛り上げようと奮闘して居た――》
「まぁそのほら! ……もし装備の種類が違ったとしてもさ
俺はちゃんとプレゼントするから……財布は任せろーっ!! 」
「本当にありがとう主人公……私の所為で苦労かけちゃってごめんね」
「気にするな……少なくとも俺は気にしてないから」
《――そう言った主人公に同意する様に
メルも――》
「わ、私も気にしてませんからっ!
マリーンさんは今も変わらず……私の恋敵ですっ! 」
《――そう彼女を勇気付け
マリアも同じく――》
「ええ、何が有ってもマリーンさんは絶対に味方ですよ~」
《――そう言って彼女を慰めた。
直後……そんな彼女達に対し少し微笑むと嬉し涙を流したマリーン
そんな中、ミリアは一行に対し――》
「……どうしたんだい?
なんだか浮かない顔をしてるじゃないかい」
「いえ、その……マリーンにちょっとショックな事が有りまして。
でも……落ち込んでる気分をぶっ飛ばしてあげたいんで
そ、その……マリーンが最初に来た時に食べた
“スペシャルセット”をお願いできますか? 」
「任せときな! ……すぐに作ってやるからねっ! 」
《――主人公のこの注文に張り切ったミリアは
勇み足で厨房へと消えていった。
そして……数時間後
大統領城内の会議室にて……
……マリーンの母マリーナとの
話し合いの場が設けられる事と成った――》
………
……
…
《――張り詰めた雰囲気の中
マリーナに対し静かに――》
「それで……どうなの? お母さん」
《――そう訊ねたマリーン。
対するマリーナは、暫くの間無言で娘を見つめ
そして、申し訳無さそうに口を開いた――》
………
……
…
「……何時かは話さなければと思っておりました。
ええ……貴方は魔族の血を引いています。
“私の”血を……」
「!? ……どう言う事よ?! 説明してよ!! 」
「ごめんなさいマリーン……でも、私はあの日
人間を……あの人を愛してしまったのです。
黙って居て本当にごめんなさい……」
「で……でも!
お母さんは魔族らしい見た目も禍々しさも無いじゃない!
そ、それに……魔族は人間を食べちゃうんでしょ?
お母さんはそんな事してないじゃない!
してない……わよね? 」
《――不安そうに訊ねたマリーン。
だが――》
「……いいえ。
私が人型と言うだけで私は魔族なのです。
昔は、貴方が言う様に人間を……ですが、あの人と暮らす事を決めてからは
“他の供給方法”を取っているのです……」
「ほ、他の供給方法って何よ……」
「……決して美しくは無い方法とだけ。
出来れば説明は控えさせて欲しい程に……ですが
人間や各種族の方々を傷つける方法で無い事は
あの人への愛に誓って本当です……信じて、マリーン」
《――そう語るマリーナに対し
主人公は――》
「あの……口を挟んでもいいですか? 」
「ええ、勿論ですわ……」
「そ、その……マリーナさんが魔族だと言う件
責めるつもりは全く有りませんし、問題視するつもりも有りません。
ですが……このままだと
マリーンが魔導師に成ると言う大切な夢が叶えられないんです。
マリーナさんが魔族かどうかなんて事より
俺にはそっちの方が余程気に入らないんです」
「ええ……分かっています、その“解決方法”も」
「……どうすれば解決するんです?
解決出来るなら、せめて彼女を俺のパーティメンバーとして
居させる事は出来ないでしょうか? ……俺はどんな形であれ
絶対にマリーンを拒絶しません、だから……お願いしますッ! 」
「……心から感謝致しますわ主人公様。
勿論、娘の事は主人公さんにお任せ致します……
……ですが、エリシアさんがお話に成られた内容を聞く限り
恐らく詳しい方法はご存知の筈ですし
ダークエルフ族に伝わる呪具を使用すれば
マリーンも通常の装備を使用出来る筈です」
「それは……普通の魔導師としてですか?
それとも魔族系の特殊な魔導職があるとか?
……俺は全く気にしませんが、仮にそうだとした場合
一般的に“悪目立ち”する様な技を使う事に成るのでしょうか? 」
「後者です……悪目立ちはどうでしょう。
半魔族の技の見た目には個人差があるのです
私ですら娘の使用する技は想像がつきません……」
「では……技を使う事でマリーンの体や精神に変化があるだとか
後々、マリーンが苦しむ原因に成る様な害はありませんか? 」
「ええ、それは大丈夫な筈です」
「……なら、俺が責任を持ちます」
「主人公……本当に良いの? 」
「ああ……マリーンは俺の仲間じゃ嫌かい? 」
「いいえ、貴方の傍に居たい……居ても良いの? 」
「勿論……光栄だよ」
「主人公様……娘をどうか宜しくお願い致します」
「ええ! ……なら善は急げです!
魔導通信……エリシアさん!
クレインさん! ――」
………
……
…
「……何と無くは分かるけど何かな~っ? 」
「お二人にお願いです……マリーンの為
半魔族用の装備を作る協力をして下さい」
「何っ?! ……魔族とのハーフだと?! 」
「クレインさん落ち着いて~……やっぱりそう言う通信だったか~
一応、ちょっとだけ乗り気になれない理由があるんだけど~」
「……俺が全責任を取ります。
だから、お願いします……この通りです」
《――主人公は姿の見えない魔導通信越しにも関わらず
二人に対し深々と頭を下げそう頼んだ。
すると、エリシアは――》
「……分かったよ~もぉ~っ!
てか、お願いだからそんな悲しい声で頼まないでよね。
なら私はダークエルフの村に飛んでおくから
皆も早めに飛んでおいで~っ」
「……有難うございますエリシアさん。
そ、その……クレインさんもお認め頂けますか? 」
「……主人公君には恩が多い
君の頼みであれば認める他無いだろう……待っているよ」
「有難うございます……もし恩を感じて頂いているなら
今回の件で今までの恩は全てチャラと思って頂けたら助かります」
「ああ……ならばこれからは対等に話そう
今後は私の事は呼び捨てで構わない……グランガルドから聞いたよ」
「なっ?! ……有難うございます!
ではすぐにそちらに向かいます! ――」
………
……
…
「――と、言う事だ。
マリーン……心の準備は良いかい? 」
「ええ……貴方と一緒なら何も怖くないわ」
「マリーン、良かったわね……主人公様、改めて心からの感謝を……」
「気にしないで下さい、俺の大切な仲間ですから!
兎に角……善は急げだ!
転移の魔導、ダークエルフの村へ! ――」
………
……
…
《――直後
彼らがダークエルフの村に到着した時には
既にエリシアとクレインが儀式の用意を進めて居た――》
「来たか……マリーン君、其処に座って」
《――クレインの指示に従い
緊張の面持ちで魔導陣の中心へと座ったマリーン。
だが……周囲に偽装効果を施し
村の状況を隠しつつ行って居たこの儀式に、主人公は――》
「その、手伝える事はあるだろうか? ……ク、クレイン」
「呼び捨てに慣れぬ姿は確かに面白いが……ゴホン!
此処で見た事を他言無用にしてくれると助かると言う位だ。
折角の偽装が無意味に成ってしまうからね」
「ああ、分かった……約束するよ」
《――彼がそう約束をしたその直後
エリシアは、マリーンに対し“強く”ある約束をさせた――》
………
……
…
「マリーナさんはこっち~……っと。
……マリーンちゃん。
何があっても絶対に動かないって約束してくれる? 」
「え、ええ……」
「本当に動かないでね? ……“何が起きても~”だよ?
絶対だからね? ……んじゃ~クレインさん、例の奴お願い~」
《――過剰な程に動く事を制限したエリシア
その直後……クレインが力強く呪具を一振りした瞬間
魔導陣は発動した……そして、その事を確認すると
エリシアはマリーナに向け、謎の言語で呪文を唱え始めた。
だが、その瞬間マリーナは酷く苦しみ始め――》
………
……
…
「お……お母さんっ?! 」
「動くなマリーンッ!! 」
《――怒鳴り声をあげたのはクレイン
だが、そんな彼の真剣な眼差しに気付いたマリーンは
今直ぐにでも駆け寄りたい気持ちをぐっと堪え
唇を噛み締めながら必死に耐え続けた。
……一方で、呪具はマリーナから魔導力を吸い上げ始め
更にマリーナを強く苦しめた。
だが“母”は強く――》
………
……
…
「……娘の……夢の……為っ……ですわッ!!
ぐぅっ!! ……」
「お母さんッ!! ねぇ! ……お母さんは大丈夫なのっ?!
私の為にお母さんに何かが起きるなら……」
「黙れっ!!! ……もし失敗すれば
本当に君の母は死ぬ事になる!
……気持ちは理解するが
母が大切だと思うのなら絶対に其処を動くなッ!!! 」
「わ、分かったわ! お母さん……頑張ってっ! ……」
「ええ、貴女の為なら……大丈夫よ……マリーン……ぐぅッ! ……」
《――直後
再び呪具を振ったクレイン……その瞬間
マリーンからも魔導力を吸い上げた呪具は
二人の魔導力を混ぜる様に動き始め――》
「痛いっ……嘘……でしょ……こんな痛み……お母さんっ……
主人公っ!! ……」
「マリーン!? ……頑張れッ!! 」
《――マリーンをも襲った地獄の苦しみ
尚も必死に耐え続けていた二人を前に……エリシアは
ある“最後の手順”について話し始めた――》
………
……
…
「よし……此処までは順調、後は道具を形作る為の
“生贄”が必要かな? ……」
「い、生贄ッ?! ……エリシアさん、一体何を?! 」
「出来るだけ魔導力の強い……あ~主人公っちしかいないか。
さてと、ちょっと失礼っ~」
《――直後、針を取り出したエリシアは
そのまま主人公の指を刺し、その血液を布に吸い込ませた――》
「痛っ! ……何するんですか!? 」
「何って……生贄の代わりだよ?
主人公っちの魔導力を考えればこれでも充分足りる筈っ!
それじゃあ……行くよっ! ――」
《――言うや否や
クレインの持つ呪具に向け血の付いた布を投げたエリシア――》
………
……
…
「呪具よ――
――“浄魔装備”を作り給えッッ! 」
《――瞬間
そう唱えたクレインの声に応える様に
呪具の中で混ぜられた魔導力が布へと注ぎ込まれ始めた直後
布は黒く禍々しく形と色を変化させ――》
………
……
…
「……後少しで出来るよ!
合図したらマリーンちゃんは利き手を高く掲げて! 」
「ええ……いつでも良いわ!! 」
「まだだよ……まだ……まだだよ~っ
……今っ! 」
《――彼女が天高く右手を掲げた瞬間
禍々しく蠢く黒い物体は彼女の右手に纏わりついた。
そして“それ”は黒い手袋の様な形状へと変化し――》
………
……
…
「ねぇ……これで完成なの? 」
「うん、完成……それで普通の魔導道具を装備出来る筈だよ? 」
《――普段の“話し方”では無くなる程に疲労していたエリシア
そんなエリシアに感謝するマリーンだったが――》
「って……お母さんも主人公も無事なのっ!? 」
「ああ、俺は何とも無いよ……唯
指が少し……“針で刺した様に”痛いだけだ。
それより……マリーンこそ大丈夫か? 」
「ええ、お母さんはどう? ……」
「“産みの苦しみ”を二度経験した気分ですわ……
……でも、貴女の為なら大丈夫よマリーン」
《――そう言って微笑んだマリーナ。
だが、そんな彼女に対しエリシアは――》
「……とは言え、数日は公務に出ない方が良いと思うよ?
少なくとも二、三日は休養に充てた方が良いと思うなぁ。
さてと……疲れたし、私は帰るね。
転移の魔導、自室へ――」
《――疲れからか少し肩を落として居た彼女は
返事も聞かず足早にギルド二階の自室へと転移していった。
そして、そんなエリシアの様子を見て居たクレインは――》
………
……
…
「……よくぞあのエリシアが協力してくれた物だ。
あの“過去”を考えれば……
……少し冷たい態度に思えたかもしれないが、感謝した方が良い」
「何か事情があるんですか? ……あっいや、あるのか?
てか勿論感謝はしているよ、エリシアさんにもクレインにもね
何て言うか色々とごめん……いや、ありがとう」
「気にするな……私は主人公を信じただけだ。
しかし……君は敬語が癖なんだね?
タメ口と敬語を行き来する様が見て居て面白い」
「面白いってそんな……」
《――無事解決した安心感からか
そう談笑していたクレインと主人公……だがそんな中
マリーンは――》
「ねぇ、この手袋のお代ってどう言う扱いになるの? 」
「ん? 別にいらな……いや、貰おうか」
「えっ? 今要らないって言い掛けた様な……」
「いや……丁度私の魔導具を修理に出したいと思っていた所でね
その修理費を肩代わりしてくれると助かる。
それを今回のお代代わりとしておこう」
「構わないけど……まさか恐ろしい金額じゃ無いだろうな? 」
「いや、大した金額では無い筈だ……それに
“ゲーム”や“和装”で懐は温まっているだろう? 」
「……何だか恐ろしいな。
でも……分かったよ、お代はそれで良いんだな? 」
「ああ、それと……諄い様だが
この件はくれぐれも他言無用で頼む。
……要らぬ詮索を受けたくは無いんだ」
「分かっているよ……マリーンの装備を買いに行くついでに
これの修理も依頼しておくから安心してくれ」
《――そう話す二人に割って入る様に
マリアは大量の疑問を投げ掛けた――》
「……あれ? そう言えば
装備はその“手袋”で付けられる様に成ったとして
肝心の職業はどう言う扱いに?
恐らく、ギルドでは魔導適性を測れないんですよね?
それに職業に依って装備も違いますよね?
もし魔族系の技があるとするなら
魔導書はどう言う扱いに成るんですか? 」
<――この大量の質問に全て答えたのはクレインだった。
彼はマリアに対し――>
………
……
…
「ああ、それなら簡単な事だ……トライスター用を買えば良い
専用の魔導書は恐らくエリシアが……」
<――と言い掛けた。
だがこの瞬間……俺は自分の耳を疑った。
そして思わず “は? ” と聞き返してしまった俺に対し――>
「だから、トライスター用を……」
「な、なぁ……待ってくれ。
トライスター用って俺の奴でもかなり値引きして貰って
それでも八〇〇万金貨だったんだぞ?
同じ金額で作って貰えたとして八〇〇万
もし全く値引き無しなら確か五〇〇〇万位掛かるって言ってた筈だぞ?
もしそうなったら、俺達はまた貧乏生活に逆戻りって事か?
嫌だ、そんなの嫌だ……イヤダ、イヤダ、イヤダッ!!
イヤダイヤが沢山あったらお金持ちぃ~~ハッハッハ」
「はわわ!? ……主人公さんが壊れちゃいました!!
大丈夫ですか!? 主人公さんっ! 」
《――瞬時に何処かへと“飛んでいった”主人公を心配し
彼を強く揺すったメル、同じくマリーンも彼を揺すりながら――》
「ねぇ! 装備は良いから! ……私が我慢すれば良いだけだから! 」
「二人共そう言ってますけど? 主人公さん」
《――と彼を心配する三人だったが
彼は更に何かを思い出し――》
………
……
…
「って……よく考えたら
マリアの兜の代金も払わなきゃいけないのを忘れてた。
……うわぁあああああああああああ!!!
貧乏生活に逆戻りとか嫌だぁぁぁぁぁぁっ!!! 」
「ちょっと落ち着いてよ! もう私の装備は良いから! ……ねぇ! 」
「……い、いや。
俺は約束を絶対に守る!
マリーンを護るって……責任は俺が持つって皆に約束したからな。
……分かったよ、トライスター用だな。
ラウドさんに材料貰いたいけど、流石に無理かもしれないな。
ねぇ、黄金って何処で取れるのクレイン? 」
《――主人公は甘える子犬の様な目つきで
クレインにそう質問をした――》
「なっ!? ……急にキャラが変に成っているぞ主人公。
と、兎に角……黄金ならばドワーフ族に聞くのが一番だろう
彼らは黄金に詳しいからな……」
「分かったありがと……地道に頑張るよ、またねクレイン。
んじゃ皆掴まって……転移の魔導
ドワーフの工房へ!
はぁ~っ――」
《――肩を落とし
大きなため息をつきながら転移した主人公――》
………
……
…
「主人公……君は苦労人だな……」
《――彼らの去った方向を見つめながらクレインは静かにそう言った》
===第三十二話・終===




