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異世界転生って楽勝だと思ってました。  作者: 藤次郎
第一章

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第三話「気楽に話せる内容では無くて……」

<――(しば)しの沈黙の後

俺はミリアさんに全てを話した。


……だが、俺が考えて居たよりも遥かに簡単に

異質な存在である筈の俺達の全てを

受け入れてくれたミリアさんは――>


………


……



「……そうなのかい。


“元の世界”ってのがどんな所なのかはイマイチ分からないけど

主人公ちゃんは(ただ)生きようとしてるだけなんだね。


……だけど、この世界が“作り物”だって言うなら

差し詰めあたしは、主人公ちゃんの“創造物(そうぞうぶつ)”って事かい? 」


「い、嫌な事を知ってしまいましたよね……」


「……いいや?

こ~んなに美人に作って貰えたんだから構わないさ!

それに……神なんて物、信じちゃいなかったが

あんたはある意味、私の“神様”なんだろう?


……有り難い事じゃないかい! 神に会える人なんて

この広い世界を探したって中々居やしないよ? 」


<――そう明るく言い切ったミリアさん。


俺は……この世界に転生してから

どれだけ多くの優しさに触れたのだろう?


……いろんな事が重なったからなのか、それとも

俺の中に(かす)かに残る

両親からの温もりと似た物を感じたからなのか。


この瞬間、俺の(ほほ)を涙が(つた)った――>


「……あなたは本当に素敵な人です、ミリアさん」


「やだねぇ……照れるから()しとくれ

さて……二人共、ご飯が冷めちゃうと行けないから

早く食べてくれるかい? 」


「は、はい! ……頂きますッ! 」


「それで……食べながら聞いて欲しいんだが

主人公ちゃんはつまり

この世界の事を何も知らないんだろう? 」


「は、はい……」

(知ってる様な知らない様な……とは言えないよな)


「安心しなっ! あたしが色々と教えてあげるからねぇ! 」


「たッ、助かりますッ! 」


「良し! じゃあ()

この世界には“魔物が居る”……それは分かってるね? 」


「ええ……見た事はまだ無いですが」


「……主人公ちゃんが襲われた

“とされてる”魔物はS級の魔物だったそうだ。


今回もカイエルとミネルバさんが倒したって話らしいが

あの二人は、この国の防衛の一翼(いちよく)(にな)ってる二人なのさ。


……それは兎も角として

魔物って一口に言っても弱いのも居て

これは何かしらの素材になったりするから

ウチの隣にある“ギルド”で討伐(とうばつ)依頼を受け

その報酬で暮らす“ハンター”って職業もある。


もし主人公ちゃんに適性があるなら

それに挑戦してみるのも良いかも知れないね」


「その……ハンターになる適性ってどう言う物なんですか? 」


「一般的には――


回復術師(ヒーラー)


攻撃術師(マジシャン)


防衛術師(ガーディアン)


――って言う三職の魔導職と

剣、弓、槍、斧等の物理的な武器を扱う

“物理職”かの(いず)れかである事がハンターの条件さね。


魔導職かどうかはギルドに行って

魔導石版に手を当て、適性を測るのさ。


適性がない場合は使えそうな武器を手に取るのが基本さね。


とは言え、物理職には物理職で実地試験がある

(いず)れかに合格しないとハンター資格は貰えないからね? 」


「成程……魔導職の場合

適性があるとしたら何をするんです? 」


「それがねぇ……魔導職は少しでも適性があった時点で

その適性の程度と職業に(おう)じて

装備品を買わないと駄目なのさ。


これが結構な金食い虫なのさ。


……もし、魔導力が低いと

色々と“ごちゃごちゃ”つけないと駄目でねぇ……」


「そ、その……ごちゃごちゃとは? 」


<――ミリアさんはこの質問に

ほんの一瞬うんざりした様な表情を浮かべた。


そして……この直後

俺はその意味を知る事と成る――>


「……指輪に耳輪(イヤリング)首輪(ネックレス)腕輪(ブレスレット)


足輪(アンクレット)に髪飾り、魔導水晶、魔導服、魔導書……


……職業にも()るが、攻撃術師(マジシャン)なら魔導杖か大杖で

防衛術師(ガーディアン)なら魔導の大盾で、回復術師(ヒーラー)なら魔導の……」


「な、成程……それは“ごちゃごちゃ”しますね。


でもそれだと、適性があっても

物理職を選ぶ人が増えそうですけど……」


「……いや、魔導はこの世界において最重要なのさ。


(ほとん)どの魔物に効果的だからね……だから

少しでも魔導力があれば“無理やり”魔導職にされちまうのさ。


(ちな)みに……うちの“旦那”もそうさね」


「えッ? 旦那さんってもしかして……」


「……魔導隊の隊長をやってる、カイエルさね」


「あぁ……やっぱりッ! 」


「やっぱりって……なんでそう思ったんだい? 」


「そ、その……“帰り際の眼差し”です。


……ミリアさんの事を心配そうに見て居た様に感じたので」


「へぇ~……勘が良いんだね主人公ちゃんは。


……あの人は魔導適性は人並みなんだけど

どうせならあたしを守れる強さが欲しいって

給料の(ほとん)どを魔導道具につぎ込んでるのさ。


……だから毎朝、装備の着脱に二〇分程掛けてるんだよ? 」


「マ、マジデスカ……」


「ああ……“大マジ”だよ」


<――などと話していた俺達を他所(よそ)

マリアは――>


「あ~美味しかったぁ~っ!

ご馳走様で~すっ! ……“二つの意味”でっ! 」


「マリア、お前なぁ……俺なんて

食べるの忘れて聞いてたって言うのに……」


「兎に角……気に成る様なら

明日辺りギルドに行ってみれば良いさ」


「はい、色々とありがとうございましたッ! 」


「構わないさ……それより

主人公ちゃんも早く食べて、今夜はよく寝るんだよ? 」


「はい! ……この御礼は必ず」


「……お礼かい?

じゃあ、稼げたらウチの酒場で飲んどくれ。


それをお礼と思っとくさ」


「はい! ……お二人の晩酌(ばんしゃく)代も払える位稼ぎますッ! 」


<――そう(こた)えた瞬間

ミリアさんは俺に優しく微笑(ほほえ)み掛けてくれた。


そして、()(さま)俺に背を向けたかと思うと――


“そりゃあ、儲かっちまうねぇ……おやすみ”


――そう言い残し、俺の返事すら待たず

部屋を後にしたのだった――>


「お、おやすみなさ……って、行っちゃった」


「私も寝ますね~おやすみなさ~……zzz」


「お、おう! ……って寝るの早ぁッ!? 」


………


……



<――なんやかんやで翌日。


元の世界では昼夜逆転して居た俺だが

余程(よほど)疲れて居たのだろうか?

驚いた事に……何とも珍しく、ちゃんと“朝に”目が覚め――>


「良い朝だ、さて……早速ギルドとやらに行ってみよう! 」


<――清々しい朝日にテンションが上がり

そんな、絵に書いた様な発言を繰り出した。


だが、その一方……てっきり起きている物と思って居たマリアは

絶賛“爆睡中”で……マリアのベッドへと目をやった俺は

可愛い寝顔の……いや、まぁ“可愛い顔”ではあるが。


結構な量の“よだれ”を()らしつつ

大いびきをかきながら眠り続ける彼女(マリア)

()り起こす事と成ってしまって――>


「な、なぁ……マリア……起きてくれ。


頼む、起きるんだ……早く起きないと

色々と“やばい状態”に成ってるぞ? ……」

(嗚呼(あぁ)、転生前のトキメキが薄れて行く……)


「いやん……むにゃむにゃ……主人公さんのエッチぃ……

むにゃむにゃ……駄目ですよぉ~そんな所~……むにゃむにゃ」


「起きないと、本当に“あんな所やこんな所”を触るぞ? 」


「お……起きましたっ!! 」


「お前……いつから起きてた? 」


「え、えっとぉ――


“良い朝だ、さて……早速ギルドとやらに行ってみよう! ”


――って言う

やけに台詞(セリフ)(くさ)ぁ~い喋りの辺りからですかね? 」


「朝からイラッっとさせる事に余念(よねん)が無いなお前……」


「ちょっとした悪戯(いたずら)ですってば!

怒らないでくださいねっ! ……てへっ♪ 」


<――嗚呼(あぁ)、凄くズルい。


この瞬間、マリアは俺に対しとても可愛く微笑(ほほえ)んだ。


可愛いって……ズルいね!


まぁ、よだれでべっとりな口元は汚いが――>


「とッ、取り敢えず……ギルドに行こうよ」


「ええ! 直ぐにでも行きましょう! 」


「あ、いやその……顔、一度鏡で見て来た方が良いぞ? 」


「えへへ~……美人が現れますか? 」


「ああ……“よだれでびっしょびしょ”のな」


………


……



<――(しばら)くの後

ハンターギルドを訪れた俺達二人。


ギルドの建物内は所(せま)しと依頼掲示板や受付

魔導や物理の試験場所など

ありとあらゆる人と物でごった返して居て――>


「いやぁ~広いな……って言うか人が多い。


苦手だわ……うぅ……」


「えっ? ……主人公さん凄くゲッソリしてますけど

“引きこもり歴”が(あだ)になってません? 」


「う、うん……正直、ちょっと吐きそう……」


「えっ?! じゃあ口まで出たら……飲んで下さいっ! 」


「いや、どうかと思う発言だなぁおい……っと

あれが受付みたいだ……」


「ですね! 早速、適正試験受けましょ~っ! 」


「おい待てッ!! こッ、心の準備が……」


<――心の準備をする暇も無く

強引に手を引かれ受付窓口に立たされた俺。


だが“初めて女の子と手を繋いだ”事の嬉しさよりも

緊張で胃が痛い方が勝って居た――>


「……ようこそハンターギルドへ!

ハンター試験をご希望の主人公さんとマリアさんですね?


試験方法はあちらの魔導石版に手を当てて

癒やし・攻撃・守り……と、それぞれ三秒置きに(とな)えて頂きます! 」


<――その一方

此方(こちら)の緊張などお構いなしに

凄まじい“営業スマイル”な受付嬢さんに(うなが)され

魔導石版の前へと到着した俺は、無愛想な表情で立って居る

検定官らしき男性の威圧感に――>


「レ、レディーファーストって事で……マリアからどうぞ」


「え~……何だか“毒見役”みたいな気分なんですけどぉ? 」


「“みたいな”と言うより……ね? 」


「えぇ? (ひど)いっ! ……もういいですっ! 」


<――と、不貞腐(ふてくさ)れるマリアを

毒見役の様に向かわせた。


直後、無愛想な検定官は――>


「さて……君から試験を受けるのかね? 」


「はい! ……マリアです、お願いします! 」


「……では、その石版に手を当て呪文を唱える様に」


「はいっ! ……えっと、手を当てて

癒やし! 攻撃! 守り! ……


……あれ? 何も起きませんよ? 」


「はぁ~ッ……要するに“魔導適性無し”と言う事だ

君は物理職から選びなさい……次」


「適性無しって事は魔導力無しって事ですか~? 」


「……ゼロに何を掛けても“ゼロ”だ」


「う゛っ……ぐぬぬ」


<――横で聞いて居ても胃が痛く成る程

毒舌な検定官の態度に卒倒しそうな俺だったが

今にも殴り掛かりそうなマリアを止める為

取り敢えず、精一杯のフォローを入れて置く事にした――>


「落ち着けマリア、物理職……カッコいいぞ?! 」


「半端なフォローは逆に嫌がらせですよ!? 」


「そ、そう言うつもりじゃ……いや、何かゴメンな。


と、兎に角次は俺……だよな。


そッ、それじゃあ――


――癒やし」


<――そう唱えた瞬間、タイミング良く変な音がした。


誰かが何かを落としたのだろうか? ――>


「ほう、コレは中々……君の職業は回復術師(ヒーラー)で決……」


「攻撃――」


<――今度は鐘の音がした。


ちょっと気味が悪い――>


「そ……そんな馬鹿な。


攻撃術師(マジシャン)の適正まで……」


「えっと、続けます……守り」


<――流石に三回も続くとこう言う物なのだろうと理解はした。


だが――>


「……何だか風の音がしましたよね? 主人公さん」


「うん、何でだろうね? 」


<――と、不思議がる俺達の横で検定官が妙に慌てて居た。


ひょっとして俺は

何か不味い事をやらかしてしまったのだろうか? ――>


「……信じられん」


「あ、あの……検定官さん

俺に魔導師の適性……あるんでしょうか? 」


「何を馬鹿な質問を! ……いや、失礼した。


……適性しかない、どれでも好きなのを選べるし

どれを選んでも化け物と呼ぶべき力を……君、何者かね? 」


「えっいや、その……記憶が無くて」


「一応説明しよう……一つ目の音だが

あの時点で、もう“普通”では無い」


「……と、言うと? 」


「本来、適性者はワイングラスを鳴らした程度の音を発生させる。


そして二つ目、本来は(ベル)程度の音に成る筈だ……だが」


「俺のは“鐘”の様な音でしたよね? ……」


「ああ、それも“大聖堂にある様な”ね。


そして最後の音だが……あれは可怪(おか)しい」


「おかしいって……どれも音が鳴るのでは? 」


「……最後の守りは“音”では無く

“精霊の(ささや)き”が(かす)かに聞こえるのが正常だ。


何故(なぜ)、風の音が(ひび)いたのかは私にも(わか)らない」


「えっと……今まで守りであの音を出した人は? 」


「歴史上なら居るのかもしれないが……少なくとも私は知らない

兎に角……どれを選んだ所で、君は凄まじい存在と成るだろう」


<――と、驚愕(きょうがく)されつつ思って居た事がある。


良く良く考えたらそりゃそうだ……転生前、俺自ら

“魔導力をカンストで”って頼んだんだから

それぞれに適正があって(しか)るべきなのだろう。


……なんて事を考えながら

つい先程まで無愛想だった検定官の慌てっぷりに

内心笑いが止まらなかった俺……だが。


直後、この騒ぎを聞きつけ現れた一人の老人……俺は

この人との出会いを(さかい)

大変な異世界生活を送る事と成った――>


………


……



「ほう? ……これは中々、(すえ)恐ろしい者よのぅ? 」


「ふ……副ギルド長様?! 」


<――立派に(たくわ)えられた(ひげ)()でながら

そう言って俺達の前に現れたのは

絵本に出てくる“魔法使い”の様な姿をした老齢の男性だった。


だが、その老体に似合わず眼光(するど)

(しばら)くの間俺の事を“観察(かんさつ)”したかと思うと

俺の事を褒め称え始め――>


「……えっと、失礼ですが貴方は? 」


「わしかね? ……わしは“ラウド”と言うしがない魔導師じゃよ? 」


<――と、謙遜(けんそん)気味に自己紹介してみせた老齢の男性。


もとい“ラウド”さん……だが、この“謙遜(けんそん)”を聞いた瞬間

検定官は――>


「なっ?! あなたはこの国でも最高峰の! ……」


「……()してくれんか、この者からすれば

わしの様な老いぼれなど赤子の手を(ひね)る様なもんじゃよ」


<――と、慌てる検定官を他所(よそ)

俺の事を見つめながらそう言ってくれたラウドさん。


だが、流石に(おご)り高ぶりは危険な気がするし

目上(めうえ)は立てよう作戦”とばかりに――>


「そんな事は……俺の事、買い(かぶ)り過ぎですよ」


<――そう言った俺に対し

ラウドさんは――>


「……いや、お主は間違い無く

我が国で史上二人目の“トライスター”と成るじゃろう」


「トライスター? ……何ですかそれ? 」


「主人公殿……お主は全ての職業に高い適性を持って居る。


どれか一つを選ぶのが本来の魔導師ならば

その全てを選ぶのがトライスターと呼ばれる者じゃ。


本来ならば全て自分で買い揃えねば成らぬ筈の魔導道具も

全て国が用意する事に成るじゃろう……じゃが。


その代わり、この国の国防に深く(たずさ)わって貰うがのぅ? 」


<――そう説明してくれたが

この瞬間、俺の感じた率直な意見は


“面倒事に巻き込まれた”……だった。


……この世界の事を良く知りもしない内に

知りもしない国の国防? ……絶対に嫌だ。


そもそも“凄い職業だ! ” 的な説明だったが

ネーミングセンス的に

“歯磨き粉”っぽいのも個人的に嫌だった。


……まぁ、二つ目の理由は兎も角としても

俺は、この職業への転職を断ろうとした――>


「……それ、お断りする事は出来ませんか? 」


「ほう……“管理されるのが嫌”と言う事かのぅ? 」


「えっと……当たらずとも遠からずって感じです」


「ふむ……ならば仕方無かろう、じゃが

ならば、わしの我儘(ワガママ)を一つ聞いて貰いたい。


そうすれば……“見逃さん事も”無いぞぃ? 」


「俺に……何をしろと? 」


<――何を要求されるのか、正直怖かった。


俺が転生前に設定してしまった“中世期頃”と言う時代の法律は

国や権力者の為なら、民を平気で犠牲に出来て居た事を

今になって思い出したからだ。


……“魔女狩り”よろしく、何か

とんでもない事をさせられるのでは、と

内心穏やかではなかった。


だが――>


我儘(わがまま)と言うのは……トライスターには成って貰いたいんじゃよ」


「は? ……いや、話()いてました? 」


「勿論じゃよ? ……じゃが

今回、国からは費用を“出させぬ”様取り(はか)らおう」


「いや……条件が悪化してません? 」


「いやいや……国が出さぬ以上、強制力も持たず

国からの依頼も(まれ)に受ける程度で構わんと言う事じゃよ。


どうじゃね? ……この条件ならば飲んで貰えるじゃろうか? 」


<――意外だった、余りにも優しい条件だ。


と言うか、此処(ここ)まで譲歩(じょうほ)されると

断るに断れない……そう考えた俺は

あまり深く考えず、直ぐにこれを受け入れた。


すると――>


「おぉっ! ……主人公殿、感謝するぞぃ!!

まさかわしが生きておる内に

我が国二人目のトライスターを見る事が出来るとはのぉ~っ!


本当に感慨(かんがい)深いわぃ……」


<――と、ラウドさんは大いに喜んだ。


だがその一方で、マリアは俺に対し


“良いんですか? ”


と、心配した様子で耳打ちをしてくれて――>


「心配ありがと、でもここまで譲歩されたら断れないよ」

(面倒な職業って訳でもないだろうし……大丈夫だろ)


「……でも、ミリアさんは確か

普通の職業でも“金食い虫”って言ってましたよね?

それを“三職(あわ)()つ”様な職業に成ったら……」


<――この瞬間


完全に忘れて居た“デメリット”を口にした

マリアの発言に被せる様に発せられた

ラウドさんの“宣言”――>


「では……本日より

主人公殿をトライスターと認め

此処(ここ)に特別手当を支給するぞぃ! ――


――インベントリ! 」


<――と、呪文を唱え

俺達の眼の前に宝箱の様な物を出現させた。


……かと思うと、その中から大きな袋を取り出し

俺に手渡し――>


「と、特別手当? ……ってうわぁッ!? 」


「重いじゃろう? ……それらは全部“純金”じゃからのぅ!

まぁ……これはあくまで“材料”なのじゃが」


「えっ? これが材料? ……一体何を作るんです? 」


「何って……トライスター専用の杖じゃよ?

まぁ、杖とは言うても本人に合わせた形状が(ゆえ)

とても杖には見えぬ物が出来る事の方が多い様じゃが……」


「あの……派手な物が出来たら嫌なんですけど」


「必ず目立つと言う事は無いじゃろうて

そもそも、色が金のままとも限らんからのぅ? 」


「そうなんですか……それで、加工は何処(どこ)で? 」


「……ギルドの裏にわしの馴染みの店があってのぅ

連絡を入れて置くから、後で訪ねると良いぞぃ! 」


「成程……ありがとうございます! 」


「とは言え“知り合い価格”でも恐ろしくカネが掛かるぞぃ? 」


「う゛ッ……ま、まぁ若干は覚悟してます

って言うか……ツケ払いって出来るんですかね? 」


「可能じゃろうが……まぁ、なんじゃ

“自由への対価”の様な物じゃて……ハッハッハ! 」


「そ、その……ルールを曲げて頂いて有難う御座います」


「気にするでない若人(わこうど)よ!!

っと、いかんいかん! ……そちらの娘さん。


物理適性試験は彼処(あそこ)じゃ、好きな武器を選んでみると良いぞぃ!

手に馴染み、軽く扱えればそれがお主の適性武器じゃ! 」


「はい! ……行ってきますね主人公さん! 」


「なら俺も付いて……」


<――と、マリアについて行こうとした俺を引き止めたラウドさん。


理由を(たず)ねると――


“物理職と魔導職は犬猿の仲なのじゃよ”


――と、言われた。


正直、これ以上の要らぬトラブルは避ける為

ラウドさんと引き続き話をする事を選んだが……


……反面、転生直後に“投獄(とうごく)された”経験を持つ

彼女(マリア)を一人にするのは少し不安だ。


マリアは大丈夫だろうか? ――>


………


……



《――主人公(かれ)の心配を他所(よそ)

物理職検定場に移動したマリアは――》


「剣がいいなぁ~……それっ!


……なんか違うなぁ」


「ふむ、適正ではない様だな」


「じゃあ弓っ! それ~っ! ……うぅ、当たらない」


「……全く適性が無いな」


「や、槍ならもしかしてっ!! ……それぇっ!!!


って……ごめんなさい、折れちゃいました……」


「け……検定中の武器破壊は初めてだ。


驚く程適性が無い様だが……


……当ギルドに残る物理武器は斧で終わりだ。


一応、試してみると良い……だが斧は高い

“破壊”だけは勘弁して貰いたい所なのだがね……」


「いやいや、こんな重そうなの私が扱える訳……ってあれ?

すっごく軽くないですか? この斧」


《――そう言うや否や

軽々と斧を振り回し始めたマリア。


彼女の振り回す斧から発せられる風圧に

物理検定官は慌て始め――》


「うをぉッ?! ……や、やめろっ!


適性が“有り過ぎ”だッ! ……も、もう振るなッ! 」


「えぇ~っ私、斧ですか~? 嫌なんですけどぉ~? 」


《――と、更に素早く斧を振り回しながら

不満を語ったマリア……一方、物理検定官は

青褪(あおざ)めた表情のまま――


“伝説の斧使いバーバリアンの様な斧捌(おのさば)きだ……”


――と、彼女を(たた)えた。


“つもりだった”


様、なのだが――》


「……え~何か凄い嫌ですっ!

私は“か弱い乙女”なのに~っ! ……もぉ~ッ! 」


《――結果として“火に油を注いだ”物理検定官の発言。


彼女の振り回す斧から発せられた強烈な風圧により

周囲が騒がしく成り始めた頃……


……この状況を打破する為だったのだろう。


物理検定官(かれ)は、マリアに対し

ある、とんでもない“約束”をしてしまう事と成った――》


「頼むっ! ……君を“か弱い乙女”と認める!

もしもそれで足りないならば……私が全て装備費用を出そう!

だから……頼むから、もう振り回さないでくれっ! 」


《――この、とんでも無い“約束”にマリアは大喜びし

()(さま)振り回していた斧を台座へと置いた。


だが……この斧も、(しばら)くして

“根本から折れた”と言う――》


「検定するだけじゃ無くて(おご)って下さるとか……助かります! 」


「お、恐ろしかった……ゴホンッ!


……で、では本日よりマリア殿を斧使いとして正式に認める!


さて……これが認定章とバッジだ

ギルドの依頼を受けている時は必ず着けておく様に」


「はいっ! ……で、装備は何処(どこ)に行けば手に入るんですか? 」


「店ならば此処(ここ)から……いや、私もついて行くとしよう。


しかし、ギルドを守る為とは言え

とんでも無い“約束”をしてしまった……」


「わ~い! 有難うございま~すっ! 」


《――直後、物理検定官に案内され

物理装備専門店を訪れる事と成ったマリア。


店主は物理検定官(かれ)を見るなり――》


「おや、珍しいですな? ……お連れ様は“彼女さん”ですかぃ? 」


《――と軽口を放った、だがそんな軽口に一切反応せず

物理検定官は大層落ち込んだ様子のまま――》


「……この者に合う斧を“私持ちで”買う約束をしてしまったのだよ。


咄嗟(とっさ)の事とは言え……財布が(つら)い」


《――と返した。


直後“強いんですかぃ? ”と(たず)ねた店主に対し

“バーバリアン並だよ”と答えた検定官。


一頻(ひとしき)り話して居た二人の背後で

マリアは眉をしかめて居た。


そして、この直後――》


「……何だか分かりませんけど

お二人共の会話、凄い失礼な感じがします!

私“か弱い乙女”なんですけどぉっ?! 」


「おや……不満に感じたのならば申し訳有りません。


ですが、私共は褒めて居たのですよ? ……さて

検定官さんの話を()く限り

表に並べて居る装備では恐らく役に立たんでしょう。


“バーバリアン並”となると……裏に回って貰えますかな? 」


《――後ろ頭を()きながらそう言った店主。


直後、店主に連れられ特別な装備の並ぶ部屋へと案内された二人

其処(そこ)に並べられた装備は(いず)れも

表に並べられた“大量生産品”とは一線を(かく)す物ばかりで

文字通り“桁違(けたちが)い”の値札が付けられて居た。


だが、そんな事などお構い無しな様子のマリアは――》


「うわぁ~キレイな装備が沢山っ! ……


……全部キラキラ輝いてますよ検定官さんっ! 」


《――そう言って目を輝かせて居た。


一方、店主は冷静で――》


「品揃えにご満足頂けて居る様で光栄でございます……が。


これらは見た目に重きを置いた

貴族の“お飾り”用ですので……余り実用的ではありません」


「えっ? 貴族ですか?! ……良いじゃないですか!

私の装備、どんなキラキラしたのに成るんだろ~? 」


「いえ……お客様の装備は

この並びの奥の……“あれ”に成るかと」


《――そう言って店主の指差した先には

禍禍(まがまが)しい色の斧が飾られており――》


「イ……イヤデス」


「ん? ……何故(なぜ)です? 」


「あれ何か……凄い禍禍(まがまが)しくないですか? 」


「……黒、紫、金の配色はお嫌いですかな? 」


「色もですけど……何か悪役みたいじゃないですか! 」


「そう(おっしゃ)られましても

この店で一番のお値打ち品なのですがねぇ? ……」


《――そう告げられた瞬間


“悪役も良いかもしれないですね” ……と笑みを浮かべたマリアに対し

流石の店主も(わず)かに引いて居た。


その一方で――>


「て、店主殿! ……なんて物を勧めるんだっ!

うぅっ……財布が辛い……」


《――苦々しい顔でそう言った検定官を他所(よそ)

マリアはこの斧に興味を持ち始めて居て――》


「えっと……持ってみても良いですか? 」


「ええ、どうぞ」


「ありがとうございま~す! ……って、これ凄い軽い!

まるで持ってないみた~い! 」


《――マリアがそう言った瞬間

何故か安堵(あんど)の表情を浮かべた店主。


直後、彼は――》


「成程……本当に、バーバリアン並の適正が有ると。


やっとその装備を()るべき所へ……気分が良いので

特別に九九パーセントオフで売ってあげましょう」


「えっ?! ……良かったじゃないですか検定官さん! 」


「ああ、九九パーセントオフならまぁ……って。


店主殿、五万金貨って……九九パーセントオフで五万金貨って……」


「……儲けがまるで無い所か、赤字でしょうな」


「わ、私の給料の二ヶ月分が……

(しばら)くは水とパンだけで生活をしなければ……」


(ちな)みに、それに合う防具も此方(こちら)に御座いますが……」


「店主殿、この上私に……餓死(がし)しろと? 」


「いえいえ……この防具は斧とセットですから安心を」


「えっ凄い! ……色が斧と一緒だ! 」


《――財布事情を気にする検定官の事などお構い無しとばかりに

(みずか)らの装備に魅了されていたマリア。


一方……そんな彼女の姿を横目に、何やら神妙な面持ちで

彼女の手に()る装備の“過去”を語り始めた店主――》


「……そうして、値札こそ付けては居りましたがね。


本来売り物では無いのですよ……その斧も、この防具も」


「えっ? ……どう言う事ですか? 」


「……貴女様の強さを表現する為、話に出た伝説級の斧使い

“バーバリアン”ですが……彼にはある一番弟子が居りましてね。


その弟子は“その種族”に珍しく、どう言う訳か

斧適性が全く無かったのですが……


……斧とそれに合わせた防具を作る事に掛けては

当時、右に出る者が居ないと(うた)われた不思議な男でした。


そんな不憫(ふびん)な弟子がバーバリアン専用に作った

最初で最後の装備が……今貴女が装備している物なのですよ」


「へっ? ……そ、そんな大切な物

私なんかが装備したら駄目なのでは? 」


「いえいえ……長い間使われず眠って居た哀れな装備を

是非(ぜひ)、バーバリアンの代わりに使ってやって下さい。


それが遠き昔に別れてしまった古き友の……


……一番弟子の願いだと、私は思うのです」


「成程……分かりました!

……店主さんのお友達の為にも大切に使います! 」


「良かった……きっと貴女の助けになると思いますよ」


《――と話し込む二人の前を(さえぎ)るとも無く、(さえぎ)


“五万金貨……五万金貨……”


と、店内を死霊系魔物(アンデッド)見紛(みまが)うばかりに歩き回り

悲痛な叫びを上げ続けていた物理検定官の姿に――》


「……おやおや。


代金はツケにしておきますから

ご飯はちゃんと食べなさい検定官殿……」


《――そう言った店主。


だが、尚も――


“五万金貨”


――と、繰り返し続けた

物理検定官の姿に――》


「あの……何だか私、凄く悪い事してるみたいになってません?

リアルな方の“悪役”はイヤなんですけど……」


《――流石に心苦しさを感じたのだろう。


この瞬間、そう(たず)ねたマリアに対し――》


(しばら)くすれば治るでしょう……最悪タダでも構わんのですよ

全ては、友との約束を果たす為でございますから……」


《――そう言った店主の言葉に()って

一瞬で正気を取り戻した物理検定官は……この後

店主に対し必死に頼み込み

自身の財布を“守り抜いた”のだった――》


===第三話・終===

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