第三話「気楽に話せる内容では無くて……」
<――暫しの沈黙の後、俺はミリアさんに全てを話した。
だが、俺が考えて居たよりも遥かに簡単に
異質な存在である筈の俺達の全てを受け入れてくれたミリアさんは――>
………
……
…
「……そうなのかい。
“元の世界”ってのがどんな所なのかはイマイチ分からないけど
主人公ちゃんは唯生きようとしてるだけなんだね。
……だけど、この世界が“作り物”だって言うなら
差し詰めあたしは、主人公ちゃんの“創造物”って事かい? 」
「い、嫌な事を知ってしまいましたよね……」
「……いいや?
こ~んなに美人に作って貰えたんだから構わないさ!
それに、神なんて物を信じちゃいなかったが
あんたはある意味私の神様なんだろう?
……有り難い事じゃないかい!
神に会える人なんて、この広い世界を探したって中々居やしないよ? 」
<――そう明るく言い切ったミリアさん。
俺は……この世界に転移してから
一体、何度人の優しさに触れたのだろう?
魔導医さんや看護師さん、カイエルさんにミネルバさん……そして
自分の事よりも俺の事を第一に考えてくれたミリアさん。
……いろんな事が重なったからなのか、それとも
俺の中に微かに残る両親からの温もりと似た物を感じたからなのか。
何れにせよ……気がついた時には
俺の頬を涙が伝って居た――>
………
……
…
「……あなたは本当に素敵な人です、ミリアさん」
「やだねぇ……照れるから止しておくれ。
……さて二人共、ご飯が冷めちゃうから早く食べてくれるかい? 」
「は、はい! ……頂きますっ! 」
「それで……食べながらで良いから聞いて欲しいんだが
主人公ちゃんはつまり、この世界の細かな所は
何一つ知らないに等しいんだろう? 」
「は、はい……」
「……そう暗くならなくても大丈夫だよ。
あたしが出来る限りこの世界の事や
生きて行く為の方法を教えてあげようじゃないかい! 」
「た……助かりますッ! 」
「よし! じゃあまず……この世界には魔物が居る。
……それは分かってるね? 」
「ええ……見た事はまだ無いですが」
「そうだったね……
……一応、主人公ちゃんが襲われたとされてる魔物はS級の魔物だったそうだよ。
今回もカイエルとミネルバさんの活躍で倒したって話らしいが
あの二人はこの国の防衛の一翼を担ってる二人さね」
「確かに……お二方とも強そうな感じはしました」
「だろう? ……それでね、魔物って言っても弱いのも居て
これは何かしらの素材になったりするから
ウチの隣にあるギルドで討伐依頼を受けて
討伐した報酬で暮らす“ハンター”って職業もある。
もし主人公ちゃんに適性があるなら挑戦してみるのも良いかも知れないねぇ」
「その……ハンターになる適性ってどう言う物なんですか? 」
「一般的には――
“回復術師”
“攻撃術師”
“防衛術師”
って言う三職の魔導職と
剣、弓、槍、斧等の物理的な武器を扱う
“物理職”かの何れかである事がハンターの条件さね。
魔導職に関しては、適正を調べる為にはギルドに行って
魔導石版に手を当てて魔導向きかそうでないかを調べるのさ。
適性がない場合は使えそうな武器を手に取るのが基本さね。
とは言え、物理職には物理職で実地試験がある
何れかに合格しないとハンター資格は貰えないからね? 」
「成程……魔導職の場合、適性があるとしたら何をするんです? 」
「それがねぇ……魔導職は少しでも適性があった時点で
その適性の程度と職業に応じて装備品を買わないと駄目なのさ。
……これが結構金食い虫なんだよ?
魔導力が低いと色々と“ごちゃごちゃ”つけないと駄目でねぇ……」
「そ、その……ごちゃごちゃとは? 」
<――ミリアさんはこの質問に一瞬うんざりした様な顔をした。
直後、俺はその意味を知る事と成る――>
………
……
…
「……指輪にイヤリングにネックレスにブレスレット。
アンクレットに髪飾り、魔導水晶、魔導服上下、魔導書。
職業にも依るが、攻撃術師なら魔導の杖で
防衛術師なら魔導の大盾で、回復術師なら魔導の……」
「な、成程……ごちゃごちゃしますね。
でもそれだと、適性があっても物理職を選ぶ人が増えそうですけど……」
「……いや、魔導はこの世界において最重要なのさ。
殆どの魔物に効果的だからね……だから
少しでも魔導力があれば“無理やり”魔導職にされちまうのさ。
因みに……うちの“旦那”もそうさね」
「えっ? 旦那さんってもしかして……」
「……魔導隊の隊長をやってる、カイエルさね」
「あぁ……やっぱり! 」
「やっぱりって……なんでそう思ったんだい? 」
「そ、その……“帰り際の眼差し”です。
……ミリアさんの事を心配そうに見て居た様に感じたので」
「へぇ~……勘が良いんだね主人公ちゃんは。
……あの人は魔導適性は人並みなんだけど
どうせならあたしを守れる強さが欲しいって
給料の殆どを魔導道具につぎ込んでるのさ。
……だから毎朝、装備の着脱に二〇分程掛けてるんだよ? 」
「マ、マジデスカ……」
「ああ……大マジだよ」
<――などと話していた俺達を他所に
マリアは――>
「あ~っ美味しかったっ! ……ご馳走様で~すっ! 」
(ふふふっ♪ ……二つの意味で! )
「マリアって凄い神経図太いよね?
俺なんて食べるの忘れて聞いてたって言うのにさ……」
(って言うか今、何か“上手い事言った”みたいな顔してなかったか? )
「……良いんだよ主人公ちゃん。
マリアちゃんがずっと聞き耳立ててたのは分かってる。
あたしはこの子、主人公ちゃんが思ってるより
確りとしてる様に思うけどねぇ? 」
<――そう
マリアを見ながら言い放ったミリアさんに対し――>
「ミ、ミリアさんも勘がいいんですね~……」
<――と少し冷や汗をかきながら返したマリアは
“主人公ちゃんの為かい? ”
と、訊ねれられた瞬間――
“ひ……秘密です! ”
――と、頬を赤らめながら返した。
正直、その瞬間の表情がすっげぇ可愛かった……けど
この事は本人には絶対に言わないつもりだ。
何故ならば……“何か、調子に乗りそうだから”
まぁ、何はともあれ――>
………
……
…
「兎に角……気に成る様なら明日辺りギルドに行ってみれば良いさね」
「はい、ありがとうございましたっ! 」
「構わないさ、主人公ちゃんも早く食べて今夜はよく寝るんだよ? 」
「はい! ……この御礼は必ず」
「お礼かい? ……じゃあ、稼げたらウチの酒場で飲んでおくれ。
それがお礼と思っておくさ」
「はい! ……カイエルさんとミリアさんの晩酌代も払える位稼ぎますッ! 」
<――そう伝えたら、ミリアさんは俺に優しく微笑み掛けてくれた。
だが、直ぐ様素っ気ない程の勢いで俺に背を向けたかと思うと
目尻を指で撫でながら――
“儲かっちまうねぇ……おやすみ”
――そう言い残し
俺の返事すら待たず、部屋を後にしたのだった――>
「お、おやすみなさ……って、行っちゃった」
「私も寝ますね~おやすみなさ~……zzz」
「お、おう! ……って寝るの早っ!? 」
………
……
…
<――なんやかんやで翌日。
現世では昼夜逆転していた俺だが……余程疲れていたのだろうか?
何とも珍しくちゃんと“朝に”目が覚めた。
ともあれ、昨日ミリアさんから教わった
“ギルド”とやらに行く決断をした俺は――>
「さてと……早速ギルドとやらに行ってみよう! 」
<――清々しい朝日にテンションを上げつつそう言った。
だが、てっきり起きている物と思い
マリアのベッドに目をやった俺だったのだが……恐ろしい。
最低十時間は寝る俺よりも更に長く寝る女性が居たとは……この時俺は
可愛い寝顔の……いや
“可愛い顔”ではあるのだが……
……よだれを垂らしつつ眠り続ける彼女を
揺り起こす事と成った――>
………
……
…
「マリア起きるんだ……早く起きないと“やばい状態”に成ってるぞ……」
(嗚呼、転生前の空間でのマリアに対するトキメキが薄れていく……)
「いやん……むにゃむにゃ……主人公さんのエッチぃ……
むにゃむにゃ……駄目ですよぉ~そんな所~……むにゃむにゃ」
「……いい加減起きないと、本当にあんな所やこんな所を触るぞ? 」
「お……起きましたっ!! 」
「お前……いつから起きてた? 」
「え、えっとぉ――
“さてと……早速ギルドとやらに行ってみよう!”
――って言うヤケに台詞臭~い喋りの辺りからですかね? 」
「朝からイラッっとさせる事に余念がないなお前は……」
「ちょっとした悪戯ですから! ……怒らないでくださいねっ♪ 」
<――ズルい。
マリアは俺に対してとても可愛く微笑んだ。
可愛いって……ズルいね!
とは言え、よだれでべっとりな口元は汚いのだが――>
「と、取り敢えず……ギルドに行ってみようよ」
「はい、直ぐにでも行きましょう! 」
「あ、いやその……顔、一度鏡で見て来た方が良いぞ? 」
「……美人が現れますか? 」
「ああ……“よだれでびっしょびしょ”のな」
………
……
…
<――暫くの後、ハンターギルドに到着した俺達。
ギルドの建物内は所狭しと依頼掲示板や受付
魔導や物理の試験場所など、ありとあらゆる人と物でごった返していて――>
「いやぁ~広いな……って言うか人が多い。
苦手だわ……うぅ……」
「えっ? ……主人公さん凄くゲッソリしてますけど
“引きこもり歴”が仇になってません? 」
「う、うん……正直、ちょっと吐きそう……」
「えっ?! じゃあ口まで出たら……飲んで下さいっ! 」
「いや、どうかと思う発言だなおい。
っと、あれが受付みたいだ……」
「ですね~……早速適正試験受けましょ~っ! 」
「こらおい待てっ!! こ、心の準備が……」
<――心の準備をする暇も無く
強引に手を引かれ受付窓口に立たされた俺。
だが、初めて女の子と手を繋いだ事の嬉しさよりも
試験への緊張で胃が痛い方が勝って居たのだが――>
「……ようこそハンターギルドへ!
ハンター試験をご希望の主人公さんとマリアさんですね?
試験方法はあちらの魔導石版に手を当てて
癒やし・攻撃・守り……と、それぞれ三秒置きに唱えて頂きます! 」
<――此方の緊張などお構いなしに
凄まじい営業スマイルな受付嬢さんにそう言われ人見知りが発動した俺――>
「は、はい……行こうかマリア」
「はい! ……楽しそーですねぇ~主人公さん! 」
「俺は緊張で倒れそうだけどね……」
………
……
…
<――直後、どうにか魔導石版の前へと到着した俺達。
検定官らしき人物が無愛想な表情で立っているのが見えたが
正直、こう言う事も“こう言う人”も苦手なんだよなぁ――>
「レ、レディーファーストって事で……マリアからどうぞ」
「え~……何だか“毒見役”みたいな気分なんですけどぉ? 」
「“みたいな”と言うより……ね? 」
「えぇ? 酷いっ! ……もういいですっ! 」
<――と、不貞腐れるマリアに対し
無愛想な検定官は――>
「さて……君から試験を受けるのかね? 」
「はい! ……マリアです、お願いします! 」
「……では、その石版に手を当て呪文を唱える様に」
「はいっ!
えっと、手を当てて……癒やし! ……攻撃! ……守り!
……あれ? 何も起きませんよ? 」
「要するに“魔導適性無し”と言う事だ……君は物理職業から選びなさい」
「適性無しって事は魔導力無しって事ですか~? 」
「そうだ、ゼロに何を掛けても“ゼロ”だからね」
「う゛っ……ぐぬぬ」
<――横で聞いていて中々な毒舌に感じた検定官の言葉。
次が俺の番かと思うとより一層胃が痛く成ったが
マリアが殴り掛かりそうな勢いだったので
精一杯のフォローを入れて置く事にした――>
「落ち着けマリア、物理職……カッコいいぞ?! 」
「半端なフォローは逆に嫌がらせですよ!? 」
「そ、そう言うつもりじゃ……いや、何かゴメンな。
と、兎に角次は俺……だよな。
よし……それじゃあ――
――癒やし」
<――そう唱えた瞬間、タイミング良く変な音がした。
誰かが何かを落としたのだろうか? ――>
「ほう、コレは中々……君の職業は回復術師で決……」
「攻撃――」
<――今度は鐘の音がした。
ちょっと気味が悪い――>
「そ……そんな馬鹿な。
攻撃術師の適正まで……」
「えっと、続けます……守り」
<――流石に三回も続くとこう言う物なのだろうと理解した。
だが――>
「……何だか風の音がしましたよ? 主人公さん」
「うん、何でだろうね? 」
<――と、不思議がる俺達の横で検定官が妙に慌てていた。
俺は何か不味い事をやらかしてしまったのだろうか? ――>
………
……
…
「……信じられん」
「あ、あの……検定官さん。
俺には魔導師の適性……あるんでしょうか? 」
「何を馬鹿な質問を! ……いや、失礼した。
……適性しかない、どれでも好きなのを選べるし
どれを選んでも化け物と呼ぶべき力を……君、何者かね? 」
「えっいや、その……記憶がなくて」
「一応説明しておくが……一つ目の音、あの時点でもう普通では無い」
「……と、言うと? 」
「本来、適性者はワイングラスを鳴らした程度の音を発生させる。
そして二つ目、本来は鈴程度の音に成る筈だ……だが」
「俺のは“鐘”の様な音でしたよね? ……」
「ああ、それも“大聖堂にある様な”ね。
そして最後の音だが……あれは可怪しい」
「おかしいって……どれも音が鳴るのでは? 」
「……最後の守りは“音”では無く
“精霊の囁き”が微かに聞こえるのが正常だ。
何故、今この場に風の音が響いたのかは私にも判らないのだよ」
「えっと……今まで守りであの音を出した人は? 」
「歴史上なら居るのかもしれないが……少なくとも私は知らない」
「それって俺、凄い適性があるって事では? 」
「ああ、正直どれを選んだ所で君は凄まじい存在と成るだろう」
<――と、驚愕されつつ思っていた事がある。
良く良く考えたらそりゃそうだ。
転生前、俺自身が“魔導力をカンストで”って頼んだんだから
それぞれに適正があって然るべきだ。
……なんて事を考えながら
つい先程まで無愛想だった検定官の慌てっぷりに
内心笑いが止まらなかった俺。
しかし、この直後この騒ぎを聞きつけ現れた一人の老人……
……この人との出会いから
俺は大変な異世界生活を送る羽目になるのだった――>
………
……
…
「ほう……これは中々末恐ろしい者よのぉ~」
「ふ、副ギルド長様?! 」
<――立派に蓄えられた髭を撫でながら俺達の前に現れたのは
絵本に出てくる魔法使いの様な姿をした老齢の男性だった。
だが、その老体に似合わず眼光鋭く
暫くの間俺の事を観察したかと思うと、俺の事を褒め称えてくれて――>
………
……
…
「えっと……失礼ですが貴方は? 」
「何……“ラウド”と言うしがない魔導師じゃよ? 」
<――と、謙遜気味に自己紹介してみせた老齢の男性。
もといラウドさん。
だが、この“謙遜”を聞いた瞬間
検定官は――>
「ご謙遜を!! あなたはこの国でも最高峰の! ……」
「……止してくれ。
この者からすれば、わしの様な老いぼれなど赤子の手を捻る様なもんじゃよ」
<――と、慌てる検定官を他所に
俺の事を見つめながらそう言ってくれたラウドさん。
だが、流石に驕り高ぶりは危険な気がするし
“目上は立てよう作戦”のつもりで俺は――>
「そんな……俺の事を買い被り過ぎだと思いますよ? 」
<――と言った俺に対し
ラウドさんは――>
「……いいや。
お主は間違い無く、我が国で史上二人目の“トライスター”と成るじゃろう」
<――と言った。
その上で――>
「主人公殿……お主は全ての職業に高い適性を持って居る。
どれか一つを選ぶのが本来の魔導師ならば
その全てを選ぶのがトライスターと呼ばれる者じゃ。
本来ならば全て自分で買い揃えねば成らぬ筈の魔導具は
全て国が用意するじゃろう……じゃが。
その代わり、この国の国防の一翼を担って貰う事に成る」
<――そう説明してくれた。
だが、同時に……この瞬間“面倒事に巻き込まれた”と感じた。
この世界の事をよく知りもしない内に
よく知りもしない国の国防? ……絶対に嫌だ。
それに“凄い職業だ! ” 的な説明だったが
ネーミングセンス的に“歯磨き粉”っぽいのも個人的に嫌だった。
二つ目の理由は兎も角としても……俺は
この職業への転職を直ぐに断ろうとして居た――>
「この国を守る一翼ですか……それ、お断りする事は出来ませんか? 」
「……“管理されるのが嫌”と言う事かのぉ? 」
「えっと……当たらずとも遠からずって感じです」
「ふむ……仕方無い。
じゃが、それならばわしの我儘を一つ聞いて貰いたい。
そうすれば“見逃さん事も”……無いぞぃ? 」
「俺に……何をしろと? 」
<――何を要求されるのかが正直怖かった。
俺が転生前に設定してしまった中世と言う時代は
“国や権力者の為なら国民を平気で犠牲に出来て居た”事を
今になって思い出したからだ。
“魔女狩り”よろしく
何か“とんでもない事をさせられるのでは”
……と、内心気が気では無かった。
だが――>
………
……
…
「……トライスターには成って貰いたい。
じゃが、国からは費用を“出させぬ”様取り計らおう。
……国が出さぬ以上、強制力も持たず
国からの依頼も稀に受ける程度で構わんじゃろうて。
どうじゃね? ……この条件ならば飲んで貰えるじゃろうか? 」
<――意外だった、余りにも優しい条件だ。
この瞬間、此処まで譲歩されて断る事は難しいと判断した俺は
条件が悪化しない内にと考え直ぐに首を縦に振った。
すると――>
「おぉ! ……主人公殿、感謝するぞぃ!!
まさかわしが生きておる内に
我が国二人目のトライスターを見る事が出来るとはのぉ~っ!
本当に感慨深いわぃ……」
<――と、大いに喜んだラウドさん。
だがその一方で、マリアは俺に対し
“良いんですか? ”
と、心配し耳打ちしてくれて居て――>
「心配ありがと、でもここまで譲歩されたら断れないよ」
(面倒な職業って訳でもないだろうし……大丈夫だろ)
「でも、ミリアさんは普通の職業でも“金食い虫”って言ってたんですよ?
それを三職併せ持つ様な職業に成ったら……」
<――などと話していた俺達に構う事無く
少しばかり興奮状態のラウドさんは――>
「では……本日より、主人公殿をトライスターと認め
此処に特別手当を支給する! ……インベントリ! 」
<――と、呪文を唱え
俺達の眼の前に宝箱の様な物を出現させた。
そしてその中から何やら大きな袋を取り出すと、俺に手渡し――>
「と、特別手当? ……ってうわぁっ!? 」
「……重いじゃろう? それが全部“純金”じゃからのぉ!
まぁ……これはあくまで“材料”なのじゃが」
「えっ? これが材料? ……一体何を作るんです? 」
「何って……トライスター専用の杖じゃよ!
……じゃが、杖と言っても本人に合わせた形状が故
杖に見えぬ物が出来る事の方が多い様じゃが……」
「あの……派手な物が出来たら嫌なんですけど」
「必ず目立つと言う事は無いじゃろうて
そもそも、色が金のままとも限らんからのぉ」
「そうなんですね……加工はどうやって? 」
「……ギルドの裏にわしの馴染みの店がある。
連絡を入れておくから、一時間程後に訪ねてみると良いぞぃ」
「成程……ありがとうございます! 」
「とは言え“知り合い価格”でも恐ろしくカネが掛かるぞぃ? 」
「う゛っ……ま、まぁ若干は覚悟してます」
「なぁに“自由への対価”の様な物じゃて……ハッハッハ! 」
「そ、その……ルールを曲げて頂いて申し訳ないです」
「気にするでない若人よ!!
っと、いかんいかん! ……そちらの娘さん。
物理適性試験は彼処じゃ、好きな武器を選んでみると良いぞぃ!
……手に馴染み、軽く扱えればそれがお主の適性武器じゃ! 」
「はい! ……行ってきますね主人公さん! 」
「なら俺も付いて……」
<――と、マリアについて行こうとした俺を引き止めたラウドさん。
理由を訊ねると――
“物理職と魔導職は犬猿の仲なのじゃ”
――と、言われた。
正直、これ以上の要らぬトラブルは避ける為
ラウドさんと引き続き話をする事を選んだのだが
転生直後に“投獄された”経験を持つ彼女を一人にするのは少し不安だ。
彼女は“大丈夫”だろうか? ――>
………
……
…
「剣がいいなぁ~……それっ!
……なんか違うなぁ」
「……適正ではない様だな」
「じゃあ弓っ! それ~っ! ……当たらない」
「……全く適性が無いな」
「や、槍ならもしかしてっ!! ……それぇっ!!!
って……ごめんなさい。
折れちゃいました……」
「け……検定中の武器破壊は初めてだ。
驚く程適性が無い様だが……当ギルドに残る物理武器は斧で終わりだ。
一応試してみると良い……だが斧は高い
“破壊”だけは勘弁して貰いたい所なのだがね……」
「えっ? こんな重そうなの私が扱える訳……ってあれ?
すっごく軽くないですか? この斧」
《――言うや否や軽々と斧を振り回し始めたマリア。
彼女の振り回す斧から発せられる風圧に物理検定官は慌て始め――》
「うをぉッ?! ……や、やめろっ!
適性が“有り過ぎ”だッ!
も、もう……振るなッ! 」
「えぇ~っ私、斧ですか~? 嫌なんですけどぉ~? 」
《――更に振り回しながら不満を語って居たマリア。
一方の物理検定官は青褪めた表情のまま――
“伝説の斧使いバーバリアンの様な斧捌きだ……”
――と、彼女を讃えた。
“つもりだった”様なのだが――》
「……え~何か凄い嫌ですっ!
私は“か弱い乙女”なのに~っ! ……もぉ~ッ! 」
《――結果として、火に油を注いだ物理検定官の発言。
彼女の振り回す斧から発せられた強烈な風圧に周囲が騒がしく成り始めた頃
この状況を打破する為だったのだろう。
物理検定官はマリアに対し
ある、とんでもない“約束”をしてしまうのだった――》
………
……
…
「頼むっ! ……君を“か弱い乙女”と認める!
もしもそれで足りないならば……私が全て装備費用を出すから!
頼むから、もう振り回さないでくれっ! 」
《――このとんでも無い“約束”にマリアは大喜びし
直ぐ様振り回していた斧を台座に置いた。
だが……この斧も
暫くして“根本から折れた”と言う――》
………
……
…
「ありがたいです! ……費用が浮きますし! 」
「恐ろしかった……ゴホンッ!
……で、では本日よりマリア殿を斧使いとして正式に認める!
さて……これが認定章とバッジだ
ギルドの依頼を受けている時は必ずつけておく様に」
「はいっ! ……所で装備は何処に行けば手に入るんですか? 」
「店は此処から……いや、私もついて行くとしよう。
ギルドを守る為“約束”したのだからな……」
「わ~い! 有難うございま~すっ! 」
………
……
…
《――直後
物理検定官に案内され、物理装備専門店へと訪れたマリア。
店主は物理検定官を見るなり――》
「珍しいですな、お連れ様は“彼女さん”ですかぃ? 」
《――と軽口を放った。
そんな軽口に反応すらせず、物理検定官は大層落ち込んだ様子のまま――》
「……この者に合う斧を“私持ちで”買う約束をしてしまったのだよ。
咄嗟の事とはいえ……財布が辛い」
《――と返した。
“……強いんですかぃ? ”
と訊ねた店主に対し“バーバリアン並だよ”と答えた検定官。
一頻り話していた二人の背後でマリアは眉をしかめて居た。
そして、この直後――》
「何だか分かりませんけど、お二人共の会話……凄い失礼な感じがします!
私“か弱い乙女”なんですけどっ?! 」
「……不満に感じたのならば申し訳有りません。
ですが、私共は褒めて居たのですよ? ……さて
斧装備と言っても、表に並んでる装備では恐らく役に立たんでしょう。
“バーバリアン並”となると……裏に回って貰えますかな? 」
《――後ろ頭を掻きながらそう言った店主。
直後、店主に連れられ特別な装備の並ぶ部屋へと案内された二人
其処に並べられて居る装備は
どれも表の店に並んでいる“大量生産品”とは一線を画す物ばかりの様子。
そして、その全てに信じられない金額の値札が付いていたのだが
そんな事などお構い無しな様子のマリアは――》
………
……
…
「うわぁ~キレイな装備が沢山っ! ……輝いてますよ検定官さんっ! 」
「ご満足頂けている様で光栄でございますが……まぁ
これらは見た目に重きを置いた貴族のお飾り用ですのでね……」
「……えっ? 貴族ですか?!
良いですねぇ~……どんなキラキラしたのに成るんだろ~? 」
「いえいえ……この並びの奥の“あれが”
もしかしたら適性かもしれないと思いましてね……」
《――そう言って店主の指差した先には
“禍々しい配色の”斧が飾られており――》
………
……
…
「イ……イヤデス」
「ん? ……何故です? 」
「あれ何か……凄い禍々しくないですか? 」
「……黒、紫、金の配色はお嫌いですかな? 」
「だって……悪役みたいじゃないですか! 」
「そう仰られましても……この店で一番のお値打ち品なのですがね」
「へ、へぇ~……悪役も良いかもしれないですねっ! 」
「そ、そうですか……」(現金な子だなぁ……)
「て、店主殿! ……なんて物を勧めるんだ!
うう、財布が辛い……」
《――苦々しい顔でそう言った検定官を他所に
マリアはこの斧に興味を持ち始めて居た――》
「えっと……持ってみても良いですか? 」
「ええ、どうぞ」
「ありがとうございま~す! ……って、これ凄い軽い!
まるで持ってないみた~い! 」
《――マリアがそう言った瞬間、何故か安堵の表情を浮かべた店主。
直後、彼は――》
「……適正が有るという事ですな。
やっとその装備を在るべき所へ……気分が良いので
特別に九九パーセントオフで売ってあげましょう」
「えっ?! ……良かったじゃないですか検定官さん! 」
「ああ、九九パーセントオフならまぁ……って。
店主殿、五万金貨って……九九パーセントオフで五万金貨って……」
「……儲けがまるで無い所か赤字ですな? 」
「私の給料の二ヶ月分が……暫くは水とパンだけで生活をしなければ……」
「それに合う防具も此方にありますが……」
「店主殿、この上私に……餓死しろと? 」
「いえいえ……この防具は斧とセットですから安心を」
「えっ凄い! ……色が斧と一緒だ! 」
《――財布を気にする検定官の事などお構いなしに
自らの装備に魅了されていたマリア。
一方、そんな彼女の姿を横目に店主は
何やら神妙な面持ちで彼女の手に在る装備の“過去”を語り始めた――》
………
……
…
「……値札こそ付けては居りましたが
本来売り物では無いのですよ……その斧も、この防具も」
「えっ? ……どう言う事ですか? 」
「……貴女様の強さを表現する為、話に出た伝説級の斧使い
バーバリアンですが……彼にはある一番弟子が居りましてね。
その弟子は“その種族”に珍しく
どう言う訳か斧適性が全く無かったのですが……
……斧とそれに合わせた防具を作る事に掛けては
当時、右に出る者が居ないと謳われた不思議な男でしてね……
……ともあれ、その弟子がバーバリアン専用に作った
最初で最後の装備が、今貴女が装備している物なんですよ」
「そんな大切な物……私が装備したら駄目なのでは? 」
「いえいえ……長い間使われず眠っていたこの可哀想な装備を
是非バーバリアンの代わりに使ってやって下さい。
それが遠き昔に別れてしまった古き友の……
……一番弟子の願いだと、私は思うんですよ」
「成程……分かりました!
……店主さんのお友達の為にも大切に使います! 」
「良かった……きっと貴女の助けになると思いますよ」
《――と話し込む二人の前を遮るとも無く遮り
“五万金貨……五万金貨……”
と、店内を死霊系魔物と見紛うばかりに歩き回り
悲痛な叫びを上げ続けていた物理検定官の姿に――》
「おやおや……代金はツケにしておきますから
ご飯はちゃんと食べなさい検定官殿……」
《――そう言った店主。
だが、尚も――
“五万金貨”
――と、繰り返し続けた
物理検定官の姿に――》
「あの……何だか私、凄く悪い事してるみたいになってません? 」
《――思わずそう訊ねたマリアに対し
“暫くすれば治るでしょう……最悪タダでも構わんのですよ
全ては友との約束を果たす為ですからね……”
そう言った店主の言葉に正気を取り戻した物理検定官は
この後、必死に頼み込み
なんとか自身の財布を“守り抜いた”のだった――》
===第三話・終===