第二九話「楽しいギフト大作戦!!」
釈放の後
防犯を兼ね、一人で政令国家を散策して居た主人公。
暫くの後……散策を終えヴェルツに戻った彼は
仲間に対し、町を行き交う人々の服装や流行り物など
幽閉前と大きく変わった点について話して居た。
「……何気無く町を散策してみて分かったけど
マリアの言ってた“江戸時代”ってのが
何と無く理解出来た様な気がするよ……それに
色んな所でゲームの話してたり、実際に対戦してる人達が居たり
中には“賭け事”に使ってる人まで居てビックリしたけど
まさか、此処まで流行ってるとは思って無かったよ……」
と、興奮した様子で話す主人公に
メルは……
「……はいっ! そのお陰も有って
町の人達の主人公さんに対する印象はとても良く成りましたし
発案料も定期的に入って来ますので“お財布的”にも安心ですっ! 」
「ま、まぁそれはそうなんだけど……とは言えかなりの金額だから
個人的にはちょっと怖い位かなって思ってたり……」
などと話して居た二人、だがそんな中
マリアは痺れを切らした様に……
「あの~……主人公さん?
いい加減そのお金で、ずっと傍に居た私達に
“お礼のプレゼント”とか買って下さらないんですか? 」
「……いつもならツッコむ所だけど、確かにマリアの言う通りだ。
てか、気が利かなくてごめん
流石に余りに高額過ぎる物だと困っちゃうけど
二人共、何か欲しい物が有ったら言ってね! 」
と言う主人公の問いに対し
遠慮をしたメルとは対照的に
マリアは直ぐに何かを思いついた、ように手を打った。
寧ろ“それ”が欲しいからこそ要求したのだろうか?
とさえ思える程の勢いで。
「はいはいは~い! 私決まりましたっ!! 」
「まさか貴金属とかじゃ無いだろうな?
構わないけど……値段にも依るぞ? 」
と、警戒する主人公の予想を
“ある意味で”上回る物を要求したマリア。彼女は
「ドワーフ製で、私の装備にピッタリな……“兜”が欲しいです」
至って真剣な眼差しを浮かべそう言った。
「は? ……マ、マジで? 」
「だって……私美人過ぎてモテモテなので
せめて顔を隠せる物が欲しいんですよ! 」
「いや……仮にそれがツッコミ待ちの発言だとしても
“美人”なのを否定出来ないからツッコめないんだが? 」
「なっ?! ……主人公さんが私を珍しく褒めるから照れました!
責任とって下さい! 」
「い、いや……前にも言ったけど実際、美人だからね?
ってそれはそれとして……本当に兜が欲しいのか? 」
「本当に欲しいです! まぁ……理由は違いますけど」
「そっか……本当の理由
もし嫌じゃないなら教えて欲しいんだけど……」
「い、いえその――
“防具も武器も盾も最高で、私の装備ったら完璧ぃ! ”
――って思ってたんですけど
その直後、頭だけ全く守られて居ない事に気がついて
其処から正直ギルドの依頼を受けるのも怖く感じてて……」
何時もならヘラヘラと冗談っぽく話す筈のマリアが
珍しく弱気にそう言った事……
……この後もマリアはまだ理由を話し続けて居たが
気がついた時には既に、俺は
ガンダルフさんに魔導通信を入れて居た。
「――ガンダルフさん、急遽注文です」
◆◆◆
「ん? ……主人公か、どうした?
新しいゲームでも思いついたのか? 」
「い、いえそうでは無く……その
マリアの装備に合う“兜”って作れますか? 」
「ほう? ……“完全体”に仕上げたいのじゃな? 」
「か、完全体って言うのは良く分かりませんが……兎に角
これはマリアの為なんです……その、可能でしょうか? 」
「可能じゃよ? ……ならば直ぐにでも取り掛かるとしよう
しかし、一度頭の型を取らねば成らんからのぉ
マリア殿に店へ来る様に伝えて貰いたい……それと
マリア殿の装備に使用する材料はちと特殊でな……
……ついこの間、盾で全て使ってしまって
今は手元に無いんじゃよ……」
「成程……どうすれば手に入りますか? 」
「……ある“強力な魔物”からしか取れん
まぁ、御主なら余裕じゃろうがな……」
「マリアの為です……その魔物の生息地域と
特徴などを教えて頂ければ、何としても手に入れますので」
「ふむ……それならば詳しい場所は地図を渡そう
それを参考に取りに行く事になるじゃろう……それと
材料は主人公持ちじゃから、制作費は少しサービスしてやろう!
そもそも……ゲームで稼がせて貰っておるしのぉ? 」
「助かります! では後ほど! マリアを送り届ける際に――」
◆◆◆
「――と言う事らしいから、後で一緒に工房に行こうな」
「あ、あの……」
「ん? ……何だ? マリア
まさか“剣も弓矢も槍も欲しい”とか言い出すんじゃないだろうな? 」
「い、いえ……注文のあまりのスマートさに
不覚にも主人公さんをイケメンって思ってしまいまして……」
「なッ?! ……ふ、不覚とは言えありがとなッ!
兎に角、マリアの件は解決として……
……メルちゃんは欲しい物、思いついたかい? 」
「わ、私はっ! 魔導力を強化して……そのっ……少しでも
皆さんのお役に立ちたいので、魔導力強化用の……
……ゆ、指輪をっ!! 」
そう言った瞬間
メルちゃんは何故か頬を赤くした。
「えっと……それなら指輪だけじゃ無くて
アクセサリ系装備のフルセットとかでも構わないよ?
と言うか、メルちゃんは本当に欲が無いな……
……何だったら普通に宝石の指輪とかでも良いんだよ? 」
「ちょっと主人公さん?! ……私との扱いの差! 」
「いや……マリアの場合は“ドワーフ製装備”だろ?
多分だけど、メルちゃん用の高級な装備を
フルセット揃える金額の倍以上掛かるぞ?
てか、最初に注意した手前あれだけど
金額云々じゃ無く、マリアも他に欲しい物があるなら
買える範囲なら頑張るし言ってくれよ? 」
「ほ……他に欲しい物は無いですけど!
でも、確かに本来ドワーフ製の装備はその位しますよね……」
「だと思うけどね……で、話を戻すけど!
メルちゃんは何が欲しいの? ……本当に指輪だけで良いの? 」
「でっ……でしたら、主人公さんとおそろ……いえっ!
や、やっぱり良いですっっ! 」
「……う~ん。
なら、取り敢えずマリアの“マリアーバリアン化装備”と
メルちゃんの魔導の指輪を買いに行こっか! 」
「だから語呂が悪いっ! 」
「は……はいっ……」
この瞬間
メルちゃんは僅かに後悔した様な表情を浮かべて居た。
暫くの後工房に到着した俺達
一方、挨拶もそこそこに早速
マリアの頭の型を取り始めたガンダルフさん。
……彼の眼光は鋭く
職人的真剣さを感じさせた。
「よし、ではマリア殿はそのまま動かぬようにな……さて主人公
これが御主の狩る魔物と、その生息地が載った地図じゃ。
……恐らくじゃが
減衰装備は最低二個程外した方が良いかも知れん
それと、必要なのは“角”と“尻尾”……可能ならば
“牙”もあるとより良い物が出来るじゃろうて」
「了解です……狩る頭数は? 」
「うむ、主人公の実力ならば
一体分を綺麗に回収出来るじゃろう。
本来なら大事を取って二体分じゃが
恐らく必要は無かろうて……」
「了解です……では、なるべく早く手に入……っと
その前に、メルちゃんへのプレゼントを買って来ますね。
マリア! 俺達が遅かったら宿に帰ってて良いからな! 」
「は~い! 行ってらっしゃい! 」
「ああ! ……メルちゃん、掴まって。
転移の魔導、魔導道具店へ! ――」
◆◆◆
直後、魔導道具店へと転移した主人公とメル。
だが、よりにもよって主人公は“店前”では無く
“店内”へと転移してして居て……そのせいか
店主は人体の限界近くまで“仰け反って”おり……
「ワ゛ーッ?! 」
「な゛ッ?! ……お、驚かせちゃってすみませんッ!
そ、その……驚かせた“お詫び”と思って頂けると幸いなのですが
メルちゃんに合う魔導道具をフルセット下さい!
こッ……この店で一番高い奴を! 」
「へ? ……お、お客様でしたか。
っと……す、直ぐにご用意を!
此方にお座りになってお待ち下さいませ! 」
言うや否や
慌てた様子で装備を見繕いに行った店主。
一方のメルは……主人公の
余りに“大盤振る舞い”な発言に気を遣って居た。
「い、一番高い物だなんてそんな……
……わ、私には勿体無いですっ!! 」
「いいや、全然勿体無くなんて無いよ……
……メルちゃんは替えの効かない存在だ
道具はあくまで道具、どれだけ値段が高かったとしても
メルちゃんの身を護ってくれる確率が
少しでも上がるなら安い物だよ!
それと、その……一回言ってみたかったんだ。
“この店で一番良い物をくれ! ”……って言うセリフッ! 」
「し、主人公さんっ……ありがとうございますっ! 」
瞬間
メルは屈託の無い笑顔でそう言った。
一方……暫くの後、店の奥から現れた店主は
店頭には決して陳列される事の無い
“逸品”を持ち出して居た。
……そのせいか
店主の“セールストーク”にも花が咲き……
◆◆◆
「……お待たせを致しました
此方が当店で最も高級、且つ高品質な
“魔導師道具一式”でございます。
……この装備をお着けに成られれば
例え魔導力が最低値であろうとも
忽ち“上級魔導師”の様な強さと成れるでしょう! 」
「そ、そうなんですか……では、それでお願いします」
(……店主のセールストークを“話半分”と考えても
そもそもの“デザイン”的にメルちゃんに似合いそうだと思った俺は
値段も聞かずに即決してしまった……大丈夫だろうか? )
「えっと……サイズは合わせて頂けますか? 」
「ええ、勿論でございます!
メル様専用の最高の装備に仕上げさせて頂きます!
価格は相応に致しますが
少しサービスさせて頂いて……この価格で如何でしょう? 」
と満面の笑みを浮かべ店主が差し出した金額を見た瞬間
メルちゃんは……
「だ、駄目です主人公さんっ!! こんなに高い物私……」
そうとても慌てた。
だが……確かに高額ではあるが、払えない金額では無かったし
何よりも、メルちゃんがこれを装備した姿を
見たくて見たくて仕方が無かった。
とまぁ……そんなこんなで
恐縮し続けるメルちゃんを横目に
半ば強引に支払いを済ませた俺は……
「……遅くなってごめんね
プレゼント……受け取ってくれるかい? 」
「ほ……本当に良いんですかっ?? 」
「えっと……“良い悪い”以前に
既にメルちゃん専用に合わせて貰ったから
受け取って貰えなかったら、結構困っちゃうかな~って……」
「で、ですよねっ! ……有難うございますっ!
とってもとっても大切にしますっ! 」
直後
再び屈託の無い笑顔を浮かべたメルちゃん。
……だが、この日メルちゃんに渡そうと考えて居たプレゼントは
これだけでは無くて……
「喜んで貰えて良かった~ッ!
……っと、店主さん! それとは別に
“二人でお揃いになる様な”魔導の指輪ってありますかね? 」
「ええ……ご用意出来ますが
用途はどう為さいますか? ――
“互いに魔導力を分け与う事が出来る物”
“互いの見て居る景色を交換出来る物”
“互いの現在地が分かる物”
――など、様々な効力がありますので
ご希望が有れば何なりと仰って下さい! 」
「成程……実用性で言えば
魔導力を分け与えるのが一番だけど
仮にも俺はトライスターだから
俺から分ける分には必要無いんだよなぁ……
……メルちゃんはどうしたい? 」
「な、何で指輪の事……って、何でも無いですっ! 」
「“メルちゃんの事が大切だから分かった”
……って言うとカッコつけになるだろうけど、正直
折角の機会だから、我慢だけはして欲しく無かったんだ」
「主人公さん……本当に本当に嬉しいですっ! 」
「……喜んで貰えて本当に良かった。
っと……指輪の能力だけど、俺は個人的に
“離れ離れ”に成るのが怖いんだ……だから
場所が分かる様な物の方が良いのかな?
とか思ってたんだけど……メルちゃんはどう思う? 」
「それでしたら、マリアさんにも同じ物を……」
などと二人で相談して居ると
店主は“マリア”と言う名前に強く反応し……
「……今、メル様は“マリアさん”と仰られましたが
もしかして、あの“マリアーバリアン様”の事で?! 」
「え? ……ええ、そうですが……ってか、あいつ怒るだろうな。
この“あだ名”がこんな所まで浸透してるとか……」
「……あの方は“バーバリアンの再来”とも言われていますし
同時に、魔導力が“ゼロ”ともお聞きしております。
……残念ですが、魔導力の無い方がこの指輪を装着した場合
何の効力も無いどころか、寧ろ
健康を害する可能性さえございますので……
……お止めに成った方が宜しいかと」
「そうですか……では、その“理由”とかって
店主さんのサイン入りで紙に書いて頂けたりしますか? 」
「か、構いませんが……何故です? 」
「いえ、その……マリアだけ“無し”って言ったら
何かキレられそうで怖いので」
「な、成程……お察し致します
ではその様に書かせて頂きます」
「助かりますッ! ……では取り敢えず
メルちゃんと俺の指輪は購入と言う事で! 」
「へっ? でもマリアさんには無しって……」
「大丈夫! 俺が何か代替案を考えるから!
取り敢えずメルちゃんは俺とペアの指輪……してくれるかい? 」
「は……はいっ! 」
内心
“嫌です”って言われたらどうしようかと思って居た。
……だが、照れた様な
嬉しい様な表情を浮かべて居たメルちゃんからは
そんな雰囲気など微塵も感じられなかったし
今は心の底から“転生前の俺”に教えてやりたい――
“お前は将来、絶世の美女とお揃いの指輪を買う日が訪れる! ”
――と。
まぁ、ともあれ……この後
“店主さんの直筆サイン入りマリアへの言い訳書”も手に入り
お揃いの指輪も無事に購入した俺は
メルちゃんと共に工房へと戻った。
の、だが……
◆◆◆
「……マリアはまだ居ます? 」
「ん? ……さっき帰ったぞぃ? 」
「あちゃ~……入れ違いか。
……あの、ガンダルフさんに質問があるんですけど
マリアに作る兜で、もし材料が余った場合
その素材で“お揃い”に成る様な指輪……若しくは
ネックレスとか、何かしらのアクセサリを作れませんかね? 」
「可能じゃが……誰が装備するんじゃ? 」
「えっと……俺とマリアです」
「ほう? ……作れはするが、御主は魔導師じゃからのぉ?
何の意味も無い装飾品にしかならんが……
……それでも構わんのか? 」
「ええ、それで大丈夫です! ……助かりますッ! 」
「なに、その程度の事ならば構わんよ……っと
メル殿、装備が一新されておるでは無いか!
よ~く似合っておるぞい! 」
「あっ……有難うございますっ! 」
「それに“揃いの指輪”まで……成程のぉ?
主人公……“モテる男”は大変じゃのぉ? 」
「ち、違うんですッ! こッ! これはそのッ……ゴホンッ!
とッ……取り敢えず素材取りに行って来ますッ!
……っと、メルちゃん
一旦宿に送るから、待っててくれるかい? 」
「えっ? ……私もご一緒した方が良くないですか? 」
「いや、折角の新しい装備だし
買った初日に“泥だらけ”になる可能性があるのは何だか勿体無いし
そもそもマリアにこの“言い訳書”を見せて欲しいのと
“代わりのアクセサリ”に関しての話も含めて
頼まれて欲しかったり……良いかな? 」
「わ、分かりましたっ! ……でも、気をつけて下さいね?
もし危なかったら直ぐに呼んでくださいっ! 」
「うん、ありがとッ!
……ではガンダルフさん、行ってきます
転移の魔導、ヴェルツ前へ! ――」
◆◆◆
直後
メルをヴェルツへと送り届けると
直ぐに東門前へと転移した主人公……だが。
地図を確認して居た彼の背後に立った一人の男……
「成程、一度“旧オークの居住区”に飛んでからの方が近……」
「……主人公君、何をして居るのかね? 」
「ぬわぁッ?! ……って、ディーン様!
その、えっと……マリアの装備制作に必要な素材を入手する為
これから魔物討伐に行く予定なんですが……」
「ほう? ……良し、ならば手伝おう。
……我々もこの国周辺の魔物の程度を知りたい
もし“手出しされるのが不快”ならば
我々は見学でも構わないのだが……同行しても良いかね? 」
「ええ……でしたら是非! 」
「助かる、では……全隊員、此処へ!! 」
“ディーン”がそう発した瞬間
何処からとも無く現れた隊員達……彼らは皆
いつの間にかディーンの背後に整列して居て……
「あ、相変わらず凄い統率力ですね……」
「褒めて貰えて光栄だが、これでも
皆自由過ぎで困って居る事も多くてね……さて。
“討伐”と言ったが……何処に行くのかね? 」
「えっと……地図の此処なのですが
一旦“旧オークの居住区”に飛び
後は徒歩かな~と思って居た所なのですが……」
「ふむ……ならば一度“旧居住区”へと飛んだ後
ギュンターの戦艦で目的地へ向かうのはどうだろうか? 」
「よ……宜しいんですか? 」
「おや? ……私の“人柄を気に入った”と言ってくれた割には
えらく“他人行儀”だね? 」
「い、いえそんな事は! ……」
「いや……申し訳無いが少し寂しく感じてしまうよ
せめて、お互いに呼び捨てにする様な……所謂
“友”の様な扱いをお願いしたいのだが……迷惑だろうか? 」
「で、では……俺の事も呼び捨てにして頂けますか? 」
「ああ、互いを対等と認める行為だ
勿論呼び捨てで呼ばせて頂こう」
「分かりました、ではディーン……って、本当に良んですか? 」
「勿論だ主人公……敬語も不要だ。
ギュンター……そう言う事だ、彼の転移後は
オベリスクで目的地へ向かう……構わんな? 」
「勿論です、ディーン様が友とお認めになった御方に
ご乗船頂けるのでしたら、これ以上の栄誉は御座いません。
是非ともこの大役……務め上げさせて頂きます」
「よし、そうと決まればまずは主人公……転移魔導を宜しく頼む」
「あ……ああッ! つ、掴まっててくれ!
転移の魔導、旧オークの居住区へ! ――」
この後、暫く
俺はディーンに対し、酷くぎこちない“タメ口”で
話し続ける事と成るのだった。
◆◆◆
「しかし、相変わらず一瞬で到着する物だな……
……さてギュンター、頼んだぞ」
「……かしこまりました、では。
“甦れ、オベリスクよ”――」
転移直後
彼が“ボトルシップ”を掲げながらそう唱えた瞬間
“戦艦”は一瞬で俺達の眼前へと復活した。
「では……主人公様、此方からご乗船を」
「す、凄いな……それにしても
何度見ても憧れる固有魔導です……で、ではお邪魔します」
「何と……お褒めに預かり光栄至極にございます」
そんな会話を交わした後
ゆっくりと戦艦に乗り込んだ俺は
直後、その内部構造に再び驚愕する事と成った。
「お邪魔しま……はッ?
あ、あの……外から見るより広いんですけどッ?!
しかも戦艦だから、これで攻撃も防御も凄いって事ですよね? 」
「……ディーン様が本気に成られれば
恐らくは簡単に破壊されてしまうでしょうが
低級の魔物程度であれば、武装さえ用いず
“蹴散らす事が可能でございます……」
そう説明してくれたギュンターさん
直後、感心して居た俺に対しディーンは……
「驚いて貰えて良かった……だが
私達の固有魔導は皆“派手な物”が多く
それと“引き換え”に……我々は
誰一人として転移魔導を使えないのだ」
「そうなのか……でも、俺からすると
転移魔導より優秀な物に感じるけどなぁ……」
「……お互いに“無い物を”求めて居るのかも知れんな。
さて、ギュンター……地図の場所付近まで頼む」
「……かしこまりました、では。
オベリスク、全速前進――」
直後
凄まじい推進力を発揮した戦艦は
瞬く間に俺達を目的地へと到着させ……
「……お待たせを致しました。
あちらに見えるのが、恐らく“目標の魔物”かと……」
ギュンターさんがそう言うと
隊員達は皆、戦闘準備を整え始めて居た。
だが……この直後、ディーンは彼らに対し
“待機命令”を出した上で……
「いや……私と主人公だけで良い
主人公よ……準備は良いか? 」
「へッ? ……あ、ああ!
必要な部位が“角と尻尾と牙”だから
其処だけ破壊しない様に討伐……って事だけ頼んでも
宜しい……いやそのッ!
良い……かな? 」
「ああ、任せてくれ……ん? 丁度二体か
ならば私は左を担当しよう、主人公は右を頼む。
どちらが早いか“勝負”すると言うのも
面白いかも知れないしな……」
「あぁ、確かに! ……んじゃ行くぞ?
せーのッ! ――」
「“魔弾”――」
◆◆◆
瞬間
愛銃“オルトロス”を構えたディーン
引き金を引きつつそう唱えた瞬間
放たれた弾丸は魔物の眼前で大きく逸れ
そして……急上昇し、魔物の脳幹を貫き
魔物を一瞬の内に絶命させた。
「氷刃ッ! ――」
そんな彼に遅れる事|僅か
魔物の首を一撃の元に切り落とした俺、だが
そんな俺に対し、彼は……
「ふむ……引き分けか」
そう言った。
無論、この発言に違和感を感じた俺は
すかさずこれを強く“否定”した。
「は? ……いやいやいや!
どう考えても俺よりディーンの方が早かったでしょ?! 」
「何を言う? ……私は本気だったが
君は“減衰装備”を付けたままだろう? ……ましてや二個も
全く、信じられない男だよ君は……」
「い、いやその……低級の魔物相手なら四個つけてる事もあるけど
流石に今回の魔物は大事を取って二個外したから
ある意味では“本気”みたいな物だし!
……そッ、そもそも!
減衰装備で“速度は変わらない”って言うか
何て言うか! ……」
「主人公……余り虐めてくれるな。
仮に私達が敵対し、その果てに
“君が本気を出していたら”……そう考えただけで
私は背筋が凍る程の恐怖を感じる……君は強者だ」
「……いやいやいやッ!
俺だってディーン達と敵対なんてしたく無いし
もし仮に俺が攻撃力“だけ”勝ってたとしても
ディーンの“速度”に勝てなきゃ俺の負けは確定……って。
……この話やめないか?
終わりが見えないし、お互いに得が無いよ……」
「ふっ……それもそうだな。
さて、素材を取るにしても少々手間だ……ライラ
必要部位以外を全て“餌”にしろ」
この瞬間
そう命じたディーン……直後
今にも倒れそうな様子で彼の直ぐ傍へと現れた少女
“ライラ”は……
「おいで……ドラゴン」
そう静かに呟いた。
瞬間……
「ぬわぁッ?! ……な、何だッ?! 」
◆◆◆
耳を劈く様な咆哮と共に
突如として蠢き出した彼女の“刺青”は
巨大な緋色のドラゴンと成り
俺達の眼前へと降り立った。
そして……
「そ、そんな……い、今……刺青から……」
この直後
そう驚愕する俺の眼の前へと降り立ったドラゴンに対し……
「ドラゴン……“角と尾と牙以外”は食べて……良いよ」
彼女がそう命じた瞬間
必要部位だけを残し、二体の魔物を
凄まじい勢いで喰らいつくしたドラゴンの姿に
俺は、圧倒されて居た。
「……ドラゴンを使役するのも凄いけど
まさか“刺青から現れる”とは思わなかったよ……」
「ああ……だが、その代償として
ライラは普段、殆ど睡眠を取って居るがな」
「成程……身体への負担が大きいって事か」
「ああ、その上使える時間にも限りがある
彼女は……とても“苦労人”だ」
この瞬間、何かを思い出しそう言ったディーンの表情に
“これ以上|詮索しないでおこう”
そう考えた俺は直ぐにこの話を切り上げた
そして……
「ドラゴン……戻って……」
彼女がそう命じた瞬間
その体に吸い込まれ、元の“刺青”へと
その姿を戻したドラゴン……同時に
彼女は倒れる様に眠りについた。
……直後、同じく隊の仲間である“オウル”は
そんな彼女を抱えオベリスク船内へ連れ戻ろうとして居た。
この瞬間、そんな二人に対し
俺は……
「あ、あのッ!! ……ライラさん! オウルさん!
お、お手間をお掛けしましたッ! その……
……有難うございましたッ! 」
と言った。
それが現時点で自らに出来る
精一杯の礼儀だと思ったから……だが、この直後
そんな俺に対し……
「礼ならば良い、私達が好きで手伝って居るのだから」
ディーンはそう言ってくれた。
そして“流石に回収はやるよ”と言った俺に対し
首を横に振ると……
「いや……それも任せて貰いたい
ギュンター……出来るだけ早く集めて見せろ」
そう命じた。
直後……
「お任せを――
――お待たせを致しました」
と謙遜して居たギュンターさんの横には
全ての必要素材が整然と並んで居て……
「い、何時動きました? 」
「……主人公様は人を褒める事に長けておられますね?
この様な老骨の動きをその様にお褒め頂き
心より感謝申し上げます……」
「い、いや……本当に全く動いた様に見えてなかったと言うか
そもそも“見えていなかった”って言うか……」
と、本心から伝えて居た俺に対し
ディーンは更に……
「……其処までにしてやってくれ主人公
ギュンターが調子に乗らんとも限らん……さて、折角だ。
タニア、此方に接近するあの魔物を
“お前の技”で倒せ」
「了解ッ! “溶解液”――」
そう唱えた直後
空の手で“吹き矢を吹く”様な構えを見せたタニアさん
……直後、差し迫って居た魔物は
俺達の元に到達する事さえ無く、みるみる内に溶け落ち
最後には跡形も無く消滅したのだった。
「――完了致しましたディーン様
他にご用命はございますか? 」
そう言って一礼したタニアさんは
ほんの一瞬、俺に視線を向けた……だが。
その目は“誇らしい”と言うよりも
“居心地の悪さ”を感じさせる様な物で……
「手間を掛けたな……戻って良い」
直後
そんなディーンの命令に従い下がったタニアさん。
彼女を含め、隊員達の態度が気に掛かりつつも
場の空気を害さぬ為……
「み、皆強いんだな……って言うか
さっきディーンが言ってた“敵対問題”だけど
正直な所、俺の方が恐怖してるよ。
“魔物消失事件”
……って俺が言って良いのかは分からないけど
それの調査って目的以外に、ディーン達は何が望みなんだ?
それだけ強ければ大体の事は叶えられそうだけど……」
「主人公……我々の目的が
“平和に暮らす事”だと言っても信用してくれないか? 」
「いいや? 信じるよ」
「感謝する……私達の願いは“平和に暮らす事”だ。
だが……皆、普通の仕事では食べていけないだろう
何せ“こんな事”位しか出来ないのだからな。
……これ以上は愚痴になる、控えて置こう」
「ああ、もし話したく成ったらその時は聞くよ
さて、用事はこれで終わりだし……帰ろうか」
「ああ、今日は楽しかった……また呼んでくれ」
「勿論だ……帰りは俺が皆を送るよ」
「ああ、助かる……では皆、主人公に掴まれ」
「……じゃあ行くぞ!
転移の魔導、東門へ! ――」
◆◆◆
「しかし、本当に一瞬だな……助かった」
「――此方こそ
って……材料だけど、本当に全部貰っても良かったのか? 」
「ああ、此方は既にライラのドラゴンが大量に“貰って”居る
あれで暫くはライラも健康だろう」
「そっか……何か必要な時は遠慮無く言ってくれ! 」
「ああ、助かるよ……ではな」
「うん! じゃあまた!
転移の魔導、ドワーフの工房へ! ――」
この日
ディーン隊一行と良好な関係を築いた主人公。
一方……彼らを送り届けた後
急ぎドワーフの工房へと転移した
主人公の後ろ姿を眺めつつ……
「しかし、ギュンターよ……主人公を見て居て思うのだが
あの年にしては余りにも出来過ぎた男だとは思わないか? 」
「ええ……左様でございますね
私めも主人公様を素晴らしい御方だと思っております。
……しかし、ディーン様が他者とあの様に
砕けてお話に成られるお姿など久し振りですな? 」
「それもそうだな……さて、そろそろ宿に戻るか」
ディーン、ギュンターの両名はそんな会話をして居た。
一方、ドワーフ族の工房では……
◆◆◆
「……戻りましたッ! 」
「は、早いのぉ?! ……もう討伐して来たのか?! 」
「ええ、ディーン達が手伝ってくれまして……っと
材料はこれで足りますか? 」
「ん? 呼び捨てとは……あの者達と仲良くなったのか?
っと……主人公、御主その量は丸々二匹分じゃろう?
足りる所か、これでは大幅に余るぞ?
……ううむ、流石と言う他無い
余りを譲ってくれると言うなら
更に値引きしてやろう……どうする? 」
「勿論構いませんけど……って!
時間も遅いので後はお任せします!
早く宿に帰らないと、皆心配してそうなので! 」
「それもそうじゃな……完成したら届けに行くからのぉ! 」
「はい、お願いします! ……では!
転移の魔導、ヴェルツ前へ! ――」
◆◆◆
「――ただいまッ!
遅くなってゴメンな~……って、マリア?! 」
帰還直後
ヴェルツへと入店した俺の姿を確認するなり
マリアは酷く不機嫌な様子で……
「おっそいですよ! お腹すきました! 」
「う゛ッ、ごめん……けど、これでも
ディーン達が協力してくれて早く済んだ方なんだよ? 」
などと弁明して居たら
俺の変化に気がついた様に……
「あ、あのっ! ……“呼び捨て”にされてるって事は
もしかして、お友達に成れたんですかっ?! 」
と
俺達の関係性を言い当ててしまったメルちゃん。
……だが、その事に驚き
ついつい話し込んでしまった俺に対し
マリアは……
「そんな事はどうでもいいからごは~~~ん!!
ガルルル……」
「げッ?! ……ミ、ミリアさんッ!
“マリアーバリアン”が切り株でも食べそうな勢いなので
出来るだけガッツリとした食事をお願いします!
だッ……大至急でッ! 」
「ガルルル……語呂が悪い!
……って、狩り終わったと言う事は
材料はもうガンダルフさんに渡したんですか? 」
「お、おう……後は完成を待つのみって感じだ」
「楽しみですね~……って、そう言えばなんですけど
メルちゃんの装備が全体的に凄い“綺麗”に成りましたよね? 」
「えっとね……その店で一番高い奴注文してみた」
「ちょっと?! ……何処の富豪ですか!?
とは言え、とても似合ってますけど! 」
「ああ! ……けど、そうなるとマリアの兜も楽しみだ!
一体どんな形になるんだろうな? 」
「……それなんですけど!
私、この盾を見てて分かったんですけど
ガンダルフさんってああ見えて、結構ちゃんと
“女性向け”にデザインしてくれるみたいなので
意外と期待してたりします! 」
「あ~……言われてみれば確かに
その盾の作りは“女性的”かも
兜も良い出来になりそうだな! 」
「はい! 凄く楽しみです! ……それこそ
余計に美人が強調されるデザインだったりして! 」
「お前なぁ……美人は事実だからツッコミは出来ないぞ? 」
◆◆◆
この時、三人は完全に忘れて居た。
ガンダルフはバーバリアン装備の
“完全体”と言って居た事を……そして。
バーバリアンは屈強な“漢”で有った事を。
◆◆◆
「それで……現在地は分かったのか? 」
「必死で捜索しておりますが、未だ……」
「……何故だ? 何故あれだけの人数が見つからない? 」
「それが“魔導探索可能範囲外”に出て居る様で……」
「……ならば探索可能範囲を広げるなり
他国に潜入するなりしたらどうなんだ! ……無能がッ! 」
「し、しかし所長! ……派手に捜索をして
他国に彼らの存在がバレてしまえば……」
「……あの“研究結果”を他国に奪われれば
我が国の優位性が失われる事になる。
そうなる前に、なんとしても奴らを回収しろッ!!
最悪殺してでも連れ帰って来いッ! 」
「し、しかし! ……私は只の研究員です!
あの様な化け物共、私の力だけでは……」
「チッ……ならば五体ほど警護をつけてやろう
それでも回収不可能ならば……
……これを使い、奴らを抹殺せよ」
「こ……これは? 」
「……奴らの体内には“呪い”を仕掛けてある
その紙を破れば、それぞれに紐付けられた“実験体”は
一瞬で絶命する事となるのだ……」
「な、成程……では、全員回収不可能の場合はどうすれば……」
「その際は、残念だが……全て“破り捨てて”しまえ」
「り、了解致しましたッ! 」
……薬瓶に魔物の死骸
解剖され、内臓を取り出された人の死体が並ぶ研究所の奥。
“所長室”と記された扉
その向こうで交わされて居た男達の不穏な会話。
彼らの眼の前に並べられた“五枚の呪具”には
それぞれ番号が割り振られて居た。
===第二九話・終===




