第一三話「全員を護るのって楽勝だと思ってました……後編」
捕縛した魔族、個体名“アサシン”の移送の為
エルフ族の村を後にしたミネルバは
ラウド、エリシア両名の協力に依り
魔導隊詰所“地下魔導牢”への投獄を完了して居た――
「……ええ、他国からの外交要望などには全て
国王様は病気療養中であるとお伝えし、それと無くお断りを。
ええ……今、他国や我が国の国民に事実を伝えれば
我が国の平和は容易く崩れ去ってしまうでしょう。
それと、城の一部が崩落した原因は全て
“城の老朽化”と国民にはお伝えを……ええ。
お手間をお掛け致します……はい、では失礼を……」
深夜、突如発生した騒動を収束させる為、国王城の衛兵長に対し
情報統制を敷く様指示を出していたミネルバ。
……通信終了直後から王の間は完全封鎖され
ごく一部の衛兵と執事のみが
この事実を知るに留められる事と成った
「……ラウドさん、エリシアさん
お二人共ご協力有難うございました。
……後は全て我が隊の方で処理|致しますので
お二人は少しお休みに成って居て下さい。
……何れにせよ、今回の一件は
何らかの解決策を早急に用意せねば成りません。
それ故、今後はお二人の聡明さをお頼りする事も多いでしょう
その為にも……今は少しでも休息をお取り頂きたいのです」
そう伝え、深々と頭を下げたミネルバ
そんな彼女の憂いに満ちた表情に――
「うむ……明日からはまた忙しくなるじゃろうて
用があれば何時でも呼んでくだされっ! 」
「右に同じぃ~っ! 直ぐに飛んで来るから任せてねぇ~っ♪ 」
と、敢えて明るく振る舞った両名の気遣いに
ミネルバは感謝を伝え、二人の背中を見送ったのだった。
そして――
「……さて、ガルベスとやら。
貴方には聞きたい事が山程あります……ですが、先ずは
貴方の他に、王国内に潜伏して居る魔族の人数について
お聞き致しましょう……後、どれ程居るのかしら? 」
「ふっ、誰が下等な人間風情に……」
「……無論、素直に答えて頂けるとは思って居ませんでした。
ですが、私も此処で引く事は致しません。
光の魔導:“闇之浄化ッ!! ” ――」
「ぬっ?! ……ぐぁっ!! ……や……めろっ……く……苦しい……っ! 」
「――ええ、お話になるのであれば直ぐにでも止めましょう」
「わ、理解った! 話すッ! だから……この光を止めてくれっ……」
「……良いでしょう、ではもう一度お訊ねします
あと何体……王国内に潜伏しているのです? 」
「……八体だ、協力者の人間も含めてだが」
「そうですか……内訳は? 詳しく教えなさい」
「魔族が六体、人間が二人だ……どこで動いているかまでは知らん」
「本当ですね? ……嘘を言えば許しませんよ? 」
「ふっ……仮にこれが嘘だとして
お前達の様な下等な生物に見抜けるのか? 」
「……未だご自分のお立場を理解していないのですね
良いでしょう……あまりこの様な手を使いたくは
無かったのですが……仕方ありませんね。
自白の魔導ッ! ――」
ミネルバがそう唱えた瞬間
自らの意思に反する様に
真実を話し始めた“アサシン”――
「……帝国……人が……二人
魔族は……ウグッ!! ……感知出来る人数は……七体……だ……
一体を除いて……城に居る……ぐぁぁぁっ! 」
「――やはり嘘を混ぜて居ましたか
“城では無い所に居る”と言った一体は、何処に居るのです? 」
「一体は……ウグ……ふっ! ……お前の後ろだッ!! 」
「なッ?! ――」
瞬間
直ぐ様振り返ったミネルバ……だが
何処からとも無く現れた“黒衣の魔族”の攻撃を避け切れず……
……僅かに肩を撫でた刃
だが、この直後……浅い傷にも関わらず
彼女は程無くして意識を失い――
「ミ、ミネルバ様?! ……お、おのれぇぇぇっ!!! 」
「無駄だ……人間|如きの攻撃など、当たらんよ」
魔導隊員らの反撃も虚しく
彼らを児戯に等しく扱った“黒衣の魔族”は
直後、瞬時に全隊員を殺害した――
「お……のれ……っ……」
「やはり人間は弱いな、さて……“アサシン”よ」
「おぉ! ……助けに来てくれたのか!
さぁ! 早くここから出してくれ! 」
「否……魔王様はそれを望んでいない」
「な、何だと?! 冗談は良い、早く此処から……」
「冗談な物かよ……このまま貴様を生かしておけば
下等生物共に次々と情報を漏らす事だろう――
“闇火”
――このまま燃え尽きるのが、お前の最期の役目だ」
「や、止めてくれぇぇぇっ!! やめっ……
ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!! ……」
直後
黒炎に包まれ、深い苦しみの中で絶命した“アサシン”――
「さて……長居は無用か」
瞬間
“黒衣の魔族”は何処かへと消え去り
暫くの後、ミネルバは意識を取り戻した。
だが――
「……魔導……通信……カイエル……
エリ……シア……さん……ラウ……ド……さん……
魔族に……牢を……私も……襲わ……ッ!!
か゛は……ッ……」
◆◆◆
同時刻
数名の護衛と共にヴェルツへと帰宅して居た主人公一行。
「本当に皆が無事で本当に良かったよ……
……主人公ちゃんは服がボロボロだけど
何処も怪我は無いかい?
何か必要な物とか、欲しい物とか
食べたい物だって言ってくれれば
あたしが何だって作ってあげるんだからね!?……」
女将ミリアの“愛ある質問攻め”に遭って居た――
「い、いえ……今は特に何も要りませんので!
と言うか、ミリアさんには本当にご心配を……」
「……水臭い事言わないでおくれよ主人公ちゃん
あたしはアンタ達が無事ならそれで良いんだよ! 」
「で、でもっ! 私達はミリアさんのお陰で
主人公さんと合流出来たんですし……」
「メルちゃんったら……そんなに大層な事はしてないよ!
あたしは唯、旦那に助けを求めただけさね」
「そんな事が……ミリアさん
改めて俺からもお礼をさせて下さい。
前に約束した――
“ミリアさんとカイエルさんの晩酌代を奢る”
――って話ですが
どうかこれを今回のお礼として果たさせてくださいッ! 」
「そ……それは嬉しいが
旦那はまだまだ忙しいだろうからねぇ……」
「そッ、それもそう……ですよね
特に“今”は……」
などと話して居た俺達の下へと
酷く慌てたカイエルさんが現れた事で
状況は一変する事となった
「ミリア! 主人公君も……皆、無事か?! 」
「噂をすれば……って、血相変えてどうしたんだい? 」
「それが、詰所の地下でミネルバ様が襲われたのだ……」
「何だってっ?! 」
余りに衝撃的過ぎる報告
彼は続けて……“アサシン”が暗殺された事
魔導隊詰所が壊滅的被害を受けた事
ミネルバさんは念の為、エルフ村に移送され
治療中ではある物の……正直、状況が芳しく無い事。
エルフ村を現状に於ける最終防衛ラインとする為
エリシアさん、ラウドさんの両名にも協力をして貰って居る事
などを話してくれた。
……だが、そんなカイエルさんの話を聞いて居たら
再び俺の“胸騒ぎ”は強まり始めてしまって
「ッ! ……すみません……俺、此処の所
気持ち悪い位、嫌な予感が当たり続けてるんです」
「いきなりなんだね? 主人公君」
「……変な事を言ってる自覚はあります
でも……これはきっと命に関わる“胸騒ぎ”なんです。
これは……俺個人の“嫌な予感”って言う
確証なんて何も無い事を原因とする話かも知れません
でも……どうか、俺の話を聞いて下さい」
荒唐無稽な話かも知れない
事実、何故いきなり“そうすべきだ”と思えたのかは判らない。
だが……転生後
“問題が発生する直前に胸騒ぎを感じる”確率は
明らかに跳ね上がった……何よりも
今、これを無視すれば
今度は“無事では済まない”様に思えてならなくて
「……何馬鹿な事言ってんだい主人公ちゃん」
「やっぱり、信じて貰えない……でしょうか? 」
「いいや? ……その逆さね!
全力で信じるから、早く主人公ちゃんの考えを言ってみな! 」
満面の笑みでそう言ったミリアさんを皮切りに
この場にいる全員が俺を信頼して居ると言い切ってくれて
「……有難うございます
で、では……全員、今直ぐ全員エルフの村に避難を」
「“避難”だって? ……それは私もなのかい? 」
「ええ、特に“ミリアさんが”です」
「そうかい……でも、そうまで言われちまうと何だか怖いねぇ?
けど、あたしは主人公ちゃんを信じるさ!
……今日は店仕舞いさね! 」
「有難うございます……では
ミリアさんも……全員、俺に触れて居て下さい!
では、行きますッ! ……転移の魔導、エルフの村へ! ――」
◆◆◆
「――着きましたッ!
此処がエルフ村……って、ぬわぁッ?! 」
転移直後
エルフの戦士達に取り囲まれてしまった俺達
だが、オルガさんの指示に依り直ぐに包囲は解かれ
「……済まなかった、敵の襲来を警戒して居たのだ
だが……どうした? 妙に同行者が多いが
まさか……何か有ったのか?! 」
「い、いえ……その、御迷惑かとは思いましたが
何故か全員連れて来た方が安心な気がしてしまって……
……少なくとも、俺の中にあった“不安”はたった今消えました」
「そ、そうだったか……」
などと、オルガさんと話し込んで居たその時
遠くでガーベラさんが叫んだ
「……何故なのッ!?
傷が全く塞がらないッ……どうしてッ?!! 」
彼女の目線の先には
意識の無いミネルバさんの姿が見えた
「なッ?! ……ガーベラさん、俺の治癒魔導を試させて下さいッ!
完全回復ッ――
――何だ?
可怪しい、この技は傷を完治させる筈……」
「……主人公さん、その技は既に私も何度か試したわ
だけれど、それでも彼女の傷は塞がらなかった。
正直、私も見た事の無い症状なの……一体どうすれば……」
◆◆◆
主人公の回復魔導は勿論の事
王国|随一の腕を持つガーベラの治癒魔導ですら
彼女の傷が塞がる事は無く……
……浅く切りつけられたその傷口からは
尚も出血が続いて居た……だが、そんな中
ミネルバの意識は戻り――
「主人公……さん……ガーベラさん……ぐッ!!
この……傷は……恐らく“呪具”に依る物……
魔導では……決して……治す事……は……出来ない……“呪い”……」
「そ、そんなッ!? ……何か方法は無いんですか!? 」
「この……傷を付けた……呪具を……破壊出来ない限りは……
恐らく私……は……もう……長くありません
回復魔導はもう……それよりも……お願い。
私が話す……全てを……書き……留めて……」
「でもそれじゃミネルバさんはッ!! ……」
「お願い主人公さん……王国の……いいえ
全ては民達の為なのです……おね……がい……」
「ミネルバさん……分かりました。
一言一句、聞き逃さぬ様覚悟して聞きます
だからッ! ……最後まで諦めないで下さいッ! 」
「ありがとう……主人公……さん……
今……王国内に潜伏している……魔族は……七体
帝国人が……二人……はぁはぁ……ッ! ……」
朦朧とする意識の中
ミネルバは情報を伝える為言葉を発し続けた。
だが、彼女が言葉を発すれば発する程に
その呼吸は浅くなり――
「くッ……他には?! 」
「魔族六体と……帝国人スパイは城に……
残りの……魔族は、私を襲っ……た……」
其処までを伝え掛けたその時
彼女は、眠る様に息を引き取った――
「……ミネルバさん?
ミネルバさんッ!! ……完全回復ッ!!!
くそッ! ……“限定管理者権限ッ! ”
頼む……ミネルバさんを生き返らせてくれぇぇッ!!! 」
《《――“ERROR”魔導力不足
回数制限、及び禁止事項“死者の蘇生”に該当します――》》
「クソッ! ……クソッ! クソがぁぁぁッ!!
完全回復ッ!! 完全回復ッッ!!! ……何でッ!!
何でッ!!! ……」
主人公は
既に息絶えた彼女を尚も救おうとして居た。
だが、この直後……そんな彼の肩に手を置き
静かに首を横に振ったカイエル。
彼は――
「主人公君……もう良い
ミネルバ様は最後まで立派な方だったのだ……」
「……良くなんか無いッ!!
何で、こんな……ッ!!
……ミネルバさん!!! ミネルバさんッ!!! 」
カイエルの制止を振り払い
尚もミネルバに対し回復魔導を使用し続けた主人公。
だが――
「主人公さん……貴方が今やるべき事は“落ち込む”事じゃないわ。
その悔しさを、最後まで立派に職務を全うした
ミネルバさんの想いに報いる為
彼女が命を掛けて得た情報を活かす事、それが
彼女に報いる事の出来る唯一の行動なのよ」
そう、諭す様に言ったガーベラ。
溢れる涙を拭い、暫しの時が流れ
そして、漸く僅かに冷静さを取り戻した主人公は――
「分かっています……けど、せめて
ミネルバさんを手に掛けた魔族がどんな奴なのかを聞きたかった。
それを伝える前にミネルバさんは……俺がもっと強ければ。
俺が、もっとッ! ……」
怒りと悲しみに支配され
自らの太腿を幾度と無く殴りながらそう言った主人公。
だが……悲しみに包まれたエルフの村に
突如として“謎の訪問者”が現れた事で
事態は再び変化を迎える事と成る――
◆◆◆
「おい! 聞こえているか?! ……此処を通してくれオルガ! 」
「ん?! ……クレインか、血相を変えてどうした? 」
オルガが“クレイン”と呼んだこの男。
銀髪で長身、褐色の肌と言う
所謂“ダークエルフ族”の特徴を有する彼は
現れるなり――
「……オルガよ、王国内が不味い状況だ
魔導隊の詰所は壊滅状態
飲み屋のヴェルツまでもが荒らされ
二階の宿など酷い有様だった。
恐らくだが……“何者かを探した”のだろう。
城にもデカい風穴が……ん?
今日はやけにエルフ族以外が多……なッ?!
……ミ、ミネルバッ?!
この傷は!? ……間違い無く呪具に依る物だ。
……何が有ったッ?! 答えろオルガッ!! 」
言うや否やオルガに掴み掛かった“クレイン”
だが、そんな彼に対し女将“ミリア”は――
「アンタ! ヴェルツが何だって?! 何かの間違いじゃ! ……」
「待つんだミリア……残念だが
“此奴”がそう言うなら間違い無い。
主人公の言う“不安”とはその事だったのだろう……」
オルガがそう言った瞬間
肩を落とし項垂れたミリア……直後
そんな彼女の姿を見た“クレイン”は、深呼吸し
オルガを掴んで居た手を離しながら――
「……騒いで済まなかった
それで……オルガよ、この状況は一体何だ?
全て……話してくれ」
そう訊ねたクレインに対し
これまでの状況を全て伝えたオルガ……だが
説明を終えた瞬間、突如として立ち上がった主人公は
クレインに疑いの眼差しを向けながら、ある“質問”をした――
「クレインさん……と、お呼びします。
失礼ですが……オルガさんとの間で
お互いしか知らない情報はありますか? 」
「成程……私が“魔族の成り代わり”である可能性を疑って居るのだな?
良かろう……では、一つ昔話をしよう。
オルガの体には、ある“傷”がついて居るのだが……」
クレインがそう話し掛けた瞬間
オルガは大層慌てた様子で彼の話を遮り――
「……そ、その話だけはするなクレインッ!!
主人公……私が保証する、此奴は間違い無く本物のクレインだ」
「そ、そうですか……何だか“続き”が気になりますが
兎に角、疑って申し訳有りませんでした……」
「……構わない、今は緊急事態だ
寧ろ、我々ダークエルフも気を引き締めねばな
それで……その他に情報は? 」
「ええ、ミネルバさんが遺してくれた情報があります。
……現状、判明して居る敵の詳細ですが
魔族が七体、帝国人二名がこの国に潜伏しており
城には六体が潜伏して居るとの事です……けど。
彼女を手に掛けた魔族の居場所を聞き取る前に
ミネルバさんは……」
直後、拳を握り締め
悔しさを顕にした主人公。
だが、そんな彼の背にそっと手を置きつつ
クレインは静かに語り始めた――
「……主人公君と呼ばせて貰おう。
良いか? ……ミネルバは誇り高き魔導師として最期を迎えた
それは言葉で言う程簡単に出来る事では無い
彼女は……種族は違えど尊敬すべき女性であった。
……我が種族への偏見など微塵も無く
我々に対し、家族に接する様接してくれた彼女の死は
私達にも深い悲しみを齎して居る、だが
今は、彼女の死を悼む暇すら与えられぬ状況だ。
君も辛いだろう、だが……耐えるんだ」
「クレインさん……気を遣わせてしまい……」
「何、構わないさ……しかし
城に“六体”とは由々しき状況だ。
……仮に奴らが“擬態能力”用い
何れかが国王に化けた状態で
君達の事を“指名手配”などにでもすれば
それに騙された国民達は、皆敵となる可能性が高い。
そして恐らく……それは“必ず”起こるだろう」
「そんなッ?! ……なら、敵の策略に巻き込まれる前に
国民に真真実を伝えれば良いのでは? 」
「……伝える為には先ず国民を集めなければ成らない
だが、この国に於いて国民を集める権利と権力を有するのは
皮肉な事に“国王”を置いて他には無い……」
「ならどうすれば……って、そうだッ!
で、でしたらその……
……スライムの草原で起きた“事件”はご存知ですか? 」
「ああ、魔王軍が攻撃を仕掛けたと言う……」
「い、いえその……あれ、実は“俺のせい”なんです。
……あの後、あの地域一帯は野次馬が凄かったとも聞いてますし
兎に角! ……先ずはそれを利用するんですッ! 」
彼がそう言った瞬間
事情を知らなかった者達の声でエルフ村はざわついた――
「何と……魔王軍の仕業では無かったか
いや、それよりも……何故あの様な事をした? 」
「け、決してワザととかでは無くてですね……その
単純に“大失敗”と言いますか……兎に角
あの“失敗”を再び行い、兵士達の意識を草原に集中させ
僅かでも城の警備を手薄にさせた上で
隙を見て城へと潜入、王の演説場所で
真実を語る為の準備を整える……と言うのは、どうでしょうか? 」
「……その様に面倒な事をせずとも
転移魔導などを用い城内部に移動し
敵と成る者達を打ち倒し進めば良いのでは無いか? 」
「ええ……ですがそれだと
城を完全に制圧出来たとしても騒ぎが大きくなり過ぎます。
あくまで見つからない様に潜入し
魔族と思しき者が居た場合、それらを捕縛し
その状態で民に真実を語らないと駄目だと思うんです。
エルフ族やダークエルフ族の皆さんは
違うのかも知れませんが、人間は“目で見た物”しか信用しない。
たとえ“見えていない事”の方が真実だったとしても」
主人公の説明に耳を傾けて居た者達の中
副ギルド長“ラウド”は主人公の案を
“良案”とした上で――
「では、わしも一つ提案じゃ……睡眠の魔導であれば
メル殿にガーベラ殿……トライスターである主人公殿も使える筈。
……城内には未だ真実を知らぬ者達も多数居る
其の者達を出来る限り傷つけず進む為
三名は、出来る限り睡眠の魔導を駆使して進む事を頼みたい。
……じゃが、運良く演説の場に辿り着いたとしても
主人公殿一人の発言では民の多くが耳を貸さぬじゃろう」
「それは確かに……」
「気を落とすのは早いぞぃ? ……
……故に、民の信頼が厚い者を同行させれば良い
この場所に居る者であれば、カイエル殿は国防の要として
エリシア殿はハンターギルドの長じゃ
信頼は充分過ぎる程にあろうて」
「成程……ですが、それなら
ラウドさんにも同行して貰いたいのですが……」
「ふむ、わしは構わんが……何故じゃね? 」
「それはその……俺自身が
ラウドさんに対する信頼を持って居るからです」
「……そうはっきりと言われてしまうと何だか照れるのぅ?
じゃが、承知した……魔族との戦いは気を抜けん。
戦える人数が多いに越した事は無いからのぅ?
老体じゃが、わしもまだまだやれるじゃろうて! 」
「……頼りにして居ます、それから
エルフ村の警備は引き続きオルガさんに……それと。
済まないが、マリアもここで防衛に加わって居て欲しい
ミリアさんも此処に居た方が安全だと思います。
俺の不安が“そうすべきだ”って
ミリアさん……もう一度、信じて貰えますか? 」
直後
「もちろんさね! 」と、主人公の不安な感情さえ吹き飛ばすかの様に
明るく応えたミリア、暫くの後
主人公は作戦を開始する為……その“第一段階”として
スライムの草原へ向かう事と成った、だが――
「で、ではその……スライムの草原を吹っ飛ばして来ます」
「ふむ……言葉だけ聞くと悪人以外の何物でも無いぞ? 」
そうオルガに言われ
「スライムも災難じゃのぅ?」
と、ラウドにも言われ
「あ~あ! また暫く
スライム関連の依頼が受けられなくなりますよ? 」
と、マリアにまで言われてしまった主人公は――
「い、いやその……其処まで言われると罪悪感が凄いんですが
とッ……取り敢えず行ってきますからッ!
帰ったら城に直行ですから、皆さんも準備をお願いしますよ?!
で、ではッ!! ――」
この瞬間
そう、半ば強引に流れを断ち切り
逃げる様にスライムの草原へと転移したのだった――
◆◆◆
「酷いや……皆、あんなにイジらなくても良いのに
兎に角、今は……集中だ。
“同じ技”で良いかな? 火環ッッ!!! ――」
瞬間
唯でさえ彼の“大失敗”に依り抉れて居たスライムの草原は
この一撃で“壊滅的被害”を被る事と成った――
「……げッ?!
な、何か最初の時より酷い威力になってる様な気が……
……と、取り敢えず戻らなきゃ! 」
直後
再び“逃げる様に”エルフ村へと帰還した主人公。
だが……言うまでも無く、帰還後の彼を待って居たのは
仲間達からの刺さる様な視線だった――
◆◆◆
「お待たせしました皆さんッ! ……って皆さん? 」
「ま、間違い無く君だったのだな……今ので完全に理解した」
冷や汗を拭いつつそう言ったクレイン
そんな彼の態度に狼狽える主人公の直ぐ近くでは
エリシアが望遠鏡を取り出し、草原の様子を確認して居て――
「おぉ~っ……早速、草原方面が騒がしくなり始めてるよ~っ? 」
「で、では城に飛びます……潜入班は俺に掴まってくださいッ! 」
彼女からも何らかの“責め”を受ける可能性が過ったのか
慌ただしく転移の準備を始めて居た主人公。
だが、そんな彼を――
「って……ちょぉ~っと待ったぁ~っ! 」
と、強く制止したエリシア
直後……背筋を凍らせ
見るからに挙動不審な様子で振り返った主人公は――
「な゛ッ……なんでしょうか? 魔導大臣兼
ギルドの長でもあられる攻撃術師のエリシアさんッ?! 」
「……何でそんな“説明口調”でガッチガチなの~?
ま、良いけど~……“飛ぶ”なら王の間にある
“バルコニー”に飛んだ方が警備が手薄かもよぉ~っ? 」
「そ、そうなんですか? ……って
話は“それだけ”……ですか? 」
「“それだけ”って……これ、結構重要じゃない? 」
「え、ええ……ですよねッ!
では取り敢えずッ! ……転移の魔導!
国王城・バルコニーへ! ――」
◆◆◆
転移後、周囲を確認した一行
エリシアの説明通り、バルコニーに衛兵の配置は無く
王国城の中で最も警備が手薄と成って居た――
「ほ、本当だ……誰も居ないですね」
「……ま、油断は駄目だけど
けど……思った通りだったねぇ~っ♪ 」
と、少し満足げな様子のエリシア
一方、ガーベラは――
「けれど、扉の直ぐ向こうから数名の気配がするわ
それに此処は中からも外からも丸見えよ
そう長くは居られない……せめて
眠らせる人数の正確な数さえ判れば……」
そう不安げに語った。
一方、その言葉を聞いた瞬間
主人公はこの状況を打破する為の技を
“魔導書”の中から探し始め――
「えっと、確かこの辺りに……あった、この技だ! 」
この瞬間
探索の魔導:”活動的走査”を唱えた主人公。
直後、彼は城内部に於ける汎ゆる生物の場所や数
形を明瞭に認識し――
「……扉の向こうには三名
隣の部屋には二人、突き当りの部屋に六人……一部の人間は
ここからかなり離れた“避難部屋”と思しき場所に居る様です。
ただ……魔族を見分ける方法が分からないので
手当り次第に眠らせ、一度全員拘束して置く必要が
あるかも知れません……」
「ん? ……その必要は無いぞぃ? 」
「えッ? ……ラウドさん、何か方法を知って居るんですか? 」
「うむ……擬態をしておる魔族ならば
眠らせた後に針などで突いてやれば
突いた場所の皮膚が“魔族らしい色”に変わるんじゃよ」
「それは凄い! その作戦で行きましょう! 」
「うむ、しかし……人型魔族の場合には
判断が付きかねる場合もあってのぅ……」
「成程、完全に見分けるのは無理って事ですか……」
「……まぁ、やらんよりはマシじゃろうて
兎に角、先ずは近くに居る者達を眠らせる事が先決じゃ」
ラウドの立案に対し
ガーベラは更に作戦を深堀りした――
「で、あれば……三名を眠らせた後
大きな物音を立て、他の部屋の者達を誘い込むのはどうかしら?
……私達は扉側の壁に隠れ、隙を見計らい
睡眠の魔導を掛ける……これが最も安全で確実だと思うわ? 」
そう発案したガーベラ。
直後、作戦の第一段階である三名への睡眠魔導は実行に移され
無事に成功した、だが――
「うわ~……凄い頑丈。
物音を立てようにも、何処もガッチガチ過ぎて
“地団駄を踏む”程度では誰も気付かないと思うよぉ~っ? 」
足踏みをしながら困ったようにそう言ったエリシア
直後“当然です”……と、国防的観点からの発言をし始めたカイエルを
ラウドは少し困った様に制しつつ――
「と、兎に角……再び城に風穴を開ける訳には行きませんし
何かを壊せば流石に音は響くでしょうから……一先ず
全員壁側に隠れ、俺が合図をしたら……
……ラウドさん、あの“椅子”を吹き飛ばして下さい」
この瞬間、そう言って主人公が指差したのは
“玉座”であった――
「なっ?! ……あ、あの椅子は国王の椅子じゃぞ?!
さ、流石にマズいと思うがのぅ? ……」
「……既に魔族に穢された椅子です
消炭にしても問題は無いかと……と言うか
他に物音を立てられそうな物もありませんし! 」
「そ、それはそうじゃが……まぁ、仕方あるまい
……良し、準備は出来たぞぃ」
「では……今ですッ! 」
「風の魔導ッ! ……“風圧砕ッ! ”」
ラウドがそう唱えた瞬間
玉座はミシミシと軋み始めた、だが――
「あ、あの……これだと少しばかり音が小さい様な……」
「全員、耳を塞ぐのじゃ」
「えッ? 」
ラウドが警告した次の瞬間
耳を劈く程の破裂音が部屋の外まで響き渡った。
そして……唯一“反応の遅れた”主人公の耳は
深刻なダメージを受け――
「み、耳がぁぁぁぁぁッ!! ……ヒ、治癒ッ!!
ちょっとラウドさん!! 耳が死ぬレベルなら先に言ってくださいよ! 」
「シッ! ……足音じゃ! 」
……ともあれ。
直後……息を潜め、その時が訪れるのを待ち続けた一行
暫くの後……勢い良く現れた近衛兵達が
粉砕された玉座に愕然とした……瞬間
一瞬の隙を狙い、一行は彼らを睡眠の魔導で無力化し――
「一人目……変異無しですっ!
同じく二人目も……いえ、変異しましたっ! ……み、緑っ?! 」
「其奴だ! ……良くやったメルちゃん!
これで一体目……」
……この後、計二体の魔族を発見
捕縛した一行は、エリシアの発案に依り
捕縛した二体の魔族らに対する尋問を行った。
当然、目覚めた魔族らは
自らが人間であるかの様に演じ続けて居た。
だが、針で突いた場所を示され
直ぐに自分達が魔族である事を認めた。
反面、二体は何れも魔王への忠誠心堅く――
「殺すなら殺せ、貴様ら下等な者共に話す言葉など持たん……
……我らの魔王様への忠誠は絶対だ」
「立派だよ……でも、残念だけど
無理にでも吐いて貰わないと困るんだ――」
直後、主人公は魔族ら二人に対し“自白の魔導”を掛け
未だ眠らせて居た者達の中から“帝国人スパイ”一名と
“人型の魔族”を一名発見する事に成功したのだった。
……この後、人型魔族にも同様の尋問を行い
新たに得られる情報が無いと判断をした主人公。
直後……彼は“氷刃”を放ち、人型魔族を瞬殺
残る二名の魔族に対しても同様の行為を行った。
……ミネルバの一件の後、主人公の魔族に対する対応には
少々“冷酷さ”が見え隠れし始めて居て――
「さて……此奴はどうすべきでしょうか? 」
「其奴に関しては、国民の前で自白の魔導を用いて白状をさせ
これを国民に見せれば国民も納得する事じゃろう。
……国王の不在に関しては痛手じゃが
この様な状況じゃ、それも何とかするしかあるまい……」
「分かりました……では、国民を呼び寄せた後
もう一度“自白の魔導”ですね、では……」
ラウドの指示に従い
冷静に準備を整えて居た主人公……だが、この直後
そんな彼を強く制したガーベラは――
「……ねぇ、主人公さん。
メルちゃんには少し刺激が強いと思うわ?
一度、転移の魔導で彼女だけでも
私たちの村に飛ばしてあげるのはどうかしら? 」
そう、やんわりと主人公を諭したのだった。
……直後、漸く事の重大さに気付いた主人公は
酷く慌てた様子でメルを気に掛けた、だが――
「だ、大丈夫ですっ……お気遣い有難うございますっ!
で、でもっ……私は、このまま此処に居たいです。
この状況が苦しいのは主人公さんだと思うから……だからっ!!
たっ……頼りないかも知れないですけど!
私っ! 主人公さんを支えたいんですっ! 」
そう“宣言”した彼女の顔は決意に満ちて居た
直後、そんな彼女の決断に――
「……余計なお世話だった様ね?
でも、やっぱりメルちゃんは主人公さんの事が大好きなのね♪ 」
そう、少し意地悪げに茶化して見せたガーベラ
そんな彼女の発言に――
「そ、それはそのっ! ……はぅぅぅ……」
口籠り、顔を真赤にして俯いたメル。
そんな彼女の姿には流石の主人公も
感じられる物があったのだろう。
直後、彼も同じく口籠り、顔を赤らめる事と成っていた。
だが――
「えっとぉ~……すっごく“仲が良い”所悪いんだけどさぁ~?
今が“潜入中”なの忘れてな~ぃ? 」
と、エリシアに諭され
慌てて体裁を整えた主人公は――
「い゛や、えっとその……ゴホンッ!
……じッ、自白の魔導を使うのは兎も角として
国民を演説場に集める必要があると思うのですが
その為に城を“抉る”のは流石に問題かと思いますし……」
と、真剣な表情で語った。
一方、そんな主人公に対し僅かに
閉口しつつも、ラウドはある提案をした――
「な、ならば……国民達に対し
“伝達の魔導”で呼び掛けを行うのはどうじゃろうか? 」
「そんな技があるんですね……是非、お願いしますッ! 」
「うむ、では……伝達の魔導
“魔導拡声”――
――王国の民に告ぐ、城の演説場まで集まられよ!
国家の一大事である! 至急、演説場まで集まられよ!!
……うむ、これで国民達が集まってくる筈じゃ
さて……後は頼んだぞぃ? 主人公殿! 」
「はいッ! 」
◆◆◆
暫くの後、ラウドの呼び掛けに依り
演説場には多数の国民達が集結し
“一体何事か”と、ざわついて居た――
「……皆様、お集まり頂き誠に有難うございます
本日は、皆様にお話しなければ成らない事が……」
……国民に対し
現在王国が置かれている状況を説明する為
登壇した主人公……だが
国王では無い“一般人”の登壇に
当然の如く民達はざわつき始め
“国王は何処だ”……と
不満を訴え始める者さえ出始めた頃……そんな国民達に対し
作戦通り自白の魔導を用いた尋問で
魔族、及び帝国の魔の手が
王国へと差し迫って居る現状を伝えようと試みた主人公。
だが、そんな時……民衆の中へと現れた“国王”
この“擬態した魔族”の登場に依り
状況は大きく変化した――
「そこで何をして居るっ!? ……あの者を早く捕らえよっ! 」
「なっ? ……国王様?!
皆ぁっ! ……国王様が此処に居られるぞ!!! 」
「うおおおっ! 国王様だぁぁぁっ!! 」
“偽国王”の登場に沸いた民衆
騒ぎは加速度的に大きくなり、主人公の声は
興奮する民達の中に埋もれ始めて居た。
だが――
「騙されないで!! その国王は偽物ですッ!!! ……
……くッ、声が届かないッ!!
どうすれば……って、そうだッ!!
伝達の魔導:魔導拡声ッ!!! ――」
直後
騒ぎの中、それを超える事の出来る活路を見出した主人公は
興奮する民達に対し、国王が偽物である事を必死に訴え続けた。
この、懸命な彼の態度に
耳を貸す民衆も数多く現れ始めて居た、だが――
「……デタラメな事を言うでないわ!!
国王たる我を差し置いてその場に立つなど言語道断!!
者共っ! ……早くあの者達を捕らえるのだっ!! 」
この瞬間
主人公を指差しながらそう言った“国王”
その命令に従い、主人公を捕らえんと
直後、魔導兵達は彼の直ぐ近くへと転移した。
だが……主人公は
一切|狼狽える事無く――
「……俺を捕まえる事が正しいと思うなら捕まえても良い
だけど、その前に貴方達はこの真実を見るべきだ。
自白の魔導ッ! ――
――あの国王は、魔族ですか? 」
「ええ……間違く……魔族です……
本物の国王は……少し前……ガルベス殿が
“食った”
そう……聞いており……ます……」
直後
主人公が発動させた“自白の魔導”
それに依って齎された“帝国人スパイ”の自白に
魔導兵達は狼狽え、国民達は慌て始め
皆、慌てて偽国王から距離を取り始めた。
そして――
「くっ……こう成っては仕方が無い!
せめて、一人でも多く人間共を食らい……」
「させないッ!! 氷刃ッ!! ――」
瞬間
主人公の放った攻撃に依り
国王に化けて居た魔族は絶命した……だが
その凄惨な状況は結果として
民達の恐怖心を煽り、敷地内は
逃げ惑う民達の阿鼻叫喚の声で埋め尽くされ
混乱に乗じた複数の魔族は続々と姿を表し――
「一人でも多く焼き払ってくれる! ……キエェィッ!! 」
瞬間
一匹の魔族が放った火炎の魔導は民達の退路を断った。
直ぐ様“水魔導”に依り
これを消火したエリシアだったが――
「フハハハッ! ……水魔導とは都合の良い!
貴様らは皆、私の“毒”に侵されるのだっ!
……魔王様は永遠なり!!
フシャアァァァァッ!! ――」
直後、大勢の民を巻き添えにせんと
エリシアの放った水魔導へと飛び込み
その命を以て広範囲に毒霧を発生させた魔族――
「なッ?! ……皆逃げてぇぇぇッ!!! 」
「大丈夫……私に任せなさいエリシアっ!!
浄化の魔導:毒之浄化ッ!! ――」
直後
ガーベラの的確な判断に依り
魔族の放った毒霧は急激にその効力を失った……だが。
……彼女が毒の無効化を終えるまでの僅かな間
既にその身に毒を受けて居た民衆達は
その場に倒れ、苦しみ藻掻いて居た――
「うぅっ……肺が……焼ける……助けて……」
「……い、今助けますからっ!!
三重治癒! ――」
瞬間
民衆らの元へと走り治療を施したメル。
直後、彼女から治療を受けた民の一人は――
「……あ、ありがとう
と言うか……ハーフ族って……怖く……無いんだな……」
「え、えっと……その……はいっ!
ちゃんと治しますから、安心して下さいっ!
あっ! そちらの方も今っ! ……」
「……大丈夫よメルちゃん! こっち側は私に任せて!
そっち側は任せるわ! ……
……主人公さんはメルちゃんの補佐をお願いっ!!! 」
この後
民衆への治療に奔走したメルとガーベラ
だが、この事件から数週の後
毒に依る後遺症の残った民衆の治療や
ミネルバの葬儀など……王国内には悲哀の渦巻く日々が続いたと言う。
そして……混乱の最中
一人の“帝国人スパイ”は
王国の裏通りから姿を消したのだった――
===第一三話・終===




