第十話「楽勝生活……スタート?! 」
<――ハンターギルドの長、エリシアさんの護衛依頼を終えた俺達は
依頼達成を伝える為……そして
エリシアさんを送り届ける為、ギルドへと戻ったのだが――>
………
……
…
「……いやぁ~楽しかったぁ~っ!
また行こうね~ぃ! って……
……ゲェッッ?! 」
<――急激にテンションを下げたエリシアさん。
彼女の眼前に現れたのは……メガネにペンシルスカート姿の
“如何にもな”秘書官さんだった――>
………
……
…
「ギルド長! ……予定時刻を何時間過ぎていると思っているんですか!
全く、こんな時間まで一体……」
「た……たまになんだから良いじゃんか~もぉ~っ! 」
「ダメです! ……良くありませんっ!!
皆様……この度はギルド長がご迷惑をお掛けしてしまい
誠に申し訳ありませんでした……特に主人公様。
我が国で史上二人目のトライスター様に対し、この様に……」
「……い、いえいえ大丈夫ですから!
エリシアさんからは知らない事を沢山教わりましたし……その
た、楽しかったですからお気になさらず! ……」
「……ほら~っ!
主人公っちも楽しいって言ってるし~ぃ!
また一緒に行こうね~ぃ! 主人公っち~♪ 」
「いいえ! ……今のは“気遣い”と呼ぶのです!
いい加減に早く職務に戻って下さいっ!
……受付嬢様
皆様にご迷惑をお掛けしてしまいましたので
特別報酬として一.五掛けでのお支払いをお願い致します。
皆様、本当にご迷惑をお掛けしました……これに懲りず
また宜しくお願い致します……」
<――そう言うと秘書官さんは深々とお辞儀をして
“エリシアさんを引っ張って行きながら”
ギルドの二階へと帰って行ったのだった――>
………
……
…
「で、では皆様……素材をそちらの回収場所へ。
……おや? 青柳キノコが倍ですね。
では計算し直します……計算終わりまして
先ず“通常依頼報酬分”が金貨一七五〇枚ですね。
続いて“特別依頼報酬分”が……」
「……えっ、特別依頼分含まれてなくて一七五〇枚ですか? 」
「ええ、依頼は秘書官様の指示で
全て“一.五掛け計算”されましたので、本来よりも増加しております。
それに加えまして、特別依頼報酬分が金貨八〇〇〇枚ですので
合計、九七五〇枚となります」
「えっ……えぇぇぇぇぇぇっ?! 」
<――あまりの金額に思わず声を上げてしまった俺……だが
そんな俺の横に居たオルガさんとガーベラさんは、至って冷静で――>
「エリシアが絡むと大抵高額になるが……今日は特別高いな」
「そうね……主人公さん達を気に入ったのかしら? 」
「そうだろうな……よし、ならば今回は報酬の内
此方は七五〇枚を貰おう……残りは御主達で取ると良い」
「えっ? ……駄目ですよ!! 」
「遠慮するな主人公……私達はそもそも
御主達の借金を減らす協力をしたかっただけだからな」
「でも……本当に良いんですか?
エルフ族を護る為のお金とか……」
「ええ、構わないわよ? ……寧ろこの借りを“ネタ”に
エリシアの護衛任務を何回かは任せられるかも知れないじゃない? 」
「ちょ!? ガーベラさん?!
でも……ありがとうございます
俺、いつか必ずお返し出来る様に頑張りますからッ! 」
「構わないわ……その思いだけで私達は充分嬉しいもの
また何時でもパーティを組みましょうね? 」
「はいっ! ……此方こそよろしくおねがいします! 」
「あの……水を差す様で申し訳無いですけど、
残りが七九八万 九三〇〇金貨もありますし……先はまだまだ長いですよ? 」
「マリア、お前計算早いな……って言うか改めて恐ろしい金額だな。
……国から生活費が出てる今は良いけど
暫くするとそれも無くなるし、返すまでには
かなり掛かりそうだな……」
<――などと話していたら
受付嬢さんが“ある依頼”を持ち掛けて来た――>
………
……
…
「あの……お困りなのでしたら
皆様をご指名で国からの依頼が来ているのですが……
……そちらをお受けになられては? 」
「えっ? ……どの様な依頼ですか? 」
「簡単にご説明致しますと……“国王様への謁見”ですね。
国王様のご希望で――
“我が国で史上二人目のトライスターを一目見てみたい”
――との事ですので
謁見の為に城へ出向いていただく手間賃……つまり、報酬も支払うとの事です」
「国王への謁見ですか、緊張するなぁ……って、報酬はどの位なんですか? 」
「報酬欄は……空欄になってますね」
「気味が悪いな……かと言って断るのも不味いですよね? 」
「そうですね……国王様に与えるイメージが
あまり宜しくないかと思いますが……」
「ですよね……俺一人ですか? 」
「いえ、パーティ全員との事ですね」
「そうですか……うーん」
<――この時、俺の中では
メルちゃんを始めとする“ハーフ族”に対する
変な差別意識を一切禁止出来ていない事や
“俺だけで良い筈なのに何故全員? ……もしや、騙し討ち目的か?! ”
などと勘ぐり、国王への謁見を断るべきとの結論を出していた。
だが、二人は――>
「私は別に大丈夫ですよ?
寧ろ、国王様に謁見とか箔がつくと思いません? 」
「マリアはそう思うんだろうけど……万が一にも
メルちゃんが“嫌な扱い”を受けるかも知れないし
もしもそうなったら、俺は国王相手でもブチ切れると思うし……」
「大丈夫です、私……主人公さんの為ならついていきますからっ! 」
「……流石メルちゃん偉いっ!
と言うか、もしもそんな事になったら私も加勢しますし
余計について行きたく成って来ました! 」
「二人共……」
<――二人の優しさに感動し
思わず涙が溢れそうに成っていた俺……だがそんな時
受付嬢さんは更に――>
「オルガ様、ガーベラ様のお二人も同行する様にとの事ですが……」
「……あら、そうなの? 」
「ふむ……私達なら構わんが」
「これで皆様にご了承頂けましたが……主人公様はどうされますか? 」
<――悪く言えば“外堀から埋められた”形ではあったが
悩んだ末、この依頼を引き受ける事を選んだ俺。
……受付嬢さん曰く、明日の昼
ギルド前に国王城へ向かう馬車が到着するとの事だった。
正直まだ少し怖いが、本当に大丈夫なのだろうか――>
………
……
…
「どうなんだろ? 何だか嫌な予感もするんだよなぁ……」
<――夜、俺達は宿の一室で
明日の謁見について話し合っていた――>
「……そうですか? 私はきっと
“新しい物好き”なだけなんじゃないかと思ってますよ? 」
「そ、その……私はオークとダークエルフのハーフですから
正直不安もあります……で、でもっ!
主人公さんの為なら大丈夫ですっ! 」
<――マリアは兎も角としても
メルちゃんは間違い無く、俺の為に無理をしてくれている。
そうだよな、本来なら怖いよな――>
「……最悪俺に何かあっても我慢する。
だけど、メルちゃんに妙な態度を取ったら国王でも絶対に許さないから
だから……安心してくれメルちゃん」
「お、お気持ちは嬉しいですけど……余り無茶しないで下さいね? 」
「分かってる……けど、メルちゃんも我慢しなくていいからね」
「あの~……考え過ぎだと思いますよ?
主人公さんお得意の“マイナス思考”ってだけだと思いますけど? 」
「マリアの言う通りかも知れない……けどやっぱ怖い物は怖いよ。
そもそも、俺の我儘で八〇〇万金貨の借金だよ?
今となっては“国の駒”にでも成ってた方が
マリアもメルちゃんも楽出来てたのかなーって思ってる位だしさ……」
<――そう何気なく発した俺の言葉に
マリアは見る見る内に不機嫌な表情を浮かべ――>
………
……
…
「……あの、主人公さん?
そうやって気を使って私達を庇ってるつもりかもしれませんけど
“お前達の所為で苦労してる”って言われてる様な物なんですけど? 」
<――そう言った。
そして、メルちゃんまでもがこの意見に賛成し――>
「わ、私も……マリアさんに賛成ですっ……」
「違う、俺はそんな意味で言ってるんじゃ! ……」
「……私、貧乏は慣れっこなので別に何とも無いんです。
そんな事よりも……主人公さんやマリアさんと
一緒に過ごせなく成る事の方が私には何千倍も苦しいんです……」
「メルちゃん……本当にありがとう。
俺も二人と一緒に居たい……けど、貧乏パーティーでごめん。
もっと強くなって、もっと稼いで……二人を楽しませるだけじゃなくて
俺も一緒に楽しく有りたい!
我儘な俺を信じて付いてきてくれてありがとう。
マリアもメルちゃんも、二人共……大好きだッ!! 」
「わ、私も大好きですっ! はうぅぅぅぅ……」
<――柄にも無く女の子達に大好きとか言ってしまったが
不思議と恥ずかしくなかった。
メルちゃんがお返しの大好きを言ってくれるまでは。
やばい、恥ずかしさと動悸が凄い――>
「……な、何か恥ずかしいからこの話もう止めっ!! 」
「私は恥ずかしがってる主人公さんを見るのが楽しいですけどね~
……ね~メルちゃん? 」
「で、でも……私も恥ずかしいから主人公さんに賛成ですっ! 」
「よしッ!! ……味方が増えたぞマリア!
って……明日は忙しくなるから早く寝ないとじゃないか!!
って事だからその……おやすみッ!! 」
<――と、恥ずかしさが限界突破してしまった俺は
二人に背を向け、毛布を深く被った――>
「ま、そうですね……おやすみなさーい」
「お……おやすみなさいっ! 」
「ああ……おやすみ、二人共」
<――暫くの後
二人にバレない様にそっと振り返った俺は
目を閉じた二人の顔を暫く見つめ――
“二人を護る”
――と言う決意を胸に眠りについたのだった。
そして、翌朝――>
………
……
…
<――物音で目が覚めた俺。
薄目を開けつつ周囲の状況を確認すると――>
「んっ? ……もう朝か、あまり熟睡とは言えなかったな」
「あっごめんなさいっ! ……起こしちゃいましたか?
そ、その……おはようございます主人公さんっ! 」
「早いね、もう準備出来てるのか……流石メルちゃんだ」
「い、いえいえ! あの……その……じ、時間があったので!
主人公さんの服……用意しておきましたっ! 」
<――そう言ってメルちゃんの差し出した俺の服は
とても綺麗に畳み直されていた――>
「おぉ! ……ありがとう!!
なぁマリア! メルちゃんがこんなに……ってまだ寝てるのか?!
マリア起きろ~……朝だぞ~」
「ん~っ……あと八時間……ムニャムニャ……」
「な゛っ!? ……二度寝でフルタイムとか聞いた事無いわ!!
良いから早く起きろっ! 」
「んっ……もぉ~っ! ……いい夢見てたのにっ!! 」
「いや、国王待たせたら“永眠”させられると思うぞ? 」
「……ですね、急いで準備します」
「そうした方が良いと思うよ、って……俺も急ぐか」
「あ、あの……主人公さん、マリアさんっ!
約束の時間にはまだ余裕がありますし
朝食をしっかり食べて、万全の状態で謁見しませんか? 」
「そ、そうなの? ……じゃあ、そうと決まればメルちゃん発案!
“朝食をしっかり食べて万全で国王謁見に挑む”作戦で行こう! 」
「うわ~……そのまま過ぎてネーミングセンスを疑いますよ主人公さん」
「……煩いなぁマリアは!
頭起きてないんだから仕方無いだろ!? ……」
………
……
…
「はい、朝食セットだよ~! ……しっかり食べるんだよ~! 」
<――暫くの後
朝食を食べに来た俺達にミリアさんが用意してくれたのは
良い塩梅に火の通った卵と、香ばしい香りのパン
新鮮なサラダに体の温まるスープと言う……
……所謂絵に書いた様な“朝食セット”だった。
何と言うか……此処で提供されるご飯の虜になりつつ有る。
……元々朝は食べない主義だった俺だが
ヴェルツの朝食は何故かすんなりと食べられる。
色んな意味で“温かい”のだろうか? ――>
………
……
…
「ごちそうさまッ! ……いや~しっかり食べたから目が覚めたよ」
「そうですか? 私は眠たくなってきましたけど……」
「マリアさん……寝ちゃ駄目ですよ! 」
<――暫くの後、ギルド前に立っていた俺達
朝食について話していると、少し遅れてオルガさん達が到着した。
そして、それに遅れる事暫く……馬車が到着したのだが
俺達の目の前に現れた馬車は信じられない程、絢爛豪華な作りだった上に
過剰とも言える様な数の憲兵達の出迎えが同行していた。
その事に恐怖を感じつつも、観念して馬車に乗り込んだ俺は
この直後、仲間と共に国王城へ向かう事と成った――>
………
……
…
「トライスター御一行様ですね……どうぞお入り下さい」
<――到着後、門番が合図に正門はゆっくりと開かれた。
……中には整然と並んだ近衛兵達、その最奥に微かに見える玉座には
国王らしき人が鎮座していた――>
………
……
…
「……申し上げますッ!
トライスター御一行様が御到着致しましたッ! 」
「ご苦労……下がって良い。
……ほう、御主が史上二人目のトライスターか」
<――低く重い声でそう言った国王。
俺を含め、この場に招かれた全員の背筋が伸びた――>
「……はい、主人公と申します。
この度は国王陛下に謁見させて頂ける光栄に預かり
誠に感激の至りで……」
「……止せ、堅苦しい挨拶など聞き飽きておる。
友に話す様に話せば良い……」
「し、承知致しました! 」
「……その方達の自己紹介も聞きたいのだが? 」
「はい……私の名前はマリア、斧使いをしています」
「メ、メルですっ! そ、その……回復術師をしていますっ! 」
「うむご苦労……オルガ、ガーベラ両名は紹介不要だ。
良く知っておる故な……して
時に幾つか質問が有るのだが……主人公よ。
まず第一に……御主の周りを飛んでおる、その“黒い粒子”は何だ? 」
「こ、これはその……“トライスターの武器”でして
簡単に言うならば“攻撃術師の粒子”とお考え下さい……」
「ほう……なぜ攻撃術師の粒子だけが飛んでおるのか? 」
「それがその……ほか二職の物は高位の技を使用した為
体に馴染んだ形へと成ったのですが
攻撃術師系の技は高位の物を使用出来て居ない為
それが原因かと……申し訳有りません」
「構わん……しかし、トライスターとは面倒な物なのだな。
では次の質問だが……なぜ国に仕える事を拒んだ? 」
<――この質問をした国王の顔は険しく
この場には冷たい緊張感が走った――>
………
……
…
「こ……言葉を選ぶ学がないので有り体に申しますが
“俺の責任感の無さ故、ご迷惑しかお掛けしない”と思い
お断りした所存です……」
「ほう? ……“責任感が無い”か。
……これは異な事を言う。
主人公よ……“動かぬギガタウロス”は、御し易かったか? 」
「……なっ?!
まさか、あの頭巾の人物は……国王様の手の者で? 」
「如何にも……御主の監視と言えば良い気はせんだろうが
トライスター程の者が国に仕えぬと申せば
国王としては見極めなければならん……その事は理解出来よう? 」
「お立場理解します……お助け頂き有難うございます」
「構わぬ……だが、草原の地形を変える程の馬鹿げた腕を持ち
その後も複数個の減衰装備を装着した状態で
あのギガタウロスを瞬殺したと報告を受けたのだ。
……警戒せぬ国王などおらぬとは思わぬか? 」
「ス、スライムの草原での事は本当に……」
「構わぬ……故意では無かろう。
しかし、訊ねるべき事は未だ山の様に有るのだが
あまり長く引き止めるのも好かんのだ、次の者に質問を移すとしよう。
……マリア、御主の装備だが
伝説の戦士バーバリアンが使用する予定であった物と聞いている。
主人公だけでは無く、御主の戦闘能力の高さも“影の者”から聞いておるぞ?
“バーバリアンの再来”……とな」
「そ、その……光栄なのは理解しているのですが
女として何かが“終わる”様な気がして……素直に喜べないんです」
「ふむ……“乙女心”と言う物か
だが、御主は我が国に取って宝の様な存在であると余は認めておる。
不足やも知れぬがな……」
「こ……光栄です! 」
「……さて。
最後に……メルと申したか? 」
<――そう国王に声を掛けられた瞬間
メルちゃんはこれ以上無い程に緊張した。
だが……震えを抑えつつ
彼女は恐る恐る自己紹介を始めた――>
………
……
…
「は、はい……私は……父がオーク
母がダークエルフの……ハーフ族です。
此方に居る主人公さんに母の命と……私を助けて頂いた御縁から
主人公さんのパーティに同行させて頂いております……」
<――今にも逃げ出したいだろうに
懸命に……ただ懸命に、国王に対し誠心誠意で自己紹介をしたメルちゃん。
すると――>
………
……
…
「……言わずとも判る、周囲の者から迫害され続けていた事も
“国王にすら、そう扱われるのでは”
……その様な恐怖を持ってこの場に居る事もな」
「お、仰られる通りです……」
「ふむ……だが。
“余の王国から今日を境に差別や迫害を無くす!! ”
……そう声高に余が約束をした所で
直ぐに余の王国から差別や迫害が消えるなど有り得ぬ話。
だが、少なくとも御主が迫害される事の無い様
御主達にはハンターとして何かしらの地位を与える事を約束しよう。
とは言え、その代わりと言えば癪に障るとは思うが……
……主人公。
御主に一つ“相談”がある……」
<――明らかに嫌な流れだったが
仲間の為を思えばこそ、俺の答えは一つだった――>
………
……
…
「仲間の為です……どの様な条件でも飲みます」
<――そう言った俺を心配したのか
必死に俺を止めたメルちゃんとマリア。
だが、国王は――>
「御主達の態度は些か無礼であるな……
……安く見るで無い。
御主達は貧乏生活をしていると聞くが本当か? 」
「はい……この粒子も装備自体の金額も
この装備で苦労しているのは紛れもない事実ですが……」
「ほう……仮にも余の認めるハンターが貧乏生活とは頂けん。
一体幾ら足りぬと言うのだ? 」
「……当初は八〇〇万金貨必要でしたが
皆のお陰で七九八万 九三〇〇金貨に減らせる予定です」
「ほう? ……随分と安いな」
「はい、ラウドさんや仲間のお陰です」
「ふむ……その程度ならば、今回の報奨金で支払えるだろう」
「い……今何と?! 」
「……何、色々と気が変わっただけの事よ。
余は御主らを気に入った……全員を余の元へ置きたい物だが
それを嫌う御主らに無理強いをする事は避けるべきであろう。
故に……御主らがもし、ハンターとしての生活に飽きた時で良い。
迷わず余の元に来るが良い……」
「こ、国王様……我儘勝手な俺だけじゃ無く
二人までも大切に扱って頂けた事……心より感謝申し上げます! 」
「うむ……パレードに参加して貰う事にはなるが構わんな? 」
「はいっ! 」
「良い返事だ……ならば礼服の為
後日御主らの元に服師を向かわせるが、費用は余に任せるが良い。
さて、余の話はこれで終わりだ……長く引き止めて済まなかったな」
「……いえ、国王様が国王様足り得る理由を
学の無い俺でも充分に理解出来ました。
とても幸せな時間でした……心から感謝致します」
「うむ……ギルドに完了依頼を出せば
御主らの貧乏生活も終わるであろう。
主人公、マリア、メル……パレードで会う日を心待ちにしているぞ」
「はいっ!! ……」
<――この後
立ち去る俺達を見つめて居た国王の口元は
ほんの少しニヤけていた――>
………
……
…
「……以上で、依頼は達成と成ります。
それから……国王様からの伝言を預かっております。
“主人公の装備を製作したと言う装備屋に
報奨金から全額支払って置いた……安心するが良い”
との事です……って、支払総額八〇〇万金貨っ?!
主人公さん、国王様に対価として一体何を?!
まさか……“体”で?! 」
<――と、鼻の穴を膨らませ
凄まじい“妄想”をぶつけて来た受付嬢さんだったが――>
「いやいやいや!! ……そんな訳無いでしょ?!
国王様が俺の想像より遥かに優しい方だっただけですよ」
「そ……それは良かったです。
あっ! それともう一つ
皆様に対し国王様から報奨を出す様言われておりますが……」
「えっ? ……まだ何か頂けるんですか? 」
「ええ、皆様を“王国特別騎士級自由ハンター”として認めるとの事です」
「な、何だか……信じられない位長い名前ですね」
「ええ……本来ならば国王様に仕える際の階級は
“王国騎士”か“王国魔導騎士”のどちらかなのですが
それとは違い自由な身分であると言う事だそうですよ?
尚、その事を一週間後に執り行われるパレードで
王国内に大々的に周知させるので
充分に準備をしておく様に……との事です」
「凄いです……でも、本当に私も頂いて良いのでしょうか? 」
「いや……寧ろメルちゃんの為じゃないかな? 」
「そ、そうなんですか?! ……凄く光栄ですっ! 」
「と言う事は……私達これで貧乏生活から脱出って事ですよね? 」
「そうだなマリア……全額払って下さったらしいから
今持ってる金貨は自由に使えるお金って事にも成るみたいだ。
てか、そうなると
貧乏生活脱出どころか結構な贅沢が出来るんじゃ……」
<――と色々甘い算段を始めた俺に対し
メルちゃんはキッパリと――>
「……駄目ですっ!
浮かれて使っちゃうと後で困っちゃいます! 」
「い゛っ!? ……そ、そうだよね!
けど、せめて二人に何かお礼をしたいからさ……
……それだけは許してくれないかな? 」
「じ、じゃあ……一人金貨五〇枚ずつにしませんか?
元々初達成報酬分ですし……その
お母さんにいろんな物を買ってあげたいですし……」
「成程……流石メルちゃん!
家計簿まで完璧とか苦手分野を教えて欲しいよ本当に! 」
「に、苦手な事の方が多いですからそんなに褒めないで下さいよ~」
<――と照れるメルちゃんに
“萌えていた”俺の横で――>
「は~い! メル先生~バナナはおやつに入りますか~? 」
<――と、古典的なやり取りをしたマリア。
思わず吹き出してしまった俺を心配しつつも、メルちゃんは――>
「へっ? ……バナナって言う物は良く分からないですけど
そ、その……好きなおやつを買って良いと思いますよ? 」
「ゲホッゲホッ……そ、そうだぞマリア!
金貨五〇枚分なら自分の好きな物買って良いんだぞ! 」
「やった~っ♪ ……でも五〇枚の金貨って言われても
何も欲しい物無いんですよね~……装備は一通り揃ってますし。
……まぁ、貯金しておきますか」
「結局何も買わないんかいッ!
……ってまぁ、何か欲しい時に使えば良いと思うよ?
それもマリアの使い方だ! 」
「……あっ! 欲しい物思いつきました!
そろそろお昼時ですし、ヴェルツに帰ってお昼ごはん食べましょ! 」
「そ、それは欲しい物に入るのか?
けど、確かに腹は減ったし……一度ヴェルツに帰ろうか! 」
「はいっ! ……」
<――何はともあれ。
俺達は意外な程あっさりと国王様に認められ
あっと言う間に貧乏生活からの脱出を達成した。
俺達は漸く“幸せな異世界生活”への
第一歩を踏み出せたのだろうか? ――>
===第十話・終===