もう、勘弁してください
オニキスはすばらしい。
どうすばらしいかというとだな、まずかわいいんだ。兄上達は彼女を黒猫と呼ぶが、まさにその通りだと思う。ローブのフードが、それとなく猫の耳のようだし、言動も猫のようだ。
服のすそから伸びる手足は、白くほっそりとしている。
触れれば折れそうなほどなのに、柔らかくてさわり心地がとてもいい。
大き目のぱっちりした瞳には、いつも俺が映り、彼女は俺を見てよく微笑んでくれる。
あのかわいらしい顔で、ほんのりと色づいた頬とともに。
「ヴェルネードが好きだよ」
などといわれたら、いろいろと鍛錬になる。何の鍛錬かは察しろ。彼女はまだ幼い。大人である俺が我慢を強いられるのは当然のことだから、この苦痛は甘んじて受けよう。
その先には、目もくらむような褒美があると思えば、たかが数年。
どうってことはない。
それに彼女はあれで大人びてもいる。
俺がどれほど耐えているのか、彼女はそれなりにわかってくれている。だからある程度までならしてもいいと、女神のような温情を向けてくれる。そんなオニキスが愛しい。
抱きしめて眠るぐらいいいじゃないか、なぁ?
ジェイは堅物すぎる。俺は兄上が羨ましいんだからな。兄上はいつも姉上を、ところ構わずめでていらっしゃるのだが、俺だって同じようにオニキスを愛でたい。
今まではそれも叶わぬ夢であったが、これからは違う。
好きなだけ、俺はオニキスを愛でられる。なぜか。それは彼女は俺の妻となるからだ。まだ婚約も済んでいないのだが、家族の了承は得られているし本人も同意済みだ。
何の問題もない。
ところでこんど旅行に出かけるんだ。もちろんオニキスをつれてな。うっとうしいジェイやジェイやジェイがいないから、いろいろとオニキスとできそうで楽しみで仕方ない。
そう、本人が同意しているんだから、少し手を出しても構わないだろう。
俺はオニキス以外要らないし、彼女も俺以外は要らない。せっかく二人っきりになるのだから少しだけ、前に進むのも悪くないと思わないか? 思うだろう? 当然のことだ。
ん?
なんだ、仕事?
……ちっ、仕方がないな。では兄上と義姉上への伝言を頼む。そういうわけで、近いうちにオニキスにドレスをいくつか作ってやりたいから、その時は是非義姉上をお借りしたいと。
俺は女性の美的感覚、センスというものはわからないからな。
オニキスを可愛がってくださる義姉上なら、きっとすばらしいものを選んでくださる。
彼女は、ほっとくと黒しか着ない。もちろん黒も似合うが、やはり少女らしく華やかな装いもしてほしい。そんな彼女を腕に抱いて、周囲に自慢してやるのも一興だと思わないか?
なぜならばオニキスはかわいい。
かわいいものを、よりかわいくするのは当然の仕事だ。
言うならば、これは俺の義務だ。
……ところで、ずいぶん顔色が良くないな。オニキスが引退した以上、お前がわが国唯一の黒の魔術師なのだから、体調には気をつけてほしい。何かあればすぐに医務室に行くように。
では、任せた。