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くしゃみの作用反作用。……あるいは、超音速のデバッグ・ドライブ

「……ふにゃぁぁ!! 止まりませんわ! 世界が……、世界がワックスを塗りたてた廊下のようにスルーッスルーッといってしまいますわぁぁ!!」


私はバルバラ皇帝と重なったまま、時速60キロで廊下を往復し続けていた。壁にぶつかっても、エカテリーナお姉様のオイルが完璧すぎて、ピンボールのように弾むだけ。もはや「歩く」という基本動作コマンドが拒否されている。


「リリアーナ様……! 滑りながら……計算しました……! このままでは……数時間以内に……帝国全土が……慣性だけで……隣国まで……射出されます……っ!!」


フェリクスが壁と床の境界を猛スピードで回転しながら叫ぶ。


「……っ!! 仕方ありませんわ! こうなったら、物理的に『引っかかり』を作るしかありませんわ!! サーシャ! 鋼鉄のエプロンのポケットに入っている、『超・粗挽き黒胡椒グリップ・スパイス』を全開でバラ撒きなさいな!!」


「お任せくださいお嬢様! 摩擦(聖域の守り)を取り戻しますわぁぁ!!」


サーシャが滑走しながら、粗挽きの黒胡椒をスプリンクラーのように散布した。

狙いは、床の摩擦係数を強引に高めること。……だったのだが。


【流体力学の暴走:くしゃみロケット】

F = Δ(mv) / Δt


(F: 推力。胡椒の刺激による『くしゃみ』の瞬間的排気速度 v が、滑らかな床の上で摩擦抵抗ゼロの個体に作用。結果として、人体は生体ジェットエンジンと化す)


「……っ!! ……は、……はっ……くしゅんんんんん!!」


私が一回くしゃみをした瞬間。

背後から凄まじい衝撃波(排気)が発生し、私の体は摩擦ゼロの床を滑り、時速300キロへと急加速した。


「ひゃぅぅぅっ!? 加速アクセル!? くしゃみをするたびに、……音速マッハに近づいていますわぁぁ!!」


「……は、……はくちゅん!! ……リリアーナ! 待ってくれ、……僕のくしゃみの方が……推進力が高いぞ……っ!!(兄様)」


カシアン兄様の鍛え抜かれた肺活量による「くしゃみ」は、もはやソニックブームを巻き起こし、彼は「黄金の流星」となって私の横を追い抜いていった。


「……はくしゅん! ……リリアーナちゃん、……これ……意外と楽しいわね……!! 空中で三回転トリプルアクセル……決めてあげるわ!!(バルバラ皇帝)」


「……ひゃぁぁぁ!! 皆様、……くしゃみで弾道飛行しないでくださいまし!! ……これでは、……これではデバッグどころか、……『全人類・特攻兵器化ハングアップ』ですわぁぁ!!」


【作用反作用の法則:胡椒改定版】

P_out = - P_body

(前方へのくしゃみ放出 P_out に対し、人体 P_body は逆方向へ等しい運動量で加速する。床が摩擦ゼロであるため、この加速は減衰することなく累積インクリメントされ続ける)


「……ふにゃぁ。……誰か、……誰か私の鼻の粘膜を、……強制終了シャットダウンして……くださいまし……」


リリアーナは、涙目になりながらマッハで廊下を往復し、時折すれ違うフェリクス(時速400キロで回転中)と「一瞬の邂逅」を繰り返すという、物理法則が泣いて謝るような絶望のドライブを続けるのであった。

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