聖女の帰還と、メイドの再デバッグ。……あるいは、発酵臭のする実家
「……ふにゃぁ。……帝国のワインセラーに、……懐かしい『ベルシュタインの風(加齢臭)』が吹いていますわ……」
究極のブルーチーズで帝国を「おっさんの沼」に沈めた翌日。
ベルシュタイン本邸から、私の身の回りの世話をするために、あのピュアすぎるメイド・サーシャが帝国へと到着した。
「お嬢様ぁぁ! お迎えに上がりましたわ! 帝国で『化学の力』を使い、世界を平和(爆破)に導いているという噂、本邸まで届いております!」
サーシャは、再会を喜んで私の手を取った。……が、その瞬間、彼女の鼻がピクリと動いた。
「……あら? お嬢様。……なんだか、……実家の物置の奥底で、……お父様(伯爵)が隠していた『干物』のような香りがしますわ。……これが帝国の最先端の『聖域の香り』なのですか?」
「……サーシャ。……それは『香り』ではなく、……菌たちの『魂の叫び(ブルーチーズ)』ですわ……」
私は、研究初期(第2話)で彼女に「美肌」という誤解を与えた罪悪感を抱えつつ、今度こそ「おっさんの真実」を突きつけるべく、一切れのチーズを差し出した。
「いい、サーシャ。……これは『肌の天国』ではありませんわ。……食べた瞬間に、……**『新橋のガード下』**が見える禁断の劇物ですのよ」
【発酵代謝の逆転現象:サーシャ・フィルター】
Smell (Blue Cheese) → Interpretation (Holy Scent)
(通常の人間は「臭い」と感知する分子を、サーシャの脳内OSは「神聖な香り」へと自動変換してしまう)
「……ぱくり。……むぐ。…………はぁぁっ!!」
サーシャの瞳が、第2話の時と同じようにキラキラと輝き始めた。
「お嬢様! わかりましたわ! これは、……これは**『内臓のオーケストラ』**ですわね!? 食べた瞬間に、私の胃と肝臓が『定時退社』を宣言し、細胞がピチピチと宴会を始めていますわ!!」
「……違う……。……それは単に、……塩分とカビの刺激で、……自律神経がバグっているだけですわ……」
「見てくださいお嬢様! チーズの飛沫がかかった私のエプロンが、……なぜか『防弾仕様』のように硬化して、汚れを一切寄せ付けませんわ! これこそ、……これこそリリアーナ様の新しい奇跡、**『繊維のバルクアップ(ファブリック・プロテイン)』**ですわね!!」
【化学反応の暴走:カゼインのプラスチック化】
Casein + Magic_Catalyst → Bioplastic (Hard Armor)
(チーズのタンパク質が、魔力の影響で超硬質プラスチックへと重合。メイド服が物理防御力+999の鎧へと進化した)
「ひゃぁぁぁ!! ……サーシャ! ……私のチーズを、……『クリーニングいらずの防具』に変えないでくださいましぃぃ!!」
「お嬢様! これで戦場でもお給仕ができますわ! さあ、次はどこのブラック現場を爆破しに参りますか!?」
第2話で美肌を覚醒させたサーシャは、今や「鋼鉄のメイド服」を纏い、リリアーナをさらなるカオスな戦場へと駆り立てる「物理最強の信奉者」へとアップデートされてしまったのである。
「……ふにゃぁ。……やっぱり、……私の周りは、……仕様書通りに動いてくれませんわ……」




