オルニチン・リブート。……あるいは、朝焼けのしじみ汁(リカバリー)
「……ふにゃぁぁ……。……頭の中に、……工事現場のドリル(バグ)が住み着いていますわ……」
ベルシュタイン邸のテラス。昨夜、自ら錬成した「究極の塩辛」と「度数40度の魔導蒸留酒」の波に飲まれた私は、死体のように机に突っ伏していた。
周囲を見渡せば、最強のバルクを誇った王子も、美の権化だった皇帝も、全員が「処理落ち」したサーバーのように、庭のあちこちで使い物にならなくなっている。
「リリアーナ様……。私の……私の論理演算回路が、……アルコールという名の『ノイズ』で……完全にショートしています……。……お水を……お水をください……」
フェリクスが眼鏡を明後日の方向に曲げ、足元をおぼつかせながら這い寄ってくる。
「……ひゃぅぅっ!! ……皆様、……自業自得ですわ! ……でも、……このままでは世界が『サービス終了(滅亡)』してしまいますわね……」
私の中の「45歳のおじさん(元・徹夜明けエンジニア)」が、重い腰を上げた。
こういう時、職人が頼るべき「パッチ」はただ一つ。
「……フェリクス様。……今すぐ、領内の川から**『魔導しじみ』**を100万個、集めてきなさい。……熱力学第三法則を無視してでも、……この地獄の頭痛をデバッグしますわよ!!」
【究極の回復:肝機能ブーストの方程式】
[アセトアルデヒド] + [オルニチン] + [アラニン] → [水] + [二酸化炭素] + [安眠]
V_recovery = k [C6H12N2O3]
(V: 回復速度、k: 反応定数、C...: オルニチン濃度。しじみを極限まで煮詰めることで、アミノ酸の『暴力的な優しさ』を抽出する)
私は、大鍋にしじみをブチ込み、前世のスナックのママさんの教え通り、「一つまみの塩(現実)」と「隠し味の味噌(包容力)」を投入した。
「……いきなさい! リリアーナ・スペシャリティ:『朝焼けの黄金汁』!!」
鍋から立ち上る、磯の香りと味噌の芳醇なアロマ。その香りが漂った瞬間、庭に転がっていた「死体」たちの指先がピクリと動いた。
「……こ、この香りは……。……僕の肝臓が、……急速にクリーンアップされていく……!(王子)」
「……妹よ、……この汁こそが……、……失われた『仕様書(自分)』を取り戻す光だ……っ!!(兄様)」
全員がゾンビのように鍋に群がり、黄金色のしじみ汁を啜った。
「あああああ……っ!! 沁みるわぁ……。……五臓六腑の隅々にまで、……アミノ酸(愛)が染み渡っていくわ……!!(皇帝バルバラ)」
「昨日までの……、……いや、さっきまでの『甘え』も『苦しみ』も、……すべてこの汁が洗い流してくれる……!(元帥ヒルデガルド)」
【肝機能回復の定量的評価】
AST / ALT → 1.0 (正常値への収束)
(しじみ汁の摂取により、肝細胞の破壊が停止し、世界の生産性は再びV字回復を遂げる)
「……ふにゃぁ。……ようやく、……ノイズが消えましたわ……」
私は、空になったジョッキに温かいしじみ汁を注ぎ、自分自身をリブートした。
すると、横で復活したフェリクスが、いつもの「執着心」に満ちた瞳で私を見つめていた。
「リリアーナ様。……完全にデバッグされました。……お陰で、……貴女を生涯離さないという『決意』が、……昨日の1000倍の解像度で再構築されましたよ」
「……ひゃぁぁぁ!! ……『ナカ』が抜けたと思ったら、……今度は『重い愛』が再起動しましたわぁぁ!!」
リリアーナの定時退社(隠居)へのデスマーチは、体調万全となった最強のストーカーたちと共に、次なる「酒の席」へと続いていくのであった。




