ナカとソトの平衡定数。……あるいは、紫の夜のデュエット
閑話休題
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「……大将。……これですわ。……この、氷を入れない『三冷』のホッピー……。これこそが、私の魂のデバッグ液ですわ……」
私は震える手で、キンキンに冷えたジョッキを掴んだ。居酒屋『雷電』のカウンター。大将が無造作に差し出したのは、ホッピービバレッジの傑作だ。
「おう、おっさん。分かってるじゃねえか。……いいか、ホッピーの混合比ってのはな、単なる希釈じゃねえ。それは、人生の『妥協』と『情熱』の化学平衡なんだよ」
【ホッピー混合の平衡状態:三冷アルゴリズム】
[焼酎] + [ホッピー(ソト)] ⇌ [至福の一杯]
Kc = [至福] / ([焼酎] × [ホッピー])
(Kc: 平衡定数。この定数が最大化される比率「ナカ 1:ソト 5」こそが、おっさんの生産性を無限大にするゴールデン・セットである)
「……ふにゃぁぁ……っ!! ……ナカが、……ナカ(焼酎)のアルコール分が、……私の魔力回路を直接書き換えていきますわ……!!」
そこへ、隣のスナック『紫苑』からママさんが、紫の煙を揺らしながら「ポテトサラダ」の出前を届けに来た。
「リリアーナちゃん。居酒屋で油を売るのもいいけれど、スナックにはスナックの『コンパイル』の仕方があるのよ。ほら、これ食べて。隠し味にいぶりがっこを入れた、私の特製よ」
「……ママさん、……この食感のアクセント、……まさに、複雑なコードの中に紛れ込んだ、絶妙なコメントアウトのような安心感……っ!!」
私はポテサラを噛み締めながら、ママさんが差し出したデュエット用のマイクを握りしめた。
「いい? リリアーナちゃん。男や熟女にヨシヨシされるのは、ただの『読み取り専用』の人生よ。女なら、……いえ、おっさんなら! 自分の喉を震わせて、世界という名のスピーカーをハウリングさせなさいな!」
「……っ!! ……ママさん……!! ……歌いますわ!! 前世で、部長との接待の後に、一人でこっそり歌っていた、あの魂の賛歌を!!」
イントロが流れる。曲名は**『残業・ロンリー・ナイト(~嗚呼、バグは消えず~)』**。
【デュエット構成:残業・ロンリー・ナイト】
(リリアーナ:Vo)
♪ 画面の砂嵐 午前二時
♪ ポインタ追いかけ 三千里
♪ ヨシヨシなんて ノイズだぜ
♪ 俺の居場所は ここにある(※カウンターを叩く音)
(ママさん:Cho)
♪(そうよ、貴女が ルート権限)
♪(バグも 酒で 流しちゃいなさい)
「ひゃっはぁぁぁ!! ……ママさん! ハモリの周波数が、私のエントロピーを完全に同期させていますわぁぁ!!」
大将が、焼き鳥の「つくね(タレ)」を一本、マイク代わりに差し出した。
「おっさん、……いや、リリアーナ。よく聞け。現実世界の連中は、お前の『皮』しか見てねえ。だが、俺たちは知ってる。お前の『コア(芯)』は、この煮込みの汁より濃いってことをな!」
「……大将……!! ママさん……!! 私、もう迷いませんわ! ヨシヨシされるだけの聖女なんて今すぐデリートして、世界一『定時』にうるさい、最強の職人として、再起動してやりますわぁぁ!!」
私はホッピーを最後の一滴まで飲み干し、二人に固い握手を交わした。
精神世界の空が、白ホッピーのような黄金色に染まり、私の意識は「現実」という名の理不尽なデスマーチへと、力強く復帰していくのであった。




