究極のおもてなし・ビルド。……あるいは、ヨシヨシ・キャンプの罠
「……ふにゃぁぁ……。……ここ、……ここが噂の『バックアップ・サイト』ですか……?」
私は今、隣国の女元帥ヒルデガルド様の私有地にある、通称『ヨシヨシ・キャンプ』の天蓋付きベッドに沈没していた。
そこは、王宮の喧騒から隔離された、究極の「ダウンタイム(休日)」専用施設。
「ええ、そうよリリアーナちゃん。ここでは、難しい数式も、納期も、うるさい婚約者の小言も、すべて『ファイアウォール』の外。……さあ、私が貴女のために特別に醸造させた、四十五年熟成の『ヴィンテージ・ビア』をどうぞ」
「……っ!! ……四十五年……!? ……前世の私の年齢と、……同じ熟成期間……!? ……運命を感じますわぁぁ!!」
ヒルデガルド様が、その鋼鉄のように鍛え上げられた、しかしマシュマロのように柔らかな腕(上腕三頭筋)で私を抱き寄せ、キンキンに冷えた琥珀色の液体を口元に運んでくれる。
「(……ひ、ひゃぅぅっ!! この喉越し、……このホップのキレ……! まるで、……定時直後に駆け込んだ居酒屋の、あの一杯目の衝撃が……全身の細胞に染み渡りますわ……っ!!)」
「うふふ、いい飲みっぷり。……さあ、次は外を見てちょうだい。貴女の大好物……『騎士団による一糸乱れぬパンプアップ・パレード』の開演よ」
バルコニーに連れ出されると、そこには上半身裸の騎士たちが、夕陽を浴びて筋肉を躍動させていた。
「……キ、キレてる……! 全員、……僧帽筋がキレ散らかしていますわ!!」
私は鼻血を噴き出しそうになりながら、ヒルデガルド様の豊かな胸元で白目を剥いた。
そこへ、結界を強引にハッキングして突破してきたフェリクスが、眼鏡を粉砕せんばかりの勢いで駆け込んできた。
「叔母上! 姑息な『接待パッチ』で、リリアーナ様の初期設定(私への婚約)を書き換えるのはやめていただきたい!!」
「あらフェリクス。……貴方、リリアーナを『管理』しようとしていたでしょ? それが最大のバグなのよ。……彼女が求めているのは、管理ではなく『甘やかし』という名のオーバーフローなの」
「クッ……! ならば、……論理的に対抗するまで! ……リリアーナ様、戻ってください! 私が、……私が貴女のために開発した『全自動・肩揉み魔導具(筋肉連動型)』を、……本邸にデプロイしてあります!!」
「フェリクス様。……あの、……そこの騎士たちの……生身の筋肉の方が、……圧倒的に『暖かみ(仕様)』を感じますわ……」
「……っ!? ……リリアーナ様、……まさかの『アナログ回帰』……!?」
フェリクスが膝をつき、絶望のあまり鼻血を噴き出す。
さらに、追いかけてきたアレン王子とカシアン兄様も、「僕の腹筋の方が、あの騎士たちよりエッジが効いているはずだ!(王子)」「リリアーナ! 隣国の元帥に懐くなんて、ベルシュタイン家の誇り(筋肉)を忘れたのか!(兄様)」と、芝生の上でマッスルポーズの競演を始めた。
「……ふにゃぁ。……もう、……みんなで、……ビール(麦酒)を飲んで、……筋肉を眺めればいいじゃない……」
リリアーナの「おっさん本能」が、ヒルデガルド様の「至高のヨシヨシ」によって完全に脱力し、国家間のパワーバランス(という名のヨシヨシ争奪戦)は、さらなる混迷を極めていくのであった。




