隣国の外圧。……あるいは、ヨシヨシのデッドロック
「……ふにゃぁ。……なんだか、もの凄く『いい匂い』がしますわ……」
王宮がジャングル化した翌日。混乱を鎮めるために隣国から派遣された「視察団」を迎える席で、私は背筋に走る未知の震えを感じていた。
それは恐怖ではない。前世の私が、最高品質のプロテインを目の前にした時のような……あるいは、極上のサウナを見つけた時のような、抗いがたい**「誘惑」**。
「リリアーナ様、落ち着いて。……隣国の視察団長は、私の叔母にあたる人物ですが、非常に合理主義な女性です。……変なバグを見せ……」
フェリクスが言いかけるより早く、謁見の間の扉が吹き飛んだ。
「――まあ! この子が、フェリクスを骨抜きにしたという『筋肉聖女』ちゃん!? なんて美味しそうな、いえ、可愛らしいバルク(器)なのかしら!」
現れたのは、隣国の元帥にして「鋼鉄の女豹」と謳われる美魔女、ヒルデガルド夫人。
四十代後半とは思えぬ、ドレスから覗く完成された上腕二頭筋。そして、それ以上に圧倒的なのは、全てを包み込むような「極上の包容力(母性)」のオーラだった。
「(……ひ、ひゃぅぅぅっ!! な、何ですの、あの仕上がった三角筋……! そして、……あの方から漂う、最高級の白檀と、……湿布薬の混ざった『いぶし銀の職人』の香り……!!)」
私の中の「45歳のおじさん(職人)」が、一瞬で陥落した。
私がプルプルと震えながら一歩踏み出すと、ヒルデガルド様は迷いなく私をその「鋼鉄の胸筋」の中へと抱き込んだ。
「ふにゃにゃにゃにゃっ!! ……あ、あぁ……、……ここ、……ここが天国ですわぁぁ……!!」
「うふふ、いい子ね。フェリクスのような理屈っぽい男と一緒にいて、疲れちゃったんでしょ? さあ、叔母様が思いっきり『ヨシヨシ』して、溜まったストレスをリセット(デフラグ)してあげましょうね」
「お、叔母上!? 放してください! リリアーナ様の独占保守権限は私が……!」
フェリクスが慌てて割って入ろうとするが、ヒルデガルド様は鋭い眼光一つで彼を制圧した。
「黙ってなさい、フェリクス。……いい? 男の『管理』なんて、現場の疲れには逆効果なのよ。……リリアーナ、私の別邸に来ない? そこには、貴女が泣いて喜ぶ『最高級の醸造設備(酒蔵)』と、……私が鍛え上げた『若手騎士団の筋肉パレード』があるわよ?」
「……っ!! ……行きますわ! ……今すぐ、……今すぐチェックアウト(亡命)しますわぁぁ!!」
「リリアーナ様!? 待ってください! それは論理的矛盾(裏切り)だ!!」
フェリクスが鼻血を噴き出しながら叫び、アレン王子とカシアン兄様も「母上たちだけで足りないのか!?」「隣国の元帥までライバルになるなんて!」と絶望の叫びを上げる。
こうして、フェリクスが築き上げた「完璧な婚約仕様」は、美魔女という名の強力な「ソーシャル・エンジニアリング」によって、一瞬で崩壊の危機を迎えるのであった。




