表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/100

初デートの仕様。……あるいは、地下ラボの再結晶化

「……ふにゃぁ。……フェリクス様、デートというのは、もっとこう……お洒落なテラスでアフタヌーンティーを楽しむものではなくて?」


私は、暗く湿った石造りの階段を降りながら、困惑の声を漏らした。

ベルシュタイン邸の地下深く。かつて私が「ゴミ(美容液)」を量産していた私設ラボのさらに奥に、フェリクスが「新婚の愛の巣(拠点)」として構築した隠し部屋である。


「リリアーナ様、甘いですよ。……凡百な貴族のデートなど、リソースの無駄遣いに過ぎません。……我々が真に共有すべきは、優雅な時間ではなく、**『未知の反応経路(化学)』と『究極のハードウェア(筋肉)』**への飽くなき探求心のはずだ」


フェリクスが魔法灯を灯すと、そこには王宮魔導院をも凌駕する、最新鋭の魔導実験器具が並んでいた。

特に目を引くのは、部屋の中央に鎮座する、鈍い銀光を放つ巨大な装置だ。


「ひゃぅっ!? ……こ、これは、……魔導遠心分離機・カスタムモデル……!? しかも、……このベアリングの滑らかさ、……職人の手による『手組み』のバルクを感じますわ……!」


私の中の「45歳のおじさん(天才化学者)」が、一瞬で目を輝かせた。

フェリクスは眼鏡を光らせ、私の腰に手を回す――かと思いきや、その手を私の背中の広背筋に添え、指先で筋肉の緊張ログを読み取った。


「ククク……。リリアーナ様、良い反応だ。……さあ、始めましょうか。……二人で新しいアミノ酸の『ビルド(構築)』を。……この遠心分離機に、貴女の魔力と私の論理を流し込み、……世界を揺るがす『真の筋肉増強剤プロテイン』を、今度こそ再結晶させるのです!」


「……っ!! ……やってやりますわ! ……今度こそ、……肌がツヤツヤになるだけのゴミではなく、……私のこの豆腐のような腕を、……鋼鉄に変えるパッチを完成させてみせますわ!!」


私たちは、婚約者らしい甘い空気など一ミリも出さず、狂ったようにフラスコを振り、数式を壁に書き殴り始めた。


「リリアーナ様、第3段階の攪拌に入ります! 筋肉の連動を意識して、レバーを引きなさい!」

「わかっていますわ! ……ふにゃにゃにゃにゃっ!! ……やっぱり、……レバーが、……レバーが重すぎて、……一ミリも動きませんわぁぁ!!」


「くっ、ハードウェア(筋力)のスペック不足か……! 貸しなさい、私が背後から貴女の腕を固定し、外部プロセッサとして同期シンクロします!」


フェリクスが私の背後から重なるように手を添え、二人でレバーを引く。

……端から見れば、密着する若い男女の熱い抱擁。

……しかしその実態は、重すぎるレバーに立ち向かう、「おっさん化学者」と「変態エンジニア」の泥臭い共同デバッグであった。


その瞬間、遠心分離機から目が眩むような黄金の光が溢れ出し、ラボ全体を包み込んだ。


「……完成、……しましたの……?」


期待に胸を膨らませ、私たちが取り出したのは……。

飲むだけで全身が筋肉で爆発するような『究極の薬』ではなく、**「一滴垂らすだけで、どんな枯れ木も一瞬で大輪の花を咲かせ、周囲の空気を極上のアロマで満たす『奇跡の植物活性剤』」**であった。


「…………(真顔)」

「…………(鼻血)」


「……また、……ゴミ(美容系)を作ってしまいましたわ……。……フェリクス様、……これでは私の腹筋は、……一生割れませんわ……」


私は絶望のあまり、フェリクスの胸元で崩れ落ちた。

フェリクスは、その「失敗作」の放つあまりに神々しい美しさに当てられ、鼻血を噴き出しながら私を抱きしめた。


「ククク……。リリアーナ様、……これこそが、……我々の『バグ』の結晶ですよ……」


こうして、婚約してなお「筋肉」への道は遠く、リリアーナの「意図しない聖女化」は、地下深くでさらなる深化を遂げていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ