論理的婚約。……あるいは、独占保守権限の要求
「……ふにゃぁ。……なんだか、胃のあたりがソワソワしますわ……」
王宮魔導院のデバッグ——もとい「筋肉と美肌の改革」が一段落した夜。
私はベルシュタイン邸のテラスで、キンキンに冷えた『ロジカル・ビア』を煽っていた。
美魔女たちに揉みくちゃにされた後のビールは、前世の学会発表後のそれと同じくらい五臓六腑に染み渡る。
「リリアーナ様。……月が、……サーバーの稼働ランプのように美しく輝いていますね」
背後から忍び寄る、聞き慣れた不気味な足音。隣国の変態紳士フェリクスが、いつになく真面目な顔(眼鏡の角度が45度)で立っていた。
「フェリクス様。……お疲れ様ですわ。……貴方の『ヨシヨシ・オークション』のおかげで、……王宮の魔導師たちが、……みんなターミネーターみたいな目で働いていますわよ」
「ククク。……すべてはリリアーナ様の『現場の幸福』のためです。……しかし、私は気づいてしまったのですよ。……現在の私たちの関係には、致命的な『セキュリティ・ホール』があることに」
フェリクスは跪き、私の可憐な——しかし、職人のタコができかけた手をそっと取った。
「ひゃぅっ!? ……な、……何を……?」
「リリアーナ様。……貴女という世界最高の『職人聖女』は、現在オープンソースの状態だ。……アレン王子、カシアン閣下、そして国中の美魔女たち。……誰もが貴女の権限を奪い合い、無理なパッチ(ヨシヨシ)を当てようとしている。……これでは、貴女のシステムがいつかオーバーヒートしてしまいます」
フェリクスは懐から、ベルベットの箱ではなく、**『最高級魔法銀で装飾された誓約の回路(指輪)』**を取り出した。
「……リリアーナ様。……私に、貴女の**『独占保守権限(配偶者資格)』**を譲渡していただけませんか? ……私と貴女のパスワード(人生)を統合し、……外部からの不要なアクセス(無駄な労働)をすべて私がブロック(遮断)してみせましょう。……つまり、私と……『論理的な結婚』をしていただきたい」
私は、ビールを吹き出しそうになった。
……これ、プロポーズですわよね? ……でも、……内容が「セキュリティ対策」のそれですわ。
私の中の「45歳のおじさん(職人)」は、冷静に損得勘定を始めた。
……フェリクス様と結婚すれば、……王子の無茶振りや、兄様の暑苦しい筋肉アピールを、……この男が「仕様外です」と言って全部弾いてくれる……?
……それって、……究極の「定時退社(隠居生活)」への近道ではありませんこと……?
「……フェリクス様。……そのパッチ(結婚)、……私の『ビールの在庫管理』と『二度寝の権利』も……保証されますの?」
「ククク。……言うまでもありません。……貴女はただ、私の隣で『稼働(生存)』しているだけでよろしい。……メンテナンスはすべて、私が生涯をかけて行います」
「……ふにゃぁ。……それなら、……承認……してあげても、……よくってよ」
月夜の下、リリアーナの「定時退社への執念」と、フェリクスの「独占欲」が、一つの契約を結んだ瞬間だった。
だが、この「論理的な判断」が、次話で王宮をも揺るがす**「史上最大のバグ」**を引き起こすことを、この時のおっさん聖女はまだ知る由もなかったのである。




