国家総動員。……あるいは、ヨシヨシ経済のオーバーフロー
「……ふにゃぁ。……なんだか、国中のやる気がバグっていますわ……」
王宮魔導院のラボは、もはや「筋肉と美容の聖域」を超えて、国家の最高意思決定機関(という名のオークション会場)と化していた。
「進捗率80%! 東部防衛ラインの再結晶化、完了しました! 聖女様を膝の上に乗せて『お昼寝』させる権利を要求します!!」
「却下だ! 西部結界の負荷テストを完遂した我らが、聖女様に『耳かき』をしてもらうプライオリティを得ている!!」
かつては納期に怯えるもやしっ子だった魔導師たちが、リリアーナ特製の魔導プロテイン(美肌成分入り)でツヤツヤの筋肉を輝かせながら、血眼になって報告書を叩きつけている。
「(……ああ。……私が求めていたのは、……こういう筋肉の使い道ではありませんわ……)」
私は、王妃様と母上に左右から頬をぷにぷにされながら、虚無の瞳で天井を見上げた。
本来、化学とは、もっと静謐でストイックなもののはず。前世で私が深夜のラボでフラスコと向き合っていた時、そこには「ビールへの渇望」と「筋肉への憧憬」しかなかった。
「ククク……。リリアーナ様、見てください。この驚異的なスループットを。……『ヨシヨシ』という最高のアセットを報酬に設定しただけで、この国の生産性は従来の500%を記録しましたよ」
フェリクスが鼻血を拭った高級な絹のハンカチを振りながら、満足げに集計表を眺めている。
「……フェリクス様。……皆様、……働きすぎですわ。……そんなに詰め込んだら、……精神のバルクが保ちません。……いいですか、……休みなさい。……適正な『定時』という名の結合がなければ、……どんな強固な結界も脆く崩れ去るのですわ」
私が職人の良心から放った、魂の「定時退社勧告」。
だが、それを聞いたフェリクスの眼鏡が、かつてないほど鋭く発光した。
「……聞きましたか、皆様! 聖女様からの追加仕様だ! 『定時までの全リソース投入こそが、最高の結合を生む』! そして『休日のために死力を尽くせ』との福音だ!!」
「「「おおおおお!!! 聖女様のために定時までに終わらせるぞぉぉぉ!!!」」」
「ふにゃにゃにゃにゃっ!? ……ち、違いますわ! ……言葉の意味が、……逆方向にパッチされてますわぁ!!」
私の叫びも虚しく、魔導師たちは「効率」という名の悪魔に取り憑かれたように作業に戻っていった。
もはや、王宮魔導院に「残業」という概念はない。なぜなら、定時を過ぎた瞬間、リリアーナを囲んでの「聖なるヨシヨシ・ティータイム」という名のデバッグ作業が待っているからだ。
「リリアーナ! 僕も定時までに公務を終わらせたよ! さあ、バルクアップした僕の腕枕を試してくれ!(王子)」
「甘いなアレン! 私は既にベルシュタイン領の税収計算を最適化してきた! リリアーナ、今夜のビールは私と一緒に飲むぞ!(兄様)」
……おっさんの私は、悟った。
……この世界、……「真面目な不真面目」が多すぎますわ。
私は、差し出された黄金色の「ロジカル・ビア」をヤケ酒のように煽り、美魔女たちの胸元で「もうどうにでもなれ」と白目を剥くのだった。




