美魔女の進撃。……あるいは、ラボの占領とヨシヨシの嵐
「……ふにゃぁ。……なんだか、地響きが聞こえますわ……」
王宮魔導院のラボ。私は、ゼノス卿に「大円筋を意識した撹拌」を指導していた手を止め、入り口を振り返った。
床に敷き詰めたブラックラバーが、規則正しい、かつ優雅な靴音によって震えている。
「ククク……。リリアーナ様、ついに『エンドユーザー』の方々が、仕様変更を求めてやってきたようですよ」
フェリクスが眼鏡のブリッジを押し上げ、不敵に笑う。
その直後、重厚なオーク材の扉が、魔法(物理)の圧力によって音を立てて開放された。
「……リリアーナ。貴女、こんなところで『もやし』を磨いて遊んでいたの?」
「ひゃぅっ!? ……お、お姉様(母上)!?」
現れたのは、私の母ベルシュタイン伯爵夫人。そしてその後ろには、王妃様を筆頭とした、この国の権力を握る「美魔女軍団」がずらりと並んでいた。
彼女たちの瞳は、新種の宝石を見つけた捕食者のように鋭く光っている。
「聖女様……。魔導師たちの肌が、一晩で『不老の真珠』のように輝き出したという噂、本当でしたのね?」
王妃様が、ツヤツヤになったゼノス卿の頬を扇子でつつく。
ゼノス卿は、デッドリフトの最中だったのか、「あ、あぁ……」と情けない声を漏らしたが、その肌の弾力は二十代のそれであった。
「……あ、あの、……それは失敗作でして。……私はただ、……広背筋を……筋肉を……」
私が必死に弁明しようとした瞬間、王妃様にシュパッと抱き上げられた。
「ふにゃにゃにゃにゃっ!? ……お、王妃様、……苦しいですわ……っ!」
「まあ、可愛いこと! リリアーナ、こんな埃っぽいところで男たちの筋肉を眺めるなんて、身体に毒だわ。さあ、私たちが貴女を『ヨシヨシ』して、溜まった毒素(疲れ)をデバッグしてあげましょう」
「リリアーナ! 母上たちに独占されるのはズルい! 僕もその、……美肌になるスクワットとやらを、君の目の前で披露するよ!(王子)」
「どけ、アレン! リリアーナが求めているのは、完成されたバルクだ!(兄様)」
ラボは一瞬にして、リリアーナを抱っこしたい美魔女たちと、筋肉をアピールしたいイケメンたちによる「リソースの競合状態」に陥った。
「…………(真顔)」
私の中の「45歳のおじさん(職人)」は、美魔女たちの芳醇な香りに包まれながらも、ふと思った。
……これ、国防結界のデバッグ、全然進んでいませんわよね?
「フェリクス様。……この状況を、……何とかしてください。……私は、……早くビール(麦酒)を飲んで、……寝たいのですわ……」
「ククク……。承知いたしました、リリアーナ様。……皆様! 聖女様の『ヨシヨシ権』は、……今後の結界構築の『進捗率』によってオークションにかけられます!!」
フェリクスの最悪な「プロジェクト管理」の声が、混乱の極致にあるラボに響き渡った。




