王宮ビルドアップ。……あるいは、美肌魔導師たちの誕生
「……ふにゃぁ。……ここは、……どこかしら?」
私が目を覚ますと、そこは王宮魔導院の真っ白な診療室だった。
どうやら、50キロの魔力結晶を持ち上げようとして自重で潰れた後、気絶していたらしい。……ゴミ、ゴミですわ、この重力に抗えない虚弱な肉体……。
「リリアーナ様、お目覚めですね。既に貴女の指示通り、ラボの『環境構築』は完了しましたよ」
フェリクスが眼鏡を光らせながら、鼻血を拭ったハンカチをポケットに仕舞った。
導かれるままにラボへ向かうと、そこは数時間前までの「酸えた臭いのするゴミ溜め」から一変していた。
「ひゃぅっ!? ……なんてこと、……なんて効率的な配置!」
床には一面に防音・防振のブラックラバーが敷き詰められ、部屋の四隅には鈍く光る鋼鉄製のパワーラックが鎮座している。
そして中央の作業台には、私が前世の記憶を総動員して書き出した『高純度アミノ酸合成システム(魔導蒸留器連結型)』が、コトコトと黄金色の液体を滴らせていた。
「聖女様! この液体は一体……!?」
現れたゼノス卿ら魔導師たちは、既にフェリクスによって「強制労働」を命じられたのか、生まれたての小鹿のように膝をガクガクさせていた。
「……いいですか、皆様。……化学は、肉体というフラスコの中で練られるもの。……まずはその黄金の液体……私の失敗作を飲みなさい。……筋肉を肥大させるはずが、なぜか魔力の伝導率だけを極限まで高めてしまう、……呪われた栄養剤ですわ」
「なっ……! 魔力の伝導率を!?」
魔導師たちが恐る恐るその液体を煽ると、劇的な変化が起きた。
彼らの土色だった肌が、内側から発光するようにツヤツヤと輝き始め、目の下の隈が消滅したのだ。
「おおお! 身体が軽い! 徹夜明けの脳に、……直接魔力が書き込まれていくようだ!」
「ククク……。リリアーナ様特製の『魔導プロテイン・パッチ』が適用されたようですね。……さあ、リソース(体力)が回復したところで、次の工程……国防結界の再結晶化に入りましょうか」
フェリクスが楽しそうに追い込む中、私はプルプルと震える手で小さなダンベルを持ち上げた。
「……ふにゃぁ……。……皆様、……肌が綺麗になったところで、……次は広背筋を……。……結界の安定には、……揺るぎない背中の『バルク』が必要ですわ……」
私は職人の意地で、彼らの術式と肉体を同時にデバッグしていく。
本人は「今度こそ筋肉を……」と願って配合を変えているのだが、出来上がるのは「飲むだけで10歳若返る」という、王宮の美魔女たちが聞いたら暴動を起こしかねない超高性能な魔導薬品ばかり。
「リリアーナ! 王宮から凄まじい『美のオーラ』が立ち昇っていると聞いて駆けつけたよ!」
「妹よ! 筋肉の聖域を作るならなぜ私を呼ばない!」
そこへ、噂を聞きつけたアレン王子とカシアン兄様が、自分たちの筋肉を見せつけんばかりにラボの扉を蹴破って現れた。
王宮魔導院は、もはや国の防衛拠点ではなく、世界最高峰の「美容と筋肉の聖地」へと変貌しようとしていたのである。




