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聖女、王宮へ。……あるいは、枯れ果てた魔導師たちのビルドアップ

「……ふにゃぁ。……やっぱり、おうちに帰って母上(美魔女)にヨシヨシされたいですわ……」


私は揺れる馬車の窓から、自分の折れそうなほど細い指を見つめて嘆息した。

前世では、ベンチプレス150キロを挙げていたこの手が、今は一輪の花を持つだけで震えかねない。……ゴミ、ゴミですわ、この軟弱な体。筋肉バルクが、前世の貯金の1ミリも残っていませんわ……。


「リリアーナ様、王宮に到着いたしました。これより、この国の『基幹システム』のデバッグ、よろしくお願いいたしますね」


隣国の貴族にして自称・私の保守担当、フェリクスが恭しく扉を開ける。この男、相変わらず何を言っているのか分からないけれど、その涼しい顔の下にある僧帽筋が貧弱なことだけは確かだ。ああ、もったいない。


馬車を降りた瞬間、私の鼻を突いたのは……美魔女たちの芳醇な香りではなく、死にかけの研究室特有の「酸っぱい不純物の臭い」だった。


「ひゃぅっ!? なんてこと……! ここは、大胸筋の墓場ですか……!?」


現れた王宮魔導師たちは、皆、肌は土色で、腕は枯れ木のように細い。

彼らが必死に開発しているという「国防結界」の配合表を見た瞬間、私の中の「45歳のおじさん(天才化学者)」が激しい拒絶反応を起こした。


「……ゼノス卿。……これを書いたのは誰? 反応経路の計算がずさんすぎて、……これでは魔法のエネルギーが触媒を破壊するだけですわ。……これ、爆発の予告状かしら?」


「な、何!? 聖女様、ひと目でそこまで……!」


「それ以前に! 貴方たちのその細腕で、どうやって安定した撹拌かくはんを続けるつもりですの!? 化学まじゅつとは、安定した肉体から生まれる精密な芸術! 筋肉のない者に、真の調合など不可能ですわ!!」


私が憤慨していると、横でフェリクスが眼鏡を光らせ、周囲に「翻訳」を始めた。


「……なるほど。リリアーナ様は仰っているのですよ。……この術式は『スパゲッティ・コード』だと。……ハードウェア(肉体)のスペックを無視した無理なクロックアップは、システム全体のクラッシュを招く。……まずはサーバー(筋肉)の増設から始めるべきだ、とね。……ククク、実にロジカルだ」


「そ、そこまで計算されていたのか、聖女様は……!」


魔導師たちが感嘆の声を上げる。……いや、私はただ、このもやしっ子たちのバルク不足が腹立たしいだけなのですが。


私は思わず、ラボの床に転がっていた「純魔力結晶(重さ50kg)」に手をかけた。

……上がらない。全然上がらない。1ミリも動かない。


「ふにゃにゃにゃにゃっ!? ……お、重力が……重力がバグっていますわ……っ!」


私はそのまま、結晶に押しつぶされるようにして床に白目を剥いて倒れた。


「リリアーナ様!」「お嬢様ーっ!」


倒れ伏しながらも、私はプルプルと震える指で、ゼノス卿の貧弱な足首を指差した。


「……フェリクス様。……今すぐ、王宮の機密予算で『高純度アミノ酸』と『パワーラック』を導入しなさい。……このもやしっ子たちを鍛え直し、私が直接、この『ゴミのような配合』を、最強の結界へと再結晶リビルドさせて差し上げますわ……!」


「おおお! 聖女様による『全自動・物理肉体強化オート・ビルドアップ』が始まるのですね! 素晴らしい、王宮のOSが書き換えられる瞬間だ……!」


フェリクスが鼻血を出しながら喝采を送る中、私は「美魔女の膝枕」という報酬を夢見て、意識を失うのだった。

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