聖女の三重奏(中編)。……真実の泉に浮かぶ「社畜の残滓」
王都近郊にある、嘘をつく者の心身を浄化し、その本性を強制的に投影させる伝説の『真実の泉』。
聖女セレフィナは、リリアーナの仮面を剥ぐため、一行をそこへ連れ出した。
「さあ、リリアーナ様。この泉に手を浸し、祈りを捧げましょう。……もし貴女の魂が、私と同じく清らかな乙女の物であるなら、泉は虹色に輝くはずですわ!」
セレフィナは勝ち誇ったように笑う。彼女は確信していた。この女の奥底にある「淀み」を、泉が暴き出すはずだと。
「……ふにゃぁ。……お水遊びですか? ……いいですけれど……」
リリアーナは、フェリクスの「愛のプラグ」のせいでボーッとしたまま、泉の縁に跪いた。
【真実の泉:スキャン開始】
リリアーナが指先を水面に触れた瞬間、水面が激しく波立った。
「(……来るわ! さあ、正体を現しなさい、おじさん!!)」
しかし、映し出されたのは虹色の光ではない。……それは、**「深夜の実験室の青白いライト」**のような、寒々しい色だった。
「……何だ、この映像は? ……妹の背後に、……巨大な『栄養ドリンクの瓶』の幻影が見えるが……?(カシアン)」
「……いや、見てくれ! 泉の底に、……『昨日までの進捗管理表』らしき幾何学模様が浮かび上がっているぞ!!(アレン王子)」
カシアンとお兄様は、リリアーナから漂う「疲弊した社会人の哀愁」というノイズに、激しい違和感を覚え始めていた。
「(……ククク。……始まりましたね。泉がリリアーナ様の『おっさんスタック領域』をメモリリークさせている……!)」
フェリクスだけが、興奮で計算尺を叩き鳴らしている。
その時、リリアーナがふと呟いた。
「…………ふにゃ。……あのお魚。……あの魚の『歩留まり』を考えると、……三枚に下ろして塩焼きにするのが、……一番コストパフォーマンスが……高いですわね……」
「……歩留まり!? ……コスト……!?(セレフィナ)」
「……そして、……この泉の水の硬度……。……これは、……焼酎の水割りに……、最適……。……あ、いえ。……お紅茶に、……最適ですわ……」
リリアーナの口から漏れ出す、隠しきれない「加齢臭のするワードセンス」。
アレン王子が、思わず彼女の肩を掴んだ。
「リリアーナ! 今、焼酎と言ったか!? 君は酒など飲まないはずだ! しかもその、……『仕事終わりの一杯』を想起させるような、……深い溜息は何だ!!」
「……あ、アレン様。……それは、……その、……聖女としての、……世俗への理解でして……」
リリアーナは必死に「美少女プログラム」を再起動しようとするが、泉の影響で脳内の「おっさん化学者」が**「……ったく、仕様変更なら、前日までに言えよ……」**という呪詛を、聖女の微笑みの裏で小刻みに念じ始めていた。
「……気づき始めましたか、殿下、カシアン殿。……彼女の聖女オーラとは、……『徹夜を乗り越えた後のハイテンション』。……彼女の慈愛とは、……『後輩のミスを渋々フォローするベテランの諦め』……!!」
フェリクスが熱弁を振るう中、セレフィナは叫んだ。
「……やっぱり! 貴女、やっぱり中に『疲れたおじさん』を飼っていますわね!! ……この泉の水が、……さっきから貴女の足元で、『湿布薬』の匂いに変わっていますもの!!」
「……ふにゃ!? ……し、湿布……!? ……そんな、……私の体から、……サリチル酸メチルの香りがするなんて……っ!!」
リリアーナは屈辱に震えた。
しかし、その震える姿ですら、泉の光を反射して「あまりにも神々しい」ため、周囲の騎士たちは「ああ、リリアーナ様が薬草の香りを放っておられる……!」と、さらに勘違いを深めていく。




