聖女の三重奏(前編)。……愛と論理と、筋肉の不協和音
ベルシュタイン邸の応接室は、今、一触即発の「静かなる戦場」と化していた。
中央に座るのは、フェリクス謹製の「愛の同調器」を付けられ、フェリクスの愛の囁きを脳内に直接流し込まれ続けている究極美少女・リリアーナ。
彼女はあまりの精神的疲労に、ただただ虚空を見つめて微笑んでいる……ように見えた。
「……フェリクス。……いい加減に、その薄汚い変態魔導具を妹の耳から外したらどうだ? ……僕の『愛のララバイ』が妹に届かないだろうが」
お兄様が、鞘走る魔剣の柄に手をかけ、フェリクスを睨みつける。
「……フン。……カシアン殿。貴方の愛は非論理的で重すぎる。……リリアーナ様には、私の計算された周波数(囁き)こそが相応しい」
フェリクスは鼻血を拭いもせず、冷徹に眼鏡を光らせた。
「二人ともやめないか! リリアーナが困っているだろう! ……さあ、リリアーナ。……僕が新しく開発した『プロテイン入り特製香水』の香りを嗅いで、正気を取り戻すんだ!」
アレン王子が、筋肉をパンプアップさせながら強引に割り込む。
「(……ああ……。……お兄様、王子様。……何も聞こえませんわ。……フェリクス様が、さっきから私の耳元で『貴女の鎖骨の傾斜角を24時間監視したい』とか、……そんなことばかり仰っていて、……意識が、意識が遠のきますの……っ!!)」
リリアーナが白目を剥きかけたその時。
「――失礼いたします。……ベルシュタイン家の『自称・聖女』様にお目にかかりに参りました」
扉を蹴り開けるような勢いで現れたのは、隣国ゼノスの**「本物の聖女」セレフィナ**だった。
【隣国の聖女:セレフィナ】
彼女は正真正銘、神の加護を受け、その身から清らかな浄化の光を放つ本物の聖女。しかし、彼女がリリアーナを見た瞬間、その表情が「驚愕」と「嫌悪」で歪んだ。
「(……な、なんですの、この女は!? ……放たれている『聖女オーラ』の純度が、私より遥かに高い!? ……なのに、……なのに、なぜかしら……!!)」
セレフィナは、リリアーナから漂う微かな違和感に、本能的な恐怖を感じた。
「(……この女、……一見すると可憐な乙女なのに。……その魂の深淵から、……**『使い古された白衣の臭い』と『徹夜明けのカップ麺の情念』**のような、……薄汚れた中年男性の気配が、……私にだけ、ノイズのように聞こえてきますわ……!!)」
「……セレフィナ殿。……我がリリアーナ様に、何か御用かな?」
フェリクスが、リリアーナの肩を抱く(変態的な手つきで)。
「……フェリクス様。……この方、……確かに聖女の素質はあります。……認めざるを得ないほどに。……でも、……でも、絶対に認められませんわ!! ……この方の瞳の奥には、……乙女の初恋ではなく、**『納期に追われる技術者の殺意』**が隠れていますもの!!」
「……リリアーナ? ……どういうことだい?(王子)」
「……妹よ、……セレフィナ殿が言うことは本当か? ……僕の知らないおじさんが、……君の中にいるのか?(兄)」
カシアンとお兄様が、リリアーナの「聖女の仮面」の下にある微かな揺らぎに、ざわつき始める。
だが、フェリクスだけは確信していた。
「(……ククク。……気づいたか、本物の聖女よ。……今のリリアーナ様は、外見という『ハードウェア』が最高出力になった、……中身が45歳の『ソフトウェア』だ。……そのアンバランスさこそが、……私の変態紳士としての探究心を、……無限に加速させる……!!)」
「……ふにゃぁ。……皆さま、……喧嘩は、……喧嘩はやめて……。……私、……ただ、……寝かせてほしいだけですのよ……」
リリアーナの放った「諦めの吐息」が、プラグの影響で、**「……争いは、悲しみしか生みませんわ。……皆さまを、……愛しています」**という超広域・慈愛パルスとなって炸裂。
応接室は、全員が感涙し、セレフィナだけが「認めたくないのに、あまりの聖女っぷりに膝をつく」という、カオスな状況に陥った。




