変態紳士の最適解。……耳元で囁く「愛のコンパイラ」
魔族との死闘(という名の茶番)から一夜。
ベルシュタイン邸には、いつもの穏やかで……どこか狂った空気が戻っていた。
リリアーナは今、鏡の前で困惑していた。
「……ふにゃぁ。……なぜかしら。朝起きたら、お肌が以前の百倍くらいツヤツヤで……。……なんだか、歩くたびに背後から後光が漏れ出ている気がしますわ」
筋肉を拒絶し、「おっさん成分」が冬眠したことで、彼女の「美少女リソース」が100%外見へと振り分けられてしまったのだ。今の彼女は、立っているだけで国が傾くレベルの**「究極の可憐」**へと進化していた。
そんな彼女の前に、恭しく跪く男が一人。
「……おはようございます、我が至高の未完成品(リリアーナ様)。……貴女のその『無垢』な姿を維持するため、最高のデバイスを用意しました」
フェリクスである。
彼は昨日死にかけていたとは思えないほど、パリッとした燕尾服に身を包み、眼鏡を不気味なほど発光させていた。
「……フェリクス様。……それ、何ですの? ……なんだか、ピンク色の悪魔の角のような、……不吉な形をしていますけれど……」
【フェリクス製:論理的愛の同調器】
「これは貴女の聴覚を『最適化』する魔導具です。……今の貴女は、下俗な筋肉共の喚き声を聞く必要はない。……このプラグを装着すれば、貴女の耳には**『私の愛の囁き』と『論理的な計算式』**以外、一切届かなくなります」
「……えぇっ!? ……そんなの、困りますわ!」
「……問答無用です。……これが、私の導き出した『貴女を守るためのデバッグ』なのだから……ッ!!」
フェリクスは、リリアーナが逃げる前に、流れるような変態的動作(マッハの壁を超える速さの膝つき移動)で、彼女の耳にそのプラグを装着した。
その瞬間。
「……っ!? ……あ、あぁ……。……フェリクス様の声が、……脳内に直接、フルボリュームで……っ!!」
「(……さあ、リリアーナ様。……まずは今日の私の愛の指数を、……フーリエ変換した音声で聞き続けるがいい。……愛しています。……愛しています。……貴女のその、筋肉を失って脆弱になった毛細血管の隅々まで、……愛しています……)」
「……ひゃあああ!! ……耳が、……耳の中がフェリクス様の変態的な声でいっぱいですわ!! ……誰か、……お兄様! 助けて!!」
リリアーナが泣きながら廊下を走る。
しかし、彼女が助けを求めて叫べば叫ぶほど、プラグの効果で彼女の**「聖女的カリスマ」**が周囲に増幅されて放出されてしまう。
「(……ああっ! リリアーナ様が、僕の名前を呼びながら、……頬を赤らめて走っている! ……なんて、なんて神々しいんだ……!!)」
廊下で掃除をしていたテオが、彼女の放つ後光に当てられて昇天する。
「(……嫌ですわ、テオ! 掃除機(手動)でフェリクス様を吸い取って!!)」
……とリリアーナが言ったつもりでも、周囲にはプラグの干渉により、
「……ああ、テオ……。貴方の掃除する姿、……まるで天使の羽ばたきのようですわ……」
という聖女ボイスに変換されて響き渡る。
「……リリアーナ様ぁぁぁ!!(感動の涙で溺れる使用人たち)」
「……フフ。……素晴らしい。……私の囁きでリリアーナ様が悶絶し、……その余波で周囲が勝手に救済される。……これぞ、……これぞ私の描いた『変態紳士のユートピア』……!!」
フェリクスは鼻血を出しながら、計算尺で彼女の「悶え方」を計測し続けていた。
筋肉は消えた。……しかし、代わりに**「リリアーナの聖女化」と「フェリクスの変態化」**が、化学反応を起こして爆発し始めたのである。




