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禁忌の共鳴。……理性が砕ける音と、終焉の数式

「……ククク、ハハハハ!! 化学だと? 論理だと!? 笑わせるな、小僧ッ!!」


デーモン・ヴァルガスが、自壊した右腕を無理やり掴み、自らの胸元へと突き刺した。


彼が繰り出したのは、魔界でも禁忌とされる自己供犠魔術――『魂の過負荷オーバークロック・サクリファイス』。


「あの女の『筋肉の理』が通じないのなら、理屈など届かぬほどの圧倒的な『暴力』で、この屋敷ごと消し去ってくれるわ!!」


ヴァルガスの肉体が、生物の限界を超えて膨張を始める。それはもはや美しい筋肉などではない。血管は千切れ、皮膚は裂け、ただ「破壊」のためだけに脈動する、赤黒い肉の塊。


同時に、サキュバス・ルナリスが詠唱を開始した。


「……リリアーナ。貴女の『中身』が異世界の男だというのなら……その魂の『歪み』を増幅させ、この屋敷全体を異次元の狭間へ道連れにしてあげるわ!」


二人の魔族が放つ、論理の外側にある「負のエネルギー」。


フェリクスの演算器が、警告音を鳴らしながら火花を散らす。


「(……いけない。……計算が追いつかない。……魔力の指向性が『カオス(混沌)』に転じている。……私の『おっさんプロトコル』は、あくまで合理的な化学反応が前提だ。……理不尽な破壊を前にしては……ッ!)」


「フェリクス様! 結界が……結界が持ちませんわ!」


ミリーの叫び。テオは既に魔力の反動で膝を突いている。


フェリクスは、リリアーナの寝室の扉を背にし、震える指で最後のコマンドを入力した。


彼が選んだのは、リリアーナの中身である「45歳の化学者」が、かつて前世の末期に抱いていたであろう、最も暗く、最も深い感情の抽出。


【禁忌:過労死デッドワーク・シンドローム】

「……リリアーナ様。……貴女が、この知識の果てに何を見たのか……。……私にも見せてください。……世界を救う『愛の筋肉』ではなく、……すべてを灰にする『理性の絶望』を……!!」


フェリクスの魔力が、ドス黒く変質する。


彼の背後に立つ「45歳のおっさん」の幻影が、ゆっくりと目を見開いた。その瞳には、徹夜続きの実験、報われない研究、そして孤独な最期……そんな「負の歴史」が、呪詛となって渦巻いている。


「――全事象、冷却停止フリーズ。……私の視界から、熱量を奪え」


フェリクスの言葉と共に、屋敷内の温度が急激に下がり始めた。


爆発しようとしていたヴァルガスの肉体が、細胞レベルで「凍結」していく。それは氷ではなく、「化学反応そのものの停止」。


だが、代償は大きかった。


フェリクスの意識が、リリアーナの「おっさんの闇」に飲み込まれ、自我が崩壊しかけていた。


「(……ああ。……暗い。……冷たい。……リリアーナ様。……貴女は、こんな孤独な計算を、……一人で続けていたのですか……?)」


フェリクスがゆっくりと倒れ込む。


魔族たちは凍りつき、守護者たちは力尽きた。


静寂。

絶望的なシリアスの頂点。

……その時。


静まり返った廊下に、カチッ、と。


リリアーナの寝室の扉が開く音が、不自然なほど軽やかに響いた。

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