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聖女不在。……深淵より来たる者と、論理の剣

ベルシュタイン邸を包む空気は、もはや薔薇の香りもプロテインの匂いもしない。


そこにあるのは、上位魔族が撒き散らす「死」と「腐敗」の魔力のみ。


リリアーナが寝室で深い昏睡に落ちている間、結界を突破したサキュバス・ルナリスとデーモン・ヴァルガスは、目前に立ちはだかる「少年一人と子供二人」を、冷笑と共に蔑んでいた。


「……あのアホな女がいないのなら、この屋敷はただの屠殺場よ」


ルナリスが指先から、精神を崩壊させる紫の魔弾を放つ。


「ミリー、重力偏向グラビティ・シフト! テオ、衝撃分散ベクター・ディフェンス!」


フェリクスの鋭い号令が飛ぶ。双子は言葉を発することなく、リリアーナから叩き込まれた「人体の急所と魔力の流動」を応用した防御陣を展開。魔弾をミリ単位で受け流した。


「……計算通りだ。……だが、継戦能力は残り120秒が限界か」


フェリクスは鼻血を拭うことすら止め、手元にある自作の魔導演算器に、ある**「特異的なデータ」**をロードし始めた。


「……フェリクス様、あれを使うのですか?」


テオが顔を強張らせる。


「……ああ。リリアーナ様の『正体』……あの異常なまでの筋肉への執着と、この世界には存在しない高度な化学理論。……それを、私の演算器の**OS(基幹システム)**として強制同期させる」


それは、フェリクスが独自に解析した**「リリアーナの中身=45歳の独身化学者」**の思考プロトコルそのものだった。


「――システム・リンク。『45yo-Chemist-Logic』。……起動」


刹那、フェリクスの瞳から感情が消え、機械的な光が宿った。


彼の視界は今、世界を「物質の結合」と「エネルギーの効率」だけで捉える、冷徹な化学者のそれへと変貌していた。


「……ヴァルガス。貴方の腕、……二頭筋と三頭筋の連動率が、化学的な不純物によって0.8%低下している。……その隙間バグに、私の論理を流し込む」


「何を抜かして……ガッ!? あ、あぁぁぁぁ!!?」


ヴァルガスが踏み込んだ瞬間、その剛腕が内側から爆発した。


フェリクスが放ったのは、攻撃魔法ではない。ヴァルガスの体内にある「魔力触媒」の結合式を、リリアーナ(おっさん)の理論に基づき、**「強制的に過剰反応オーバーヒートさせる」**干渉プログラム。


「……リリアーナ様、いや……『彼』の思考によれば、筋肉とは単なる肉の塊ではない。……それは、生命が紡ぐ最も効率的な化学エンジンだ。……そのエンジンに、私が最適解デス・コードを書き込んだ」


フェリクスは、リリアーナの正体を「おっさん」という存在ではなく、**「完成された無慈悲な数式」**として武器に変えたのだ。


「……化け物め。……あのアホな女以上に、貴様、中身が冷酷すぎるわ……!」


ルナリスが恐怖に顔を歪める。


「……冷酷? ……いいえ。……これが、私たちが愛した『彼女』が隠し持っていた、真実の重みです」


フェリクスの背後に、幻影が見える。

白衣を纏い、疲れ切った表情でフラスコを見つめる、一人の45歳の男の影。


その影が、フェリクスの指の動きと重なり、次なる「滅びの数式」を空中に描いていく。


「(……リリアーナ様。……貴女がこの重すぎる知識を『ふにゃにゃ』という笑顔で隠し、平穏を望んでいたというのなら……。……私は、その闇をすべて背負って、敵を屠る猟犬になりましょう)」


笑いなき戦場。


少年は、美少女の中に眠る「おっさん」の知恵を、最凶の魔術へと昇華させていった。

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