純真なる信奉者。……双子が捧げる「禁断のプロテイン・スイーツ」
フェリクスは、リリアーナの屋敷の庭で頭を抱えていた。
「……理解不能だ。物理的刺激も論理的刺激(数式)も通用しない。……リリアーナ様のOSは、もはや『可憐な令嬢』という鉄壁のファイアウォールに守られている……」
そこへ、バタバタと駆け寄る二つの影があった。
「フェリクス様! リリアーナ様が大変だと聞きました!」
「僕たちの聖母が、筋肉を怖がっているなんて嘘ですよね!?」
成長したミリーとテオである。二人の瞳には、相変わらずリリアーナへの狂信的な輝きが宿っていた。
「……君たちか。……ちょうどいい。彼女の『食欲』……いや、『栄養摂取本能』から攻める。……これを使いなさい」
フェリクスが二人に渡したのは、彼が開発した最新の**『魂の再起動・フレーバー』**。一滴で鶏肉10キロ分の成分を凝縮した、超高濃度アミノ酸エキスだ。
「これを、リリアーナ様が好む『可愛らしいお菓子』に混ぜるんだ。……香りは偽装してある。……一口食べれば、彼女の血中の窒素濃度が跳ね上がり、休止中の化学者脳が強制起動するはずだ」
「わかりましたわ! リリアーナ様の大好きなマカロンに混ぜますわね!」
「僕たちの愛を込めて作ります!」
数分後。
テラスで優雅に刺繍をしていたリリアーナの元へ、双子が「特製マカロン」を運んできた。
「リリアーナ様! 私たちが作りましたの! 召し上がって?」
「……あら、ミリーにテオ。……ふにゃぁ。……なんて可愛らしい色のお菓子かしら。……いただきますわ」
リリアーナが、疑いもせずマカロンを一口。
その瞬間。
「…………ッ!!?」
リリアーナの背筋が、落雷に打たれたように直立した。
可憐な令嬢の瞳の奥で、「45歳の化学者」の残像が高速で点滅し始める。
「(……この、……この圧倒的なグルタミン酸の奔流。……そして、後味に残る微かなバリン、ロイシン、イソロイシンの黄金比……。……脳内のセロトニンが、……スクワットを開始している……!?)」
「お嬢様!? お顔が真っ赤ですわよ!」
サーシャが叫ぶが、リリアーナは止まらない。
彼女は無意識に、テーブルに置いてあった刺繍用の針を手に取り、空中に**「高速で数式」**を刻み始めた。
「……ふにゃ。……不純物(砂糖)の混入率が、……同化効率を阻害していますわ。……この結合定数では、……大胸筋へのデリバリーが、……0.3秒遅れる……っ!!」
「キ、キタァァァ! リリアーナ様の『おっさんモード』がコンパイルされたぞ!!」
フェリクスが狂喜して叫ぶ。
しかし、ここからがフェリクスの「悪影響」だった。
彼が作ったエキスには、リリアーナの知識を戻すための副作用として、**『摂取した者の周囲の物質を、強制的にマッチョ化させる魔力的共鳴』**が仕込まれていたのだ。
「……ふにゃ!? ……見て、フェリクス様! 庭のひまわりが!!」
リリアーナが指差す先では、マカロンから漏れ出た魔力により、庭中の花々が茎を太くし、花びらを広背筋のように隆起させ、土から根を引き抜いてポージングを始めていた。
「……お、お花が……マッスル・ポーズを決めておられる……。……なんて、……なんて不気味で、……マニアックな光景かしら……っ!!」
リリアーナは、戻りかけた化学者脳と、現在の「筋肉嫌悪」の狭間で激しくパニックを起こし、そのまま白目を剥いて卒倒してしまった。
「リリアーナ様ぁぁぁ!!」
「……チッ。……花への影響が強すぎましたか。……やはり、私の計算と彼女の『愛』では、変数の扱いが違うのか……」
フェリクスのアイテムのせいで、ベルシュタイン邸の庭は一晩にして**「マッチョな植物が歩き回る禁断の森」**へと変貌し、王都の怪談として広まることになるのであった。




