聖域への挑戦状。……数式を解き、プロテインの海を泳ぐ男
それは、アレン王子が数ヶ月前から「リリアーナ嬢、今度の夜会にはぜひ僕のエスコートで!」と粘り強く交渉し、ようやく勝ち取った念願の夜会……のはずだった。
しかし、当日。隣国との通商条約を巡る急な不祥事により、王子は泣きながら執務室に監禁された。
「リリアーナ嬢……! 僕のいない間に、悪い虫(細マッチョ)がつかないといいけれど……!」
代役として、鼻息荒くエスコート役に就いたのはお兄様である。
「安心しろ殿下。リリアーナの隣に立つのに相応しいのは、王冠よりもバルク(厚み)だ」
お兄様は上腕三頭筋をこれでもかとパンプアップさせ、リリアーナを夜会へと連れ出した。
その会場で、事件は起きた。
窓際で「(……ああ、あのシャンデリアの重さなら、広背筋のトレーニングに丁度いいですわ……)」と物思いに耽るリリアーナの横顔に、落雷に打たれたような衝撃を受けた男がいた。
隣国の青年貴族、フェリクスである。
だが、彼はただの貴族ではなかった。若くして数理魔導学の博士号を持つ、変態的なまでの「理系の天才」だったのだ。
第一の壁:筋肉(お兄様)の検閲
翌日から、リリアーナの元には毎日、フェリクスからの「文」が届いた。
門で待ち構えるお兄様は、鼻で笑ってそれを手に取る。
「……ふん。またあの男か。……な、なんだこれは? 恋文ではないのか?」
そこには、リリアーナが以前適当に書き残した**『愛の積分公式』をベースにした、複雑怪奇な魔導数式**がびっしりと書き込まれていた。
「……『Δ Protein = ∫ (Sister_Love) dG』……。この式の一般解において、変数(愛)を恋慕に置換した場合の蛋白質増分について……? 読めん! 筋肉に悪そうな文章だ、却下!」
お兄様は破り捨てたが、フェリクスは止まらなかった。彼は数式を通して、リリアーナの「魂の言語」に触れていたのだ。
第二の壁:狂気の侵入とプロテインの洗礼
夜。フェリクスは王子の警備網を、数理的な「死角計算」によって突破。ついにリリアーナの窓辺へと辿り着いた。
だが、そこにはリリアーナ特製の**「超撥水・超潤滑コーティング剤」**が。
「……うわあああぁぁぁ!? 摩擦が……摩擦係数がゼロだああぁぁ!!」
フェリクスは、リリアーナが愛用する「プロテイン噴水」へと真っ逆さまにダイブした。
駆けつけたお兄様と、政務を部下に押し付けて血走った目で現れたアレン王子が、噴水の中で溺れるフェリクスを囲む。
「不審者め。貴様の恋路もここまでだ(王子)」
「リリアーナへの接近は、死を意味すると思え(お兄様)」
第三の壁:数式という名の通行証
絶体絶命の瞬間。ずぶ濡れのプロテインまみれで、フェリクスは窓辺のリリアーナを見上げて叫んだ。
「リリアーナ様! 貴女の式は不完全だ! 重力(dG)による積分だけでは、心筋の収縮による代謝上昇を説明できない! 必要なのは、外部熱量としての『情熱(Passion)』を加えた多重積分です! 私はそれを……貴女と証明したい!」
その瞬間、窓が勢いよく開いた。
「……ふにゃ!? ……今、……多重積分と言いましたわね!? 私の『バルク最適化理論』のミッシングリンクを……!!」
リリアーナは、王子やお兄様の制止を振り切り、身を乗り出した。
その瞳は、恋する乙女のそれではなく、**「世紀の難問を解くヒントを見つけたマッドサイエンティスト」**の輝きだった。
「お兄様、王子様、その方を捕らえて……いえ、保護してくださいな! その方は不審者ではありません! 私の……私の『筋肉計算』をアップデートできる、唯一の移動式計算機候補ですわ!」
こうして、フェリクスは「不審者」から「リリアーナ公認の共同研究者」へと昇格した。
「リリアーナ様、今日のプロテインの配合比、統計学的には3.2%ほどロイシンが不足しています」
「……ふにゃ。流石フェリクスさん、いい計算ですわ」
「……おい貴様、リリアーナに近づきすぎるな!(王子)」
「……数式にかこつけて妹の横に座るな!(お兄様)」
恋敵(王子・兄)からの殺気(筋肉圧)を、すべて「……ふむ、この威圧感は計算式の変数に組み込めますね」と眼鏡を光らせて受け流す、鋼のメンタルを持つ天才フェリクス。
ベルシュタイン城に、また一人、リリアーナの「筋肉の深淵」を加速させる厄介なレギュラーが加わったのであった。
「(……ふにゃにゃにゃにゃ。……これで私の理論は完璧に近づきますわ。……逃がしませんわよ、フェリクスさん……!)」




