漆黒の光沢、そして「夜の革命」。……筋肉から生まれた愛の形。
「……ふにゃぁ。……何か、何かが足りませんわ。……形は整ってきましたけれど、あの『ステージ上の眩い輝き』が……」
虚弱な美少女として療養中のリリアーナは、鏡を見て溜息をついた。
彼女が求めているのは、前世で見た**『全身を漆黒に染め上げ、スポットライトを弾き返す、極限まで塗りたくられたポージングオイルの輝き』**。
「……そうだわ。コーティングすれば良いのですわ。……ヌルリと、そしてテカテカに!」
リリアーナは早速、魔導化学のペンを走らせた。
主成分は、皮脂が異常に発達した魔物『オイル・サラマンダー』の抽出液。これを魔力で安定させ、超速乾性を持たせた**『至高の黒光り(シャイニング・ブラック)コーティング剤』**の設計図を完成させた。
「……皆さま。……私の研究のために、この魔物を採取してきてくださる?」
リリアーナのその儚げな頼みに、騎士団は色めき立った。
「……リリアーナ様、あのような脂ぎった不気味な魔物を何に……?」
「……もしや、お肌の乾燥を防ぐため? ……あるいは、……秘められた儀式に?」
騎士たちは「可憐な聖女が脂まみれの魔物を欲しがる理由」を勝手に妄想し、「リリアーナ様がお肌をツヤツヤにするための『聖なる油』を手に入れるのだ!」と鼻息荒く魔物を狩り尽くしてきた。
数日後、完成した試作品。
リリアーナは、実験台として協力(強制)させたお兄様に、それを一気に塗りたくった。
「……ふふ、お兄様。……じっとしていてくださいな。……あぁ、いいですわ。……このヌルテカ感……」
「……リリアーナ。……なんだか、全身がラップで包まれているような、不思議な感覚なのだが……」
乾いた直後、そこには**「驚異的な光沢を放つ、真っ黒にテカり輝く若旦那様」**が立っていた。
血管の浮き出しさえも反射するその姿は、前世のボディビル大会そのもの。
しかし、リリアーナは首を横に振った。
「……ふにゃ。……違いますわ。……これじゃないですわ。……ただ黒光りしているだけで、……魂の震えが足りませんわ。……単なるモノマネじゃ、……ふにゃにゃにゃにゃ……」
納得のいかないリリアーナをよそに、この「副産物」の有用性に気づいた者がいた。
屋敷を訪れていた城の魔導師である。
「……な、なんだ、この驚異的な撥水性と伸縮性は……!? 水を一滴も通さないばかりか、魔力すら弾く薄い皮膜……。……それに、驚くほど滑らかで、摩擦がゼロに近い……!」
魔導師は確信した。これは、戦の道具ではない。
もっと身近で、もっとプライベートな……**「夜の平和」**を守るための道具であると。
そのコーティング剤は、その後、城の研究室で「非常に薄く、しかし絶対に破れない袋状」に加工され、王国中に広まった。
これまで不安と共にあった夜の営みに、「安心」と「計画性」という名の光が差したのだ。
「……あぁ、なんて素晴らしい発明なんだ! これで夜の街も、家庭の寝室も、愛と平和で満たされる!」
「ベルシュタイン様は、私たちの『夜の安らぎ』まで考えてくださったのね……!」
街の人々は、リリアーナへの感謝をさらに深めた。
**「人は、可愛い(リリアーナ)と、エロ(安心できる夜)には勝てない」**という真理が、歴史に刻まれた瞬間だった。
リリアーナ本人は、「(……私が求めたのはステージ上のバルクなのに、……なぜか寝室の必需品を生み出してしまいましたわ……。……ふにゃにゃにゃにゃ……)」と、窓の外を眺めて遠い目をしていた。
なお、このコーティング剤が後に「雨具」や「防水塗装」として国家のインフラを支える大発明となるのは、また別のお話である。




