沈黙の晩餐。……お姉様方の深読みは、銀河の果てまで
昨日の学園での沈黙。
それが「陛下への無言の抗議」あるいは「次なる進化への黙想」と受け取った国王は、恐れおののき、急遽「至高伯爵を慰める昼食会」を開催した。
豪華な円卓には、王妃を筆頭に、公爵夫人から子爵家の令嬢まで、社交界の重鎮たる「お姉様方」が勢揃いしていた。
そして、その中心に座るリリアーナは――今日も、一言も喋らなかった。
「(……ふにゃぁ。……昨日の寝不足が祟って、まぶたの筋肉が随意筋から不随意筋に移行しそうですわ……。……一言でも喋ったら、そのまま寝落ちしてしまいそうですわ……)」
リリアーナはただ、一点を見つめ、静かに、そして美しく固まっていた。
だが、その「静寂」がお姉様方の脳内フィルターを通ると、恐ろしい解釈に変換される。
【公爵夫人と侯爵令嬢:政治的深読み】
「(……見て。あの冷徹なまでの静けさ。……きっと、私たちが今朝食べたサラダの『タンパク質含有量の低さ』に、言葉を失うほど失望していらっしゃるのよ。……ああ、なんてこと。……今すぐ厨房に、鶏ささみのポタージュを追加させなくては!)」
【子爵家の令嬢たち:聖域への畏怖】
「(……リリアーナ様がまばたき一つなさらないのは、今この瞬間も、視神経の裏側で『細胞分裂の最適解』を計算していらっしゃるからだわ……。……私たちのような凡俗が声をかけて、その神聖な思考を乱してはならないわ!)」
【王妃:母性という名の勘違い】
「(……リリアーナ嬢。……貴女は、言葉などという不確かな道具を捨て、魂の『振動』だけで私たちと対話しようとしているのね。……ええ、分かっているわ。……貴女が求めているのは、甘いお菓子ではなく、鉄分と亜鉛に満ちた『剛健な未来』なのね……!)」
昼食会の終盤。リリアーナはただ、無言のまま、テーブルに置かれたクリスタルの水差しを指差した。(※実際は「水が飲みたい」だけだった)
だが、それを見た公爵夫人が立ち上がり、絶叫した。
「……分かりましたわ! リリアーナ様は、『この水のように透明で、淀みのない筋繊維』を全国民に義務付けよと仰っているのですわ!!」
「「「おおおぉぉ……!!(感動の嵐)」」」
リリアーナが次に、少し肩を回した。(※実際は「肩が凝った」だけだった)
それを見た子爵令嬢が涙ながらに叫んだ。
「……なんてこと! 『肩甲骨の可動域こそが、自由の象徴だ』と仰っているのね! 私たちお姉様方も、コルセットを捨てて大円筋を育てるべきだという啓示ですわ!!」
「(……ふにゃぁ。……皆さま、さっきから何を騒いでいらっしゃるのかしら……。……でも、騒がしくて逆に目が覚めてきましたわ)」
ようやく意識がはっきりしてきたリリアーナが、挨拶のために口を開こうとした――その瞬間。
「……リリアーナ様! 言わないで! 貴女の仰りたいことは、すべてこの『筋肉』に届いておりますわ!」
お姉様方は一斉に立ち上がり、ドレスを翻して叫んだ。
「……明日から、学園の庭園は『マッスル・パラダイス』に改造させます! 噴水からはプロテインが湧き出し、ベンチはすべてベンチプレス台に置き換えますわ!!」
リリアーナは、ついに一言も発することができないまま、昼食会は「人類マッチョ化宣言」の採択をもって閉幕した。
彼女がようやく「……ふにゃ。……お水、美味しかったですわ」と呟いたのは、すでに誰もいなくなった無人の広間でのことだった。




