表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/100

沈黙の晩餐。……お姉様方の深読みは、銀河の果てまで

昨日の学園での沈黙。

それが「陛下への無言の抗議」あるいは「次なる進化への黙想」と受け取った国王は、恐れおののき、急遽「至高伯爵を慰める昼食会」を開催した。


豪華な円卓には、王妃を筆頭に、公爵夫人から子爵家の令嬢まで、社交界の重鎮たる「お姉様方」が勢揃いしていた。


そして、その中心に座るリリアーナは――今日も、一言も喋らなかった。


「(……ふにゃぁ。……昨日の寝不足が祟って、まぶたの筋肉が随意筋ずいいきんから不随意筋ふずいいきんに移行しそうですわ……。……一言でも喋ったら、そのまま寝落ちしてしまいそうですわ……)」


リリアーナはただ、一点を見つめ、静かに、そして美しく固まっていた。


だが、その「静寂」がお姉様方の脳内フィルターを通ると、恐ろしい解釈に変換される。


【公爵夫人と侯爵令嬢:政治的深読み】

「(……見て。あの冷徹なまでの静けさ。……きっと、私たちが今朝食べたサラダの『タンパク質含有量の低さ』に、言葉を失うほど失望していらっしゃるのよ。……ああ、なんてこと。……今すぐ厨房に、鶏ささみのポタージュを追加させなくては!)」


【子爵家の令嬢たち:聖域への畏怖】

「(……リリアーナ様がまばたき一つなさらないのは、今この瞬間も、視神経の裏側で『細胞分裂の最適解』を計算していらっしゃるからだわ……。……私たちのような凡俗が声をかけて、その神聖な思考バルクを乱してはならないわ!)」


【王妃:母性という名の勘違い】

「(……リリアーナ嬢。……貴女は、言葉などという不確かな道具を捨て、魂の『振動』だけで私たちと対話しようとしているのね。……ええ、分かっているわ。……貴女が求めているのは、甘いお菓子ではなく、鉄分と亜鉛に満ちた『剛健な未来』なのね……!)」


昼食会の終盤。リリアーナはただ、無言のまま、テーブルに置かれたクリスタルの水差しを指差した。(※実際は「水が飲みたい」だけだった)


だが、それを見た公爵夫人が立ち上がり、絶叫した。


「……分かりましたわ! リリアーナ様は、『この水のように透明で、淀みのない筋繊維マッスル・クリア』を全国民に義務付けよと仰っているのですわ!!」


「「「おおおぉぉ……!!(感動の嵐)」」」


リリアーナが次に、少し肩を回した。(※実際は「肩が凝った」だけだった)


それを見た子爵令嬢が涙ながらに叫んだ。


「……なんてこと! 『肩甲骨の可動域こそが、自由の象徴だ』と仰っているのね! 私たちお姉様方も、コルセットを捨てて大円筋だいえんきんを育てるべきだという啓示ですわ!!」


「(……ふにゃぁ。……皆さま、さっきから何を騒いでいらっしゃるのかしら……。……でも、騒がしくて逆に目が覚めてきましたわ)」


ようやく意識がはっきりしてきたリリアーナが、挨拶のために口を開こうとした――その瞬間。


「……リリアーナ様! 言わないで! 貴女の仰りたいことは、すべてこの『筋肉ハート』に届いておりますわ!」


お姉様方は一斉に立ち上がり、ドレスを翻して叫んだ。


「……明日から、学園の庭園は『マッスル・パラダイス』に改造させます! 噴水からはプロテインが湧き出し、ベンチはすべてベンチプレス台に置き換えますわ!!」


リリアーナは、ついに一言も発することができないまま、昼食会は「人類マッチョ化宣言」の採択をもって閉幕した。


彼女がようやく「……ふにゃ。……お水、美味しかったですわ」と呟いたのは、すでに誰もいなくなった無人の広間でのことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ