↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が死んでも、世界は思ったより平和じゃない  作者: Soh.Su-K
第1章 1節 巨人討伐依頼編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/59

第8話 耳長人の相手は耳長人に任せた方がいい

 エルウィンが泣き止む頃には、太陽がさらに高くなっていた。


 俺は焚き火に火を点け、グローが水を汲みに行く。

 腸詰を取り出して鍋を吊るしかけた時、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。


「帰って来たか」


「思ったより早かったな」


 エルウィンの方を振り返ると、案の定、弓を構えて戦闘態勢に入っていた。


「敵じゃない。分かるか?敵じゃない、仲間だ」


「敵……、じゃない……?」


 オウム返しするが、いまいち分かっていない様子だ。

 俺は荷物と一緒に置いていた剣を指差した。


「な?武器は置いてる。戦いにはならない。エルウィンも弓を置け」


 弓と俺を交互に見た後、エルウィンはゆっくりと弓を下ろし、短剣と一緒に俺の剣の隣に置いた。


「戻りましたー!」


 ピュートが手を振りながら声を張り上げた。

 馬は2頭。軽装ながら防具を着けた兵士が2人いる。


「貴殿がガル殿ですか」


 翡翠色のマントを翻しながら、片方の兵士が言った。


「ああ、俺がガルだ。こっちはバディのグロー」


「よろしゅう」


「今回はご連絡頂き、ありがとうございました。私は王国軍東方司令部所属のサリィンです。こちらは部下のコフィーヌ」


「お初にお目にかかります」


 互いに握手を交わす。

 サリィンの兜からは尖った耳と金髪が覗いていた。耳長人(エルフ)か、あるいは混血か。


「大まかな経緯はピュート殿から伺いました。矮鬼(ゴブリン)とは言え、魔王軍の残党。現在、討伐部隊を編制しております。皆様には安全な場所への退避をお願い致します」


 俺は笑いそうになるのを堪えた。


「その話なんだがな……、非常に言いにくいんだが、全部倒しちまったんだ」


「……はい?」


 見事なキョトン顔だった。


「話では100人規模の部隊と伺いましたが……」


「あぁ、ワシとガルで殲滅した。黒焦げの死体がここから程近い街道横の休憩所に。残りはあの神殿の中だ」


「街道途中で倒した奴も黒焦げの近くに置いてある。確認してくれ。部隊長はバズグルって言う黒醜人《オーク》だ。そいつも神殿の中に放置してる」


「わ、分かりました……。コフィ、休憩所を確認してくれ。私は神殿をあたる」


「はっ」


「休憩所まではピュートが案内してくれ」


「承知しました!」


 ピュートはコフィーヌに抱えられるように馬に乗せられ、再び街道へ向かった。


「本当にお2人で殲滅したのですか……?」


「疑うんだったら、神殿の中を見てくるといい」


「承知しました。……ところで、そちらの方は?」


 サリィンがエルウィンを見た。


「あぁ、話すと長いんだが……」


 俺はエルウィンを発見した経緯を簡潔に説明した。

 隠し通路、石の寝台、1000年続いた魔法の結界。


「古代……、耳長人《エルフ》……!」


 サリィンが思わず声を上げた。


「ところで、あんた耳長人だろ?」


「私は耳長人と人間の混血なんですが、どうも耳長人の血が濃く出ているようで」


「古代耳長人語は分かるか?俺達じゃ全く会話が出来ないんだ」


「古代耳長人語……、喋れはしませんが、簡単な文章なら多少書けます。王都の研究者であれば会話できるかもしれません」


「とりあえず、現状をエルウィンに教えてやってくれないか」


「というか、王国軍に保護してもらった方がよくないかの?王都なら会話できる相手もいるだろうし」


「確かに。その研究者も喜ぶだろうしな」


「そうですね。一度、東方司令部に報告し、軍に判断を仰いだ方が良いかと。それまでは我々が保護する形で」


 軍ならエルウィンを悪いようにはしないはずだ。

 言語学的にも考古学的にも、古代耳長人の存在は計り知れない価値があるはずだ。


 サリィンはエルウィンの前に進み出て、紙に何かを書き始めた。

 エルウィンはその文字を見た瞬間、目を見開いた。

 古代耳長人語が通じたらしい。


 2人の間で、紙とペンを使った無言のやり取りが続く。

 エルウィンは文字を見た瞬間から目が離せない様子で、震える手で何かを書き返していた。

 サリィンの表情も次第に真剣なものに変わっていく。

 どんな言葉が交わされているのか、俺には分からない。

 ただ、1000年分の問いと答えが、あの紙の上にあるのだろうとは思った。

 その様子を眺めながら、俺はグローに小声で言った。


「なんか、俺らもう要らなくないか」


「いや、腸詰を煮る役目がある」


「それだけかよ」


 まぁ、いいか。

 俺は腸詰を鍋に放り込んだ。

 そのタイミングで、エルウィンの腹の虫が再び鳴った。

 サリィンが筆談の手を止め、こちらを見た。


「お昼ですか?」


「ああ、エルウィンが腹減ってるみたいで」


「ちょっと待って下さい!」


 サリィンが急に大きな声を出した。


「どうしたんだ?」


「エルウィン殿は1000年も眠っていたのですよね?」


「恐らくな」


「久々の食事は柔らかく、消化にいいものにしないといけません!急に固形物を摂取すると、最悪、死にますよ!」


 俺とグローは顔を見合わせた。

 腸詰を食べさせる気満々だった。


「そうなのか?知ってたか、ガル」


「……知らなかった」


 危なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。