第9話 人助けなんてガラじゃない
「ふむ、となると野菜のスープ辺りが良いのかの?」
「そんなもんここにねーよ……」
「私に任せて頂いてよろしいですか?耳長人の非常食で流動食を作ります」
「おぉ、それは助かる!」
「頼んでいいか、サリィン。俺達はあんたが見聞しやすいように、中の死体を外に並べとくよ」
「助かります。エルウィン殿との会話も続けてみます」
エルウィンの事はサリィンに任せて大丈夫そうだ。
面倒見のよさそうな耳長人で助かった。
俺とグローは再び礼拝堂へ戻り、死体の処理を始めた。
†
「ただいま戻りました」
死体を外に並べ終えた頃、ピュートと一緒にコフィーヌが戻ってきた。
「ご苦労。状況は?」
「ガル殿の仰った通り、街道から少し離れた休憩所に大量の矮鬼の焼死体が。穴が深く死体が折り重なっているため、正確な数は分かりませんでしたが、恐らく50匹以上かと。逃亡した痕跡は皆無でした」
「街道で最初に襲ってきた矮鬼は?」
「そちらも確認しました。装備からして同じ部隊の矮鬼です」
サリィンが地面に並べられた矮鬼と黒醜人の死体を見下ろした。
「本当にお2人で殲滅なさったのですね。感服致しました」
「矮鬼は単純だからな。隊長の黒醜人も頭が悪かった」
俺は煙草をふかしながら言う。
「黒醜人は百人長のバズグルと名乗った」
「百人長・バズグル。軍の情報部に詳細を調べさせます」
コフィーヌが続けた。
「伍長、休憩所についてですが、あのまま埋めてしまった方が良いかと。穴が深く、死体を引き上げるにはかなり時間が掛かります」
「確かにな。感染症の温床になりかねん。ピュート殿、あの休憩所を閉鎖してもよろしいですか?」
「問題ないと思います。他の休憩所に比べ、街道から少し離れていますし、利用頻度も低いですので」
「そこまで考えてあの場所に罠を張ったのですか?」
サリィンが俺を見た。
「まぁな。商団の休憩所は俺達もいつも世話になってる。被害を最小限に収める為の貴い犠牲だ」
「お見逸れしました。事後処理も楽で助かります」
「お互い、暇じゃないからな」
サリィン達の見聞が終わる頃には、日が翳り始めていた。
「我々は一度戻り、東方司令部に報告して参ります。エルウィン殿の事もお任せください」
「例の穴、埋めるだけでよいならワシが埋めておくぞ」
「助かります。ピュート殿には件の休憩所の閉鎖手続きをお願い致します」
「承知致しました」
「改めてガル殿、グロー殿、ピュート殿、今回は魔王軍の討伐、ご苦労様でした。街へお戻りになられましたら、軍の事務局までお出で下さい。報奨金をお渡し出来るよう準備しておきますので」
「そいつはありがたい」
話が終わった所で、俺はエルウィンを見た。
不安そうな顔をしていた。
「エルウィン、俺達とはここでお別れだが、この人たちはお前を悪いようにはしない。何かあった時は、俺を訪ねて来い」
エルウィンはサリィンとの筆談のお陰か、俺達の言葉を多少理解できるようになっていた。
しばらく俺の顔を見た後、エルウィンはゆっくりと口を開いた。
「ガル、グロー、ありがとう。忘れない」
たどたどしくも、しっかりと喋るエルウィン。
あの優雅なお辞儀をした後、コフィーヌの馬に同乗する。
「では」
サリィン達は街に向かって馬を走らせた。
その後ろ姿が森の向こうに消えるまで、俺は何となく見送っていた。
「色々と忙しい1日だったのー」
グローがパイプに火を点けながら言う。
「お前、穴埋めて来いよ。昨日荷馬車止めてた休憩所で飯の準備しとくわ」
「承知した」
「ピュートもお疲れさん。大役だったな」
「いえいえ!矮鬼を退治してもらえて、こちらとしても大助かりです!」
グローが街道の方へ歩いていくのを見送りながら、俺は伸びをした。
腸詰はサリィンに止められたが、休憩所に戻ればまだある。
今夜こそ食える。
そう思ったら、少し元気が出た。
「しっかし、あの水晶は便利だったなー」
ピュートの荷物を片付けながら、俺は言った。
「一回使い切りですがね。周りの風景を記憶して映し出せる魔法の水晶、面白いでしょ?」
「お陰で矮鬼どもをまんまと騙せた。ありゃ使える」
「あの油も面白かったの。料理油よりもよく燃えた」
「我々はあれを灯油と呼んでいます。寒い地域では暖を取るのにも使えますよ」
「圃矮人は面白いものを持ってるな。使えそうなやつがあったら紹介してくれ」
「毎度あり!市場価格よりも安く扱えますよ!」
グローが戻って来る頃には日がすっかり落ちていた。
俺達は荷馬車を昨日の休憩所へ移動させ、ようやく腸詰を火にかけた。
矮鬼の件とエルウィンの件、両方が片付いて、やっと本来の目的である村へ向かえる。




