第10話 依頼書には書いてない事がある
翌朝、荷馬車に乗り込んで村へ向かいながら、俺はピュートに声をかけた。
昨夜ようやく食えた腸詰の味がまだ口に残っている。
「ところで、ピュート」
「なんでしょう?」
俺は煙草に火を点けながら、何でもない調子で言った。
「俺達がなんでこの護衛依頼を受けたのか、アンタはもう分かってるんだろ?」
ピュートの笑顔が一瞬止まった。
ほんの一瞬だ。普通なら見逃す。
だが口元の筋肉が微かに引きつったのを、俺は見逃さなかった。
「え?それはもちろん、護衛依頼をお出しした訳ですから……」
「そうじゃない」
俺は煙草の煙を緩やかに吐き出した。
「向かっている村からは、巨人の討伐依頼が出てる。あの依頼を出させたのは商団——アンタらフィロー商会だろ?」
しばらく間があった。
「なに?」
ピュートより先にグローが反応した。荷台の上で眠そうにしていたくせに、金と依頼の話には敏感だ。
俺はピュートから目を離さずに続けた。
「村は水薬が特産だって聞いた。その水薬の原料となる薬草が群生する場所に、巨人が居座っている。そのせいで新しい水薬が作れない。水薬を村から買い取り、市場に流しているのがアンタらフィロー商会だろ。水薬が作られなければアンタらも困るって訳だ」
「なるほど……」
「同じころ、街道で襲撃が起き始めた。巨人討伐だけでなく、輸送隊の護衛任務も出す必要が出てきた。だから護衛と討伐、二つの依頼を別々に出した。アンタらの思惑通りに動いてくれる奴を待ってた訳だ」
ピュートは小さく溜息を吐いた。
笑顔は崩れていないが、諦めの色が滲んでいた。
「……そうです、ガル殿の言う通りです。そこまで見抜いて依頼を受けて下さったのですね」
「いや、依頼を選んだのはグローだ。感謝するならグローにしろ」
「それならそうと、最初から一つの依頼として出せばよかろうに!」
グローが口を尖らせた。
こいつが依頼の話になると急に饒舌になるのは今に始まった事じゃない。
「護衛及び討伐って依頼になると、手数料が跳ね上がるんだよ。知らないのか?」
「そうなのか?」
「簡単な依頼を複数まとめるくらいならそこまで上がらんが、討伐とその他が組み合わさると跳ね上がる。複数討伐より高いはずだぞ」
「そうです。別々の依頼で出して、まとめて受けてくれる人を見付けた方が手数料も安く済むんです」
「だから基本的に、討伐依頼は一件のみで出されるんだよ」
「知らんかった」
「俺より依頼掲示板見てるのに知らなかったのかよ……」
グローはしばらく考える顔をした後、ピュートに向き直った。
「ワシらは損をしたのか?」
「いえ、そんな事はございません。護衛の報酬は相場通り、討伐の報酬も別途お支払いします。二件分きっちりと」
「ならよし」
あっさりしたものだ。
さっきまであれだけ怒っていたくせに、金の話が片付いたら興味をなくした。鉱矮人らしいといえばらしい。
「それにしても、ガル殿のお陰で街道も安全になりましたし、大助かりですよ!」
「それは上々。しかし……」
俺は少し気になっている事があった。
「ピュート、アンタは件のトロルを見た事があるか?」
「いえ、私は基本的に事務方なので……。仕入れ担当は見たと言っていました」
「その巨人の特徴とか聞いてないか?」
「そうですね……、大きいとか」
「当たり前だろ」
「それと、武装していたとも聞きましたね。だからこそ、手出しができないでいるんですよ」
「武装ねぇ……」
グローが俺の顔を見た。
「心当たりがあるのか?」
「まだ分からん。村で話を聞いてみないと何とも言えん」
そう答えながら、俺は頭の中で点と点を繋げていた。
武装した巨人というのは、おかしい。
トロルは元来、知能が低く、武器を使う習性がない。
それが武装しているとなると、誰かが武器を持たせた事になる。
誰が、何のために。
魔王軍の残党が、この辺りで動いていた。
バズグルは矮鬼の雑兵を率いていた百人長だ。規模が小さい。
だが百人長がいるなら、その上もいる。
街道の襲撃は物資の輸送を妨害するための作戦だったとすれば、村の薬草地帯を巨人で封鎖するのも同じ目的になる。
水薬の供給を断つ。それは王国軍の補給を間接的に妨害する事にも繋がる。
恐らく、全て繋がっているんだろう。
だとすれば、トロルの後ろには別の何かがいる。
荷馬車が揺れる。
まだ先は長そうだ。俺は煙草に火を点け直した。




