第11話 まずは情報収集だ
その後は何の問題もなく、翌日の夕方には無事に村へ到着した。
ゴブリンの殲滅で予定より1日遅れになったが、圃矮人達は街道の安全が確保された事に喜んでいた。
「護衛、ありがとうございました!」
満面の笑みでピュートがお礼を言う。
「まだ気が早いぞ、ピュート。本命は巨人だろ?」
「その件なのですが、詳しい話を村の者達が話したいと申していまして……」
「こちらとしても情報が欲しかったところだ」
「では、今晩は村長の家にお出で下さい。情報提供を兼ねて、宴の用意をしているとの事です」
「宴?」
「ほっほ〜、そいつはええのう!」
グローの頬が緩む。
晩飯をご馳走してくれるのはありがたい。
ただ、明日から動くつもりなので、酒は無しの方向でお願いしたい。
「ピュート、宴はありがたいが、明日から任務に就くつもりなんだ。酒は無しで……」
「何だと!?」
グローが案の定、大声を上げた。
「折角用意してくれた酒を断ると言うのか!」
「いや、だから……。仕事に支障が出るだろうが……」
「酒を飲まん方が支障が出るわ!」
「ふざけんな!二日酔いで初日爆睡してたのは誰だよ!」
「何の話か分からんのぉ〜」
「てんめぇ〜!」
「まぁまぁ、お二方、その辺で……」
仲裁しようとピュートが間に入ろうとするが、グローよりも背が小さいので全く効果がない。
「ガルが飲まんでも、ワシは飲むからの!酒樽を用意させとけ!」
それだけ言い捨てて、グローはピュートが用意してくれた宿に向かった。
「アイツが飲む酒は水多めで割ってやれ!」
酒が絡むと鉱矮人はめんどくさい。
みんなも覚えておいた方が良い。
†
村長の家には大きな広間があった。
村議会もあるらしく、普段はここで村に関する会議を行っているらしい。
村民は全員圃矮人だ。
長閑な生活を送っているようだが、特産の水薬をフィロー商会が買い付けに来るお陰で、村自体はかなり裕福なようだ。
「よくぞ来てくださいました。心より歓迎致しますぞ」
村長が深々と頭を下げる。
「いえいえ、依頼をこなしに来ただけですので、ここまでの歓迎には及びません」
「ガハハ!ここの酒は旨いのぉ〜」
俺と村長が挨拶をしているのもそっちのけで、グローは既に酒を浴びるように飲んでいた。
溜息しか出ない。
「ほっほっほ、お連れの方は陽気な方ですなぁ」
「ただの馬鹿な酒好きです……。それより、件のトロルの話をお願い出来ますか?」
「分かりました。目撃した者を数名呼んでおります」
村長が手を上げると、3人の圃矮人が俺の前にやってきた。
「右からポー、ガーラン、エドです」
「アンタ達が目撃者か」
「ガーランと言います。最初に見たのは僕です。その後、友人のポーとエドを連れて、もう一度見に行ったんです」
「なるほど」
「詳しくは夕餉を召し上がりながらでも」
村長に勧められ俺もテーブルにつき、3人から詳しく話を聞いた。
最初の目撃は3週間ほど前らしい。
薬草を取りに行ったガーランが大きな影を見たという。
最初は全く気が付かずにかなり近付いてしまったらしく、咄嗟に逃げたためその時の事はよく覚えていないとの事。
その後、ポーとエドを連れて再び戻り、それがトロルだと視認したとの事だった。
「大きさは?」
「凄く大きかったです。2メートルくらい?」
「2メートル?」
俺は首を傾げた。
トロルも何種類かいるが、大きさは2〜5メートル、平均は3メートルくらいだ。
2メートルというのは圃矮人から見ればかなり大きいかもしれないが、巨人としては少々小さい。
その癖、武装しているらしい。どうも腑に落ちない。
「とりあえず明日、巨人がいる場所に案内してもらえるか?」
「えっ……」
3人の顔が曇った。
「安心しろ。明日は様子を伺うだけだ。戦闘にはならない」
「それなら……」
「戦いとなったら、ワシらも行きますぞ!」
声を上げたのは村議会の議員をしている老年の圃矮人達だった。
完全に出来上がっている。
「ワシらの薬草園を荒しおって、許せん!」
「そうじゃそうじゃ!楽に死ねると思うなよ、でくの坊の巨人め!」
「そうだそうだ!ワシに任せておけ!」
最後のは議員ではなくグローだった。
俺はうんざりと頭を抱える。
出来上がるにしても早過ぎる。
「水で割れって言っただろ、ピュート……」
「ガル殿、ダメです。この村の酒は通称『火酒』、滅茶苦茶に強い酒なんです。割ろうとしたら、あの老人たちに妨害されました……」
「ちょっと待て。じゃあ、その火酒を全く割らずに飲んでんのか、アイツら……」
「そうです……。圃矮人も鉱矮人も酒には目がない種族なので……」
「はぁ……」
より一層頭を抱える俺の元へ、村議員の一人が酒を持ってきた。
「ささ、ガル殿もどうぞ!この村の酒は旨いですぞ〜。エールなんて馬のションベンみたいなモンです!」
「いえ、俺はいいです……。明日に支障が出るといけませんので」
「ウチの酒が飲めないって言うんですか?」
急に不機嫌になる酔っ払い。
「ソイツは付き合いが悪いからほっとけ!それより、こっちで飲もうぜ、議員殿ぉ!」
酔っ払いが酔っ払いを呼び戻してくれた。
まぁ、こういう時は有り難いが、こいつは本当に酔ってるのかと思う事がたまにある。
「ピュートは飲まないのか?」
「それが、私は下戸でして……。エールでさえ一口で記憶が飛びます」
「珍しいな」
「取引先に誘われる事もあるんですが、その時は酒の強い同僚を代わりに行かせてます」
「それがいい。アンタも色々大変だな」
「命を取られるような現場じゃないですから、ガル殿よりも楽ですよ」
村長が目の前に並べられたご馳走を小皿に山盛りで渡してくれた。
「お酒を飲まれないなら、どうぞ料理をご堪能下さい。森の村ですので、山菜やキノコが美味しいですよ」
キノコとヤギのチーズをたっぷり使ったグラタン、山菜てんこ盛りのシシ鍋、カラッと揚がった山菜の天ぷらに塩焼きの川魚。
それ以外にも様々な料理が所狭しと並んでいる。
「うん、これは旨そうだ」
勿体ないくらいの豪華な料理に、俺とピュートは黙って舌鼓を打った。
宴は続く。グローの笑い声が広間に響いていた。




