第12話 余計な手間を取らせんでくれ
翌朝、俺は一人で村を出た。
出る前に一応グローを起こしに行ったのだが、昨夜遅くまでどんちゃん騒ぎをしていたこいつは、例に漏れず惰眠を貪っていた。
「グロー、起きてるかー?」
「……まだ寝る」
「滅茶苦茶仕事に支障が出てますけどー?」
「うるさい、今日くらい良いだろ……」
ベッドでゴロゴロするこの鉱矮人にたまに殺意が沸く。
「で、巨人はおったのか?」
「まだ見に行ってない。これから行く」
「あ、そうか。気を付けて行って来い」
「起きる気ないのかよ」
結局一人で行く事にした。
山道を少し登ると、昨日ガーランたちに教えてもらった場所はすぐに分かった。
大きく拓けた草原の真ん中辺りに、大きな影がポツンと座っている。
「確かに、3メートルもなさそうだな」
遠目に確認しただけだが、やはりあまり大きいという印象はない。
恐らくまだ幼い巨人だ。
金属製の腰巻きと胸当てという軽装の鎧を着ているが、武器らしきものは持っていない。
何とも中途半端な武装だ。
「あれは武装って言えるのか……」
俺は草原の周辺を隈なく調べ回った。
まず足跡。巨人のものと、それより小さい複数の足跡が混在している。
小さい方は矮鬼のものだ。形と大きさが一致する。
次に食べた跡。草原に生えている薬草が根こそぎ抜かれている箇所がある。
巨人が食ったのか、それとも誰かが採取したのか。
寝た跡を見ると、草が大きく押し潰された場所が一箇所だけだった。
ここに居着いているのは、どうやらこの一匹だけのようだ。
最後に鎧を確認した。
遠目で見ると武装しているように見えたが、造りが粗い。
矮鬼が使うような安物の鉄板を、革紐で体に縛り付けただけのものだ。
自分で装着したというより、誰かに着せられたような印象を受ける。
一通り調べた結果から、俺は昨夜立てた仮説が正しいと確信した。
「うん、これでいい」
俺は剣を外し、荷物と一緒に草原の手前に置いた。
戦う意思がない事を示す為だ。
そのまま巨人へと近付こうとした、その時だった。
「ガル殿ぉ!」
振り返ると、村長をはじめとした村議会の議員たちが駆けてくるところだった。
皆、手には鎌や鋤などの農具を持っている。
恐らく自分たちなりの武装のつもりなのだろう。
「村長?」
「小さいとは言え、相手は巨人!ワシらも加勢しますぞ!」
既に興奮状態だ。
これは非常にまずい。
「皆さん、武器を捨ててください!戦うために来たんじゃないんです!」
「事は早い方が良い!今の内に倒しましょうぞ!」
「そうじゃそうじゃ!夜には祝杯じゃ!」
やいのやいのと声を上げる老人たち。
これでは巨人にいつ気付かれてもおかしくない。
こうなると戦闘になる。
そうならないための策だったのに、全てが台無しになりかねない。
「皆さん、一度落ち着いて!」
「なに、ワシらだって無駄に歳を取っとる訳ではありませんぞ!」
「村を守るためなら、命だって惜しゅうない!」
何なんだ、こいつらは。
そんだけの覚悟があるなら依頼など出さずに自分たちで解決できたのではないだろうか。
まぁ、それは置いておこう。
「ガル殿、申し訳ありません!」
村長たちから遅れて、ピュートが走ってきた。
「どういう事だ、ピュート!」
「止めようとしたのですが、この有様で……。グロー殿に止めてもらおうとも思ったのですが、全く起きてもらえず……」
あのバカは全くの役立たずじゃないか。
「とにかく、静かにしろ!」
ブチギレた俺の一言に全員が黙った。
いや、圃矮人達は俺を見ていない。
最悪だ。
この老い耄れどものせいで、全てがパーだ。
剣を置いたまま、丸腰の状態で、俺は恐る恐る後ろを振り返った。
「ダレ……?」
そこには、見上げるほどの大きさの影があった。
クリクリとしたつぶらな瞳が、俺を不思議そうに見下ろしている。
「でっ、出た!」
「殺られる前に殺るしかない!」
半狂乱になる老人たち。
かなりヤバい状況だ。
このままだと戦闘になる。
「辞めろと言っている!」
「なんじゃ!お主はワシら味方じゃなかったのか!」
「邪魔をするでない!」
一人が4つ股の鋤を突き出し、俺の胸元を刺した。
「辞めろと、言っているのが、分からんのか」
俺は殺気を放ちながら凄んだ。
老人たちの動きが止まる。
農具を握る手が、小刻みに震えていた。
圃矮人には分かったはずだ。
目の前にいるのは、笑って言う事を聞く賞金稼ぎではない、と。
農具がぱたぱたと地面に落ちた。
しかしそれでも数人が踏みとどまっている。
その瞬間、ゴールグがゆっくりと俺の横に並んだ。
老人たちの視線が一斉に上を向く。
2メートルを超える影が真横に立つと、それだけで空気が変わった。
老人たちの顔が、今度は別の意味で青ざめた。
「農具を全部捨てろ」
俺は静かに言った。
今度は全員が、残っていた農具を手放した。
「イタイ?大丈夫?」
頭の上から低く、優しい声が響いた。
「お前、耳長人語喋れるのか」
「オデ、耳長人ノ言葉、喋レル。黒醜人ノ言葉、喋レナイ」
トロルはゆっくりと俺の前に立った。
「イジメ、ヨクナイ。コノ人間、武器ナイ。オデ、人間、助ケル」
予想外の展開に、俺は少し笑ってしまった。
耳長人語が喋れるというのは、話が早い。
老人たちも大人しくなった事だし、話をするにはちょうどいいだろう。
「コッチ、来ル。日向ボッコシナガラ、話スル」
ゴールグはゆったりと歩き始めた。
老人たちは顔を見合わせながら、おずおずとその後に続いた。




