第6話 隠し通路の先はお宝が相場では?
通路の先に広がっていたのは、円形の広い部屋だった。
見上げると、20メートルほど上にぽっかりと丸い穴が開いている。
そこから差し込む光が、部屋全体をぼんやりと照らしていた。
昼間の青空が、遠く丸く切り取られて見えた。
「なんだ……、ここ……」
「おい、ガル」
上を見上げていた俺をグローが呼ぶ。
部屋の中央に、それはあった。
石造りの寝台。屋根まで付いている。
「石の寝台……?」
「丁寧に屋根付きだぞい」
俺とグローが近付く。
寝台の上に、人が横たわっていた。
「嘘だろ……」
「生きておるのか……?」
月光を凝縮したような銀髪が、寝台の縁からさらりと垂れていた。
肌は白磁のように白く、血管が透けて見えるほどだ。
閉じた瞼は薄く、長い睫毛が頬に影を落としている。
鼻筋は細く通り、唇は薄く、どこか彫刻めいた整い方をしていた。
そして、ピンと尖った耳。
「まさか……、古代耳長人……?」
「見ろ、呼吸しとる。生きておるぞ」
輝くような白いローブに包まれ、ゆっくりだが確かに呼吸をしている。
生きているのだ。
俺はもう少し顔を近付けた。
近付くほどに、現実感が薄れていく。
人間の女でこれほどの顔立ちは見た事がない。
いや、これは人間の美しさじゃない。
1000年前の古代種族の美しさだ。
「グロー、あの壁が塞がれたのはいつ頃だ?」
「……1000年はそのままだったはずだ」
「上から降りてきた可能性は?」
「ない。上の穴、よく見てみろ」
言われて目を凝らすと、穴には薄い膜のようなものが張っているのが分かった。
「魔法で蓋をしてある。空気以外は通過できんはずだ。試しに何か投げてみろ」
俺は周りを見渡した。
寝台の近くに、2本の短剣と弓矢が置いてあった。
矢を一本拾い、弓に番えて穴に向かって射る。
穴に近付いた瞬間、青い稲妻が走り、矢が弾き返された。
「……これは守られてるのか?」
「恐らくそうだろ。新鮮な空気だけを通して、それ以外は何も入れん。1000年、この女を守り続けた魔法だ」
俺はもう一度、寝台の女を見た。
整い過ぎた顔立ちは、まるで作り物のように見えてくる。
絶世の美女とはこういう女の事を言うのだろう。
「……起こしてみるか」
「なんだと!?」
好奇心がムクムクと膨れ上がった俺は、マジマジと顔を近付けて女を観察する。
こうして間近で見ると、余計に作り物めいて見えた。
睫毛の一本一本まで完璧で、息が触れても微動だにしない。
「やめんか!魔法で眠っておる!触れたらどうなるか分かったもんじゃないぞ!」
「こういうのはな、キスしたら起きるって、相場が決まってんだよ」
そう言って俺は、軽く唇を重ねた。
「……」
「……」
「……何も起きんの……」
「面白くねーなー」
「当たり前だ!」
グローが呆れ返っている。
まぁ、そりゃそうか。
「じゃあ、この女の事は王国軍に任せるか。俺達は村に向かうぞ」
「そうだな。あ、弓と短剣だけ貰っていくか」
「辞めんか!墓荒らしだて!」
「死んでないから墓じゃないだろ?」
笑いながら振り返った、その瞬間。
背筋が凍った。
先程まで眠っていたはずの女が、弓を引き絞ってこちらを狙っていた。
「……マジかよ」
女は何も言わない。
ただ、赤い瞳が俺をまっすぐに見据えていた。
「待て待て、俺達は敵じゃない」
俺はゆっくりと両手を上げ、腰の剣を抜いて床に置いた。
「な?武器は置いた。戦いにはならない。グロー、お前も」
「……分かった」
グローも斧を床に置く。
「俺はガル、こっちはグロー。賞金稼ぎだ」
女は弓を下ろさない。
赤い瞳が俺とグローの間を行き来する。
「◆◎〇……$※◎」
言葉が聞き取れない。
いや、そもそも言語が違う。
聞いた事もない音の連なりだ。
「グロー、何語だ?」
「古代耳長人語だろう。ワシも喋れんぞ」
お手上げだ。
俺は辺りを見渡し、矮鬼の死体を一つ指差した。
次に自分とグローを指差し、親指を立てる。
やったのは俺達だ、という意思表示のつもりだ。
女はしばらく俺の顔を見ていたが、やがてゆっくりと弓を下ろし、短剣と一緒に俺の剣の隣に置いた。
「通じたか……?」
「みたいだの」
女は石の寝台の縁に腰を下ろし、部屋をぐるりと見回した。
1000年ぶりに目を覚ました割には、妙に落ち着いている。
いや、落ち着いているように見えるだけで、内側で何かを必死に整理しているのかもしれない。
「◆※〇……」
女が静かに何かを呟いた。
意味は分からない。
だが、その声には微かな震えがあった。




