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魔王が死んでも、世界は思ったより平和じゃない  作者: Soh.Su-K
第1章 1節 巨人討伐依頼編

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第5話 鉱矮人は採掘がお好き?

 グローは満面の笑みで壁に手を押し当てた。

 ごにょごにょと詠唱を始める。


「危ないから少し離れておけ、ガル」


 言われた通り、壁から距離を取った。

 グローが魔法を使う場面など滅多に見られない。

 少し期待しながら待つ。

 詠唱が終わった。


「……」


 何も起きなかった。


「おい、グロー?」


「……」


「どうしたんだよ」


「……。さて、今日は寝るかの。作業は明日からで良いだろ」


 スタスタと入り口の方へ歩き始めるグロー。


「おい待て、さては魔力《マナ》切れだろ!」


「……」


「偉そうに『危ないから離れておけ』とか言って!何も起きなかったじゃねーか!」


「……」


「黙ってないで何とか言え!」


「『何とか』」


「ぶっ殺すぞテメェ!」


 結局、仮眠を摂ってから作業する事になった。


†


 神殿の入り口近くに簡易テントを張り、3時間ほど眠った。

 目を覚ますと、グローは既に起きて、硬いパンを黙々と齧っていた。

 俺もパンを一切れもらい、ピュートから分けてもらったコッフェで流し込む。


「今度こそ大丈夫だろうな」


「任せておけ。八メートルくらい、一瞬だわい」


 再び例の壁の前に立ち、グローが手を押し当てて詠唱を始める。

 今度は違った。

 足元から微かな振動が伝わってくる。


 壁が内側から砕け、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。


「ほーれ」


 得意顔のグロー。確かに凄い。

 凄いのだが、俺はある事に気が付いた。


「……石は人力でどかすのか?」


「当たり前だ、邪魔で進めんだろうが」


「石をどかす魔法はないのかよ」


 グローは少し考えた後、俺を見た。


「なくはない。使うか?」


「その方が手間が省けるだろ」


「分かった。では——石礫《ストーン・ブラスト》!」


「おいおいおいおい!」


 俺は咄嗟に後ろへ飛び退き、頭を腕で守った。

 グローの足元に散らばった瓦礫が殺人的な速度で吹き飛び、反対側の壁に突き刺さる。


「天才だのぉ、ワシ!」


 高笑いしながら、あっという間に瓦礫を吹き飛ばし終えるグロー。

 お陰で反対側の壁は見るも無残な状態だ。


「……次からは先に言え」


「細かい事を気にするな。さて、行くぞ!」


 グローは意気揚々と隠し通路へ入っていく。

 俺もそれに続いた。


 高さと幅が2メートルほどの通路だった。

 混凝土《コンクリート》で塞がれていたせいか、空気が澱んでいる。


「松明点けようぜ」


 俺が小型の松明を取り出すと、グローが慌てて止めた。


「何をしておる!行き止まりの可能性もあるんだぞ。松明なんぞ使ったら空気がなくなるわい」


「そりゃそうか」


 俺は松明をしまい、グローの後ろについて暗闇の中を進む。

 鉱矮人の暗視に頼るしかない。


 通路は思ったより長かった。

 足元は平らに整えられているが、長年塞がれていたせいか空気が重く、一歩踏み出すたびに埃っぽい臭いが鼻をついた。

 壁に手を添えながら進むと、御影石の冷たさが掌に伝わってくる。

 音もない。グローの足音と、自分の呼吸だけが耳に届く。


「長いな」


「八メートルは混凝土《コンクリート》で塞がれていただけだ。通路そのものはもっと続いておる」


「どこに繋がってるんだ」


「さあの。行き止まりでなければ御の字だわい」


 心強い言葉だ、全く。


 しばらく歩くと、足元の質感が変わった。

 御影石から、もっと古い、荒削りな石畳に切り替わっている。

 通路の幅も、少し広くなった気がした。


 そこでグローの足が止まった。


「ガル」


「何だ」


「この先、部屋がある」


 暗闇の奥を覗き込んでも、俺の目には何も見えない。

 だがグローがそう言うなら間違いない。


「見えるのか?」


 一瞬の間があった。


「……ぼんやりとな。だが、何かある」


 俺は息を整えた。

 胸の奥に、さっきの部屋で感じたものとは少し違う、張り詰めた感覚が広がっていく。


「行くぞ」


 グローがゆっくりと歩き始めた。

 俺もその後に続く。


 言った通り、五メートルほど進んだところで通路が左に折れた。


「ん?」


 グローが小さく声を上げた。


「なんだ」


「十五メートルくらい先……光が見えないか?」


 目を凝らすが、俺の目にははっきりとは見えない。

 角灯《ランタン》の光が届く範囲の先は、ただ暗いだけだ。


「うむ、部屋があるな……」


 グローが何かに引き寄せられるように速足で通路を進み始めた。


「おい、ちょっと待てって!」


 俺も小走りになって後を追う。

 前方の暗がりに、確かに淡い光の気配があった。

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