第5話 鉱矮人は採掘がお好き?
グローは満面の笑みで壁に手を押し当てた。
ごにょごにょと詠唱を始める。
「危ないから少し離れておけ、ガル」
言われた通り、壁から距離を取った。
グローが魔法を使う場面など滅多に見られない。
少し期待しながら待つ。
詠唱が終わった。
「……」
何も起きなかった。
「おい、グロー?」
「……」
「どうしたんだよ」
「……。さて、今日は寝るかの。作業は明日からで良いだろ」
スタスタと入り口の方へ歩き始めるグロー。
「おい待て、さては魔力切れだろ!」
「……」
「偉そうに『危ないから離れておけ』とか言って!何も起きなかったじゃねーか!」
「……」
「黙ってないで何とか言え!」
「『何とか』」
「ぶっ殺すぞテメェ!」
結局、仮眠を摂ってから作業する事になった。
†
神殿の入り口近くに簡易テントを張り、3時間ほど眠った。
目を覚ますと、グローは既に起きて、硬いパンを黙々と齧っていた。
俺もパンを一切れもらい、ピュートから分けてもらったコッフェで流し込む。
「今度こそ大丈夫だろうな」
「任せておけ。八メートルくらい、一瞬だわい」
再び例の壁の前に立ち、グローが手を押し当てて詠唱を始める。
今度は違った。
足元から微かな振動が伝わってくる。
壁が内側から砕け、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「ほーれ」
得意顔のグロー。確かに凄い。
凄いのだが、俺はある事に気が付いた。
「……石は人力でどかすのか?」
「当たり前だ、邪魔で進めんだろうが」
「石をどかす魔法はないのかよ」
グローは少し考えた後、俺を見た。
「なくはない。使うか?」
「その方が手間が省けるだろ」
「分かった。では——石礫!」
「おいおいおいおい!」
俺は咄嗟に後ろへ飛び退き、頭を腕で守った。
グローの足元に散らばった瓦礫が殺人的な速度で吹き飛び、反対側の壁に突き刺さる。
「天才だのぉ、ワシ!」
高笑いしながら、あっという間に瓦礫を吹き飛ばし終えるグロー。
お陰で反対側の壁は見るも無残な状態だ。
「……次からは先に言え」
「細かい事を気にするな。さて、行くぞ!」
グローは意気揚々と隠し通路へ入っていく。
俺もそれに続いた。
高さと幅が2メートルほどの通路だった。
混凝土で塞がれていたせいか、空気が澱んでいる。
「松明点けようぜ」
俺が小型の松明を取り出すと、グローが慌てて止めた。
「何をしておる!行き止まりの可能性もあるんだぞ。松明なんぞ使ったら空気がなくなるわい」
「そりゃそうか」
俺は松明をしまい、グローの後ろについて暗闇の中を進む。
鉱矮人の暗視に頼るしかない。
通路は思ったより長かった。
足元は平らに整えられているが、長年塞がれていたせいか空気が重く、一歩踏み出すたびに埃っぽい臭いが鼻をついた。
壁に手を添えながら進むと、御影石の冷たさが掌に伝わってくる。
音もない。グローの足音と、自分の呼吸だけが耳に届く。
「長いな」
「八メートルは混凝土で塞がれていただけだ。通路そのものはもっと続いておる」
「どこに繋がってるんだ」
「さあの。行き止まりでなければ御の字だわい」
心強い言葉だ、全く。
しばらく歩くと、足元の質感が変わった。
御影石から、もっと古い、荒削りな石畳に切り替わっている。
通路の幅も、少し広くなった気がした。
そこでグローの足が止まった。
「ガル」
「何だ」
「この先、部屋がある」
暗闇の奥を覗き込んでも、俺の目には何も見えない。
だがグローがそう言うなら間違いない。
「見えるのか?」
一瞬の間があった。
「……ぼんやりとな。だが、何かある」
俺は息を整えた。
胸の奥に、さっきの部屋で感じたものとは少し違う、張り詰めた感覚が広がっていく。
「行くぞ」
グローがゆっくりと歩き始めた。
俺もその後に続く。
言った通り、五メートルほど進んだところで通路が左に折れた。
「ん?」
グローが小さく声を上げた。
「なんだ」
「十五メートルくらい先……光が見えないか?」
目を凝らすが、俺の目にははっきりとは見えない。
角灯の光が届く範囲の先は、ただ暗いだけだ。
「うむ、部屋があるな……」
グローが何かに引き寄せられるように速足で通路を進み始めた。
「おい、ちょっと待てって!」
俺も小走りになって後を追う。
前方の暗がりに、確かに淡い光の気配があった。




