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魔王が死んでも、世界は思ったより平和じゃない  作者: Soh.Su-K
第1章 1節 巨人討伐依頼編

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第4話 泣けない奴の為に泣くのは優しさじゃない

 松明を手に、バズグルの部屋へ向かう。


 グローが礼拝堂に入ってきたのは、俺が残りの矮鬼にとどめを刺し終えた直後だった。


「なんじゃい、全部終わっとるじゃないか」


「これくらいはサクッと終わる」


「リーダーは此奴か」


 グローはバズグルの死体の頭をコツコツと蹴った。


「魔王軍の百人長だとよ。黒醜人《オーク》の癖に矮鬼《ゴブリン》の隊長なんて、間抜けにも程があるぜ」


「腐っても魔王軍残党の士官だ。王国から報奨金が出るぞい」


「金額はあんまり期待できないけどな」


「貴重な追加報酬だ」


 グローは死体を一つ一つ確認するようにして、礼拝堂を歩き回る。


「こいつらの装備、売っぱらってもいいのか?」


「王国軍の管理下になるはずだで。下手に売ったら捕まるぞい」


「こんだけあるから結構な金額になるのにな……クソ」


「報奨金に含まれるはずだからの、そう言うな。ピュートはどれくらいで戻る?」


「明日の昼には王国軍を連れて戻ってくるだろう。それまでは待機だ」


「気長に待つかの。ワシは礼拝堂を見て回るわ」


「頼む。何もないだろうが、隠し通路があったりしてな」


 後ろ手に手を振りながら、俺は礼拝堂を後にした。


†


 松明の光で初めて分かったが、通路に敷き詰められた御影石は、綺麗に磨かれた表面が炎の光を微かに反射している。

 かなり金の掛かった神殿だ。


 バズグルたちが使っていたと思しき部屋は、開け放たれたドアの向こうにあった。

 覗き込んで、一言。


「臭ぇーし、汚ねー……」


 食べかすや骨が床に散らばり、正体不明の汚れた布切れが壁際に山積みになっている。

 礼拝堂も大概だったが、ここはそれを上回る惨状だ。

 溜息を吐きながらズカズカと中へ入り、使えるものがないかを確認していく。


 部屋の左手奥に、もう一つドアがあった。


 開けた瞬間、饐えた臭いが漂ってきた。


「……なるほど」


 俺は低く呟いた。

 この臭いには覚えがある。

 日光も新鮮な空気も届かない密室特有の、澱んだ臭いだ。


 松明を掲げて中を照らすと、狭い部屋の隅に鎖が打ち込まれていた。

 錆びた鎖の先には、何もない。

 床には、引き摺った跡が残っている。


 散らばった骨が、雄弁に語っていた。


 ここに繋がれていた者は、食い物が底をついた時に解体され、食糧にされた。

 部屋の入口で止まったまま、俺はしばらく動けなかった。


 助けに来るのが、遅かった。

 矮鬼を見逃したのは昼間の話だ。それから一晩も経っていない。

 分かっている、どうしようもない話だ。

 それでも、鎖の打ち込まれた壁をぼんやりと眺めていると、胸の奥に重いものが溜まっていく。


 気を取り直して部屋の中を照らした時、床に散らばった骨の中に金属の光を見つけた。

 屈んで拾い上げると、手のひらに収まったのは認識票(ドッグタグ)だった。

 冒険者が首に下げる、名前と所属ギルドの刻まれた金属板だ。

 2枚1組でチェーンに通すのが決まりで、死亡した際には1枚を遺体に残し、もう1枚をギルドへ持ち帰る。死亡届の代わりだ。


 骨の間をゆっくりと探ると、チェーンごと出てきたものが3組あった。

 つまり、ここには少なくとも3人が繋がれていた。


 松明の光に翳して、刻まれた名前を確認する。

 全員、別々の名前だ。

 こいつらは俺と同じ稼業だった。


 俺は各チェーンから1枚ずつ外し、残りの1枚を遺体の傍に戻そうとして——手が止まった。


 傍に置くべき遺体が、ない。

 骨すら噛み砕かれて、誰がどこにいたのかも分からない。

 散らばった骨の欠片を見回しても、どれが誰のものかを判別する術がなかった。


 俺はしばらくその場に立ったまま、手の中の認識票を見つめた。

 結局、3組全枚数を上着のポケットに押し込む。

 ギルドに事情を説明すればいい。向こうも、こういう状況が初めてではないはずだ。


 それくらいしか、今の俺には出来ることがない。


 俺は苦々しく舌打ちをして、部屋を出た。


「おーい、ガル!」


 そのタイミングで、グローの馬鹿デカい声が通路に響き渡った。

 助かった、と思った。


「なんだよ」


 礼拝堂へ戻ると、グローは右奥の壁を手のひらで撫でるようにして触っていた。


「ここだ」


「何が?」


「この壁の向こうに空洞がある」


 俺はグローの言う壁をコンコンとノックする。

 他の壁も叩いてみたが、どこも同じ音で、空洞があるようには到底思えない。


「普通の壁だろ?」


「人が一人通れるくらいの空洞が、この壁の8メートル先から始まっている」


「……8メートル先?」


 馬鹿を言うな。

 壁を叩いただけで8メートル先の空洞が分かるものか。


「それだけじゃない。その空洞、恐らくは通路だが、混凝土《コンクリート》を混ぜて塞いだ跡がある。化粧石の向こうだけ、地質が違うんだ」


「……隠し通路?」


「みたいだの」


 本当に隠し通路があるとは。

 グローはどことなくウキウキしているように見える。

 鉱矮人の性か、と思ったところで——待て。


「まさか、8メートルも混凝土を掘るつもりか……?」


 グローの表情から答えを察した俺は、頭を抱えた。


「なに、ワシに掛かれば一瞬だ」


 満面の笑みだった。

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