第1話 朝からやめてくれ
「ガルー、起きてー」
スゥに身体を揺すられて、目を開けた。
窓の外は既に明るい。
頭は重いままだ。
「分かった、起きる……」
「ガル、また寝不足ぅ?」
「……俺は朝が弱いんだよ」
「血圧低いんだってー、ガル」
「余計な事を言うな、スゥ」
「女子か!」
台所からエルウィンのツッコミが飛んできた。
顔を洗ってから食卓に着く。
四人での共同生活も、いつの間にか慣れてきた。
慣れてきたが、朝だけは慣れない。
「玉子はどう焼く?片面?両面?スクランブル?」
「何でもいい……」
「ちょっとはこだわってよー」
エルウィンが呆れたように笑う。
「グローは?」
「いなーい」
「またどっかで寝てんだろ」
「夜にはいなくなるからね、あの鉱矮人」
「グローは悪い子!」
「そうね、悪い子!」
目の前に、バケットと玉子と野菜の朝食が置かれた。
絵に描いたような朝食だ。
今までの俺には縁のなかったものである。
「……現実味がねぇ」
ぼそりと呟くと、スゥが食い付いた。
「何何ー?」
「お前らには普通でも、俺には御伽噺だ」
「御伽噺?」
「夢物語って事だ」
スゥが少し考え込んだ後、何かを思いついた顔をした。
嫌な予感しかしない。
俺はテーブルから手を引っ込める。
次の瞬間、俺の手があった位置にフォークが突き刺さった。
「スゥ!」
「夢じゃないよ?」
屈託のない笑顔で、スゥが言う。
朝から胆が冷えた。
「コラ、スゥ。ガルをイジメちゃダメでしょ」
「だって、夢って言うから」
「確かめ方が雑なんだよ、お前は……」
俺は溜息を吐いて、突き刺さったフォークを抜いた。
エルウィン、もう少しちゃんと叱ってくれ。
その時、玄関が勢いよく開いた。
「起きとるか!」
グローだ。
なんでコイツまで元気なんだ。
今日は厄日か。
「あら、帰ってきたの?」
「おう、面白そうな依頼を見つけたからの!」
グローは食卓まで歩いてきて、スゥの前に置いてあった牛乳のグラスを取り、一気に飲み干した。
「何じゃ、濁酒ではないのか」
「誰が朝から濁酒なんて飲むんだよ」
「僕の牛乳ぅ!」
スゥがポカポカとグローを叩く。
「悪い悪い。エルウィン、スゥに牛乳を注いでやれ」
「人の取らないの、グロー。座って」
新しいグラスに牛乳を注ぎながら、エルウィンが溜息を吐く。
「ご飯は?」
「昨日の酒で腹一杯だ。それより、これを見ろ」
依頼書をテーブルに置く。
全員で覗き込んだ。
「屍喰鬼の殲滅依頼だ。面白そうだろ」
「屍喰鬼……?」
スゥが首を傾げる。
「人の死肉を喰う暗黒種族だ。姿を変える事も出来る、厄介な奴等だぞい」
「グロー、空気読んで……」
エルウィンとスゥが、あからさまに嫌な顔をした。
これから朝飯だ、無理もない。
「とにかく、話は飯の後だ」
俺は冷め始めたバケットを齧った。
†
夕暮れ、目的の村に着いた。
「……静かね」
エルウィンが弓を構える。
俺は刀の鯉口を切った。
スゥが小剣を抜く。
グローが双斧を担ぎ直した。
村の通りに、人の気配が無い。
家々の扉は開け放たれ、壁には黒く乾いた血の跡。
倒れた木桶から、穀物が散らばっていた。
片付ける者は、誰もいない。
「……先発の軍は何処へ消えた」
誰も答えない。
「群れる屍喰鬼か。面白いのぉ」
グローだけが、低く笑う。
屍喰鬼は本来、群れない筈だ。
身を低くして、村の中央へと進む。
角を曲がった、その先。
肉片だらけの広場に、何かが屈み込んでいた。
人の形をしている。
だが、人じゃない。
その何かが、ゆっくりと、こちらを向いた。




