第2話 血生臭くなってきた
人の形をしていた。
顎は、不自然に裂けている。
爪は、黒く長い。
屍喰鬼。
肉片に塗れた口元から、涎が垂れた。
「グロー!」
「分かっとる!」
俺は刀を抜き、距離を詰める。
逆袈裟。
首が落ちた。
息を整える間も無く――家々の陰から、土の中から、屋根の上から、影が湧き出した。
「何匹いやがる……」
「数えるのは諦めるんだの!」
グローの双斧が、屍喰鬼の足を斬り倒し、そのまま首を刈った。
横から、歯が空を噛む音。
返す肘で顎を砕く。
怯んだ所を前蹴りで突き放し、刃の間合いで首を刎ねた。
屍喰鬼の顎は、板金鎧の上からでも腕を折る。
「キャハハ!」
スゥが小剣で屍喰鬼の足腱を斬り、跳ぶ。
動きは速い。
だが、子供の腕力では首が断てない。
倒れた屍喰鬼が、生きたまま這ってくる。
スゥの足元、動けない屍喰鬼が溢れていく。
足場が、無くなる。
着地した足を、開きかけた顎が掠めた。
「スゥ!」
返事は無い。
お喋りも消えている。
必死だ。
俺もグローも、正面の処理で手一杯。
援護を回せる余裕が無い。
「矢も無限じゃないわよね」
木の上から、エルウィンが飛び降りた。
弓を背中に回し、双短剣を抜く。
遠距離を捨てて、近接で命を張る選択だ。
「私が引き受ける!スゥは温存!」
「お主、近接もイケる口か!?」
「古代耳長人の器用さ、舐めないでよね!」
動けない屍喰鬼の首を、エルウィンが片端から断っていく。
スゥの足元が、開けていった。
「アハハハ!」
スゥの笑いが戻ってきた。
余裕が出たって事だ。
俺は次の首を刎ねながら、違和感を反芻する。
屍喰鬼は、群れない筈だ。
なのに、これだ。
しばらくして、屍喰鬼が一斉に退いた。
俺は刀の血脂を、屍喰鬼の服で拭う。
数えて、五十。
「久々に暴れたのぉ!」
「グロー、お前は楽しそうで何よりだ……」
肩で息をしながら、エルウィンが髪を掻き上げる。
血と汗の臭いが、夕風に流れていく。
「ガル」
「ん?」
「いつだったか、あの幼い魔術師が言ってたわよね。『もうすぐ次の魔王様が決まる』って」
「……」
戦力増強。
屍喰鬼が群れない筈なのに、群れる理由としては、それしかない。
魔王が倒れて、まだ一年も経っていない。
なのに、次代の魔王が、もうこんなに兵を動かしているのか。
「血生臭くなってきたわね」
「あぁ……」
屍喰鬼が消えた方角を見据える。
軍は、まだ来ない。
肉片だらけの広場に、村人の姿は、一つも無い。




