第57話 所帯染みたくないんだが
「で、なんでお前らは俺の家にいるんだよ」
帰宅すると、グロー、エルウィン、スゥが揃って居間に上がり込んでいた。
何なんだコイツ等。
「なんでって、パーティも増えたし、スゥには保護者が必要でしょ?四人で共同生活、しない?」
エルウィンがテーブルに羊皮紙の束を広げた。
賃貸の間取りが並んでいる。
「フィロー商会に頼んだら、見繕ってくれたわ」
「……あの商会、不動産までやってんのか」
「便利でしょ?」
「近くに酒場があれば、ワシは何処でも良いぞ」
「グローは黙ってろ」
「ガルと一緒がいいよね、スゥ?」
「うん!」
所帯染みた光景に、頭痛がしてきた。
俺の平和な日々を返してくれ。
†
翌日。
まずはスゥの冒険者登録のため、ギルドへ向かった。
「今度は未成年者略取ですか……?」
「違ぇーよ。コイツを冒険者として登録して欲しい」
「年齢は?」
「十五歳だよ!多分!」
「多分……?」
「コイツは貧民窟出身だ。両親も親戚もいない」
「……はぁ、ガルさん……、めんどくさい事を持ち込まないで下さいよ……」
あからさまに嫌な顔をされた。
冒険者登録は人間年齢で十五歳から。十八歳未満は保護者の許可が要る。
貧民窟出身だと戸籍からだ。後見人も立てなきゃならん。
ギルドが一括でやってくれるが、面倒臭がられた。
いやいや、仕事しろよ。
「それもお前の仕事だろ。文句言わずにやれ」
「はいはい、分かりましたよー。お名前は?」
「スゥだよ!」
「あだ名?本名?」
「えーっと、オジサンは僕の事を『スチュワート』って呼んでた!」
「じゃあ本名はスチュワートね」
「うん!」
「後見人はガルさんで?」
「あぁ、頼む」
「戸籍取得まで五日。それから冒険者登録です。先に同意書を」
文句を言いつつも、手は早い。
仕事は出来るが、やる気が無いだけだな。
「ガル!」
振り返ると、槍使いのロブがいた。
正直、面倒臭い。
「お前、子供がいたのか!?」
ロブの声が、フロア全体に響き渡る。
全員の視線がこちらに集中して、ざわつき始めた。
これは完全に、隠し子と思われている。
「違う!身寄りがなくて、俺が保護したんだよ!」
「ホントかー?」
声を落として、呆れ顔でロブを見る。
「……どう見てもコイツは圃矮人だろうが」
「いつ圃矮人と付き合ったんだ……?」
別の冒険者まで混ぜっ返してきた。
もう、何だこの空気。
「お前、ホントめんどくせーよ、ロブ」
俺はスゥの手を引いて、ギルドを後にした。
「あの人誰?」
「ただの馬鹿だ。気にしなくていい」
ギルドを出て、待ち合わせの広場へ向かった。
今日はもう一つ用事がある。物件の内見だ。
「二人とも、こっちー!」
広場でエルウィンが手を振っていた。
グローは案の定、来ていない。「酒場が近きゃ何処でも良い」だそうだ。
合流して、三人で歩き始める。
「皆さーん!」
待っていたフィロー商会のピュートが、手を振ってきた。
「物件の内見、ご案内しますね!」
「この人誰?」
「お前と同じ圃矮人で、商人のピュートだ」
「初めまして、ピュートです。お見知りおきを」
「僕はスゥ!よろしくね!」
同種族ゆえか、スゥの警戒心が無い。
顔見知りになっておくのも悪くない。
ピュートを先頭に、俺、エルウィン、スゥの順で歩く。
「なんだか、ご家族のようですね」
楽しそうに、ピュートが言った。
地味に傷ついた。
「誰が家族だ」
「いいじゃない。傍から見たらそうとしか見えないわ。子連れの夫婦が新居の内見、ってとこかしら」
エルウィンが乗っかる。
俺はますますうんざりした。
二、三軒見て回った辺りで、酒場帰りのグローと鉢合わせた。
既に出来上がっている。
「お、お主等か。ワシも見ていこうかのぉ」
結局、最後の物件はグローも交えて内見する事になった。
決め手は、近くに行きつけの酒場があった事らしい。
†
数日後、引っ越し当日。
新居の前で、グローが俺達を待っていた。
扉を開けると、グローは髭を撫でながら家の中を見回した。
「ほほ~、ここが新居か~」
「ワシの家よりギルドにも酒場にも近い、気に入った!」
「そーかい、それは良かった」
「何じゃい、何故不機嫌なのだ?」
「さぁ、知らないわ」
面倒くさいからに決まってるだろ……。
「一人暮らしが良かったとか、抜かすのだろう。別に良いではないか、何も変わらん」
「俺の平和な生活を邪魔しないでくれ……」
「邪魔はしないわ。ねぇ、グロー?」
「ワシは勝手気ままに酒を飲めればそれで良い」
「ガル!ボクの部屋ここがいい!」
スゥが二階から駆け下りてきた。
「好きにしろ」
「お風呂、広いわよ。あとで一緒に入る?」
「入らねぇよ」
エルウィンに肘でつつかれた。
酒瓶片手にグローが近付いてくる。
「ふむ……。まぁお主がおれば大丈夫だろ。どうだ、一杯」
そう言ってグローはショットグラスに注がれた赤い酒を俺に渡してきた。
「朝から飲んでんのかよ……」
「良いから飲んでみろ。ワシの秘蔵だ。お主には教えてやるが、変に広めるなよ?稀少なもんだからの」
ショットグラスをグイと押し付けてくる。
俺は渋々受け取り、一口飲んだ。
「なんだこれ!?」
「旨いだろ?ワシからの引っ越し祝いだ」
ガハハと笑いながら自室へ戻るグロー。
何とも不思議な味わいの酒だ。
俺は煙草を取り出して、火を点ける。
所帯染みたくない、と心底思った。
だが、もう手遅れだ。
『盗賊団討伐依頼』————Quest Accomplished




