第56話 化け物みたいなガキだ
「キャハハハ!」
スゥの笑い声が、森に響く。
訓練所跡。
スゥの実力を見るために連れてきた。
今はグローとの模擬戦だ。
グローは双斧、スゥは双小剣。
どちらも訓練用の木製、怪我の心配はない。
「おのれ、このおチビめ!」
グローの斧が、一つもスゥに当たらない。
スゥは笑いながら跳び回り、猛攻を難なく避けきっている。
こんなに身軽な義賊は、見た事がない。
「異常な身軽さだな」
「でも、避けるだけじゃ戦闘にならないわ」
「問題は、殺せるかだ」
被弾の心配がないのは分かった。
だが、倒せなきゃ依頼はこなせない。
「スゥ!グローに攻撃していいぞ!」
「えー、いいのー?」
「フン、ワシに当たる訳なかろう!」
「いっくぞー!」
スゥの動きが変わった。
跳んで避けながら、間合いを詰める。
小さい身体で懐に潜り込み、小剣でグローの身体を掠めていく。
首筋。脇腹。肘の内側。手首。膝の裏。
全部、鎧の隙間だ。
「ハハッ、想像の斜め上だ」
思わず笑った。
グローは完全に遊ばれている。
「もういい、スゥ。グロー、お疲れさん」
「クソ……はしっこいおチビめ……」
肩で息をするグロー。
スゥは、息一つ乱れていない。
「満足か?スゥもメンバー入りでいいな」
「ガル、見てみろ」
グローが首筋を見せる。
赤い蚯蚓腫れ。ちょうど、頸動脈の位置だ。
「正確な小剣捌きだな」
「それだけじゃない。同じ場所を、六回斬られた。寸分の狂いもなくだ。バケモンだわい」
背筋が冷えた。
子供の力じゃ、小剣の一撃で人は殺せない。
だが、同じ場所を何度も斬れば、いつか骨まで届く。
スゥはそれを分かった上で、やっている。
化け物だ。
「スゥ、その戦い方、何処で習った?」
「何を?」
「小剣の使い方だ」
「名前は知らないけど、オジサンだった!」
……この戦い方をする奴を、俺は知っている。
一人は、もう死んでいる筈だ。
なら、もう一人の方か。
「あのオジサンと、知り合いなの?」
「スゥ。人を、殺した事はあるか」
スゥの表情が、一瞬曇った。
それで分かった。
義賊なら、避けて、惑わせて、隙を作って終いだ。殺しは、数ある手札の一つに過ぎない。
だが、こいつの太刀筋は違う。最初から、殺し切る為だけに研がれている。
「お前、ただの義賊じゃないな。暗殺者だ」
「このおチビがか!?」
「ギルドに暗殺者なんて職はねぇ。裏でガキを鍛えて、殺しの道具に仕立てる。貧民窟じゃ、珍しくもない話だ。だが、問題はそこじゃない」
俺はしゃがんで、スゥと目線を合わせた。
「俺も貧民窟出身だ。お前を元の雇い主に帰す気はない。だから、正直に答えろ」
スゥの目が、怯えていた。
それだけで、こいつが何処にいたか分かる。
「逃げ出してきたのか」
「ううん。オジサンが、逃げろって」
「そのオジサンは、誰かに狙われてたか」
「分かんない」
「……九龍会って名前、聞いた事は?」
「オジサンが、たまに言ってた」
やはりか。
貧民窟のガキを子飼いにして、戦闘員に育てる。九龍会の常套手段だ。
スゥのオジサンも、九龍会の人間だったんだろう。
「お前自身は、追われてないんだな」
「分からない……ごめんなさい」
「いい。何かあったら、俺達が守る」
頭を撫でてやった。
「よく知っておるのぉ、ガル」
「あ?」
「貧民窟の実情だ。ワシには想像も出来ん」
「何処の貧民窟も一緒だ。スゥはやっと、ここまで這い上がってきた。同郷のよしみで面倒見たって、罰は当たらんだろ」
「フフ、正義の味方ね」
「その呼び方はやめろ」
「僕……ここにいていいの?」
スゥが不安そうに俺を見上げた。
「あぁ。今日から仲間だ。よろしくな、スゥ」
スゥの顔に、あの天真爛漫な笑顔が戻った。




