第55話 俺の肉を盗むな
「お主にそんな素質があったとはな、ガル」
大将の店の、一番奥のテーブル席。
グローが声を落として言う。
俺の魔術の素質の話だ。公言出来る事じゃない。
「隠してて悪かった」
「事が事だ、当然だわい。エルウィンがお主を気に掛けてた意味も分かった」
「知る人間は、少ない方がいいでしょ」
「そこは気にしとらん。問題はこの先だ。魔王軍の魔術師と出くわす度に倒れられても困るぞい」
「そこは私が訓練するわ」
「お主だけが頼りだ。頼むぞ」
グローが樽ジョッキを空にした。
「やけに静かね、アンタ達」
セリファが料理を運んできた。
「作戦会議だ。状況が変わりつつあるのでのぉ」
「状況?」
「次の魔王が、もうすぐ決まるらしい」
「は?魔王が倒されて、まだ大して経ってないでしょ」
「魔王軍の魔術師が言っておった。確度は高かろう」
そうなれば、ギルドの依頼も変わる。
パーティ指定が増えれば、三人じゃ受けられる依頼が減る。
「人数、増やした方がいいかもね」
エルウィンが俺の皿の肉を一切れ、フォークで刺して口に運んだ。
「おい」
「ケチケチしないの」
「……増やすにしても、誰を入れるんだよ。候補なんていないぞ」
俺はフォークで肉を刺す。
刺した筈だった。
なのに、皿の上から肉が消えている。
またエルウィンか――そう思った時だった。
「僕が入る!」
誰も座っていない筈の、右隣りの席から声がした。
「あ?」
空席の椅子の上に、圃矮人が立っていた。
俺の肉を頬張りながら。
「貴方がガル?」
「あぁ、そうだが」
「助けてくれてありがとう!僕、スゥ!」
その場の全員が固まった。
「助けた……?」
「操られてたのをガルが助けてくれたって、軍人が言ってた!」
「あぁ、ガルが最後に助けた子じゃない」
「……お前か」
魔術師と対峙する直前、小屋に一人でいた圃矮人の子供だ。
「元気になったか。良かったのぉ」
「うん!元気!」
「スゥ、お前、俺達のパーティに入りたいのか」
「うん!」
「まずは家に帰るのが先よ」
エルウィンが言い聞かせる。
スゥはまた俺の肉をつまみ食いしながら、けろりと言った。
「僕、家ない」
「……家がない?」
「西都の貧民窟にいた。親も知らなーい」
場が静まった。
まぁ、そうなるよな。
「スゥ、腹減ってるか」
「うん!」
「好きなだけ頼め。その代わり、俺の肉を盗むな」
「はーい!」
セリファに同じ皿を二つと、ジュースを頼む。
気まずそうなグローとエルウィンをよそに、俺はスゥに訊いた。
「お前、戦えるのか」
「戦えるよ?隠れるの得意!罠も作れる!小剣も使える!」
義賊か。
操られていた時、こいつに襲われかけた。動きは悪くなかった。
「おいガル、まさか此奴を仲間にする気か」
グローが慌てて止めに入る。
「貧民窟に帰す訳にもいかんだろ」
「そりゃそうだが……」
「フフ、やっぱりガルって正義の味方なのね」
「違ぇよ。俺もそうだったってだけだ」
スラムの底で拾われた。
それがなけりゃ、今の俺はいない。
それだけの話だ。
「恩返しって訳ね。いいんじゃない」
「実力は、明日テストすればいい」
「じゃあ今日はご飯食べて、風呂入って、寝ましょう」
「ご飯ー!」
「やれやれ……」
結局、四人で騒がしく飯を食って、その夜は更けた。




