第53話 素直なのは性に合わない
目を覚ますと、エルウィンが隣で寝ていた。
二人とも、生まれたままの姿で。
「……」
寝顔を眺める。
相変わらず、綺麗な顔だ。
ベッド脇に腰掛け、紙巻煙草に火を点ける。
煙をゆっくり吐き出した。
あの後、『魂世界』には降りなかった。
眠るのが怖かった筈なのに、気付けば朝だ。
エルウィンのお陰だという事だけは、何となく分かる。
「はぁ……」
溜息が出た。
「ガルって、よく溜息吐くわよね」
いつの間にか、エルウィンがこちらを見ていた。
「起きてたのか」
「煙草の匂いでね」
「悪い、嫌いだったか?」
「ううん、ガルの匂いは好きよ」
手を伸ばして、頭を撫でられる。
据わりが悪い。
「何だよ」
「溜息ばっかり吐くと、不幸になるわよ」
「もう一生分は味わったからいいんだ」
「じゃあ今は返済期間?」
「知るか」
エルウィンが小さく笑った。
「今は幸せじゃないの?」
答えに困る質問だ。
幸せがどういうものか、本気で考えた事もない。
「……不自由はしてない」
「微妙な答えね」
「全部いつか壊れるもんだろ。今が良くても、明日にはどうなるか分からん」
「ガルは生き急ぎ過ぎよ」
「グローにも言われる」
「不器用なのね」
エルウィンが顔を覗き込んできて、唇を重ねた。
「で?」
俺は煙を吐き出してから訊いた。
「何であの後、降りずに済んだ?」
降りない方法がこれだとするなら、あまりにも手軽過ぎる。
「私、光属性でしょ?」
「ああ」
「闇に近付き過ぎた貴方を、性行為で中和したの」
「……それで済むのか」
「荒治療よ。普通は使わない」
エルウィンが起き上がり、シーツを身体に巻き付ける。
「ガルは魔術師としての訓練を受けてない。魔素への耐性が低過ぎる。次は私が間に合わないかもしれない」
「……」
「訓練、する?」
「魔術師になるつもりはねぇ」
「魔素のコントロールだけよ。降りない為の訓練。それだけ」
断る理由がなかった。
このまま放っておけば、また同じ事になる。
最悪、戻って来られなくなるかもしれない。
「……頼む」
「素直ね」
エルウィンが嬉しそうに笑った。
俺は煙草を灰皿で揉み消し、もう一本に火を点ける。
「もう一本?」
「保険だ」
「何の?」
答えなかった。
答えようがない。
エルウィンの隣で吸う煙草が、思いの外、美味かったからだ。




