↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が死んでも、世界は思ったより平和じゃない  作者: Soh.Su-K
第1章 4節 盗賊団討伐依頼編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/60

第52話 このままじゃ廃業だな

 俺は自宅のベッドに横になっていた。

 あの後、恐らくグローが子供達を殺したのだろう。

 エルウィンは俺を自宅に送った後、例の村へ向かった。

 子供達を匿っていた村人を捕まえる為だ。

 捕まった村人は軍に引き渡されるだろう。

 その後の処置は軍次第だ。


「はぁ……」


 何とも情けなくて仕方ない。

 矮鬼《ゴブリン》などの暗黒種族の子供を殺すのには、今まで何の躊躇いも持たなかった。

 しかし、何故か今回はダメだった。

 何故、忘れていた過去の自分と重なったのか。

 理由は分からない。

 それが無性に情けなかった。

 起き上がって、紙巻煙草に火を点ける。

 大きく吸い込んで、ゆっくりと煙を吐き出す。

 天井を見上げていると、ドアがノックされた。

 煙草を咥えたまま、ドアを開ける。


「大丈夫?」


 セリファが立っていた。

 エルウィンに聞いたのだろう。


「まぁ……」


「これ。ご飯はちゃんと食べなさい。じゃあね」


 そう言って、白い布を被せた籠《バスケット》を俺に手渡すと、スタスタと帰っていった。


「……」


 とりあえず、受け取った籠をテーブルの上に置き、煙草を灰皿で消し、再びベッドに横になる。

 俺はいつの間にか眠りに落ちた。


†


 俺はまた『魂世界《アーラヤ》』に降りた様だ。

 何もない空間にたった1人で立ち尽くしていた。


「またか……。ウラグはいるかな……」


 俺はウラグを探して歩き始めた。

 しかし、以前来た時と何やら雰囲気というか、空気が違う。

 肌にざらつく様な、喉に何かが詰まる様な、不快な感じだ。

 何とも言えない嫌な予感もある。

 しかし、俺は歩くしかなかった。

 『魂世界』への降り方も明確には分かっていない上に、戻り方もよく分からない。

 魔術の心得もない俺が、こんなところに来てはいけないとは思うのだが、勝手に降りるのを止める術を知らない。


「戻ったらエルウィンに聞くか……」


 むしろ、エルウィン以外に聞く相手がいない。

 うんざりとしながら歩いていると、話し声の様なものが聞こえてきた。

 誰かいるのだろうか?


「ウラグか……?」


 声の方向に向かうと、ほんのりと光っている様に見える。

 妙な不快感が強くなる。

 これは近付くべきではなかったかもしれない。

 そう思った時には遅かった。


「〇◆$@=▼#!」


 聞き取れない叫び声を上げながら、赤黒いものが俺の身体に纏わりついてきた。


「何だ!?」


 まるで虫の様に、赤黒いものが俺の身体を這い回る。

 しかも何匹かいる。

 その上、脳内を掻き回されている様な強烈な不快感。

 これは何なんだ。


「クソッ!」


 思わずうずくまる。

 怒り、悲しみ、恐怖、憎しみ。

 そう言った負の感情が頭の中に直接流れ込んで来る。

 このままでは正気が保てない。

 何度も嘔吐する。

 しかし、口からは何も出ない。

 それでも身体は何かを嘔吐している。

 息が詰まりそうだ。

 とにかくどうにかしないと。

 しかし、どうすればいいのか分からない。

 その時だった。

 急に身体が揺さぶられた感覚に襲われ、俺は目を開けた。


「ガル!」


 エルウィンだった。


「エル……ウィン……?ここは……?」


 周りを見回す。

 俺の自宅だ。

 どうやら『魂世界』からエルウィンが引き戻してくれた様だ。

 安心したと同時に、異臭に気が付いた。


「俺……」


 俺が寝ていたベッドは嘔吐物で汚れていた。

 例に漏れず、エルウィンもだ。


「ガル!貴方、自分が何やってるか分かってるの!?」


 ぼやけていた視界が次第に明瞭になった。

 エルウィンは泣いていた。

 しかし、俺には何が何だか分からない。


「むやみに『魂世界』へ降りないで!あのままだったら取り殺されてたわ!」


「どういう事だ……?てか、降り方なんて俺には分からん……」


「はぁ……」


 エルウィンは呆れた様に溜息を吐くと、ゆっくりと説明を始めた。


「いい?まずガルが覚えるのは『魂』のコントロールのやり方。今日みたいに、恨みを持って死んだ魔術師がいる時は、絶対に『魂世界』に降りないで。引き込まれるわ」


「……、つまり俺が見たのは、あの子達って事だな……?」


「……、そうよ。貴方は暗黒種族じゃない。闇の『魂世界』には降りるべきじゃないの」


「降りたくて降りてるんじゃない……」


「分かってる。だから余計に降(・)り(・)な(・)い(・)術(・)を覚える必要がある。分かる?」


「……」


「とにかく、横になって、今日休んで」


「……、また降りるかもしれない……」


「私が付いてる。大丈夫よ」


 眠るのが怖いと思ったのはいつぶりだろうか。

 大の大人が、ブルブルと震えているのだ。

 情けない事この上ない。


「何故か、殺せなかった……。今までは何の躊躇いもなく殺せたのに……」


「仕方ないわ。貴方は以前よりも暗黒種族に近い存在になってる、その《《印》》のせいでね。同族だから同情が湧く」


「このままじゃ廃業だ……」


 俺は自嘲的に笑った。

 ギルドの依頼内容の殆どが暗黒種族に関するものだ。

 殺せなければ、依頼を達成できない。

 敵を殺せない冒険者など、意味がないのだ。


「大丈夫、私がいる。任せて」


 そう言って、エルウィンは優しく俺に口付けした。

 そのまま押し倒される形で、俺をベッドに寝かせる。


「エルウィン……?」


 こんな状況で何をやっているんだ。

 エルウィンの両肩を掴み、引き離すと、エルウィンはシーっと言いながら、俺の唇に人差し指を当てる。


「こんな時に無駄口を叩くのは野(・)暮(・)よ」


 エルウィンは再び唇を重ねてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。