第51話 理解と納得の違い
洞窟の中、震える5人の子供達を前に、俺の手は止まったままだった。
「ガル」
そう言ってエルウィンは矢を矢筒に戻し、双短剣を取り出す。
「いや、待ってくれ……」
俺はエルウィンを止め、その子達に近付いた。
「耳長人語は分かるか?」
腰を落としながら、俺はその子達に話し掛けた。
「……、少し……」
食人鬼の1人が言った。
「そうか、良かった。ここで何してる?」
「僕ら、偉大な魔術師になるため、練習、してる……」
「偉大な魔術師になって、どうする?」
「戦う!魔王軍に入って、魔王様の為に働く!」
「魔王は死んだ、知ってるだろ?」
「もうすぐ次の魔王様が決まる!そしたら、また戦いが始まる!」
まるでお気に入りの御伽噺をしているかのように、目をキラキラさせている。
「ガル、無駄だ」
グローは顎髭を撫でながら言う。
「殺す以外にないぞ」
「……」
俺は何も言えなかった。
こんなにも幼い子供達を、将来の危険性という理由で殺していいのだろうか。
いつもの俺ならば、そんな疑問など浮かばない筈だ。
なのに今は、何故か浮かんでしまう。
「……、お前ら動くなよ」
俺はその子達を縄で縛り始めた。
「ちょっと!?ガル!?」
「何をしておる!?」
「ガキ殺しなんざやりたくねー」
手早く5人の子供を縄で繋ぐ。
「辞めろガル!此奴らは小さいが魔術師だぞ!」
「手を縛った所で、魔術は発動出来るわ。危険な事は辞めて、ガル」
2人から止められるが、知った事ではない。
暗黒種族だからと言って、子供まで殺すべきなのか。
「何処へ連れて行くつもりだ、ガル」
グローが俺の前に立ちはだかる。
「どけ、何処でもいいだろ……」
「何処に連れて行っても同じだ。またそこで同じような盗賊の討伐依頼が出るだけだ。下手すりゃ今度は死人が出るぞ」
「だからって子供まで殺すなんて!」
「ガル」
エルウィンが俺を呼んだ。
エルウィンに向き直った瞬間、平手打ちを喰らった。
乾いた音が洞窟内に響く。
「駄々こねないで。戦争って事、忘れたの?」
「……」
「もしここで、この子達を見逃したら、次は100人規模の部隊で村を襲うかもしれない。1000人規模の指揮官になっているかもしれない。将軍になる可能性だってある。潰せるときに潰すのが鉄則よ。貴方なら分かってる筈でしょ?」
「……」
そうだ、分かっている。
矮鬼などと同じだ。
根絶やしにしなければ解決したとは言えない。
そんな事は分かってるんだ。
「……、俺には出来ない……」
子供達を繋いでいる縄から手を離し、俺は洞窟の中から出た。
グローとエルウィンが顔を見合わせる。
グローが小さく頷くと、エルウィンも頷き、エルウィンだけが俺を追って外に出た。
「ガル、戻ろう」
下を向いて立ち尽くす俺に、エルウィンが優しく声を掛ける。
「分かってるんだ、頭では……」
「うん……」
「けど、俺には出来ない……。情けない……」
「うん……」
まるで過去の自分を見ている様だった。
隠れながら必死に生き、強者に怯えていた過去の自分と、さっきの子供達が重なった。
「本当に殺すしかないのか……?」
「うん……。先に街に戻ろう」
俺はエルウィンに付き添われ、街に戻る事になった。




