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魔王が死んでも、世界は思ったより平和じゃない  作者: Soh.Su-K
第1章 4節 盗賊団討伐依頼編

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第50話 まさかの正体

「……」


 洗脳されているのだろう、何も言葉を発しない。


「エルウィンを呼ぶか、洗脳を解かにゃならんだろ」


「いや、エルウィンは犯人を追った」


「何?」


 この圃矮人が飛び掛かった瞬間、家から何物かが逃げる気配がした。

 エルウィンはその気配を追っている。


「じゃあどうするのだ?そのままでは暴れるぞい?」


「とりあえず、気絶させる」


 そう言って、俺は圃矮人の首の後ろに手刀を入れる。

 ガクリと脱力した圃矮人を床に寝かせた。


「大丈夫か?」


「洗脳を解かない限り危険だ」


「どうするのだ?」


「……、俺がやる」


 いざという時の為に、エルウィンから術の解き方を教えてもらった。

 成功するか分からないが、やるしかない。

 圃矮人の胸に手を置く。

 息を吸って目を閉じ、頭の中に例の印(・)を思い浮かべる。

 その印に水を満たすイメージで、魔素《オド》を注ぎ込む。

 息を短く吐きながら、その印を掌から押し出す。

 電気が走った様に、圃矮人の身体は一度だけ大きくビクついた後、再び脱力した。


「出来たのか?」


「多分……」


 圃矮人の身体から、黒い煙が出たように見えた。

 恐らくは上手くいった筈。

 圃矮人の呼吸も落ち着いている。

 しばらくすれば目が覚める筈だ。


「しかし、幼い圃矮人だのぉ」


「こんな子供まで操っていたとはな」


「相手が子供なら、大人は警戒心がなくなる。ブービートラップと同じだ」


「つまり、この子が最初の被害者か」


「そう考えるのが自然だろうて」


「ここに置いておいても危険だ。この子を休憩所に置いて、エルウィンを追うぞ」


「では、ガルが休憩所に連れて行け。ワシは先にエルウィンを追う」


「……、分かった。すぐに追いつく」


 グローの言う通り、俺は圃矮人の子を背負って休憩所へ向かった。

 走るのはグローより俺の方が早い。

 俺が休憩所まで走った方が合流が早くなるとグローは判断したのだろう。

 問題は、エルウィンの方だ。

 魔術師が複数いる場合、エルウィンが見付かれば窮地に陥る。

 早く合流する必要がある。


「ここで大人しく寝てろよ?」


 俺は圃矮人の子を寝袋に寝かせ、もう一度走った。

 例の家を通過し、エルウィンが残した目印を辿り、追い掛ける。

 1キロも走らない内に、グローとエルウィンを見付けた。

 茂みに隠れて息を潜めている。


「ここか?」


 2人に近付いて、同じように茂みに隠れた。


「あの洞窟の中みたい」


 エルウィンが指差した先に、大きな岩と、その陰にポッカリと口を開けた洞窟がある。


「深い洞窟ではないの。中から4人程の気配がする」


「4人か……」


「全員が魔術師と考えられるわね。どうする?」


「突っ込むしかないであろう」


「馬鹿言うな。相手の戦力も分からんのに、数でまさる敵の中に突っ込む事は出来んだろ」


「しかし、待っておっても埒が明かんぞ?」


 確かに、埒が明かない。

 このままここで出てくるのを待っていても、いつまでかかるかも分からない上に、別の出入口がある可能性もある。


「……、俺が偵察する」


「私が行くわ」


「馬鹿か、危険だぞ」


「私は野伏《レンジャー》よ?偵察くらい出来る。それに、魔術に対する知識もある。私の方が適任でしょ?」


「うむ……」


「エルウィンの言う通りだ。ワシとガルには魔術の知識がないからの」


「……、分かった」


 俺とグローは入り口付近で待機、エルウィンが中に潜入する事になった。


†


「2人とも、来て!」


 洞窟の中からエルウィンの声がした。

 魔術師《ストライゴン》を全て倒したのだろうか?

 それにしても早過ぎる。


「何ぞあったのかの?」


「分からん、とにかく行くぞ」


 俺とグローが洞窟に入る。

 中は狭く、ギリギリ通れるくらいの穴が斜め下に伸びている。

 なかなか入りづらい。

 3メートル程降りたところで、穴は横向きに変わり、そこにエルウィンが立っていた。

 矢は番えたまま、振り返ることもない。


「どうした、エルウィン」


「見て」


 エルウィンの前にいたのは、食人鬼《オーガ》が3人と黒醜人《オーク》が2人の計5人。

 しかし、その全員が明らかに幼かった。

 背丈に全く合っていない黒いローブを着て、自分の倍近い長さの杖《スタッフ》を持っている。

 俺達の姿を見て震えていた。


「どういう事だ……?」


 この子達が犯人なのか?

 俺は自分の目を疑っていた。

 てっきり、老人の様な邪悪な顔の魔術師がいると思い込んでいた。

 こんなにも幼いとは……。


「恐らく、魔術の練習をしていたのね。これだけ多くの人を操っていながら、1人も死んでないのは、練習だったからじゃないかしら?」


「練習って……」


 確かに、行方不明になっていた人達は全員無傷だった。

 洗脳以外に外傷はなく、洗脳されていた期間の記憶はないものの、すぐに日常生活に戻れるくらいだ。

 殺そうと思えばすぐに殺せた筈だ。


「洗脳みたいな、継続系魔術を使い続ける事で、無理矢理魔術の練度を上げようとしていたのね。そのせいか、魔術練度は子供とは思えないレベルよ」


 なる程、手っ取り早く強くなろうとしたのか。

 しかし、問題はそこではない。


「どうする……?」


 俺はグローとエルウィンに聞いた。


「この子達をどうにかしない限り、行方不明者と盗賊被害はなくならないわ」


「殺すしかなかろう。練度を上げたいと思うのは、魔王軍のためであろう。見逃す訳にはいかんぞい」


「……」


 確かにそうだ。

 見逃せば、より強くなり、死者が出てもおかしくない。

 それは理解している。

 ふと、剣の柄を握っていた手が止まっている事に気付いた。

 いつもならば躊躇なく動く筈の手が、動かない。

 ……、何故だ?

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