第49話 まず外堀を埋める
「予想通りか?エルウィン」
「ええ、予想通りよ。恐らく、貴方達も仲間にしようとしたのね」
「ご苦労だのぉ」
「とりあえず、コイツらは明日、街に帰そう。近くの村で馬を借りる」
「問題は、この襲撃がこれで終わりかという事だの」
「明日も来るかもな」
「その時は6人かの?」
「恐らくな。とにかく、向こうの手札を全て出し切らせる」
「しかし、次の襲撃はいつになるか分からんぞ?」
「そうね……。今回失敗した原因を探りに来る可能性もある」
「今もどこかから見てるかもな」
「それはないわ。私達を目視で確認できる範囲内には私達以外に生物はいないし、何かしらの手段で監視している気配も皆無」
「探りに来るとすれば、明日以降か……」
「恐らくね」
エルウィンは脚に矢が刺さった5人の手当を始めた。
胸に手を当てて短く息を吐く。
ガクリと脱力した5人をテントに寝かせ、3人で手分けして矢を抜き、止血する。
5人の手当を終え、エルウィンは再び木に上り、俺とグローは小型のテントを新たに張り、その中で眠った。
†
翌朝、目覚めた5人に近くの村で借りた馬を与え、状況の説明を書いた書類を持たせ、街に帰した。
5人には色々と話を聞いたが、襲われた時の記憶もなかった。
俺達を手伝うとは言ってくれたが、まずはギルドに無事を知らせるのが先だ。
ちなみに、5人にはエルウィンの存在を隠している。
野伏らしく、しばらくは目に付かない様にするのがいいと判断した。
街との連絡役も頼んでいる。
今は、街に向かっている5人の監視でここを離れている。
「どの村に隠れているのか分かっておるなら、さっさと攻めた方がよくないか?ガル」
グローが双斧を磨きながら言う。
「ダメだ。まだ手駒を持っている可能性が高い。昨日も言っただろ?まずは手駒を全て奪う」
「本体を叩けば済む話ではないか?」
「その本体が何人いるのか、護衛がいるのか、他の魔王軍と連携しているのか。その辺りが全く分かっていない状態で叩くのは危険だ」
「うむ……。暴れられる依頼を選んだつもりが、いつも暴れられん……」
「文句垂れるな。そんなに敵の手駒になりたいのか?」
「ワシは魔法が使える。魔法耐性も高いから問題ない、お主と違っての」
不服そうに鼻息を荒げるグロー。
「はぁ、グロー。お前は勘違いしてるぞ」
「何をだ?」
「今回は魔法じゃない。魔術だ。魔法耐性が高かろうが、今回は意味がない。現に、魔法耐性が全職の中でもトップクラスの筈の僧侶が手駒になってる。お前も危ない」
「なーにが魔術だ。魔法と大して変わらんだろ」
「はぁ……、勝手に動いても構わんが、お前が敵の手駒になった時は真っ先にエルウィンに射殺してもらうぞ。お前と戦うのが骨が折れるからな」
「ムム……」
「分かったら焦るな」
グローがじっと待つ事を苦手としているのは理解している。
しかも、特に策もなく待つのが苦痛なのだろう。
俺とグローは囮なのだ。
襲われても殺すなと言っているのもある。
殺すよりも生け捕りの方が断然難易度が高い。
つまり、めんどくさいのだ。
俺だってやりたくない。
しかし、犯人に近付くにはそれ以外に方法がないのだ。
結局、この日の夜も同じ様に襲撃を受けた。
案の定、操られていたのは6人で、5人の時と同様に処置し、街へ送り返した。
その後も3日間は襲撃が続いた。
†
「最後の襲撃から、既に2日経ったぞ。手駒は尽きたと見える」
「恐らくな」
結局、襲ってきた人数は累計で20人ほど。
この周辺で行方不明になっていた人達だった。
全員の洗脳を解いて街へ送り終えた。
今日の夜、村へ侵入する事にする。
無関係な村人に危害が及ばないようにする必要もある。
「問題の魔術師はエルウィンが抑える。俺とお前は暴れるだけだ」
「うむ、しかし上手くいくかの……?」
「上手くやるしかないだろ?」
俺とグローは村への道の途中から森へと入る。
洗脳された人間が何処から来るのかはエルウィンが調べていた。
最初に見つけた納屋はただの倉庫だった。
洗脳した人間を集めておく場所は他にあったのだ。
村の近く、しかし誰も近寄らないような森の奥だ。
5人程が住めるくらいの割と大きめの家だ。
造りは簡素で、建てて間もない。
魔術師がここにいるのかは分からないが、洗脳された人間は全員ここに集められていた様だ。
魔術残滓も多く見受けられる。
「人の気配はないのぉ……」
家の様子を見ながらグローが言う。
「操られてた人達は全員解放出来ている。新たに補充しない限り、ここには誰もいないんじゃないか?」
「とりあえず踏み込んでみるかの」
「何か証拠があればな」
俺達は家に近付く。
ドアノブに手を掛ける。
鍵は開いている。
ゆっくりとドアを開け、中を伺う。
薄暗い室内には、何もない。
生活感が皆無だ。
「ん?」
ドアからすぐの部屋。
リビングの様なその部屋の真ん中に、何か小さな黒い塊。
「何だ?」
グローが俺を押しのけて中に入った。
その瞬間、黒い塊の一部がキラリと光った気がした。
「危ない!」
黒い塊はこちらへと飛んでくる。
咄嗟にグローを蹴り飛ばす。
光るモノを脇の下に通し、抱え込む様に受け止めた。
人だ、しかも小さい。
「何なんだ!」
グローが文句を言いながら立ち上がる。
「最後の手駒か」
黒い塊の正体は、小剣を握った小さな圃矮人だった。




