第48話 化石がこんなに柔らかい訳ないでしょ
「ガル、どう思う?」
エルウィンが俺に訊ねてきた。
俺達2人は休憩所から少し離れた森の中にいる。
エルウィンから呼び出されたのだ。
「何のことだ?」
「盗賊の中には魔術師がいるのよ?」
「あの村には人間しかいなかった。人間の魔術師が潜んでると?」
「人間の魔術師……。私のいた古代ならともかく、現代で魔術が使えるとなると、それこそ暗黒種族くらいよ」
エルウィンはそこまで言って、ガックリと肩を落とした。
「どうした?」
「『私のいた古代』って、何だか私が化石みたいじゃない……」
「自分で言ったんだろうが。それに、化石ってのもあながち間違いじゃないぞ?」
冗談のつもりで言ったが、エルウィンはギロリと俺を睨んだ。
「冗談だって」
「化石がこんなに柔らかい訳ないでしょ!」
エルウィンは俺の手を掴んで、自分の胸に押し当てた。
柔らかい感触。
コフィーヌの胸を触ってしまった時の事を嫌でも思い出した。
しかし、コフィーヌの時よりも柔らかさや重みが違う。
可哀想だが、圧倒的にエルウィンの勝利である。
……、何の話だ?
「だから冗談だって言ってんだろ!」
「照れてるのかなぁ~?」
「んな事やってる場合かよ!」
俺はエルウィンの手を振り払う。
「もし、魔術師が暗黒種族だったとして、それを村が匿ってる可能性がある」
「そうね。だとすれば盗賊行為の幇助って事で、村ごと処罰されるんじゃないの?」
「その通りだ。村ごと消され兼ねない」
「……、村人全員が操られてるって可能性もあるわよ?」
「そんなの不可能だろう?」
「魔術師の技量によるけど、そこまでの大魔術師なら有り得る。ただし、その分の負荷は術者に掛かる」
「複数の魔術師でやってる可能性は?」
「有り得るけど、そうなると魔術師の大部隊がいる筈」
「はぁ、どう転んでも村は消える運命じゃないか?」
「かもしれない……。だからこそ、どうするつもりなの?正義の味方さん?」
「その呼び方はやめろ。正義なんて虫唾が走る。とりあえずは、襲ってきた奴を捕まえないと何も始まらんだろ?」
「……」
「どうした?」
エルウィンの歯切れが悪い。
何か懸念があるのか?
「言いたい事があるなら言えよ、エルウィン」
「前、ガルに聞こうとしたじゃない、『その印は何処で貰ったの?』って」
「あぁ、あれか」
「で?それは誰から貰ったの?」
「……、俺の貰ったその印って奴が、お前が懸念してる事なのか?」
「質問に質問で答えないで欲しいんだけど……」
「悪い。エルウィンには話す。むしろ、エルウィンにしか話せない事だ」
そう言って俺は、魂世界で魔王軍のウラグと話した事、その時にウラグからシンボルらしきものを貰った事を説明した。
「なるほどね、そういう事だったのね」
「で、俺が貰ったあのシンボルみたいなのが、お前の言ってる印なんだな?」
「ええ。印っていうのは魔術師の研究の成果。代々受け継がれていくものよ」
「親から子に?」
「そうよ。受け継がれるごとに強化されていくの。だから複雑になればなる程、強い魔術師の証拠」
「ふーん」
「そして、その印にも系統がある。今回使用されたと思われる魔術印の系統は、ガルの印と同じ流れ。貴方の言った事が本当なら、確実に魔王軍関係の魔術師の筈よ」
なるほど、ウラグと同じ系統の闇魔術師が、この事件に関わっているという事か。
「肝心なのは、犯人が誰で、関係者がどれだけいるかだ」
「そうね……。とりあえず私は、誰かさんの命令で上で寝るわ。何かあったら自分達でどうにかしてね」
「分かってる。前衛が2人もいるなら大丈夫だ」
「ホントかなぁ~」
エルウィンは少々心配そうな顔をした後、音も立てずに木の上へと移動した。
†
異様な気配で目が覚めた。
気付かれないように、寝たふりをする。
グローも起きているだろう。
いつでも投げれるように、投げ小剣を右手に2本持った。
数は5人。
休憩所を遠目から包囲して、少しずつ近付いている。
距離にして30メートルくらいだろうか。
にじり寄る様なゆっくりとした歩調だ。
通常の人間の気配ではない。
何か、禍々しいモノを感じる。
木を盾にしながら近付いて来るので、小剣が投げられない。
これが操られていると言うなら、術者はかなりの手練れではないだろうか。
不意にグローが寝返りを打つ。
それに合わせて5人の脚も止まる。
コイツ、マジで寝てないだろうか……?
5人はしばらく止まっていたが、再び足を進め始めた。
もう少しで休憩所内に入る。
投げ小剣の準備をした時だ。
木の影から5人が姿を現した瞬間、ヒュンという音と共に、5人それぞれの大腿部に何かが突き刺さった。
「!?」
「ガル待って。殺しちゃダメよ」
声と共にエルウィンが木の上から降りてきた。
「折角殴り合えると思ったのにのぉ」
グローが残念そうに立ち上がる。
「コイツら、前任のパーティか……」
矢が脚に刺さり、崩れ落ちた5人を見下ろす。
職と外見の特徴は、行方不明になっていた5人と完全に一致している。
しかし、脚に矢が突き刺さったままうめき声1つ上げずにうずくまる5人を見て、少しゾッとした。




