第41話 お手並み拝見
「あれ?ガルじゃん、珍しい」
依頼掲示板を眺めていたら、後ろから声を掛けられた。
振り向くと、槍使いのロブが立っていた。
俺より若いが、冒険者登録の時期が同じ位だったので、何かと馴れ馴れしく絡んでくる。
「なんだ、ロブか」
「なんだとは何だよ!てかお前、怪我治ってないんだろ?依頼掲示板なんて見てどうした?」
「暇潰しだ。ギルドに用があるのは俺じゃない」
「どういう事だ?」
「ガル!登録出来たみたい!」
エルウィンが嬉しそうに駆け寄ってきた。
その手には不銹鋼製の認識票が握られている。
冒険者の死亡時に身元特定のために使われる、2枚一組のプレートだ。
1枚は遺体に、もう1枚はギルドに回収される。
縁起のいい物じゃないが、エルウィンは嬉々として見せつけてくる。
「見て見て!これで私も冒険者!」
「ガル、また新しい彼女か?」
「ロブ、黙れ」
「早速何か依頼やろう!」
「はぁ?登録出来ただけで今日はもういいだろ?」
「おい、ガル!紹介しろよ、新しい彼女!」
「うるせーな、ロブ。彼女じゃねーつってんだろ」
俺の周りでワイワイと……。
あぁ、面倒になってきた。
「エルウィン、俺は帰るぞ」
「えー、帰るの?」
「ロブの顔見たら帰りたくなったんだよ」
「おい、どういう事だよ!」
「俺は怪我人だ、安静にしてないとダメなんだー」
そう言い残して俺は外に出た。
ロブの事はシカトだシカト。
「待ってよ、ガル」
「依頼の受注に関しては説明を受けたか?」
自宅へ向かう道の途中、エルウィンに話し掛けた。
「一通りは聞いたわ。人数制限とか、ややこしいのね」
「冒険者の命を守るのもギルドの仕事だ。実力と依頼が釣り合わないと受注出来ない」
「ふ~ん。じゃあ、登録したばかりの私じゃ、割のいい依頼は回って来ないって事ね」
「聡明で結構。最初は簡単な依頼をこなしてギルドから信用される必要がある。しばらくはグローと一緒に依頼をこなせ」
「分かった、グローに話してみる」
そこまで話して、ふと気が付いた。
「エルウィン。お前、家はどうするんだ?」
「家?」
「いつまでもセリファのとこに居候する訳にもいかんだろ。金がないなら貸すぞ」
「家か……」
エルウィンは少し考えた後にニッコリと笑った。
「ガルと一緒に暮らすのは?」
何となく想像していた通りの返答だ。
「ダメに決まってんだろ」
「何でよ?」
「男女が同じ屋根の下で暮らすなんて」
「ダメなの?」
「ダメに決まってんだろ……」
生活リズムを他人に乱されたくない。
気ままな一人暮らしが一番いいに決まっている。
「家を探しておるのか?」
急にグローが話に入ってきた。
「いつからいたんだよ」
「さっきだ。ちょうど見掛けたからの」
「グロー、冒険者登録してきたよ」
そう言って、エルウィンは自分の首から下げた認識票をグローに見せる。
「それは上々」
「しばらくはグローと一緒に依頼をこなせってガルが」
「ワシと一緒に!?」
「そりゃそうだろ。俺はまだ休業中だ」
「全く……。うむ、それならば今からエルウィンの実力を見せてもらおう。付いてこい、2人とも」
†
グローに連れて行かれたのは、街の南、城壁の外の雑木林の中にぽっかりと出来た100メートル四方の空き地だった。
「ここは昔、軍の訓練所だった場所だ。今はただの空き地になっておる」
グローは物置から訓練用の弓矢を取り出し、エルウィンに渡した。
「ガル、コイツを向こうに置いてこい」
渡されたのは持ち手のない樽——というか、ただの小樽だった。
「これを?」
「いいから早く行け」
「はいはい」
俺は言われた通り、空き地の頂点になる場所に設置された高さ1メートルくらいの台の上に置いた。
100メートル近い距離だ。
これを射落とせと言うのだろう。
「置いたぞ、グロー」
「うむ、ではエルウィン。こっちに来い」
そう言ってグローはエルウィンを樽を置いた頂点の対角へと移動させる。
「おい、グロー!」
「なんじゃい」
「ここから撃たせるのか!?」
「そうだが、何か問題でも?」
100メートル四方の正方形の対角となると、距離にして約140メートルちょっと。
いくら何でも遠すぎる。
普通、弓矢の練習は20メートルくらいから始めるモンだ。
これでは約7倍だぞ。
「これくらい射落とせなんだら、ワシらと組むなんぞ出来んぞ」
ガハハと笑うグロー。
確かに、仲間にするなら手練れがいいとは言ったが、これはあまりに酷ではないか?
「矢は5本だ。当たれば合格、当たらなければ1人で地道に稼ぐんだの」
嫌味な鉱矮人だ。
言われたエルウィンの方を見ると、矢の選定をしていた。
やる気の様だ。
しかし、そんなに念入りに選定して、何か変わるのだろうか。
「うん、この5本にする」
「どれ、お手並み拝見だのぉ」
エルウィンが矢を番えて引き絞る。
俺は気が気ではなかった。




