第40話 先に用事を済ませたい
翌日、俺は昼過ぎに目が覚めた。
エルウィンはしばらくセリファの家に預かってもらう事になった。
現代と古代の違いはあっても、同じ耳長人の女性の方がエルウィンも安心だろう。
あの後も、エルウィンはかなりの量の葡萄酒を飲んでいたが、しっかりと歩いてセリファの家に帰っていた。
酒には相当強いと見える。
古代耳長人、恐ろしい。
俺は二日酔いにならない程度で飲むのをやめた。
ゼペットに怪我の具合を診てもらうためだ。
禁酒令を出されているのに、二日酔いだったら怒られる。
あの老耳長人はなかなかに厄介なのだ。
「ガルー?」
風呂に行こうかと考えながら紙巻煙草に火を点けた矢先、ドアの向こうからエルウィンの声がした。
「何だ?」
ドアを開ける。
エルウィンが満面の笑みで立っていた。
「冒険者の登録に行こう!」
「はぁ……、どうしても冒険者になりたいみたいだな」
「弓の扱いには自信があるの!それに……」
エルウィンは周りを確認して、俺に耳打ちした。
「多少、魔術も使えるから」
その言葉にドキリとする。
ふと、ウラグとの会話を思い出したのだ。
「魔術は基本的に、この世界では御法度だ。属性に関係なくな」
「知ってる、研究所でその辺も調べたから」
エルウィンが急に黙り、俺をじっと見つめる。
「何だよ?」
「ガル、その印は何処で貰ったの?」
「はぁ?」
「……、そうね、ここで話すのは危険ね」
何とも含みのある言い方をする。
俺にはサッパリ意味が分からなかった。
「何の話だ?」
「まぁ、いずれ話しましょう。それより、登録よ!」
「はぁ……、とりあえずちょっと待っててくれ。先にやる事がある」
†
「ヒビの治りがもう少しだの」
ゼペットに怪我の具合を診てもらった。
固定具はまだ取れないらしい。
固定具が取れたとしても、リハビリが待っている。
左手のどの指も既に動かない。
これを以前と同じに戻すのには苦労しそうだ。
「ガル?」
ギルドへ向かう途中、エルウィンが話しかけてきた。
「なんだ?」
「その手、私が治してあげよっか?」
「……、は?」
何を言っているんだ、コイツは。
そう簡単に治ったら苦労しない。
「そう簡単に治る訳がないだろ?」
「魔術なら出来るわ」
「は?」
「私の属性は光。回復系も使えるわ」
「ちょっと待て」
光属性の魔法には回復系が確かに存在する。
とは言っても、出来るのは『傷口を塞ぐ』『毒素の分解を速める』等、本人の自然治癒力を促進させる程度だ。
骨折となれば2週間近く魔法をかけ続ける必要が出てくる。
「そんな簡単に出来る訳ないだろ!」
「出来るわ」
あっけらかんと言い過ぎだ。
エルウィンが使うのは魔法ではなく魔術。
古代の魔術なら可能なのかもしれないが、にしてもそう簡単に信じる気にもなれない。
「……、悪いが、その話は保留だ」
「えー、どうして?」
「いきなり治ったら、ゼペットの先生が腰抜かすだろ」
「あー、それはあるわね」
ひとまずこの話は流せた。
ただの言い訳に過ぎないが、今は深入りしたくない。
しばらく歩くと、目の前に石造りの大きな館が見えてきた。
「ここが冒険者ギルドだ」
この街は東方でも主要都市の1つで、ギルドもそれなりに大きい。
俺はエルウィンを引き連れて登録用カウンターへ足を向けた。
「あれ?ガルさん、どうしたんですか?もしかして、登録抹消しに来たとか?」
登録カウンターに座っていた女の圃矮人が俺に気が付いた。
笑顔で対応してくれるのはいいが、余計な事を言うな。
「違ぇーよ」
「怪我されたと聞いていたので、てっきり廃業するのかと」
「相変わらず笑顔でとんでもねーこと言う奴だな、お前は」
「廃業じゃないなら何ですか?私も暇ではないんですよ?」
「コイツの冒険者登録を頼む」
「コイツ……?」
圃矮人はやっと俺の後ろにいるエルウィンの存在に気が付いた。
「お美しい耳長人さんですね!ガルさんの新しい彼女ですか?」
「違ぇーよ。知り合いだ」
「ホントにただの知り合いですかー?ガルさんは耳長人の女性にすぐ唾を付けるって専らの噂ですよ?」
コイツ、ぶん殴っていいか?
「誰がそんな噂流してんだよ」
「まぁまぁ、そう怒らないで。噂は所詮噂ですよ」
「何でもいいからさっさと済ませてくれ」
「はーい。では耳長人の美人さん、こちらへどうぞ」
圃矮人に促され、カウンターの椅子に座るエルウィン。
手続きもすぐに終わるだろうから、俺は依頼掲示板を見てみる事にした。
手頃な依頼を見付けるのはいつもグローに任せている。
ここに立つのも久々だった。




